Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Novel therapeutic algorism for metastatic brain tumors
Yoshihiro MuragakiTakashi MaruaymaMasayuki NittaNoriko TamuraManabu TamuraMotohiro HayashiTakakazu Kawamata
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2017 Volume 34 Issue 4 Pages 214-217

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抄録

転移性脳腫瘍に関するランダム化試験の結果が発表され,転移巣が4個以下で最大径が3cm以上であれば摘出術を行い,残存病変があれば定位放射線治療を追加する方法が標準治療となった。これまで欧米標準治療が単発は摘出術+全脳照射であったので,単独治療で局所コントールを目指す摘出術の役割はより増加した。手術目標が局所コントロールであり,周辺浮腫脳を薄皮つけ腫瘍に触れずに一塊摘出するのが原則である。また定位放射線治療の前向き試験の結果で,5~10個の転移巣患者へも治療適応が広がった。甲状腺癌からの転移性脳腫瘍は頻度が低く,転移病巣には有効な化学療法や内用療法はなく脳転移は摘出術や照射などで対応すべきとされる。まずはガイドラインを踏まえ,新エビデンスにより再構築された治療アルゴリズムを理解した上で,患者病態や各癌に応じた治療戦略を構築すべきと考える。

はじめに

日本脳腫瘍統計(2004~2008)によると3,200症例の転移性脳腫瘍の原発巣は,肺が1,476例(46.1%)と最も多く,次いで乳腺453例(14.5%),結腸193例(6.0%)と続き,甲状腺によるものは47例(1.5%)である。原発巣としての頻度は第12位であり,比較的稀ながん腫といえる。したがって,本稿では原発は甲状腺癌に限らず,転移性脳腫瘍全般に関する治療法と近年本邦より報告された新たなエビデンスを紹介し,最新の治療アルゴリズムを紹介する。

転移性脳腫瘍の現状

上記3,200例の治療内容を分類すると,手術+放射線治療が最も多く31%,放射線治療単独が26%,次いで手術単独が16%であった。様々な治療の組み合わせはあるが,単独あるいは組み合わせの一部として放射線を施行した症例が2,386例(75%),手術が2,017例(63%),化学療法が768例(24%)であった。脳神経外科医が登録しているため手術の症例割合が増加するが,そうであっても転移性脳腫瘍の治療は放射線と手術が治療の主体であると考えられる。

放射線治療の内訳をみると,全脳照射は935例(39%),定位放射線治療が1,398例であり,照射単独が786例(33%),定位放射線治療単独が1,240例(52%)と10年前の時点で,当時標準治療であった全脳照射と比較して定位放射線治療を施行した患者の割合が多く,実臨床real worldとの乖離を示した。手術治療の内訳は,肉眼的全摘出が1,154例(57%)と最も多く,次いで95%以上摘出の292例(14%)といわゆる亜全摘以上が7割をこえ,手術の場合全摘近い摘出が行われていることがわかる。

結果,国内の転移性脳腫瘍全体の予後は全生存期間(OS)中央値18カ月,5年生存率24%と報告されている[]。甲状腺癌原発はOS中央値51カ月,5年生存率40%であり,転移性脳腫瘍の中では予後良好であるといえる。米国の3,490例を解析したSperdutoらの報告[]では転移性脳腫瘍全体でOSが7カ月と短いが,1985~2007と年代が古いことが影響していると推察される。彼らは同時に癌腫毎で予後因子を抽出し,因子毎にスコア化,各スコアを加算した総合スコアGraded Prognostic Assessment(GPA)が予後と関連することを示した。例えば小細胞肺癌と非小細胞肺癌であれば,年齢とKarnofsky performance status(KPS)と頭蓋外への転移と脳転移の個数と4つの予後因子から,腎癌であればKPSと脳転移の個数と2つの予後因子から予後を推定する方法を考案した。例えば腎癌で症状がなく(スコア2点)で脳転移が1個以下(スコア2点)であればGPAスコアが4.0点となり,統計上OS14.8カ月が予測される。これにより患者毎のより正確な予後予測が可能となった。

転移性脳腫瘍の治療概要

日本脳腫瘍学会の編集による「脳腫瘍診療ガイドライン」が2016年に発表され,転移性脳腫瘍に対する治療方針が示されている(表1)[]。その本文には,推奨グレードAとして症候性または近い将来に脳局所治療を必要とする転移性脳腫瘍では,原則として放射線治療または腫瘍摘出術が優先される,とある。脳が機能局在をもつため小病変であっても場所と周辺浮腫によって麻痺や失語症といったQOLを極端に低下させる場合があること,腫瘍が大きいと頭蓋内圧亢進と合併する脳ヘルニアで生命の危機となる場合があること,から何らかの治療が必要となり,その主体が放射線治療と手術である。

表1.

