Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Print ISSN : 2186-9545
A case of anaplastic thyroid cancer presented with eosinophilia
Toshihiko WakuHiroshi Sonobe
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2017 Volume 34 Issue 3 Pages 204-208

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抄録

症例は82歳男性。近医での左肘皮下腫瘤生検で肺腺癌あるいは甲状腺癌の転移が疑われ当院へ紹介。血液検査では白血球22,820/μlと好酸球34.4%のみ異常値であった。頸部超音波検査で4cmの甲状腺腫瘤を認め,穿刺細胞診の結果は甲状腺癌疑いであった。術前CT検査では,甲状腺右葉から峡部を主体として上縦隔に続く4cm大の腫瘤,左腋窩・胸部下部食道傍リンパ節腫大,皮下・筋内・左腎背側腫瘤を認めた。多臓器転移を伴う甲状腺癌との術前診断で手術を行い甲状腺未分化癌の診断を得た。術後1カ月でLenvatinibを開始し,術後3カ月で白血球数・好酸球数は正常化した。術後10カ月のCT検査では,皮下・筋内・左腎背側腫瘤は不明瞭化し,胸部下部食道傍リンパ節は縮小したが,左腋窩リンパ節や右肺下葉陰影の出現がみられた。同時に白血球数・好酸球数の上昇もみられたが,白血球数・好酸球数が病勢を反映するマーカーになる可能性があると考えられた。

はじめに

甲状腺未分化癌(anaplastic thyroid cancer:ATC)の予後は不良であり,診断からの生存期間中央値は約5カ月,1年生存率は30%以下と報告されている[]。本邦で設立されたATC研究コンソーシアムの多数例解析では,急性増悪症状,5cmを越える腫瘍径,遠隔転移あり,白血球10,000/μl以上,T4b,70歳以上が有意なATC予後不良因子とされている[]。特に好酸球増多を伴うATCは進行が早く,過去の報告では診断後2~3カ月以内に死亡する例が多いとされる[]。今回われわれは,好酸球増多を伴ったATCと診断されたが,Lenvatinib[]で長期生存が得られている1例を経験したので報告する。

症 例

症 例:82歳,男性。

主 訴:左肘関節部皮下腫瘤。

既往歴:40歳虫垂切除。アレルギー,真菌・寄生虫などの感染症,自己免疫疾患,炎症性腸疾患,肉芽腫性疾患などなし。

現病歴:左肘関節部の皮下に1cm大の可動性不良な腫瘤が出現したため近医を受診した。肘関節部皮下腫瘤の生検により肺腺癌あるいはATCの転移の疑いと診断された(免疫染色:CK7・TTF-1陽性,CK20・Tg陰性)。転移組織が皮下腫瘤全体を占めており,腫瘤内には明らかな好酸球浸潤は認めなかった。確定診断と治療目的で当院外科へ紹介となった。

当院受診時現症:身長166cm,体重54kg,血圧129/83mmHg,脈拍数79回/分,体温35.9℃。甲状腺右葉から峡部にかけて硬く可動制限のある腫瘤を触知した。また体幹部には硬く可動制限のある複数の皮下腫瘤を触知した。

当院受診時血液検査所見:貧血はなく,CRP(0.25mg/dl)・肝腎機能は正常で,WBC22,820/μl,好酸球34.4%のみ異常値であった(好中球51.3%)。TSH0.56mU/l,FT3 2.85pg/ml,FT4 0.89ng/dl,抗Tg抗体13IU/ml,抗TPO抗体6IU/ml,Tg13.2ng/ml,CEA1.5ng/ml,CYFRA0.98ng/ml,SCC0.7ng/ml,PR3-ANCA<1.0U/ml,MPO-ANCA<1.0U/mlで正常値であった。好酸球増加にPDGFRA PDGFRBあるいはFGFR1遺伝子変異を伴う骨髄系/リンパ系腫瘍は認めなかった。

当院受診時頸部超音波検査:甲状腺右葉から峡部に続く4cmの腫瘤を認めた。右葉腫瘤の穿刺細胞診では,核/細胞質比が高く,核形の不整やクロマチンを認める異型細胞が弧在性~小集塊状に多数出現していた。細胞は比較的大型で核偏在性を示して異型も強いことから低分化癌が考えられ,ATCや転移性の癌なども鑑別に挙げられる像であった。

当院受診時PET検査:甲状腺右葉から峡部を主体として上縦隔に続く腫瘤にFDGの高集積を認めた。左腋窩・左頸部・左鎖骨上・胸部下部食道傍リンパ節,左腸骨・第11胸椎,左大腿後部・胸腹部背部の皮膚,左頸部・両臀部の筋肉内,左腎背側に転移を疑うFDGの高集積を認めた(図1a)。

図 1 .

