Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Print ISSN : 2186-9545
Radiation therapy for metastases from thyroid cancer
Katsuyuki Karasawa
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2017 Volume 34 Issue 4 Pages 223-226

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抄録

分化型甲状腺癌はもともと甲状腺刺激ホルモンを低値に抑えることにより,進行を抑制させることができるため,一般的に予後が良好である。さらに放射性ヨウ素(I-131)を使用して,腫瘍細胞に取り込ませることによっても,寛解状態に持ち込むことも可能であるため,転移をきたしていても予後が他疾患に比べて長い。特に骨転移の治療に関しては,これまで用いられている30Gy/10分割に代表される緩和的放射線治療の線量では治療後の経過観察中に再発をきたしてくることが多い。そこで,当院では特に脊椎転移に対しては,椎弓切除時に術中照射を加えて,局所制御率を向上させることや,強度変調放射線治療の技術を使用して脊髄を巧妙に避けつつ,脊椎転移部分に一回高線量の照射を行う定位放射線治療をいち早く取り入れ,局所制御の向上が得られている。一方脊髄への線量は線量制約を満たしつつ治療が行われているため,重篤な有害事象はほとんど認められていない。

はじめに

甲状腺癌の特徴は,甲状腺が内分泌臓器であり,癌細胞の発育も甲状腺刺激ホルモン(TSH)に依存しているため,それを逆手に取ってTSHを抑制することによって,癌の成長を抑えることができること,そして分化型の甲状腺癌の中には,甲状腺細胞と一緒に甲状腺ホルモンを産生しようとして,ヨウ素を能動的に取り込む性質を持っていること,という特徴があり,そのヨウ素に放射性同位元素を用いることにより,内部からの放射線治療が行えるのである(内用療法)。その他に転移に対する外部照射も行われており,以上により予後が良好な甲状腺癌が不幸にして,転移で発見されたり,経過中新たに転移が出現したりした場合の放射線治療について本稿では概説する。

1)転移のある甲状腺癌に対するI-131内用療法

周知の通り,分化型甲状腺癌にはヨウ素をactiveに取り込む性質を持ったものがあり,そのヨウ素に放射性同位元素であるI-131(半減期8.02日,β崩壊およびγ崩壊し,Xe-131へと変化する)を投与すれば,腫瘍細胞がその放射性ヨウ素をactiveに取り込み,非常に効率的な放射線治療が行える。数十年前から治療が行われていて,欧米では転移に対する治療だけでなく,広く再発の高リスク症例の術後補助療法として行われている。甲状腺癌はさらにホルモン依存性があり,甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって刺激を受けるため,外因性のT4を投与してTSHを抑制してやることによって,進行を遅らせることができ,それらを組み合わせることにより,非常に予後がよい癌であるということがいえる。表1に日本における甲状腺癌の診療ガイドラインに掲載されている,放射性ヨウ素治療の推奨について纏める[]。

表1.

甲状腺癌に対するI-131内用療法の適応

当院では約20年前より本格的にI-131内用療法を行ってきているが,当院の成績では,I-131の集積が認められた場合には,肺転移のみでは10年生存率が約80%に達し,骨転移があっても5年生存率は50%に達する。表2に主な予後因子を列挙するが[]これらの成績は外部照射も併用しての成績であるが,その根源にTSH抑制療法の効果が存在していることも忘れてはならない。

表 2 .

当院でI-131治療を施行した骨転移を有する甲状腺癌に関わる予後因子

2)骨転移に対する外部放射線治療

骨転移に対する原因療法の一つとして外部放射線治療は大きな役割を果たしている。一般的には緩和的放射線治療としての役割が大きいが,これまでの記述から甲状腺癌の予後は他の癌種よりも際立って良好であり,しかも同じ予後が良好な前立腺癌や乳癌の転移よりも放射線感受性が高くないため,長い間制御をしておくのには工夫がいる。それらについて解説して行く。

ⅰ)骨転移の緩和的外部照射のエビデンス

まず,一般的な緩和的放射線治療の骨転移に対する標準的とされる治療方法は次の通りである。2010年に米国放射線腫瘍学会による骨転移の緩和的放射線治療のガイドラインが発表された[]。それによると,メタアナリシスの結果8Gy/1回,20Gy/5回,30Gy/10回などの分割法がある中で,疼痛緩和に関しては単回法も分割法も効果が変わらなかった。単回法は疼痛の再発の割合が軽度高かったが,何回も治療する手間が省け,患者の状態によって判断されるべきものとされた。また10回を超えるような分割法はとるべき根拠がないことが明記された。一方脊髄圧迫症が懸念される症例に関しては30Gy/10分割の照射法が望ましいという記載があり,後述する定位放射線治療に関しては2010年の段階では,まだ臨床試験のレベルで行われるべき,という記載であった。

その記載はもっともであるが,甲状腺癌の骨転移は予後が5年は期待されるので,症状緩和だけでなく,局所制御が必要であると考えられ,当院では次に述べるような治療法を採用して,局所制御の向上とQOLの改善を目指している。

ⅱ)転移性背椎腫瘍の術中照射

骨転移のうち脊椎転移は疼痛,病的骨折の他に脊髄圧迫症の症状をきたす。甲状腺癌の場合には予後が良好であるため,脊髄の麻痺が完成してしまってからも生命予後は長いことが予想され,麻痺が完成する以前であれば,減圧手術を行うことが望ましい。但し,術後照射は一般に30Gy/10分割程度の照射であり,脊椎転移を長期に局所制御するには線量が不足する。われわれは減圧術の際に手術中に術中照射を行って局所への抗腫瘍効果を高める治療を行っている。

