Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Print ISSN : 2186-9545
A case of parathyroid adenoma accompanied by a thymoma with 99mTcMIBI accumulation
Akiho Okada Masanori KoizumiYoshihisa InageRyouta NakamuraRika TobitaHaruo OhtaniHamaichi Ueki
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2016 Volume 33 Issue 1 Pages 55-59

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抄録

症例は69歳女性。左腎結石にて他医通院中に2013年5月にCTで胆囊結石を指摘され当院紹介された。血液検査にて高カルシウム血症と副甲状腺ホルモン高値を認め,99mTcMIBIシンチグラフィでは,頸部での集積は明らかでなく縦隔に集積を認め,CTでは同部に3cm大の胸腺腫瘍が描出された。しかし頸部超音波検査では右下副甲状腺の腫大が疑われたため,縦隔内異所性副甲状腺腺腫疑い,胸腺腫合併副甲状腺機能亢進症否定できずの診断で手術施行した。胸腺腫瘍と腫大した右下副甲状腺の両方を摘出した。病理検査では,胸腺腫瘍はType B2 thymomaであり,右下副甲状腺腺腫と診断された。99mTcMIBIシンチグラフィ集積を示す胸腺腫を合併し,術前局在診断に難渋した副甲状腺腺腫の症例を経験したので報告する。

はじめに

99mTc methoxyisobutylisonitrile(以下MIBI)シンチグラフィは,副甲状腺機能亢進症において病変の局在診断に有用である。今回,99mTcMIBIシンチグラフィが胸腺腫に集積を示し,局在診断に難渋した副甲状腺腺腫の1例を経験したので報告する。

症 例

症 例:69歳,女性。

主 訴:特記すべきことなし。

既往歴:39歳時尿管結石,60歳時より高血圧,63歳時鼡径ヘルニア,64歳頃より左腎結石指摘,69歳時胆囊結石指摘。

家族歴:特記すべきことなし。

現病歴:他医にて左腎結石の経過観察を受けていた際に胆囊結石を指摘され,治療目的に2013年5月当院紹介された。その際血液検査で高Ca血症および副甲状腺ホルモン高値を指摘され,副甲状腺機能亢進症が疑われた。

血液検査所見:血清カルシウム11.3mg/dl,インタクトPTH 106pg/mlと高値であった。IP 2.3mg/dl,ALP 346IU/lは基準値内であった。甲状腺についてはFT3 30.4pg/ml,FT4 1.17ng/dl,TSH 0.71μIU/ml,サイログロブリン15.9ng/mlと基準値内であった。

頸部超音波検査:右下副甲状腺1腺のみの腫大が疑われた。また甲状腺右葉下極に2cm大の甲状腺腫瘍あり,血流信号に乏しく微細石灰化などの悪性を疑う所見なく,腺腫様甲状腺腫を疑った(図1)。

図1.

頸部超音波検査

右下副甲状腺の腫大が疑われた(矢印)。

頸胸部CT:頸部では甲状腺右葉背側で気管右側に腫瘤影が描出されており腫大腺も疑われたが不明瞭で,別に縦隔に最大径約3cmの腫瘤影を認めた(図2)。

図2.

胸部造影CT

上縦隔に腫瘍を認めた(矢印)。

99mTcMIBIシンチグラフィ:縦隔に集積を認め,CTで描出される腫瘤に一致すると考えられた。頸部でも集積が疑われるが近傍の甲状腺腫瘍への集積の可能性も否定できなかった(図3)。

図3.

99mTcMIBIシンチグラフィ

delayed image(3時間後)にて,縦隔の集積が残存している(矢印)。一方頸部では集積は明らかではない。

手術所見:縦隔内異所性副甲状腺腺腫疑い,胸腺腫瘍合併右下副甲状腺腺腫否定できずの術前診断で手術を施行した。

胸骨正中切開にて胸腺腫瘍を摘出し,術中迅速診断で胸腺腫との回答を得,頸部を検索し9×8×3mmの腫大した右下副甲状腺を見出し摘出した。重量は225mgであった。術式は右下副甲状腺摘出術,胸腺腫瘍摘出術,甲状腺部分切除術となった(図4)。

図4.

切除標本

a)甲状腺部分切除部と摘出した右下副甲状腺(矢印)。

b)胸腺腫割面。

病理組織検査結果:右下副甲状腺は,副甲状腺のchief cellが密に増殖し,これに圧排されたchief cellが疎な本来の副甲状腺組織が隣接して認められ,parathyroid adenomaと診断された。

胸腺腫瘍は,円形に近い核を持つ上皮性細胞の増殖と小リンパ球が混在するType B2 thymomaの診断となった(図5)。腫瘍内に副甲状腺組織は確認されなかった。

図5.