a:当院受診時PET検査;甲状腺右葉から峡部を主体として上縦隔に続く腫瘤にFDGの高集積を認める。左腋窩・左頸部・左鎖骨上・胸部下部食道傍リンパ節,左腸骨・第11胸椎,左大腿後部・胸腹部背部の皮膚,左頸部・両臀部の筋肉内,左腎背側に転移を疑うFDGの高集積を認める。

b:当院受診時頸部~骨盤腔CT検査:甲状腺右葉から峡部を主体として,右総頸動脈沿って上縦隔に続く4cmの腫瘤を認める。短径1.7cmの胸部下部食道傍リンパ節腫大(矢印1),長径2.3cmの右肋弓下皮下腫瘤(矢印2),長径1.3cmの左腎背側腫瘤(矢印3)がみられる。

当院受診時頸部~骨盤腔CT検査:甲状腺右葉から峡部を主体として,右総頸動脈沿って上縦隔に続く4cmの腫瘤を認めた。左腋窩・左頸部・胸部下部食道傍リンパ節腫大,皮下・筋内・左腎背側に転移がみられた(図1b)。

画像診断から肺に病変がなく,甲状腺病変が大きいこと,皮下腫瘤の病理組織結果と甲状腺細胞診結果から,多臓器に転移をきたした甲状腺低分化癌あるいはATCとの術前診断に至った。頸部腫瘍の可能な限りの摘出と確定診断のため手術を施行した。

手術所見:甲状腺右葉から峡部を主体とする腫瘤はⅡと右Ⅲのリンパ節転移と一塊になって胸骨甲状筋に浸潤し,さらに右総頸動脈を約2cmにわたって1/2周囲むように浸潤しながらⅪの転移リンパ節まで連続していた。反回神経・気管・食道への浸潤を回避する局所コントロール優先の手術として,胸骨甲状筋の合併切除,右総頸動脈に沿って上縦隔に連続するリンパ節転移の可及的な切除と甲状腺全摘術を行った。

病理組織学的所見:甲状腺右葉下極よりにある肉眼病変に一致して,かなりの壊死を伴って通常の乳頭癌から低分化癌,ATCまでの像がみられ,乳頭癌の脱分化を反映した像と考えられた。また肘関節部皮下腫瘤と同じく,甲状腺病変部には明らかな好酸球浸潤は認めなかった(図2)。ATC,T4b(Ex2右総頸動脈),N1b(左腋窩・左頸部・左鎖骨上・胸部下部食道傍リンパ節),M1(左腸骨・第11胸椎,左大腿後部・胸腹部背部・左肘の皮膚,左頸部・両臀部筋内,左腎背側),StageⅣCと最終診断し,術後第5病日に退院となった。

図 2 .

切除標本・病理組織学的所見(HE染色)

甲状腺右葉下極よりにある肉眼病変(a)に一致して,かなりの壊死を伴って通常の乳頭癌(b)から低分化癌,未分化癌(c)までの像がみられる。明らかな好酸球浸潤は認めない。

高齢者で創傷治癒遅延を考慮し,術後1カ月で再入院してLenvatinib[]を開始したが,術前CT上での短径1.7cmの胸部下部食道傍リンパ節,長径2.3cmの右肋弓下皮下腫瘤,長径1.3cmの左腎背側腫瘤をLenvatinib[]の効果判定の標的病変とした。術後3カ月で白血球数・好酸球数は正常化したが,術後4カ月までに,Grade3高血圧症・手足症候群・口内炎,Grade2蛋白尿などの有害事象があり,Lenvatinib[]を8mgまで減量した。術後10カ月のPET検査では,甲状腺床,第11胸椎,胸部下部食道傍・左頸部・左鎖骨上リンパ節のFDGの集積は低下し,筋内転移,皮膚転移,左腎背側腫瘤の集積はなかった。左腸骨での集積亢進は残存し,左腋窩リンパ節,左副腎,右下葉陰影の集積亢進を認めた(図3a)。また術後10カ月のCT検査では,右肋弓下などの皮下腫瘤や左腎背側腫瘤は不明瞭化し,胸部下部食道傍リンパ節は短径1.3cmまで縮小して標的病変のみでは部分奏効であったが(図3b),左腋窩リンパ節や右肺下葉陰影の出現も認めた。同時に白血球数・好酸球数の上昇傾向もみられた。術後17カ月の現在,蛋白尿以外有害事象もなく経過しているが,白血球数・好酸球数の上昇が続いている(図4)。

図 3 .

a:術後10カ月PET検査;甲状腺床,第11胸椎,胸部下部食道傍・左頸部・左鎖骨上リンパ節のFDGの集積は低下し,筋内転移,皮膚転移,左腎背側腫瘤の集積はない。左腸骨での集積亢進は残存し,左腋窩リンパ節,左副腎,右下葉陰影の集積亢進を認める。

b:術後10カ月頸部~骨盤腔CT検査;右肋弓下皮下腫瘤(楕円1)や左腎背側腫瘤(楕円2)は不明瞭化し,胸部下部食道傍リンパ節は短径1.3cmまで縮小している(矢印)。

図 4 .

