Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Identification of reconstructed recurrent nerve by NIM in thyroid cancer reoperation
Tomohito FukeTetsuro OnitsukaYoshiyuki IidaTomoyuki KamijoToshihito SudaAtsushi Imai
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2014 Volume 31 Issue 4 Pages 328-331

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抄録

63歳男性,甲状腺乳頭癌(T4aN0M0)に対して甲状腺左葉峡切除,D1郭清を施行した。術中反回神経への腫瘍浸潤があり,反回神経合併切除し,頸神経ワナによる神経移行術を行った。手術6年後,左中内深頸領域にリンパ節転移を認めたため左D2a郭清を行った。術中NIMを用いたところ再建に用いた左頸神経ワナを同定でき,温存することができた。術後声帯の萎縮は見られず,音声の悪化は見られなかった。甲状腺癌再手術例において,反回神経の同定は通常困難であるが,表面電極付挿管チューブを用いたNIM(nerve integrity monitoring)は再建神経の同定に有用であると考えられた。

はじめに

甲状腺癌術後再発例の既手術側の反回神経同定は正常解剖の変化,瘢痕により通常困難である。甲状腺手術において,表面電極付挿管チューブを用いたNIM(nerve integrity monitoring)は反回神経同定に有用である。しかし,反回神経再建後の再手術症例でNIMを使用したという報告はない。今回われわれは初回手術で反回神経を頸神経ワナを用いて即時再建し,その6年7カ月後頸部リンパ節再発をきたした症例の再手術時(左頸部郭清)において,NIMを用いて反回神経を同定できた経験を報告する。

症 例

症 例:63歳男性。

現病歴:甲状腺乳頭癌(T4aN0M0 StageⅣA)にて2006年3月甲状腺左葉峡切除,D1郭清を施行した(図1:手術前造影CT)。術前反回神経麻痺は認めなかったが,術中,腫瘍が反回神経へ浸潤していたため,神経合併切除し,頸神経ワナによる神経移行術を行った(図2)。

図 1 .

甲状腺左葉に石灰化を伴う腫瘍があり,周囲臓器への浸潤も疑われた。

図 2 .

反回神経末梢端と頸神経ワナを10-0ナイロン3針で端々吻合した。

その後外来にて経過観察していたが,2012年10月左中内深頸領域にリンパ節転移を認めた。左D2a郭清が必要と判断したが,郭清により再建に用いた頸神経ワナを損傷した場合,嗄声,誤嚥をきたす恐れがあると考えた。このため,術中に頸神経ワナを同定するためNIM-response2.0(Medtronik社)を用いて手術に臨んだ。

頸部郭清術前日に喉頭ファイバースコピー検査を施行したところ,左声帯は正中位固定していた。声帯の萎縮は見られず,音声機能は良好でMPTは12秒であった(図3)。

図 3 .

頸部郭清前の声帯:左声帯は正中位固定していたが,声帯の萎縮は見られなかった。

2012年10月左D2a郭清を行った(図4a)。術中,再建に用いた頸神経ワナを同定し,NIMで刺激したところ反応を認めた。この時,刺激に同期する喉頭の微弱な動きを認めた(図4b)。また,舌下神経を刺激したところNIMの反応を認め,喉頭の内側への収縮を認めた(図4c)。

図 4 .

a)左D2a郭清施行。頸神経ワナは温存できた。

b)NIMで頸神経ワナを刺激したところ,刺激に同期する喉頭の微弱な動きを認めた。

c)舌下神経を刺激したところ,NIMの反応を認め,喉頭の内側への収縮を認めた。

術後,声の変化はなく,左声帯の萎縮は見られなかった(図5a,b)。MPTは12秒で術前と同程度の音声機能であった。

図 5 .

a,b)左声帯は正中位固定のままで,萎縮は見られなかった。

考 察

1.術中反回神経モニタリング

甲状腺,副甲状腺手術において反回神経の温存は必須の手技である。近年,術中神経モニタリング(intraoperative neural monitoring:IONM)が反回神経同定に有用であるという報告が多数あり[,],モニタリングには表面電極付挿管チューブを用いる。刺激電極であるプローブを反回神経に接触させ電気刺激を与え,惹起される声帯筋活動を声帯に接触したチューブの表面電極で捉え,音とモニター上の波形で表示する。表面電極による筋電図は針電極による記録とよく相関するといわれている。当科ではNIM-response2(日本メドトロニック社)を利用している。

