2016 Volume 33 Issue 2 Pages 66-68
今回の取扱い規約改訂はUICC第7版に準拠しつつ,これまでの本規約の歴史を踏まえて妥当と思われる変更を加えたものである。
臨床部分の主な変更点は以下のとおりである。T,Ex,そしてNについては術前・術中・術後の各段階で評価を行う。さらに,転移リンパ節が隣接臓器に浸潤する場合には術中のN分類(sN分類)にExを付し,浸潤先の臓器名を併記することとした。また,術中の評価には外科治療の根治性を記載するR分類を新たに設けた。
個々の症例の病状把握はもちろん,わが国における甲状腺腫瘍診療の質向上には,本規約が的確に運用されることが大切である。
2015年11月に日本甲状腺外科学会は甲状腺癌取扱い規約を改訂し,第7版を出版した[1]。本稿では臨床記録事項に関する変更点を解説する。臨床部分の章立てをどのように変えたかは,図1および図2を参照されたい。

第6版甲状腺癌取扱い規約の目次

第7版甲状腺癌取扱い規約の目次
① 所見を評価・記録する時期を手術前,手術時,手術後の3段階に分け,それぞれ「A.術前の所見」,「B.手術時の所見・外科治療の内容」,「C.術後組織所見」とした。
② TNM分類,Stage分類,Ex分類も各段階で行うものとした。
③ 特に手術時の所見として,転移リンパ節が周囲に浸潤する場合にはExを付し,さらに浸潤先の臓器名を併記してこれを明確にするようにした。例えばリンパ節転移が隣接臓器に浸潤する(Ex2に相当する)場合にはsN1a-Ex(左反回神経)と記載する。
⑵ リンパ節郭清範囲(D分類)を変更甲状腺癌に対しては予防的あるいは治療的にリンパ節郭清が行われる。わが国の甲状腺腫瘍診療ガイドライン(2010年版)ではT1N0M0の乳頭癌に対しては患側の甲状腺葉切除(+郭清)を推奨している。これに伴い,気管周囲リンパ節(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ)の予防的郭清(D1)も患側のみ行う場合があると思われ(D1uni),両側(D1bil)と区別する(図3)。

リンパ節郭清の分類(D分類)
手術で合併切除を行ったか否かを明記する。「合併切除あり」の場合にはその組織あるいは臓器名を記載する。
⑷ 腫瘍の遺残をR分類として記載外科治療の根治性を遺残なし,顕微鏡的遺残,肉眼的遺残の3段階で判定し,R分類として記載する。
⑸ 手術合併症の有無(具体的な8項目と,その他)を明記手術合併症は,具体的な8項目(後出血,反回神経麻痺,喉頭浮腫,副甲状腺機能低下,乳び漏,創感染,ホルネル徴候,肺血栓塞栓症)について,その有無を明記する。
⑹ 手術以外の治療項目近年の治療法の進歩を鑑み,手術以外の治療項目をTSH抑制療法,放射性ヨウ素内用療法(a.30mCi;b.100mCi),放射線外照射治療,分子標的薬治療,化学療法,その他に改訂した。これらの有無について記載する。なお,ここには甲状腺癌のあらゆる進展段階に利用可能な治療法をすべて含めているが,取扱い規約は再発治療例を対象としないことを確認しておきたい。
付記:UICCのTNM ClassificationとStage GroupingUICCによる規約では第6版から第7版への改訂にあたり,甲状腺癌のTNM ClassificationとStage Groupingに以下の変更があった。
① T1がT1aとT1bに分けられた。
② N1bのリンパ節領域にはLevels(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,or Ⅴ)とレベル名が明記され,さらにretropharyngealが追加された。
③ MXは廃止された。
④ 上記①により,45歳以上の乳頭癌あるいは濾胞癌症例のStage ⅠはT1a,T1b N0 M0とされた。
⑤ 髄様癌のStage Groupingは独立し,T3 N0 M0症例はStage Ⅱとされた。
UICCのTNM分類あるいはわが国の癌取扱い規約は個々の症例の進行状況を把握し,医療者が共有する手立てとして重要な役割を果たしてきた。さらに,わが国の甲状腺腫瘍診療ガイドラインでは乳頭癌の管理方針決定にTNM分類の活用が推奨され,取扱い規約は個別化医療の実践にも不可欠である。また,日本甲状腺外科学会はNational Clinical Database(NCD)の甲状腺疾患登録フォーム(Case Report Form)に第7版の規約項目に基づいた改訂を加えることにより,2007年から休止していた甲状腺悪性腫瘍登録に替わる仕組みとして甲状腺癌登録を兼ねたNCD登録を2016年から開始した。今後,癌登録のデータを利用して甲状腺癌診療の実態と診療ガイドラインの妥当性が明らかにしてゆく必要があるが,その前提となるのはデータの正確さである。本規約が的確に運用され,わが国における甲状腺腫瘍診療の質向上に資することを願っている。