2018 Volume 35 Issue 3 Pages 167-172
機能性甲状腺結節に対して,従来,我が国では手術が行われてきた。欧米では131I内用療法が広く行われており,近年は国内外でインターベンションが甲状腺にも応用されている。手術は最も確実で速やかな治療効果を得ることができる。131I内用療法は効果発現が緩徐であり結節の縮小も限定的であるが,十分量の131Iを投与することにより手術と遜色ない甲状腺機能亢進症の改善が可能である。インターベンションでは,経皮的エタノール注入療法が最も普及しているが,さらに有効性の高い熱焼灼療法(ラジオ波焼灼術,レーザー焼灼術,高密度焦点式超音波治療法など)が開発されている。これらの治療法は,手術に比して低侵襲で放射線被曝を伴わないが,熟練した高度の技術を要することもあり広く普及していない。各治療法には長所と短所があり,それぞれの症例,および結節の状態に応じて治療法を的確に選択する必要がある。
機能性甲状腺結節(autonomously functioning thyroid nodule:AFTN)とは,甲状腺結節が自律的に甲状腺ホルモンを分泌するものである。AFTNは,我が国では比較的少なく,甲状腺中毒症の0.15~0.3%[1],結節性甲状腺腫の0.6~2.9%[2]と報告されている。甲状腺シンチグラフィーでAFTNが認められた患者の約半数は,血清TSHが基準値に保たれているが[3],60歳以上の高齢者,病悩期間が長い例,ならびに大きな結節で甲状腺中毒症をきたすことが多い[2]。AFTNにより甲状腺中毒症を生じている場合,AFTNが単結節性か多結節性かで,中毒性単発性甲状腺結節(toxic solitary thyroid nodule:TSTN)と中毒性多結節性甲状腺腫(toxic multinodular goiter:TMNG)に分けられる。AFTNが単結節性の場合,多くは濾胞腺腫か腺腫様結節であり,多結節性の場合は腺腫様甲状腺腫である。AFTNに対して,我が国では手術が行われることが多いが,手術以外にも有用な治療法があり,それらの現状について述べる。
サイズが小さく甲状腺中毒症を生じていないAFTNでは,治療の必要はなく経過観察を行う。大きく圧迫症状が強いもの,または甲状腺中毒症を伴ったAFTNに対して手術,放射性ヨウ素(131I)内用療法,インターベンション,または薬物療法が行われる。AFTNに対する各治療法の長所と短所を表1に示す。抗甲状腺薬では,バセドウ病と異なって寛解は得られず,根治的治療とはならない。
機能性甲状腺結節に対する各治療法の長所と短所
我が国では従来AFTNに対して手術が行われてきたのに対し,欧米では以前から131I内用療法が広く行われ,その有用性が報告されている[4]。我が国では1998年よりAFTN対し131I 500 MBq(13.5 mCi)までの外来投与が可能となったが,一般患者の放射能に対する不安や恐怖心もあり,あまり普及していない。経皮的エタノール注入療法(percutaneous ethanol injection therapy:PEIT)は,1980年代よりその有用性が報告されるようになり,我が国では2002年より有症状の甲状腺囊胞とともにAFTNに対するPEITが保険適応になった。しかし,日本甲状腺学会専門医施設でもPEITを積極的に実施している施設は少ないのが現状である[5]。
伊藤病院から,AFTN(TSTN 159例,TMNG 46例)に対する手術,131I内用療法(500 MBq単回投与),ならびにPEITの治療結果が報告されている[6]。①手術(99例)では甲状腺全摘後の全例と葉切除例の8%が甲状腺機能低下症になった。②131I内用療法(50例)は,平均21カ月の経過観察中,7例で甲状腺中毒症が持続したが,34例で甲状腺機能が正常化し,9例が甲状腺機能低下症になった。③PEIT(56例)では,29例が正常甲状腺機能を維持し,2例が甲状腺機能低下症となったが,25例で甲状腺中毒症が持続(8例)もしくは再発(17例)した。このうち,TMNGは全例で,甲状腺中毒症が持続(3例)もしくは再発(1例)した。