Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
CVD chemotherapy for malignant pheochromocytoma
Akiyo Tanabe
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2014 Volume 32 Issue 1 Pages 34-38

Details
抄録

悪性褐色細胞腫/傍神経節細胞腫は臨床経過が長期にわたる症例が多い。確立した治療法がなく根治例はごく稀である。治療目標はカテコラミン(CA)過剰症状のコントロール,progression-free survival(PFS)の延長である。CVD治療はcyclophosphamide,vincristine,dacarbadine併用による化学療法である。本治療の短期効果は腫瘍容積に対する完全あるいは部分奏効(CR/PR)が約50~80%,CA値に対するCR/PRが約50~80%と報告されている。効果持続は1~2年とされ,生存率の改善に寄与する証拠は得られていない。主な副作用は発熱,血管痛,消化器症状,骨髄抑制,肝機能障害であるが,多くは軽度から中等度である。CVD治療は悪性PPGLを“根治させる”治療であるとは言えない。しかし一部の症例ではPFS延長に有効であること,本邦では131I-MIBG治療が困難であることから,多くの施設ではCVD治療が抗腫瘍治療の第一選択となりうる。

はじめに

褐色細胞腫/傍神経節細胞腫(PPGL)の約90%は副腎髄質に発生するが,約10%は交感神経節に発生し副腎外褐色細胞腫あるいは傍神経節細胞腫と呼ばれる。副腎原発褐色細胞腫の約10%,傍神経節細胞腫の15~35%が非クロマフィン組織への転移をきたす悪性である。腫瘍が局所に限局している場合には術前の生化学的検査,ホルモン検査,画像検査のみならず摘出腫瘍の病理検査でも良悪性の鑑別が極めて困難である。このため臨床的には骨,肝臓,肺,リンパ節などの非クロマフィン組織への転移を認める場合に“悪性”と診断している。転移や腫瘍の増大は緩徐に進行する症例が多く,良性と診断されて手術を受けたものの数~数十年後に局所再発や転移巣が発見される症例もみられる。腫瘍の残存,転移には化学療法,放射線療法などを組み合わせて多角的な治療が行われるが,確実で有効な治療法はなく,悪性PPGLは臨床的に最も診断,治療が困難な内分泌性高血圧症である。

悪性PPGLの治療

悪性PPGLでは初回手術から再発まで,再発や遠隔転移が発見されてから死亡までの経過が数十年の長期にわたる症例が多くみられる。このため長期の予後判定は困難であるが,根治例はごく稀である。自験例の解析ではADL低下に大きく影響する症状はカテコラミン過剰による動悸,血圧変動(発作性高血圧と起立性低血圧),麻痺性イレウスによる便秘,加えて主な死因もカテコラミン過剰による不整脈や心不全である。したがって再発,転移を有する症例の治療目標は,カテコラミン過剰症状を抑えること,progression-free survivalを延長すること,死因となる心不全発症を遅らせることである。

悪性例でも全身状態が良好で,多発性の肝・肺転移,腹膜播種がなく,摘出術の標的とする腫瘍が浸潤性でなければ原発巣,転移巣の摘出術を考慮する。悪性PPGLに対する手術療法は根治的ではないが,腫瘍容積の減少は高カテコラミン血症改善に一定期間有効で,ADLの改善が計れる[]。手術困難例では高カテコラミン血症をコントロールするためα,β遮断薬を中心とした薬物療法,カテコラミン合成阻害薬であるα-メチルパラタイロシン(α-MT)内服を行うが,本邦ではα-MTは未承認である。転移巣に対する治療として腫瘍に対する直接的治療である化学療法,131I-MIBG治療,肝転移に対する経カテーテル的肝動脈塞栓術(TAE)などを考慮する。骨転移には骨折予防,疼痛緩和のため放射線外照射を併用する。

悪性PPGLに対する化学療法

1988年,Averbuchら[]は悪性PPGLが神経芽細胞腫と同じ神経原性腫瘍であることから両者は同様の臨床的,生物学的特徴を有すると考え,神経芽細胞腫に対し有効性の高いcyclophosphamide,vincristine,dacarbadine併用による化学療法(CVD治療)を14例の悪性PPGLに対して施行し結果を発表した。その後,それぞれ少数例ながらcisplatinと5-fluorouracilの併用[],vepeside,carboplatin,vincristine,cyclophosphamide,adriamycineの併用[],CVD治療とanthracyclinesの併用[],temozolomideとthalidomideの併用[]などが報告されている。MIBG治療との併用例も報告されているが,併用の確実な有効性は示されていない[]。神経芽腫の細胞株においてcisplatin,doxorubicinがMIBGの取り込みを増強させる[]ことから,MIBG治療とcisplatin,doxorubicin治療[]を組み合わせて施行した報告もあるが,少数例であり効果は明らかではない。