転移性脳腫瘍の治療ガイドライン2016年版(細字)とアップデート案(太字)

全脳照射対定位放射線治療のランダム化による3臨床試験の結果,定位放射線治療の生存期間に関する効果の非劣性と認知機能の温存に関する優越性が示され,全脳照射と同じ推奨レベルになると考えられる。また,多数個(5~10個)症例の少数個(2~4個)症例に対する定位放射線治療後の生存期間に関する非劣性が示され,治療オプションとなりうることが示された。(脳腫瘍診療ガイドライン,転移性脳腫瘍を一部改変)

主に後者の病態に手術が検討されるが,その適応を図1aに示す。転移巣が長径3cm以上で,手術アプローチが可能であり,腫瘍摘出後に期待される余命が6カ月以上であることが原則である(図1b)。また,小脳などの後頭蓋窩腫瘍が代表的であるが,緊急救命を目的とする場合も適応となる(図1c)。古くは単発病変のみであったが,現在は4病変以下で1病変が3cm以上であれば適応を検討する。3cm以上の病変を摘出し,他の病変は定位放射線治療(図1d)あるいは全脳照射を行うのである。また,腫瘍による極端なQOL低下を来していると考えられる場合,腫瘍摘出による機能予後の改善を期待して手術を施行することもある。手術の原則は,転移性脳腫瘍に直接触れることなく,周辺の浮腫組織を腫瘍側に皮一枚残しながら一塊にして摘出することである。

図1.

a:転移性脳腫瘍の手術適応 b:腎盂癌の脳転移 単発で大きく浮腫も伴い失語症と麻痺出現,摘出術後症状改善 c:甲状腺乳頭癌の脳転移 放射線化学療法後の増大で失調症状増悪したため摘出術施行。術後症状改善 d:乳癌の多発脳転移 右前頭葉病変(4.5cm)を摘出し,右側頭葉病変(2.5cm)は定位放射線治療を施行した。

手術以外の治療選択は,転移個数によって異なるがエビデンスから基本は全脳照射であった(表1)。単発または少数個(2~4個)の場合,まずは全脳照射を考慮する。全身状態が良好で全摘出が可能な腫瘍であれば手術に全脳照射を追加し,3cm以下の腫瘍に対しては定位放射線照射も追加する。一方,転移個数が多数個(5個以上)の場合には全脳照射が強く推奨される。その上で,定位放射線照射,薬剤感受性があるときの化学療法,機能予後や生命予後の改善が期待できる場合の手術摘出,を追加することが,オプションとなる(表1)。

転移性脳腫瘍に関する新規エビデンス

近年では,本邦より新たにエビデンスレベルの高い研究結果が報告されている。Kayamaらが施行した脳転移症例(転移個数4個以下,腫瘍最大径3cm以上)を対象に,腫瘍摘出後の全脳照射と定位放射線照射を比較したJCOG0504試験の結果が発表された[]。主要評価項目のOSは全脳照射群(N=137)に対する定位放射線照射群(N=134)の非劣性が示された(15.6カ月vs15.6カ月,HR=1.05,p=0.0266)。したがって,単発の転移性脳腫瘍の摘出術後は,待機し新規病変出現すれば定位放射線治療,2~4個の場合は残りの1~3個に対して定位放射線照射が標準治療の一つとなった(表1,図2)。更にBrownらが摘出後の残存病変が3個以下の症例を対象に定位放射線照射(N=98)と全脳照射(N=96)をランダム化して比較した結果,同様にOSはそれぞれ12.2カ月と11.6カ月と両群で差を認めず(p=0.70),更に認知機能の低下がない期間がそれぞれ3.7カ月と3.0カ月と定位放射線照射群が有意に長かった(p<0.0001)[]。これらの結果より,摘出後の標準治療は定位放射線治療または全脳照射となり,認知機能を重視するならば定位放射線治療の選択が推奨される。ただし,PFSは全脳照射が長く,再発までの期間を出来る限り長くとる治療戦略の場合は全脳照射の選択が推奨される(表1,図2)。

図2.