このように,131I内用療法は,甲状腺中毒症を伴ったAFTNの甲状腺機能のコントロールに有用であること,さらに,AFTNに対するPEITの治療成績は,他の治療法に比べて劣り,特にTMNGによる甲状腺中毒症の改善はPEITでは困難であることが示されている[6]。アメリカ甲状腺学会(ATA)の甲状腺機能亢進症の診断と治療のガイドライン(2016年)[7]は,AFTNによる顕性甲状腺中毒症では,速やかに甲状腺機能を是正し,その状態を維持させるため,効果が確実で比較的安全な根治療法である手術と131I内用療法を推奨している。アメリカとイタリアの学会共同(AACE/ACE/AME)の甲状腺結節の診断と治療の診療ガイドライン(2016年)[8]でも,甲状腺中毒症を呈したAFTNに対するPEITは再発率が高いため,他の有効な治療法がない場合に選択すべきとしている。
PEITに代わる治療法として,ラジオ波焼灼術(radiofreqency ablation:RFA)が臨床で用いられるようになり,2006年に良性非機能性甲状腺結節に対するRFAの結果が発表された[9]。その後も,韓国では多数の甲状腺結節に対してRFAが施行されており,近年では良性結節に対し手術に代わる治療法とされている[10]。我が国では,RFAは2004年に肝臓癌に対して保険適応となったが,甲状腺には未だ保険適応となっておらず,RFAによるAFTNの治療は,臨床研究として院内の倫理審査の承認を得て自費診療で行われている[11]。近年RFAの他にも,さまざまな熱焼灼療法(thermal ablation therapy)が甲状腺結節に応用されるようになり,海外から治療成績が報告されている[12,13]。
手術は最も確実な根治的治療法であり,①結節が大きく,圧迫症状が強い場合や縦隔内に進展しているもの,②AFTNそのもの,または他の結節が癌であるか,または癌が疑われる場合,③速やかに甲状腺中毒症を是正,または結節による諸症状を解除させたい場合によい適応となる[7]。手術以外の治療法では,結節の縮小が不十分なことも多く,甲状腺機能の是正に時間を要する。甲状腺癌の合併にも注意が必要で,AFTNの0.1~0.6%はそれ自体が癌であり[1],AFTNの1.2~11.5%でAFTN周囲の甲状腺組織に非機能性の癌が合併していることが報告されている[2]。TSTNの場合は片葉切除が行われ,術後は15~20%の例で甲状腺ホルモン補充療法が必要になる[1,7]。TMNGの場合は,全摘あるいは準全摘が行われるため,術後は甲状腺機能低下症となり,生涯にわたる甲状腺ホルモン補充療法を要する。
2.放射性ヨウ素(131I)内用療法AFTNに対して131I内用療法が手術よりもよい適応となるのは,高齢者,手術に支障をきたすような合併症を有する例,甲状腺もしくは頸部の手術既往者,ならびに比較的小さな結節である[7,8]。131I内用療法では,結節が十分に縮小し甲状腺機能が正常化または低下した後に,甲状腺機能亢進症が再発することは稀である。TMNGでは,甲状腺全摘後は永続性甲状腺機能低下症となるが,TSHが抑制された状態で131I内用療法を行うと甲状腺ホルモン補充療法を必要としないですむ可能性がある[6]。
131I内用療法は,妊娠中と授乳中は絶対禁忌であり,甲状腺癌を合併している場合も適応から除外される。AFTNに対する131I内用療法は,バセドウ病よりも多い単位重量当たりの線量を必要とする。131I内用療法は甲状腺結節を縮小させるが,結節は残存し,治療効果が得られるまでに数カ月を要する。外来投与可能な131I量に上限があるため,単回の131I投与では十分な効果を得られないことがある(この場合は,131I内用療法を複数回行うことで対応できる[14])。
