2018 Volume 35 Issue 4 Pages 255-258
手術不可能あるいは遠隔転移や局所再発を繰り返す悪性褐色細胞腫の治療として,131I-metaiodobenzylguanidine (MIBG)による内照射療法が行われる。131I-MIBGの腫瘍集積は極めて選択的かつ特異的であり,欧米では30年近い治療経験が蓄積されている。一方で,国内では放射線管理にかかる諸問題があり利用は限られていた。近年,悪性褐色細胞腫・パラガングリオーマに対する低用量131I-MIBG治療の多施設共同研究が先進医療Bとして実施され,2017年度には131I-MIBG治療の薬事承認取得を目的とした企業治験が国内で開始されるなど,131I-MIBG治療が我が国でも広がりつつある。本稿では131I-MIBG治療の現況と展望を紹介し,内照射療法の普及がよりいっそう進むことを期待する。
131I-metaiodobenzylguanidine (MIBG)治療は神経内分泌腫瘍に対する放射線内照射療法である。欧米では1980 年代より褐色細胞腫への131I-MIBG 治療が開始され,現在までに30年近い経験が蓄積されている。MIBG はノルアドレナリンと構造が類似しているためノルアドレナリンと同様の挙動(取り込み,貯蔵,放出)を示し,ノルアドレナリン摂取能を持つ神経内分泌細胞に取り込まれる。この取り込みの大部分は,特異的受容体であるneuronal uptake-1による能動的摂取に依存することから,131I-MIBGの集積機序は極めて選択的かつ特異的である。131I-MIBG の特異的集積性を利用すれば,131I-MIBGを経静脈的に大量(検査時123I-MIBGの約33倍)投与して病変選択的に放射線照射することが理論上可能であり,治療応用が始まった。
131I-MIBGは我が国では未承認製剤であり,海外承認製剤による院内臨床試験として実施されてきた。放射線遮蔽可能病室の必要性,医療スタッフの教育などの放射線管理にかかる諸問題があり,実施件数は限られている。しかしながら,近年我が国では,核医学治療ががん対策推進基本計画にも取り上げられ,政府からも引き続き内照射療法の研究開発を推進するとの方針が示された。厚生労働省未承認・適用外薬検討会議においても,131I-MIBGによる放射線内照射療法は「医療上の必要性の高い未承認・適用外の抗がん剤治療」に指定された。2015年度には,低用量131I-MIBG治療の有効性および安全性を評価することを目的として,悪性褐色細胞腫・パラガングリオーマを対象とした多施設共同臨床研究が先進医療Bとして実施され,治療の安全性,有効性が確認された(2017年終了)。2017年度より,131I-MIBG治療の薬事承認取得を目的とした企業治験が開始されている。
131I-MIBG治療の健全な普及を目的として,2008年に日本核医学会分科会/腫瘍・免疫核医学研究会/I-131 MIBG内照射療法検討委員会で適正使用ガイドライン(案)が策定され,2014年に改訂された[1]。
下記に131I-MIBG治療の適応条件を記載する。
a)医学的適応
131I-MIBGを取り込み貯留する性質をもち手術不可能な腫瘍が適応となる。褐色細胞腫,パラガングリオーマ以外でも甲状腺髄様癌,カルチノイド,難治性神経芽腫に適応がある。
b)禁忌の条件
絶対的禁忌:妊娠,骨髄機能障害,腎機能障害(白血球3,000以下,血小板10万以下,glomerular filtration rate(GFR)<30mL/min,生命期待予後1カ月未満)
*骨髄抑制がある場合は投与量の減量を考慮すべきであり,治療後に綿密な経過観察を要する。ただし保存自己造血幹細胞が存在し,救済可能な場合を除く。
相対的禁忌:要介護あるいはそれに類する状態,授乳継続,隔離による医療行為が困難である(緊急対応を要する症状のコントロールがなされていない場合など),尿汚染管理が行えない,医師/看護師によるチーム体制の確立とともに,家族の治療への理解と協力が得られない場合
c)期待効果
腫瘍縮小,カテコラミン分泌過剰症状の緩和および骨転移性疼痛の緩和
欧州核医学会からは2008年にガイドラインが策定されている[2,3]。本邦のガイドライン(案)と欧州核医学会のガイドラインとの主な違いは推奨投与量である。欧州核医学会が1回当たりの投与量に3,700~11,100MBqを推奨しているのに対し,本邦では3,700~7,400MBqを推奨している。これは,我が国に1日放射性物質使用認可量の制限があるためであり,限られた施設しか治療を実施できない。そのため我が国では標準的投与(5,500~7,400MBq)を複数回繰り返す治療が一般的かつ妥当であり,一回ごとの抗腫瘍効果は大きくないものの,複数回投与により生命予後の改善に寄与できると考えられている。
英国小児内分泌糖尿病学会のガイドライン「Paediatric Endocrine Tumours」では,悪性褐色細胞腫に対し単独または化学療法との併用で有効な治療法と記載されている。米国では原則として手術が望ましいとされているが,国立がん研究所のNCCNガイドラインには切除不能症例に対する治療法として記載されている。
