2017 Volume 34 Issue 3 Pages 148-153
医療の技術革新が進む中で,甲状腺濾胞性腫瘍はいまだその診断が非常に難しい疾患の一つである。病理学的診断方法の特殊性もあり,確立した術前診断方法は得られていない。一方で,新しい技術の開発や様々な評価法の検討が,正診率の向上に寄与していることも事実である。画像診断はその中でも重きを置かれる分野であり,超音波検査を筆頭に多くの知見が得られているが,現状では,画像所見だけではなく,臨床経過,細胞診結果,サイログロブリン値などの臨床検査結果を踏まえて総合的に検討し,治療方針を判断する必要がある。今後より正確な診断が可能となるよう,さらなる知見の積み重ねが期待される。
甲状腺濾胞性腫瘍は,その病理学的診断の特殊性から手術を行って初めて良悪性の確定診断を得ることができる。術前診断の可能性を探り,超音波画像所見,臨床検査,臨床経過などから良悪性を推察しようと努力を続けられてきたが,いまだ確実な診断方法は得られていない。しかし,多くの知見が積み重ねられてきたことにより,濾胞性腫瘍の特徴について発見された点もある。B-modeだけではなく,カラードプラ,エラストグラフィといったモダリティの併用による診断精度の向上も期待されており,今後さらにその特徴が解明されることが望まれる。
本稿では,主に超音波を用いた濾胞性腫瘍の画像診断についてその有用性を解説するとともに,現状での限界について述べる。
甲状腺結節性病変の良悪性について超音波所見を用いて評価する場合,甲状腺癌の9割以上を占める乳頭癌の所見を主に確認することとなる。そのため,濾胞性腫瘍を精査する場合は超音波所見の見方を変える必要がある。濾胞性腫瘍と診断され手術がなされた結節には,良性疾患として腺腫様結節が含まれることが多く,濾胞癌と濾胞腺腫および腺腫様結節間での比較が論じられることが多かったが[1,2],近年,濾胞癌および濾胞腺腫のみを対象とした超音波所見出現率についての報告もなされている[3~7]。2010年にSilleryらが報告した中では,内部低エコー,Halo(境界部低エコー帯)の欠損,囊胞変性なし,腫瘍サイズが大きいといった点が,濾胞癌の場合有意にみられるとされている。一方で石灰化の有無,血流,内部の均質性などは有意な差がなかったとされている(表1)[3]。この報告の結果も踏まえ,Bモード,ドプラ法,エラストグラフィについて解説する。

濾胞性腫瘍における超音波所見出現率の比較(一部抜粋,編集)
Bモードのみでは濾胞性腫瘍の診断は困難といわれているが,腫瘍の大枠をとらえ,その後の精査の足掛かりとするためには重要であり,必須である。通常のスクリーニングにおいても確認する所見についてその特徴を述べる。
1)形状
多くは円形,類円形であり,形状の不整を見ることは約25%と少ないが,認めた場合は悪性であることを念頭に精査を進める必要がある(図1)。

形状
2)大きさ
一般的に4cmを超えた場合を,手術加療を勧める基準の一つとする場合が多いが,大きさのみでは良悪性間に有意な差はないという報告がほとんどである。大きさ以外の所見と合わせて総合的に判断する必要がある[1,8]。
3)内部エコー(図2)

内部エコー
内部エコーの不均質性については,一部を含めると濾胞癌の約85%でみられる。しかし,濾胞腺腫であっても大きなものでは不均質性がみられることもあり,今回の報告では濾胞腺腫においても約75%でみられているため,有意な差とはされていない。
内部低エコーは,濾胞癌の52~80%,濾胞腺腫の39~66%でみられ,有意な差がみられる報告が多い。これまでの報告でも,濾胞癌の70%以上は内部低エコーを呈するといわれており,強く悪性を示唆する所見である。
4)境界部低エコー帯(halo)(図3)

辺縁低エコー帯が存在するが不整であり,欠損する部位も認める濾胞癌症例。
境界部低エコー帯は,濾胞癌において不整あるいは欠損していることが多いといわれており,濾胞腺腫と比較し有意な差を認める報告が複数ある。腫瘍の被膜浸潤や,反応性被膜形成などを反映しているといわれるが,正確なところは不明である。辺縁の不整は濾胞癌の約30%でみられ,境界部低エコー帯の欠損は34~68%でみられるとされているが,これらの所見がすなわち悪性所見であるとはいえるわけではない。
5)石灰化
濾胞性腫瘍では,腫瘍内部に石灰化を認めることは10~30%前後と少ない。良悪性間においても有意な差はみられず,診断の補助とはならないと考えられる。
6)囊胞形成
濾胞癌においてはほとんどが充実性腫瘤であり,囊胞形成を伴うものは10~20%程度である。腫瘍の半分以上を囊胞成分が占める濾胞癌は極めてまれであり,腫瘍の増大に伴い囊胞形成が認められる濾胞腺腫とは有意な差があるとする報告が多い。
濾胞癌は微小浸潤型,広範浸潤型に分けられ,内部エコーの不均質性,境界部低エコーの不整・欠損といった所見は,その病勢を示唆し広範浸潤型濾胞癌においてよくみられるといわれている。しかし,広範浸潤型濾胞癌は濾胞癌の1割程度を占めるのみであり,頻度を勘案するとBモードのみで診断を行うことは難しいといえる。また,摘出標本における所見と,術前超音波所見を全く同じ部位で比較することも困難であり,超音波所見から腫瘍の状態を推察することが難しい要因となっている。
甲状腺乳頭癌においては,その特徴的なBモード所見によりドプラ法の有用性について述べられることが少ないが,濾胞性腫瘍については良悪性の鑑別について多くの報告がなされている。腫瘍の内部血流が多い場合,貫通血管を有する場合などは悪性を疑わせる所見といわれ,FFT解析を含めて論じられることが多い。
Miyakawaらは,PI・RIを用いた濾胞性腫瘍の鑑別を行い,PI>1.35,RI>0.78を呈する結節では濾胞癌の可能性が高いと報告しており[9],Fukunariらは,Bモード所見で悪性が疑われ,血流豊富でかつPI>1.0を呈する結節では濾胞癌を強く疑われると報告している(図4)[10]。また,Kobayashiらは,豊富な血流を伴う被膜外への突出部を有する結節は,濾胞癌を強く疑う所見であると報告している[11]。