転移性脳腫瘍治療の最新アルゴリズム

肺がんに対するアルゴリズムにこれまでのエビデンスからの推奨レベルを加え,最新のエビデンスによる変更案(灰色箇所)を記載。

肺癌以外の癌腫で化学療法が効果が明らかでなくベバシズマブが適応でない場合は,1cm以下も1~3cmと同様のアルゴリズムとなる。

(大江 裕一郎ら編:ガイドラインには載っていない 肺がん Practical Treatment, 2014より改変)

更に,手術を施行しない少数個(1~3個)の転移性脳腫瘍に対して定位放射線治療(N=111)と定位放射線治療+全脳照射(N=102)を比較する試験が行われた[]。同様に,OSは10.4カ月と7.4カ月と有意差がなかったが(p=0.92),定位放射線治療単独群が3カ月での認知機能障害が有意に少なく(p<0.001),QOLが有意に高かった(p=0.01)。これらより,少数個の転移性脳腫瘍に対して,定位放射線治療が全脳照射と同等の治療効果で“less toxic”な治療手段と考えられる。

また,転移個数が多数の場合でも,定位放射線照射の有用性が報告されている。Yamamotoらが施行した国内の脳転移症例を対象とした前向き観察研究(JLGK0901試験)の結果が報告された[]。定位放射線照射を施行予定の患者を,転移個数別に単発(N=455),2~4個(N=531),5~10個(N=208)の3群に分け,予後を検討した。OSは単独群が1.9カ月,2~4個群が10.9カ月,5~10 個群が10.8カ月であった。単独群が多発群(2~4個あるいは5~10個)と比較して予後良好であったが,2~4個群と比較して5~10個群の非劣性が示された(10.9カ月vs10.8カ月,HR=0.97,p<0.0001)。本試験は全脳照射と直接比較したわけではないが,全脳照射のみと考えられていた多数個の転移にも治療オプションとなることが間接的に示唆された[](表1,図2)。

今後上記の試験結果を反映したアップデートした治療アルゴリズムを示す(図2)。4個未満であれば,その中に3cm以上病変あれば手術を検討し3cm未満の病変は定位放射線治療か全脳照射を行うが,認知機能を重視すれば定位放射線治療が推奨される。5個以上であれば全脳照射が基本であるが,10個以下なら定位放射線治療もオプションとなる。

近年,特定の遺伝子異常をもつ癌に対して有効な分子標的薬が開発されている。これらの癌で多発性脳転移が発見された場合,照射に加えて分子標的治療薬(TKI)を併用することでの効果が期待される。難治性甲状腺癌に対してもソラフェニブ,レンバチニブ,バンデタニブなどが承認されている。脳転移に対して効果はないとされているが,画像上の効果を示した症例報告があり,副作用リスクを受容できれば治療オプションとなる。

転移性脳腫瘍の治療方針を決定する際には,多因子を考慮する必要があり,手術適応例では腫瘍摘出を先行しつつ,ガイドラインを患者個々に実践的に適応させる必要がある。

おわりに

転移性脳腫瘍の手術適応は,全身状態や合併症そして原発巣や頭蓋内圧亢進の状態など,様々な因子を総合的に勘案しての判断となる。そのため脳神経外科医や麻酔科医と十分に連携をとり,判断困難な場合はcancer boardでの検討にあげ,患者や家族とともにより適切な意思決定を目指すべきと考える。放射線治療に関しては,近年エビデンスレベルの高い臨床試験が相次いで発表され,脳内コントロールに優れる全脳照射に対し認知機能温存に優れる定位放射線治療が標準治療として考えられるようになった。したがって,転移性脳腫瘍の治療方針決定には,ガイドラインを中心としアップデートしたエビデンスを根拠に,個別患者への実践的な適応が必要である。

【文 献】
 

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