白血球・好酸球の推移

考 察

好酸球増多を伴ったATCの論文報告は,1996年~2015年の期間で医中誌・PubMedによって検索した結果,症例報告7編7症例[,10]であった。年齢は58~95歳で男性2人,女性5人であった。白血球数は14,000~116,860/μlであり,すべての症例おいて全白血球数における好中球数の割合は54%~71%の正常範囲であったが,好酸球数の割合は8%~32%と高値であった。加療開始後11~87日の期間で死亡に至っていた(生存期間中央値40日)が,きわめて進行が速い疾患であると考えられた。

好酸球は骨髄で幹細胞より分化・増殖し,血中に放出された後,主に粘膜組織に分布する。そして全好酸球の99%は組織に存在し,各々の疾患では,最終的に標的臓器に集積し機能を発揮すると考えられている[11]。末梢血液中の好酸球増多の定義は,全白血球数における好酸球数の割合よりも,好酸球の絶対数のほうが重要と考えられている。末梢血液中好酸球が350/μl以上であれば好酸球増多と定義され,その程度は,軽度が350~1,500/μl,中等度が1,500~5,000/μl,高度が5,000/μl以上と考えられている[12]。著明な好酸球増多が長期持続すると,血栓症,臓器壊死,腹水,糸球体腎炎,ネフローゼ症候群などの臓器障害をきたすことも少なくないが,予後を規定するうえで重要なのが心筋症,心内膜炎などの心臓病変である[11]。一般に好酸球増多症には原発性と二次性があり,二次性がその大部分を占める。原発性は慢性好酸球性白血病や好酸球増加にPDGFRA PDGFRBあるいはFGFR1遺伝子変異を伴う骨髄系/リンパ系腫瘍であり,二次性において世界的な原因疾患で最多は寄生虫感染であり,先進国ではアレルギー性疾患が最も多い原因である[13]。他には,自己免疫性疾患(Wegener肉芽腫症,関節リウマチ,SLE,サルコイドーシス,天疱瘡など),血液腫瘍(Hodgkinリンパ腫など),固形腫瘍(肺癌,大腸癌,乳癌,卵巣癌,腎癌)に認められることがある[14]。

一般的なATCの予後に比べ,好酸球増多を伴ったATCが予後不良である理由としては,著明な好酸球増多による臓器障害のためと考えられた。

好酸球増多には,好中球・好酸球・単球/マクロファージを分化・増殖させるGM-CSFや,好酸球を選択的に産生・活性化させるIL-5などの因子産生の関与が報告されている[15]。しかしin vitroではIL-5,IL-3,GM-CSFや,eotaxinも,単独では好酸球を有効に活性化できないこと[16]や,IL-5・IL-3・GM-CSFを同時に分離しても好酸球を完全に消失させることができなかったこと[17]が示されてきた。実際,IL-5受容体は単独では低親和性であるIL-5受容体αと,IL-3受容体およびGM-CSF受容体との共通β鎖(βc)から構成されており,これら2つの受容体の複合体は高親和性で共通β鎖(βc)はシグナル伝達に必須とされている[18]。またGM-CSF受容体は,低親和性のGM-CSF受容体αと,IL-3およびIL-5と共通の受容体である共通β鎖(βc)からなる八量体を形成する[19]。好酸球増多症を伴ったATC論文報告7例中,IL-5・IL-3・GM-CSF血清値記載のある4例[,10]全例において,GM-CSFの血中濃度の上昇にIL-5・IL-3の血中濃度の上昇が伴わず正常値であった。以上のようにGM-CSFは,ATC患者での好酸球増多をきたす唯一の責任因子ではないと考えられており[],他の因子の検索が必要とされている。

ATCに対する治療はこれまで手術,放射線治療,化学療法の集学的治療が行われてきたが,長期生存を得ることは困難であった。一方でATCに対し優れた効果を示したLenvatinib[]が2015年から本邦で使用可能になり,これまでとは異なる治療への道が期待されている。予後不良とされる自験例に対してLenvatinib[]を投与することにより,原発巣・転移巣の縮小や転移巣の消失,それと同時に白血球数・好酸球数の正常化を得ることができた。自験例での白血球数・好酸球数の推移は,白血球数・好酸球数が病勢を反映するマーカーになる可能性があり,治療効果判定や予後判定への活用が期待できると考えられた。

おわりに

好酸球増多を伴ったATCへLenvatinib[]を使用した際の白血球数・好酸球数の推移から,白血球数・好酸球数が病勢を反映するマーカーになる可能性があると考えられた。

【文 献】
 

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