2015 Volume 32 Issue 2 Pages 116-120
ポジトロン断層撮像法(PET)は腫瘍の増殖性や交感神経機能活性を評価することが可能な生理的な画像診断法である。近年ではコンピューター断層撮像装置(CT)が組み込まれた撮像装置となり,形態・機能を同時に評価することが可能である。褐色細胞腫へのPET/CTの適応は術前に転移病変の有無を評価することおよび転移病変が存在する悪性褐色細胞腫の治療指針の選択である。特に悪性褐色細胞腫の病型は多彩であり,最適な治療法の選択には情報量の多いPET/CT検査は有用である。
ポジトロン断層撮像法(PET)は微量の放射性医薬品を使用して,生体の機能情報を画像化する核医学的手法である[1]。近年ではPET撮像装置にコンピューター断層撮像装置(CT)が組み込まれた撮像装置が普及してきており,PETによる機能診断と形態を融合して同時評価することが可能となってきた。また撮像装置も検出器間の隔壁を廃した3次元収集が主流となり,放射線医薬品を使用する場合に懸念される放射線被ばく線量が減少している[2]。通常3次元収集では従来の2次元収集の半量の放射性薬剤の投与で検査が可能である。褐色細胞腫の発病年齢が他の癌腫と比較し若年であることから[3],被ばく線量の減少は重要である。褐色細胞腫へのPET/CTの適応は大きく分けて2つ存在する。褐色細胞腫の内転移をきたすものは10%と少数であるが[4],術前に転移病変の有無を評価することは治療方針決定のために重要である。転移病変が存在する悪性褐色細胞腫例では治療法の選択として全身の病変分布および腫瘍の生理学的な特徴を把握することが可能なPET/CTは重要な診断情報をもたらす[5,6]。PET/CT検査としては糖代謝の側面から腫瘍の増殖性を評価するフッ素標識fluorodeoxyglucose(FDG)が臨床的に普及している。また褐色細胞腫の病態を反映した交感神経機能が評価可能なPET/CTのイメージングも近年発展してきている。これらは腫瘍の生理学的特徴を評価しうるため131I MIBGによる標的アイソトープ治療の適応決定としての有用性も示唆されている。
褐色細胞腫の診断および病態評価に用いられるPET用放射性薬剤は腫瘍の増殖性,骨代謝を評価する非特異的な薬剤,ペプチド合成を評価する薬剤,副腎髄質およびクロム親和性細胞へ集積する特異的な薬剤に大別される(表1)[7]。本邦ではフッ素18標識fluorodeoxyglucose(18F FDG)があらゆる癌腫(早期胃癌を除く)として保険適用となっている。
褐色細胞腫の診断に用いられる放射性医薬品
18F FDG(半減期110分)はブドウ糖アナログで,全身組織のブドウ糖利用状態の評価に用いられる(表1)。18F FDG は組織細胞のブドウ糖取り込みに比例し取り込まれ,リン酸化経路へ入る。ブドウ糖とは異なり,FDG-6リン酸はそれ以上の代謝を受けず,組織細胞内に停留する。そのため組織内のFDG集積は細胞のブドウ糖代謝を反映する。FDGは非特異的な放射性医薬品で,その集積は腫瘍細胞の代謝が周囲の正常組織より亢進していることを反映し腫瘍の増殖能という観点から悪性度の判定が可能である[8]。この様にFDGは副腎髄質由来の腫瘍に特異的ではないため,転移性腫瘍が疑われる場合および診断確定後に副腎外転移が疑われる場合に用いることで有用性を発揮する(図1)。
30代男性,悪性褐色細胞腫。123I-MIBG全身像。正面像でFDG PETで認められたリンパ節,骨の多発転移病変に123I-MIBGの集積を認め,悪性褐色細胞腫と診断した。
副腎髄質を含めた交感神経終末のイメージングは従来シングルフォトンの123I MIBGおよび131I MIBGが褐色細胞腫の診断として用いられてきているが,近年交感神経終末のイメージングがPETでも導入が開始となってきている[7]。
11C Hydroxyephedrine(HED)はMIBGと同様に交感神経終末の前シナプスにuptake 1の機序により取り込まれる(図2)[1]。よって褐色細胞腫に特異的なPET用放射性医薬品と言える。MIBGと同様に心筋,肝臓などに生理的集積を認めるため,転移病変を評価する際には注意を要する(図3)。腫瘍病変へのHED集積は経時的に上昇していくことから投与から時間を開けて撮像を行うことで病変部位と生理的集積の鑑別が容易になると思われる[9]。画像は131I MIBGと比較し良好であり[10](図3),HED PETによる褐色細胞腫の診断精度は単施設の報告では診断感度91%,特異度100%と非常に良好であることが報告されている[11]。
副腎髄質イメージング製剤と集積機序。
健常例における123I-MIBGおよび11C hydroxyephedrine PET/CT画像
11C HEDは良好な画像が得られ診断精度も良好であるが,炭素11標識のため半減期が20分と短く検査を施行出来る患者数に限りがある点が問題である。そこで,褐色細胞腫の診断としてはPET薬剤の中でも比較的半減期の長い(110分)フッ素標識製剤に欧米では関心が高まっている。
18F fluorodopamine(DOPA)はノルエピネフリンの前駆物質である(図2)。Monoamine oxidaseにより代謝を受けるが半減期が長いため心臓などでは集積だけでなく,洗い出しの評価が可能である[12]。集積機序はHEDと異なるが交感神経終末の前シナプスへの集積という点では同様である。PET単独機による少数例の検討であるが18F fluorodopamine131I MIBGと比較し,患者ベースおよび病変ベースにおいても病変検出の感度が高いことが報告されている[13]。近年のシステマティックレビューでも同様の結果が報告されている[14]。