病理組織検査

a)副甲状腺は主細胞が密に増殖する副甲状腺腺腫と診断された(×20,HE染色)。

b)同(×200,HE染色)

c)胸腺腫瘍はtype B2 thymomaと診断された(×200,HE染色)。

d)CD1a陽性のimmature T cellを認め,thymic carcinomaは否定された(×200,CD1a免疫染色)。

甲状腺腫瘍はadenomatous goiterとの診断であった。

術後経過:血清カルシウムとインタクトPTHは基準値内となり,術後12日目に退院した。術後24カ月を経過し,その間に左腎サンゴ状結石と胆囊結石に対し手術治療を加え,現在まで胸腺腫の再発はなく,副甲状腺機能亢進の再燃も認めていない。

考 察

99mTcMIBIシンチグラフィは,腫大副甲状腺の局在診断において標準的な検査法であり日本では2010年に保険収載された。MIBIの副甲状腺への集積性は主細胞よりもミトコンドリアの豊富な好酸性細胞の含有量に影響され,好酸性細胞の多い腺腫に多く取り込まれる。また,P-glycoprotein(以下pGR)の含有量も影響し,pGR含有量の少ない腺腫で集積が高くなる。MIBIの集積は甲状腺(2時間程度で消失)・唾液腺・鼻粘膜・口腔・心筋・肝臓・消化管(胆汁中に排泄)に生理的に認められる。重量が30~40mgの正常副甲状腺は描出されない[]。腫大した副甲状腺に集積しやすいが,多腺病変や,重量300mg以下では描出されにくいとされている[]。また,甲状腺濾胞腺腫や多結節性甲状腺腫における結節,甲状腺乳頭癌でも集積が残存し注意を要することがある[]。

副甲状腺機能亢進症における病変の術前局在診断に際して,99mTcMIBIシンチグラフィの感度は72~84.9%で,USの68.1~91.9%,CTの46~93.7%,MRIの64.8~90.4%と比べて遜色ない値であると報告されている[]。

自験例は,原発性副甲状腺機能亢進症に対し99mTcMIBIシンチグラフィを行ったところ,縦隔に強い集積を認めた。また頸部にも淡い集積を認めたが,腫大腺との確診には至らなかった。異所性副甲状腺腺腫を疑ったが,超音波検査では右下副甲状腺の腫大が疑われ,病変の局在診断に難渋した。超音波検査所見を重視し,先に切除した胸腺腫瘍の術中迅速診断を行い,胸腺腫との結果を受けて頸部の検索を行い右下副甲状腺腺腫を切除しえた。術中に副甲状腺ホルモンのモニタリングを行えればより確実であった可能性がある。胸腺腫の切除標本内には副甲状腺組織は確認されず,type B2 thymomaへのMIBIの偽陽性集積であったと判断された。

医学中央雑誌で1984年から2015年までの期間,「99mTcMIBIシンチグラフィ」「胸腺腫」をキーワードとして検索したところ,会議録を除き,胸腺腫への99mTcMIBI集積の報告例は見出せなかった。Pubmedで「99mTc-MIBI」「false positive」「thymoma」にて検索すると報告は8例のみで,稀な症例であると考えられた(表1)[13]。

表1.

胸腺腫への99mTcMIBI集積の報告例。病理組織はWHO分類に準じない報告のものも記載のままとした。

胸腺腫への集積が見られる機序については,胎生期に下副甲状腺原器は胸腺原器に隣接して第3咽頭囊から生じて(上副甲状腺は第4咽頭囊),ともに下降するので[1415],発生学上近い関係であるとされているが,明瞭な機序は解明されていない[]。

自験例は術前に頸部副甲状腺腺腫への99mTcMIBI集積は明らかではなかったが,Cunninghamらは胸腺腫摘出後に副甲状腺腺腫への集積が明らかになった症例を報告しており[13],本例も同様に偽陰性であった可能性もある。今回は,高カルシウム血症治療後に腎結石と胆囊結石の複数の手術を予定していた症例であり,術前超音波検査で右下副甲状腺腺腫も疑われていたために,術中迅速診断を行い胸腺と頸部に一期的に手術を行った。しかし今回のように,副甲状腺腺腫重量が225mgと小さい場合は二期的手術として胸腺摘出後に再度検査を行っても描出されなかった可能性はある。術前検査においては99mTcMIBIシンチグラフィ以外のモダリティ,USやMRIなどの画像検査の併施および十分な評価が重要であり,手術の際は術中副甲状腺ホルモンのモニタリングも検討すべきであると考えられた。また,症例が少なく,集積が見られる胸腺腫の組織型や頻度なども不明であり,今後より多くの症例の蓄積が望まれる。

おわりに

99mTcMIBIシンチグラフィで胸腺腫への集積が見られ,局在診断が困難であった原発性副甲状腺機能亢進症の症例を経験した。頻度は不明であるが胸腺腫では99mTcMIBIシンチグラフィで集積が見られる場合があると考えられる。胸腺腫を合併した副甲状腺機能亢進症の術前検査に当たっては,99mTcMIBIシンチグラフィの精度低下の可能性を念頭に置き,他の画像検査所見を含めた十分な検討が必要である。

本論文の要旨は第26回日本内分泌外科学会(2014年5月23日)にて示説した。

【文 献】
 

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