CVD治療の実施法

適応と前処置

後述する副作用を考慮し,全身状態が不良でない症例,施行前に白血球減少,血小板減少,腎機能障害,肝機能障害の合併がない症例を対象とする。CVD治療の効果で腫瘍が崩壊しカテコラミンクリーゼを併発する症例は稀であるが,数例の報告があるため[10]事前に十分な量のα,β遮断薬を投与する。

投与量と投与法

Averbuchら[]のプロトコールではcyclophosphamide(750mg/m2 BSA)を1日目,vincristine(1.4mg/m2 BSA)を1日目,dacarbazine(600mg/m2 BSA)を1日目と2日目に投与する。これを21日間隔で反復する(図1)。このプロトコールではcyclophosphamideとdacarbazineの投与量は骨髄抑制が生じるまで毎回10%ずつ増量,血液所見や神経学的副作用が出現した場合は施行間隔を1週ずつ延ばすか投与量を減量する。本邦ではビンクリスチンは添付文書に「副作用を避けるため1回量2mgを超えないものとする」と記載されているので注意を要する。

図1.

CVD治療の基本プロトコール

効 果

Averbuchら[]は治療効果を腫瘍に対する反応性と生化学的反応性の2つのカテゴリーに分けて判定した。腫瘍に対する反応性の判定は固形癌のスタンダートな判定に則って,“完全奏効”は全ての画像検査所見が正常化,“部分奏効”は明らかになっている全腫瘍を評価し少なくとも50%以下に縮小,“ミニマルレスポンス”は25~50%の縮小,“不変”は変化なし,“進行”は新たな腫瘍の出現か25%以上の増大とした。生化学的反応性の判定は24時間蓄尿の遊離カテコラミン,メタネフリン,VMAの全てを指標とし,“完全奏効”は正常化,“部分奏効”は少なくとも50%以上の減少,“ミニマルレスポンス”は25~50%の減少,“不変”は変化なし,“進行”は25%以上の増加とした。その結果,7~34カ月(平均21カ月)の観察期間で,腫瘍反応性は2例で完全奏効,6例で部分奏効,生化学的反応性は3例で完全奏効,8例で部分奏効であった。1例はCVD治療中も腫瘍増大,ホルモン増加がみられたため4回で中止した。腫瘍の完全あるいは部分奏効は57%,ホルモンの完全あるいは部分奏効は79%に認められた(表1)。

表1.

CVD治療の効果

われわれは17例の悪性PPGLにおいてCVD治療の中期経過(12~192カ月;中央値60カ月)を観察した[11]。その結果,47%の症例で全転移巣の中の最大腫瘍径が治療前と比べて50%以上の縮小を示した(図2)。生化学的反応性は,47%の症例で尿中ノルアドレナリン値50%以上の低下がみられた(表1)。

図2.

CVD治療有効例

有効例における治療効果発現(25%以上の変化)までの期間は1~4カ月(中央値2.5カ月),治療回数1~4回(中央値2.5回),効果持続期間は31~60カ月(中央値40カ月)。進展例では4回以上継続しても効果は得られなかった。われわれの症例およびHuangら[12]の症例において,CVD治療によるカテコラミン改善に伴い糖尿病,血圧変動などの合併症の軽減がみられており,CVD治療の有効例は多いとは言えないが,有効例においては短期および中期的にADL改善に寄与すると考えられる。

これまでの多くの症例報告では短期間の有効性は認められるが効果持続は1~2年とされ,長期的な効果は不明であった[1315]。近年Huangら[12]はCVD治療を施行した18例を22年間観察し,“完全奏効”が11%,“部分奏効”が44%であったと比較的良好な成績ながら,長期的には有効例と無効例との間に生存率の差はみられなかったと報告している。Nomuraら[16]もCVD治療を受けた16例とCVD治療を受けなかった9例をretrospectiveに検討し,両群間で生存率に差がなかったことを報告している。このように,化学療法が生存率の改善に寄与するという証拠は得られていない。