2001年以降,131I-MIBG内照射療法に関する試験結果が複数報告され131I-MIBG内照射療法による画像上の奏効率は0~83%,腫瘍マーカー上の奏効率は20~100%であった[2,4~9]。研究の多くは131I-MIBGの複数回投与後の最終判定を評価したものであり,投与回数は1回~最大12回と文献ごと,症例ごとに大きな開きがあった。無増悪生存,全生存についての検討では,無増悪生存期間の平均値は28カ月[2],23カ月[9],全生存期間の中央値は56カ月[4],42カ月[2],5年後の全生存率は平均45%[4],64%[7]であった。現在までの報告はほぼすべてが後ろ向き研究に関するものであり,自然経過あるいは化学療法との群間比較試験はみられず,生命予後の改善に関する明確なエビデンスは存在しない。しかしながら,これまでの基礎的検討および放射線生物学的見地から,単回投与量よりも総投与量が重要であると考えられ,臨床的にも131I-MIBG治療回数,すなわち総投与量が全生存期間に有意に影響すると考えられる[10]。
131I-MIBG内照射療法に伴う有害事象の報告としては,血液毒性があげられる[8]。本邦では実施不可能な単回投与量18,500MBq以上の高用量において,Grade3以上の血小板減少症もしくは好中球減少症が発現した[7,11,12]。本邦で実施可能な3,700~16,700MBq程度の単回投与量で行われた治療では,数%~20%程度の症例に骨髄抑制(Gradeについての記載なし)もしくはGrade2の血小板減少症,好中球減少症が発現した[2,4,6,13]。本邦の標準的な投与量である7,400MBqでは,Grade3以上の非血液毒性,Grade4以上の血液毒性の報告はない。
発癌と遺伝的影響を除き,有害反応はすべて確定的影響であり閾値が存在するとされる。我が国で施行されている低用量投与(7,400MBq)においても造血障害,一時的不妊は生じうる。難治性褐色細胞腫・パラガングリオーマに対する131I-MIBG治療後に発癌を認めた例は報告されていないが,小児神経芽腫では大量131I-MIBG治療を含む集約的治療後に発癌した例があるため[14,15],慎重な経過観察が必要である。
国内では,48人の難治性褐色細胞腫,パラガングリオーマ患者を対象とした多施設後ろ向き研究が実施され,87回の治療が解析された[16]。患者の84.6%が治療を通してPRまたはSDと判定され,高血圧の改善も報告された。3,700~16,700MBqの単回投与による全副作用発現率は47.1%,うち2例(4.2%)にGrade3の白血球減少症がみられた。Grade4以上の重篤な副作用は発現せず,重篤な副作用なく治療が施行できることが報告された。
131I-MIBG治療で甲状腺機能低下が起こりやすい。このため,甲状腺機能低下症を軽減する目的で,無機ヨードによる甲状腺ブロックを治療前から行う。131I-MIBG投与の24~48時間前から開始し,131I-MIBGの投与後10~15日間継続する。ただし,適切な甲状腺ブロック(ヨード取り込み率1%未満)が行われた場合でも甲状腺機能低下は生じうる。
非血液毒性に関する早期有害事象として最も経験されるのは放射性宿酔による嘔気,嘔吐である。その頻度は20%(単回投与量3,700~5,600MBq)[9],32%(単回投与量3,700~14,800MBq)[16]と報告されている。放射性宿酔防止のため,セロトニン5HT3受容体拮抗薬が使用されている。この他,下痢,動悸,高血圧,発熱,腹痛などが症例報告で散見される。
治療開始時期に関するエビデンスは確立されていないが,病変への131I-MIBGの取り込みは病状進行に伴い低下するため[17],早い段階から131I-MIBG治療を検討することも選択肢のひとつである。
131I-MIBG治療が実施可能か否かを考慮する際,患者がアイソトープ病棟(図1)で4~5日間自立した生活を行える全身状態にあるかどうかを確認することが重要である。医療スタッフを不必要な放射線被ばくから守るためには管理区域内での患者との接触や処置を短時間に抑えることが求められるが,自立して生活できないケース(車椅子での移動,重篤なカテコラミン症状など)では医療スタッフの医療被ばくが増えてしまうためである。また,緊急時の診療行為も制限されるため,治療適応の可否は慎重に検討する必要がある。
患者以外の放射線被ばくを避けるため,放射線管理区域内の治療病室にて治療を実施する(a,金沢大学附属病院の治療病室)。調整時および投与時の薬剤は,鉛遮蔽体の中に配置される。治療薬の投与は約1時間で終了する(b,薬剤投与)。転移性褐色細胞腫に6回のMIBG治療を行った(c,40代男性)。治療前に確認した123I-MIBGの集積部位=病変(矢印)へ131I-MIBGが集積する。治療後に123I-MIBGシンチグラフィで病変への集積低下を確認することで治療後の効果判定も行える。
本邦での標準的な投与量は7,400MBqであり,薬剤費は海外からの輸送費や通関手続き費などを含め1回あたり約45万円(2018年8月現在)である。輸入に際し,投与日の10日前までに発注・支払いを済ませなければならないなどの制約がある。図1に,転移性褐色細胞腫に対し131I-MIBG治療を行った症例の治療前後のシンチグラフィを提示する。
米国では,131I-MIBGと同様の体内動態を示す新規放射性薬剤Azedra®(Ultratrace® 131I-iobenguane)が臨床試験段階に入っている[18,19]。Azedra®は放射性純度が非常に高く,より効率的に131Iを病変へデリバリーすることができるため,高い治療効果をもたらすとともに不要な副作用を軽減すると期待されている。
本邦では131I-MIBG治療が薬事承認取得できれば,全国の核医学治療病室を持つ病院でも施行できるようになり,患者の金銭的負担(医療費・移動費など)も軽減できると予想される。今後,国内でも早期にAzedra®など新規核医学治療製剤が使用できる環境が整うことを期待したい。