131I内用療法によりTSTNの75%が3カ月以内に,TMNGの55%が3カ月以内,80%が6カ月以内に甲状腺中毒症が是正されている[7]。131I内用療法後は甲状腺機能が正常化した後も,甲状腺機能が次第に低下し,甲状腺機能低下症となることがあるので経過観察を要する(晩発性甲状腺機能低下症)。甲状腺機能低下症になる頻度は131I投与量によっても異なり,甲状腺自己抗体陽性者,甲状腺手術の既往(甲状腺の組織が少ない)例,ならびに高齢者は131I内用療法後に甲状腺機能低下症を生じやすい[1,7]。131I内用療法後の甲状腺機能低下症の発症予防として,甲状腺機能亢進症に対して抗甲状腺薬を服用している場合は,抗甲状腺薬を休薬して,血清TSHが低値の状態で131Iを投与すべきである[14]。131I内用療法前に抗甲状腺薬が投与されTSH抑制が解除された状態では,AFTN以外の組織にも131Iの集積が高まり,甲状腺機能低下を生じやすくなる。
田尻[14]は,AFTNに対する外来131I内用療法の有効性について報告している。TSTN 26例とTMNG 12例に対して,131Iの1回投与量を13 mCiに固定し,効果が不十分であれば3~4カ月間隔で追加投与した。血清TSH抑制の消失を治療効果の指標として,5~68カ月間観察した。TSTNとTMNGの全例で甲状腺中毒症は是正され,結節や甲状腺腫は縮小した(図1)。TSTN 25例(AFTNと診断されたときに血清TSHが正常であった1例を除いている)のうち,治療時にTSHが抑制されたもので甲状腺機能低下症になったのは19例中1例であったが,TSHが抑制されていなかった6例は全例が甲状腺機能低下症となった。TMNGで甲状腺機能低下症になったのは12例中2例で,どちらも131I内用療法を3回(計39 mCi)行っていた。
中毒性単発性甲状腺結節に対する131I内用療法
36歳,女性:甲状腺右葉に6.9 ml(長径3.4 cm)の軟らかい単発性結節を認めた(a)。血清FT3 5.33 pg/ml,FT4 1.20 ng/dl,TSH<0.005μIU/ml,抗Tg抗体と抗TPO抗体は陰性。 99mTcシンチグラフィーでhot noduleを呈し(a),穿刺吸引細胞診は良性であった。131I 13.0 mCiの投与3カ月後には結節は縮小し,6カ月後99mTcシンチグラフィーを施行し(FT4 0.89 ng/dl,TSH 7.76μIU/ml),正常甲状腺組織が描出された(b)。その後,甲状腺機能低下症に対してLT4の投与を開始した。131I投与4年後,結節は著明に縮小している(c)。
さらに,Tajiriら[15]は,血清TSH値が抑制されていないAFTN(単発性甲状腺結節9例,多結節性甲状腺腫4例;計13例)に対する131I内用療法について報告した。131I 13 mCiの固定量を12例で1回,1例で2回投与し,2年後の状態を評価した。131IによりAFTNは有意に縮小し(中央値9.73 ml ⇒ 3.27 ml, P<0.05),13例中10例でAFTNはhot noduleではなくなった(図2,3)。131I内用療法後,甲状腺機能低下症となった9例にレボチロキシンの投与を開始した。血清TSHが基準値にあるAFTN患者でも,手術を希望しない場合,131I内用療法は結節の治療選択肢の1つになると報告した。この場合,131I内用療法後に永続性甲状腺機能低下症となる点については,十分な説明と慎重な経過観察を要する。
血清TSHが基準値のAFTNに対する131I内用療法
38歳,女性:甲状腺右葉の単発性結節7.5 ml(長径2.9 cm)は,123Iシンチグラフィーでhot noduleを呈した(a)。血清FT4 1.13 ng/dl,TSH 0.510μIU/ml,サイロイドテストとマイクロゾームテストは陰性。131I 13.0 mCiを投与して,5カ月後に結節は著明に縮小し(b),8カ月後に甲状腺機能低下症となったため,LT4の投与を開始した。131Iを投与して4年後に99mTcシンチグラフィーを施行し(LT4内服を自己中断し,FT4 0.85 ng/dl,TSH 32.74μIU/ml),正常甲状腺組織が描出された(c)。この時の結節は0.3 mlであった(c)。
血清TSHが基準値のAFTNに対する131I内用療法による結節サイズの変化(n=13)
穿刺針から注入したエタノールによる蛋白凝固作用により組織を壊死させ,さらに微小血管に生じた血栓により組織を破壊する。通常,PEITは繰り返して行う必要がある。PEITはエタノールが拡散した範囲に効果が限定されるが,充実性結節内に注入されたエタノールの拡散は均一とはならず,エタノールが浸透する範囲を予測することが難しく治療効果が一定しない。