悪性PPGLにおける治療効果を判定する上で注意すべき点は,全身転移を有し有効な治療が施行されない状態でも,他の多くの悪性腫瘍に比べて臨床経過が長いことである。自験20例の検討では悪性と診断されてから死亡までは1~8年,平均5.2±2.7年,生存例で経過観察中の症例は悪性と診断されてから1~15年,平均7.4±5.0年の病歴を有する。無治療で経過しても腫瘍,ホルモン値の悪化を認めない症例もあることから,CVD治療の判定が“不変”の症例ではCVD治療の患者への時間的,経済的負担,抗腫瘍薬の蓄積による副作用を考慮し,どのような間隔で,どのくらいの期間継続すべきか,中止すべきかを個々の症例で判断する必要がある。

CVD治療と他の抗腫瘍薬や131I-MIBG治療の併用効果や副作用は少数例の報告に止まることから明らかではない。今後,多施設間での情報交換や症例の解析が必要である。

副作用と対策

副作用発現頻度は不明であるが,多くは軽度から中等度である。重篤な副作用として腫瘍崩壊に伴う血中カテコラミン上昇による高血圧クリーゼに留意する。副作用は必ずしも全例で出現するものではない。また,反復して施行する場合は,毎回出現する副作用の種類や程度が異なる症例がみられるため慎重に経過を観察する。長期間反復して投与した際の慢性副作用は明らかではない。

⑴発熱,血管痛,嘔気,嘔吐

投与中および直後の一過性高熱には対症的処置を行う。局所の血管痛はdacarbazineの分解産物が発痛物質であるために生じる。投与終了後に速やかに軽快するが,激痛の場合は治療に対する恐怖心を惹起するため消炎鎮痛剤,抗不安剤の事前投与を行う。嘔気,嘔吐は多くの例で投与終了後に速やかに軽快する。制吐剤として塩酸グラニセトロン(5-HT3受容体拮抗薬)を使用する。抗ドパミン作用を有するメトクロプラミド(D2受容体拮抗薬)は内服薬も注射薬も褐色細胞腫に対する使用が禁忌である(急激な昇圧をきたす可能性がある)。同じD2受容体拮抗薬であるドンペリドンには昇圧発作の報告はなく添付文書に禁忌の記載がないがメトクロプラミドと作用機序が同じであるため使用には注意を要する。

⑵骨髄抑制(主に白血球減少,その他に血小板減少,貧血),末梢神経障害

cyclophosphamideとdacarbazineによる骨髄抑制が報告されている。自検例では白血球は投与の数日後から低下し約1週間で回復する。その他,血小板減少による軽度の出血傾向が報告されている[]。vincristineによる末梢神経障害として軽度の知覚異常が報告されている。

⑶肝機能障害,脱毛

投与後数日から軽度のトランスアミナーゼ上昇,軽度の脱毛を認めることがある。

⑷高血圧クリーゼ

CVD治療による腫瘍の崩壊でクリーゼを併発する症例は稀であるが,数例の報告があるため[13],事前に十分な量のα,β遮断薬を投与する。

⑸その他

各薬剤の副作用は添付文書に記載されているので実施に際して参照すること。添付文書に記載されている稀ではあるが重篤な副作用は表2のとおりである。

表2.

CVD治療薬でみられる稀な副作用(各薬剤の添付文書より引用)

予 後

悪性PPGLの予後は症例によってさまざまである。悪性例の5年生存率は約20%[17]とされてきたが,自検例では再手術,化学療法,aMPT,骨への外照射を組み合わせて積極的に治療した場合,初回診断後の5年生存率は90%,悪性と診断されてからの5年生存率は65%であり,既報[17]の5年生存率20%に比して良好であった。自検10例における死因はカテコラミン過剰による急激に進行する心不全が最も多く,次いで肺転移による呼吸不全,出血性ショック,癌性腹膜炎であった。一方,肝不全,腎不全による死亡はなく,脳血管障害,虚血性心疾患,病的骨折の発症例もなかった。

おわりに

悪性PPGLは,発生頻度は低いが比較的若年から壮年層に認められ,確立した治療法がなく長期にわたって身体面,社会・家庭生活面で大きな負担を強いられる難治性疾患である。

CVD治療は悪性PPGLを“根治させる”治療であるとは言えない。また,世界的に大規模な検討がなく長期予後への影響は明らかではない。しかしながら低~中等度の副作用で一部の症例に有効であること,本邦では131I-MIBG治療が施行可能な施設が限定されている上に高価であることから,多くの施設ではCVD治療が抗腫瘍治療の第一選択となりうる。悪性PPGLでは高カテコラミン血症がADLの低下や死因に大きく寄与することから,CVD治療により限られた期間でもカテコラミンをコントロールできることは“QOLを向上させ,通常の生活を送ることが出来る時間を延長させる”目的で一部の症例に有効であると考えられる。

【文 献】
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top