1-3.ソマトスタチンアナログ褐色細胞腫の中で一部にMIBGが集積しない症例が存在する。特に悪性褐色細胞腫では薬剤集積が認められない症例が良性例よりも多い傾向にある[15]。そのような場合,腫瘍にソマトスタチン受容体が発現していることがあり,ソマトスタチン受容体イメージングで病変の検出が可能となる。68Ga DOTATATEはジェネレータから産生されるPET用のソマトスタチン受容体イメージング製剤である。123I MIBGで集積を認めない褐色細胞腫にて集積する症例が存在することが報告されており[16],治療指針選択として重要なイメージングである。
1-4.PET骨イメージングフッ素18標識sodium fluoride(NaF)は骨造成,骨吸収を反映し,長管骨の骨代謝に関する評価が可能であり,転移性骨腫瘍の診断に用いられている。米国では1972年にFDAにより臨床的使用が承認されたが,その後99mTc標識製剤の普及により臨床利用は減っていたが,近年PET/CT装置の普及に伴い,米国では2011年から高齢者保険医療の償還が開始され臨床応用が増えてきている[17]。褐色細胞腫に特異的ではないが,良好な画像が得られるため,骨転移の診断として今後我が国でも利用される可能性がある。
褐色細胞腫では10%の症例で転移病変を合併することから,褐色細胞腫の診断がついた場合,治療方針の決定として術前に全身検索を行うことが必要である。18F FDG PETを用いた悪性褐色細胞腫および傍神経節腫の診断感度は高く,感度97%との報告がある[11,18]。悪性褐色細胞腫・傍神経節腫のstagingとして18F FDG PETはCT/MRIの形態診断あるいは123I MIBG SPECT/CTと比較し検出精度が高いことが報告されている[19]。また褐色細胞腫では副腎腫瘍切除後に長い経過を経て副腎外に転移病変が出現してくる場合がある[4]。この様な場合は18F FDG PETで検出される病変が褐色細胞腫による転移であるが副腎髄質イメージングで確認する必要がある(図1)。このために通常は123I MIBGシンチグラフィーを実施し,病変の比較を行う。
2-2.悪性褐色細胞腫に対する治療法の検討悪性褐色細胞腫では病変が全身に分布するために一般的には転移病変に対する手術適応はなく,化学療法あるいはアイソトープを用いた標的アイソトープ治療の適応となる[20]。中でもアイソトープ治療は生命予後改善が期待される治療である[21]。
131I MIBG治療を実施する際には治療薬が病変に集積するか123I MIBGシンチグラフィーにて確認を行う(図1)。一般的には123I MIBGが集積する場合を治療適応とする[22]。海外では治療適応決定のため18F DOPA PETがこの目的で使用されている。一方,MIBGが集積しない症例ではソマトスタチン受容体アナログの治療適応となり,68Ga DOTATATE PETで集積があるか確認を行う(図4)。
褐色細胞腫の診療におけるPETの役割
カテコールアミンが高値の症例では治療に伴う腫瘍崩壊からカテコールアミン上昇に伴う随伴症状が出現する可能性がある。またMIBGが非常に高度に集積する病変が存在すると,治療薬剤が活動性の高い病変に限局して集積し,他の病変の治療効果を低下させる可能性もあり,治療前に活動性の高い病変に絞り腫瘍量の減量を手術で行うこともエビデンスはないが提唱されている[23]。
2-3.治療効果評価治療効果の評価については従来からCTによる形態学的診断がRECIST Criteriaとして汎用されているが,FDG PETによる腫瘍活性の低下が病変サイズの縮小に先行して出現することが他の固形癌で報告されている[24]。悪性褐色細胞腫における131I MIBGの治療効果もCTによる腫瘍縮小よりも内分泌学的反応性や血圧下降などの臨床所見の改善が優位であることから[25,26],FDG PETは治療効果評価としても有用性が期待される(図5)[27]。
60代女性,悪性褐色細胞腫。131I-MIBGを3回施行し,肺転移病変および大部分の肝転移病変は病変の進行が抑制された。一方肝臓S5領域の病変は増大し,FDG集積程度も増加してきたため治療抵抗性病変と判断し,同部位は外科的切除を施行した。
悪性褐色細胞腫は病変の性状が多様であり,治療反応も病変により異なる場合がある。131I MIBG治療にて大部分の病変の進行抑制が図られても一部治療抵抗性病変が出現する場合があり,そのような症例では18F FDGにより腫瘍の増殖性を評価することで治療抵抗性病変に焦点を絞った手術などの適応の可能性がある。この様な追加治療の適応検討にも18F FDG PETの有用性が示唆される(図5)。
褐色細胞腫の診療として現在18F FDG PETが全身検索として病期診断に応用されている。更に,悪性褐色細胞腫では治療効果評価および追加治療の検討として有用性が示唆されている。副腎髄質のイメージングについても新たなPET用薬剤の開発が進んできており,より病態に即した診断が可能となりつつある。これらの新たな検査法の我が国での普及が今後の課題である。