PEITでは,病変が超音波ガイド下に確実に穿刺可能な部位にあることが必須である。悪性との鑑別が困難な結節,および対側に反回神経麻痺が存在する場合は,適応から除外される。AFTNが充実性の大きな場合,PEITでは十分な治療効果を得にくいため,他の治療法を考慮する。PEITを施行する際には,超音波ガイド下で熟練した医師によって行うことが原則であり,十分なインフォームドコンセントが必要である。
PEITのAFTNに対する治療効果について,TSTNでは35~93%(平均68%)の症例で,血清TSHが基準値にある単発性AFTNでは60~100%(平均81%)の症例で,血中甲状腺ホルモン値の正常化とシンチグラフィで正常甲状腺組織への取り込みが認められている[5]。PEITでは,比較的小さな結節,囊胞成分が多い結節,ならびに顕性機能亢進症よりも潜在性機能亢進症の場合に良好な治療効果が得られやすい。TMNGはTSTNに比してPEITによる甲状腺機能の正常化率は低い[6]。
PEITに伴う合併症には,エタノール注入時の局所の疼痛,反回神経麻痺(多くは一過性),穿刺に伴った血腫がある。稀にHorner症候群,内頸静脈血栓症,咽頭や皮膚壊死を生じることもある。PEITを行って治療効果が得られなかった後に手術を行うと,被膜外に漏出したエタノールによる甲状腺被膜と周囲組織との線維性癒着のために手術合併症の発生率が高くなる。
4.熱焼灼療法(thermal ablation therapy)近年,さまざまな熱焼灼療法が開発され,臨床の場で応用されている[12,13]。熱焼灼療法には,それぞれ特徴があり有効性も高いが,特有な合併症に周囲組織の熱損傷がある。甲状腺インターベンションの効率を高める方法として,治療効果が不十分な生存組織を明瞭に描出する造影超音波検査(contrast-enhanced ultrasound:CEUS)や,焼灼時に生じたガスのため超音波画像で病巣を確認しにくくなるのを防ぐ目的で融合画像によるナビゲーションシステム(virtual navigation with fusion imaging)などが開発されている[12]。
(1)ラジオ波焼灼術(RFA)
超音波ガイド下で体表面から結節に電極針を刺入してラジオ波を流し,電極周囲に発生した熱によって病巣を凝固壊死させる。
(2)レーザー焼灼術(laser ablation)
体表面から結節を穿刺し,レーザーを照射する方法である。光エネルギーが組織に吸収されることにより生じた熱で組織を壊死させる。
(3)経皮的マイクロ波凝固療法(microwave ablation)
体表面から電磁波を発生する電極針を結節に刺入し,通電により病巣を熱凝固壊死させる。マイクロ波凝固療法は病巣が比較的速く高温になるのに対し,RFAは温度の上昇が緩やかである。
(4)高密度焦点式超音波治療法(high-intensity focused ultrasound:HIFU)
皮膚を穿刺することなく,高エネルギー超音波ビームを一点に集中させることにより生じた熱で,組織を凝固壊死させる方法である。コンピューター制御により,超音波ビームの焦点を目標の範囲内で移動していく。超音波を用いるため,大きな石灰化を有する結節はHIFUの適応外である。
5.薬物療法高齢者で手術にはリスクが高く,131I内用療法やインターベンションも困難な例に対し,甲状腺機能亢進症のコントロール目的に抗甲状腺薬の長期投与が選択される。甲状腺中毒症が顕著な場合,手術や131I内用療法前に抗甲状腺薬を投与して甲状腺機能をコントロールすることもある。AFTNによる甲状腺機能亢進症では,抗甲状腺薬はバセドウ病よりも少量で有効である。
AFTNに対する根治的治療法には,手術の他にも131I内用療法やインターベンション(PEIT,熱焼灼療法)があり,個々の症例および結節に対して治療法を的確に選択する必要がある。種々のインターベンション機器が開発されており,今後AFTNに対してもインターベンションの普及が期待される。