具体的には,伏臥位で羅患椎体に相当する部位に皮切を置き,術野を展開して当該の椎体の椎弓切除を行う。椎体にある転移病変を可及的に掻爬した上で,脊髄を鉛で遮蔽し,その上から電子線を照射する。脊髄の奥にある椎体には鉛プレートの周囲から回り込んできた電子線が照射され,最大線量の40%程度が照射される(図1)。通常われわれは最大線量20Gyを投与しているので,椎体には遮蔽を受けている部分にも約8Gyの照射が行われている。そのあと金属で固定術を行って閉創する。そして通常抜糸が済んで治療後2週間後より術後照射として30Gy/10分割,もしくは35Gy/14分割の術後照射を施行する。

図1.

脊椎転移の術中照射のシェーマ

図左のように鉛ブロックを置かないで照射をすると,脊髄も同じ高線量が照射されてしまう。そこで図中のように鉛ブロックを置くことによって脊髄への線量を有意に低下させることができ,なおかつ脊椎部分で側方より回り込む電子線の線量が期待でき,図中のように椎体の形によく似た線量分布を形成できる。

治療成績を示す[]が,局所再発率は8%程度で,長期の局所制御が得られている。また歩行不能であった症例もより多くを歩行可能にさせている。ただ単に除圧術+術後照射だけであると,抗腫瘍効果が劣るので,手術時に一回大線量照射を加えておくことが,特に予後の長い甲状腺癌には意義のあることと考えられる(表3)。有害事象としては,放射線脊髄症が挙げられるが,長期経過観察によってもその頻度は5%以下である。

表 3 .

脊髄圧迫症の治療成績

ⅲ)転移性背椎腫瘍の定位放射線治療

甲状腺癌の予後は全身的な内分泌療法の効果(TSH抑制療法)で骨転移に対しても5年程度の予後は見ておかなければならない。

通常の緩和的放射線治療では線量が足りず,半年から1年で再発してしまう場合が少なくない。定位放射線治療とは,緩和的放射線治療と同じような線量で,その分割回数を減らし,1回線量を増加させる方法である。最近その有効性が知られ出してきたが,これまでの方法では,周囲の正常臓器に1回大線量が照射されると,正常臓器の有害事象が発生することが懸念されていたため,近年になって放射線治療の技術が進歩して,腫瘍の部分のみに照射ができて,周囲の正常臓器への照射を回避できるようになった。脊椎転移の場合には脊髄が最も近接する臓器であり,通常脊椎の中である脊柱管の内部を脊髄が通っているため脊髄もしくは脊柱管をくりぬいて照射ができることが必要で,そのための技術であるIMRTを定位放射線治療に組み合わすことにより,可能になったのである。典型的な線量分布を(図2)に示す。この技術により,一回大線量照射が可能になり,一回大線量照射のメリットである腫瘍内部および周囲の微小血管に対してダメージを与えることができるようになり,通常の分割照射による線量よりも多くのダメージが与えられ,抗腫瘍効果も高められるのである。脊椎転移の定位放射線治療はすでに欧米では数多くの症例に行われて,治療成績も発表されている[,]が,その特徴は優れた局所制御率にあり,特に長期の予後が期待される症例には好ましい効果が得られている。この技術はわずかな治療位置のずれ,投与線量のずれも許容しないので,手慣れた施設と高精度放射線治療装置の装備されている施設で行われることが望ましい。よってこの技術の安全で有効な普及のためには,その適応を厳しくする必要がある。現在当施設においては,他に活動性の病変がないいわゆるoligometastasisの場合,既往に放射線治療が行われ,不幸にして再発をきたしている場合に限定している。

図 2 .

脊椎転移の定位照射の線量分布

脊椎転移のSBRT(Steretactic body radiation therapy)はIMRTの技術も,そしてIGRT(Image-guided radiation therapy〔画像誘導放射線治療〕)の技術も要する最も高度な放射線治療技術である。

われわれの治療成績も1年で約8割の局所制御率であり[],諸家の報告と同じ程度である。有害事象に関してはすでに100症例近く治療を行っているが,脊髄症は既往に70Gyの照射を受けている1例のみである。また食道,大血管,腸管等への有害事象も認められていない。

ⅳ)脊椎転移以外の骨転移の定位放射線治療

われわれは脊椎転移への定位放射線治療の治療効果が良好であるため,その適応を脊椎転移以外への骨転移にも応用している[10]。その適応はoligometastasisの場合と再照射の場合である。

終わりに

転移のある甲状腺癌に対する放射線治療の役割について解説した。甲状腺癌は内分泌療法が効く予後の良好な癌で,しかも放射性ヨウ素を取り込む性質のある癌として,さらに良好な予後が期待される。従って,特に骨転移その中でも脊椎転移に関しては,緩和的な線量の繰り返しによっても起こる局所再発によって脊髄麻痺によるQOL低下などが懸念されるため,当院では術中照射法や定位放射線治療など長期予後を期待した治療方針を立てるようにしている。また一方で上述のTSH抑制療法やI-131内用療法にしても制御される症例も数多く,さらに最近別章にあるように,効果のある分子標的薬も開発されてきたことから,より集学的アプローチが必要となっていくであろう。

【文 献】
 

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