Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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A case of parathyroid carcinoma which induced neurological symptoms and improved dramatically by an operation
Naohiro AidaMasaya UesatoToru ShiratoriYukimasa MiyazawaHisahiro Matsubara
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2014 Volume 32 Issue 1 Pages 57-62

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抄録

症例は69歳女性。主訴は眩暈,筋力低下,歩行障害。2年ほど前より眩暈,筋力低下を認め,近医にてパーキンソン症候群と診断され内服加療中であった。2011年2月,症状の増悪を認めたため前医を受診し,高カルシウム(Ca)血症とCT検査にて頸部腫瘤を指摘された。原発性副甲状腺機能亢進症が疑われ当院内科に紹介となった。内科にて薬物治療を試みたがCa値の低下は軽度であり症状の改善も認めなかった。その後当科紹介となった。頸部超音波検査にて副甲状腺癌が疑われ,2011年6月,甲状腺右葉切除+頸部リンパ節郭清術を施行した。病理所見にてリンパ節転移を伴う副甲状腺癌の診断を得た。Ca値は速やかに低下し,術後わずか1週間で歩行可能となった。術後2年4カ月無再発生存中である。原発性副甲状腺機能亢進症に高Ca血症を伴うことが多いが,内科治療抵抗性のものは積極的に副甲状腺癌を疑う。また,副甲状腺癌に伴う神経症状は稀であるが,手術により著明に改善しうることが示唆された。

はじめに

副甲状腺癌は稀な疾患であり,また癌に特異的な症状に乏しい。主な症状としては,副甲状腺機能亢進症を伴うため腎機能障害,骨症状などが挙げられるが,それ以外にも様々な症状を認める。なかでも神経症状はごく稀な症状である。今回われわれは副甲状腺癌に伴う神経症状が手術により著明に改善した1例を経験したので報告する。

症 例

症 例:69歳,女性。

主 訴:眩暈,筋力低下,歩行障害,構音障害。

既往歴・家族歴:特記事項なし。

現病歴:2年ほど前より眩暈・筋力低下が出現した。2010年8月に近医でラクナ梗塞,パーキンソン症候群と診断され,バイアスピリン,L-ドーパを処方された。その後症状は徐々に進行し,呂律も回らなくなった。2011年2月には遂に歩行困難となった。同年3月,再度前医を受診し,高カルシウム(Ca)血症と頸部CT検査で甲状腺右葉下極に腫瘤を指摘された。原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)が疑われ,同年4月に当院代謝・内分泌内科を紹介受診となり,その後当科紹介となった。

内科初診時現症:身長153cm,体重57kg。

意識は清明,脈拍98回/分,血圧157/88mmHg。

頸部正中右寄りに可動性不良な硬い拇指頭大の結節を触知する。頸部リンパ節を触知しなかった。

徒手筋力試験で四肢筋はいずれも4/5,歩行はやや前かがみで杖歩行であった。腱反射は正常であり,病的反射は認められなかった。

筋強剛・寡動・振戦・姿勢反射障害をいずれも認めなかった。

また構音障害を認めた。

内科初診時検査所見:Ca 14.0mg/dl,P 2.3mg/dlと著明な高Ca,低P血症を認めた。Alb 4.0mg/dlと基準範囲内でNa 143mEq/dl,K 4.0mEq/dl,Cl 113mEq/dlであった。ALP 535U/Lと軽度上昇していた。Cre 0.66mg/dlと腎機能は正常であった。intactPTH 401pg/ml,1,25(OH)2 D 140pg/mlと高値であった。甲状腺機能は基準範囲内であった。