2011年にはInternational Monitoring Study Group with IONM(IONM study group)が甲状腺・副甲状腺手術におけるガイドラインをまとめている[]。ガイドラインによると,IONMを行う際の術中手順として,①切除開始前の迷走神経刺激,②甲状腺切除開始前の反回神経刺激,③甲状腺切除後の反回神経刺激,④閉創前の迷走神経刺激を推奨している。また反回神経刺激しても反応が出ない場合には,laryngeal twitch assessment(術側迷走神経刺激で喉頭の筋収縮を触診で確認する方法)で反応があるか,対側迷走神経刺激で反応するかなどもチェックすることが述べられている。

甲状腺癌の再手術例の場合,瘢痕組織の中で反回神経を同定するのは困難を極めるため,IONMは反回神経同定に有用である。

2.反回神経再建

反回神経麻痺に対して機能的に声帯運動を再建しようとする試みは1892年Cottrellにより始められた。その後動物実験や臨床研究が行われていたが,声帯運動は回復しないことが判明して次第に廃れていった。しかし,1980年に牛尾[,]の報告により,反回神経を吻合することで声帯の萎縮を防止でき,音声が改善されることが明らかになり,近年多くの施設で反回神経の即時再建が行われるようになっている。

反回神経再建方法はいくつかの方法があり,①神経縫合術②神経移植術③神経移行術に分類することができる。①は反回神経同士の端々縫合する方法で,顕微鏡下で神経上膜縫合を行う。②は反回神経の欠損部が長くなり,神経同士が縫合できない場合に,大耳介神経など他の神経を間置移植する方法である。この場合は神経縫合が2か所必要である。③は頸神経ワナを反回神経末梢端に端々吻合する方法で,縫合箇所が1か所である,反回神経中枢端が利用できない場合でも実施することができるなどの利点がある。本症例で行ったのはこの③の方法である。1926年にFrazier[]がヒトで初めて頸神経ワナ反回神経縫合を報告し,その後Crumleyら[]が改めてその有用性について報告した。

Miyauchiら[]は甲状腺癌を対象に上記の①~③の方法で反回神経再建を行った34症例について術後の音声評価を行ったところ,大部分の例で最長発声持続時間(MPT)が10秒以上の良好な成績が得られたと報告している。山田ら[]は13例の甲状腺癌手術において②,③の神経再建を行い,すべての症例で術後のMPTが9例で正常範囲となり,11例において呼気流量(肺活量/MPT)が正常範囲内に改善したと報告している。またYumotoら[10]は②の神経移植術を行った甲状腺癌9例の術後音声機能が,術中に反回神経を切断し音声改善手術をしなかった甲状腺癌9例と比較して喉頭雑音比,ピッチのゆらぎ,MPT,呼気流率(MFR)が優位に良好であると報告している。

末梢神経を切断すると遠位端がワーラー変性する。シュワン細胞は髄鞘から解離し,髄鞘の変性物質をマクロファージとともに貪食して分裂してBungner bandを形成する。再生した軸索はこのbandを通ってNGF,BDNF,NT-3などの神経栄養因子の補助を受けながら標的機関の受容体へ伸びる。受容体と結合すれば神経再支配が成立して髄鞘が成熟する[1112]。

ラットを用いた研究では反回神経を切断するとそれより末梢側の軸索,髄鞘,シュワン細胞が7日以内に消失するとされる。一方,反回神経を即時再建した場合,7週後に軸索,シュワン細胞,神経終末が発現し,18週後には軸索は68.5%,シュワン細胞が53.7%で発現していたが髄鞘の発現はなかったと報告がある[13]。

反回神経再建した症例では再手術により,反回神経や再建に利用した頸神経ワナを損傷するリスクはある。反回神経を再建しても過誤支配により正常声帯のような可動性は得られないため,再建した神経を刺激しても声帯の筋電図が得られるか不明であった。今回の症例では頸神経ワナの刺激によりNIMに反応し,また視覚的にも喉頭が刺激に同期して微動したため,惹起された声帯筋活動がモニターされたと考えられた。

一方,図4cで示した通り,舌下神経を刺激したところ,喉頭の健側への動きを認め,舌下神経の舌骨上筋群,甲状舌骨筋の収縮の合成した収縮運動と考えられた。同時にNIMの反応も見られたが,これは頸神経ワナのネットワークを通して再建した反回神経を刺激した結果,NIMが反応していると思われる。

おわりに

甲状腺癌反回神経浸潤例において,神経再建により音声機能を維持できるが,頸部再発した場合,再手術により再建した反回神経を損傷する可能性があっても,NIMを用いることで再建した反回神経の同定できた症例を経験した。本法は,再手術の神経の同定にも有用性があった。

【文 献】
 

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