悪性を疑わせるBモード画像,血流豊富,PI>1.0を呈した濾胞癌症例。
これらの報告からは,血流分布,Bモード所見,PI・RIなどを組み合わせることで,正診率が向上することが期待されるが,一方で,濾胞性腫瘍は全般的に内部血流が豊富にみられるため,ドプラ法の所見のみでは良悪性間で有意な差がないとの報告もある。また,超音波機器の発達により,より微細な血流を確認することができるようになったことから,FFT解析を行う血管の選定について検者間で異なる場合も多く,多施設で均質な検査を行うことが難しい現状がある。
超音波エラストグラフィは,strain elastography,ARFI imaging,Shear wave imagingなどが含まれる総称であるが,このうちstrain elastographyは最も早く実用化され,普及している。
Strain elastography(図5)は,用手圧迫による負荷時の組織のひずみを見るものであり,乳頭癌の場合は,周囲組織と比較しひずみの少ない硬い組織として描出される。一方で濾胞性腫瘍の場合は,周囲組織との比較でその特徴を見出すことは難しく,腫瘍内でのひずみの局在および程度を評価することで診断に結び付けようとする試みがなされている。

Strain elastography
福成は,腫瘍辺縁部のひずみが少なく,中心部が多いパターンが濾胞癌に特徴的な像であり,高い正診率を得ることができたと報告している[12]。
ARFI imagingは,用手圧迫によらず音響放射圧を用いて組織にゆがみを生じさせることで,そのひずみの程度を評価する。検者による結果の差異を減らし,再現性が高まることが期待されているが,得られる画像は定性的である。
Shear wave imagingは,発生させた剪断波の速度を測定することでYoung率を推定し硬度を表現する,組織の硬さを定量化できることが最大の特徴であり,複数のポイントで得られた値の平均ないし中央値を用いることでその正確性の向上が期待できるが[13],ROIの取り方,剪断波の組織内反射・屈曲に伴う測定値のばらつきを考慮しなくてはいけない点など,今後検討すべき点は多い。
1)CT,MRI
腫瘍の甲状腺外への広がりや,悪性腫瘍の遠隔転移を確認する際には有用であるが,濾胞性腫瘍の鑑別に用いられることは一般的にはない。
2)FDG-PET
甲状腺領域においては,遠隔転移,再発病変の確認を行うために施行されることが一般的である。濾胞性腫瘍の良悪性の鑑別に有用であり不要な手術を減らすことができたとの報告や[14],SUVmaxのカットオフ値を3.25とすることで81%の正診率を得られたとの報告もあるが[15],患者の負担などを考えるとすべての症例を対象とすることは難しい。
3)201TIシンチ
血流量に依存して細胞内分布を示し,甲状腺結節性病変の良悪性診断に用いられる。悪性腫瘍では後期相での排泄遅延がみられ濾胞性腫瘍の鑑別に有用とされるが,近年行っている施設は多くない。
濾胞性腫瘍の診断に関わる各種画像検査についてその特徴を述べた。甲状腺結節性病変の診断において超音波は最も優れたツールであり,超音波検査のみで強く悪性を疑うことができる症例もある(図6)。また,エラストグラフィなどの新しい技術も開発され正診率の向上が図られているが,濾胞性腫瘍の鑑別手法はいまだ確立したものはない。その他画像検査においても,濾胞性腫瘍の診断という意味ではその有用性が限られてくる。現状では,画像所見だけではなく,臨床経過,細胞診結果,サイログロブリン値などの臨床検査結果を踏まえて総合的に検討し,治療方針を判断する必要があるが,より精度の高い診断が可能となるよう,さらなる知見の積み重ねが望まれる。

画像から強く悪性を疑い手術を行った濾胞癌症例。18歳男性,腫瘍の最大径は22mmであり,サイログロブリン値は正常,細胞診で良性の診断であったが,形状不整,境界部低エコー帯の不整,貫通血管の存在(PI=7.70,RI=1.13),辺縁部にひずみの少ないエラストグラフィ像などから強く悪性を疑い手術を行った。病理組織診では微小浸潤型濾胞癌の診断であった。