頸部造影CT検査:甲状腺右葉下極背側に造影効果を伴う辺縁不整,境界不明瞭な3cm大の結節を認めた。

頸部MRI検査:甲状腺右葉背側に辺縁不整な腫瘤影を認めた。食道,内頸静脈,総頸動脈との境界は明瞭であった。

MIBIシンチグラフィ:後期相にて甲状腺右葉背側に異常陰影を認めた。

手指X線検査:骨皮質の菲薄化を認めた。

骨シンチグラフィ:集積は正常範囲内で,異常集積は認めなかった。

骨密度測定(DXA法):腰椎にてYAM 53%,T-Score -4.3と骨密度の低下を認めた。

以上よりPHPTと診断した。診察上パーキンソン症候群を疑う所見を認めず,神経症状は副甲状腺機能亢進症による症状と考えられた。高Ca血症は高度で骨密度低下もあり手術適応と判断され当科紹介となった。予定手術の方針とし,術前検査を施行するとともに内科にて高Ca血症に対し大量生理食塩水,カルシトニンおよびゾレドロン酸の投与を施行し血清Ca値は低下したが,神経症状の改善は認めなかった。

当科頸部超音波検査所見:甲状腺右葉中下部背側に32.3×27.8×23.1mm大(D/W比0.86)の境界不明瞭で辺縁不整,内部不均一な低エコー域を認めた(図1a,b)。甲状腺との境界は不明瞭であり浸潤と考えられた。

図1.

超音波検査所見

(a,b)甲状腺右葉中下部背側に最大径32.3mmの辺縁不整な低エコー域を認めた(▽)。腹側では甲状腺との境界が不明瞭であり浸潤が疑われた(▼)。

当科での超音波検査上悪性腫瘍が疑われ,副甲状腺癌の術前診断にて手術を施行した。

手術所見:腫瘍の主座は甲状腺右葉であり,腹側では胸骨甲状筋までの直接浸潤を認めていた。反回神経への浸潤は認められず,神経温存は可能であった。胸骨甲状筋合併甲状腺右葉切除および甲状腺癌取り扱い規約のD1リンパ節郭清術を併施した。

肉眼所見:腫瘍は3.5×3.2×2.6cm大であり割面は白色充実性であった。腹側で胸骨甲状筋に浸潤していた。甲状腺右葉内の大部分を占める腫瘤であった。

病理組織学的所見:腫瘍は被膜に覆われており,甲状腺内に主座をおいていた(図2a)。腹側では胸骨甲状筋への浸潤を認めた。また,腫瘍細胞の核分裂像を認め,腫瘍細胞間は梁柱形成し索状配列をなしていた(図2b)。一部では被膜への浸潤を認め(図2c),また,郭清したリンパ節内に同様の腫瘍細胞の増殖を認めた(図2d)。免疫組織染色ではChromograninが陽性であり,TTF-1,Thyrogloblin,Calcitoninがいずれも陰性であることから副甲状腺由来と診断された。

図2.

病理検査所見 HE染色

(a)ルーペ像。主腫瘍。腫瘍は被膜に覆われており,甲状腺内に主座をおいていた。

(b)×40。主腫瘍。腫瘍細胞間に梁柱を形成し,また,索状配列をなしていた。

(c)×100。主腫瘍。腫瘍は一部で被膜への浸潤を認めた。

(d)×40。リンパ節。郭清したリンパ節内に同様の腫瘍細胞の増殖を認めた。

以上より副甲状腺癌と診断した。

血清Ca値は術直後より低下を認め,翌日よりCaの補充を開始した。術前より認めていた神経症状は著明に改善し,手指のふるえは消失した。術後わずか1週間で病室内歩行が可能となった(図3)。

図3.

臨床経過表

内科治療によりCa値は改善を認めたが,症状の改善は乏しかった。手術後,神経症状は著明に改善した。

病理所見にてリンパ節転移を認めたため,追加リンパ節郭清を勧めたが希望されなかった。術後2年4カ月,無再発外来通院中である。

考 察

副甲状腺癌は稀な疾患であり,病態としてPHPTをきたすことが多く,頻度としてPHPTの5%程度を占める[]。1935年から2013年12月までの本邦での副甲状腺癌の報告は医学中央雑誌にて検索しうる限り自験例を含め169例(会議録を除く)であった。男女比は1:1.1とほぼ男女差はなく40~50代に多く認める。

検査所見ではPHPTの病態を呈することからPTHの過剰産生,高Ca血症,低リン血症をきたすことが多い。特にCa値はPHPTのなかでもより高い傾向を認め,本症例も内科初診時に14mg/dlと著明な高Ca血症をきたしていた。症状としては骨粗鬆症,骨痛などの骨症状,高Ca血症に伴う腎機能低下が主要な症状とされ,その他にも消化器症状,全身倦怠感など多彩である。神経症状を伴う副甲状腺癌は本邦報告で22例(表1)認めるが[21],初発症状としての神経症状はこのうち自験例を含め3例のみ[1820]であった。

穿刺吸引細胞診が播種の危険性のため禁忌とされ診断は困難である。本邦報告例では約9割が副甲状腺腫瘍と診断したにも関わらず,悪性を疑ったものは3割にすぎなかった。従来よりHolmesら[22]に代表されるような臨床所見(高Ca血症,骨症状,頸部腫瘤触知)が診断に寄与していたが,画像精度の向上に伴い近年は画像評価が有用である。なかでも超音波検査は簡便であり多用され,①辺縁不整,②内部不均一エコー,③DW比>1は副甲状腺癌を疑う所見であり[23],本症例も甲状腺に直接浸潤する超音波所見のみから悪性を疑うことが可能であった。

治療は手術が優先され,先述の本邦報告例(うち術式の記載のあった146例)においては甲状腺葉切除術が72例と最も多く施行されている。葉切除に至らずとも甲状腺の部分切除術,また甲状腺亜全摘術や周囲臓器の合併切除を伴うものも少なくない。術前診断が困難であることから腺腫と同様の腫瘍摘出術が55例に施行されていた。郭清に関しては統一されたものはないが,本邦報告例ではリンパ節転移を10%程度に認めるため,考慮すべきと考える。

再発形式は局所,肺転移が多い。局所再発は17例の報告があるが,甲状腺葉切除群5.6%(4/72例)に対し腫瘍摘出群24%(13/55例)に多く認めた。再発時期は記載のあった69例のうち,術後2年以内が52%(36/69例)と多くを占めるが,10年以上経ての再発も9%(6/69例)認めた。特に再発の有無に血中Ca値の推移をみることは重要である。生命予後は比較的良好な疾患であり,死因は高Ca血症に基づくものが多く,その管理が非常に重要である。

前述の神経症状をきたした22例[21](表1)のうち9割が筋力低下であり,部位としては下肢に多く,歩行困難をきたすほど重篤な筋力低下をきたすものも多い。構音障害をきたしたのは本症例以外では1例のみできわめて稀な症状である。上記22例は初期治療として13例が手術を,8例が内科的処置を施行された(1例は治療前に死亡)。しかしながら内科処置にて症状の改善を認めたのは2例に過ぎなかった。最終的に20例に対して手術が施行されたが,術後症状の記載は7例のみにとどまるが全例に症状の改善を認めており,本症例同様に外科治療が症状改善に寄与していた。従来こういった神経症状は高Ca血症によるものと考えられてきた[24]が,内科治療にてCa値が低下したものの症状の改善を認めていない報告も散見される。本病態においてはPTHの高値も特筆すべき点であり,PTH自体が神経症状をきたす可能性も示唆される。PTHの受容体は腎や骨だけでなく骨格筋や中枢神経系にも広く存在しており[25],直接的に作用する可能性があるほか,高PTH血症は25(OH)Dの低値をきたしその結果筋力低下をもたらすともされる[2627]。本症例では25(OH)Dは測定しておらず詳細は不明であるが,今後検討の余地があると考える。

表1.

神経症状をきたした副甲状腺癌の本邦報告例

本症例より,PHPTの病態をとる症例のなかに稀ではあるが副甲状腺癌も含まれるため,頸部超音波検査を中心に慎重な術前検査を要する。本症例では高Ca血症などからも手術適応であると考えられるが,内科治療抵抗性の神経症状を伴うPHPT症例においては外科治療を考慮すべきである。

おわりに

手術により神経症状が著明に改善した副甲状腺癌の一例を経験した。PHPTに伴う神経症状は,内科的処置に抵抗する場合でも手術により短期間で著明な改善がみられた。

【文 献】
 

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
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