2018 Volume 35 Issue 4 Pages 259-261
副腎皮質癌(adrenocortical carcinoma)は非常に稀な癌で,治療に関しては,外科的切除が最も有効であり,遠隔転移症例など切除不能例の予後は不良である。本稿では,薬物療法において唯一承認されているミトタンを中心に,実際の投与法や,抗癌剤との併用療法などを記す。様々な分子標的薬を用いた治験が行われているが,現時点では順調に進行しているとは言えない。今後は,希少癌であるが,単一疾患として捉えずに,遺伝子変異や蛋白質発現などをもとに適確に分類し,薬剤開発にあたる必要があるのではないかと考える。
副腎皮質癌(adrenocortical carcinoma)は非常に稀な癌で1年の罹患率が100万人に1~2例であり,1歳から6歳までの乳幼児期と,40から50歳代の2期に好発年齢がみられる[1]。女性ホルモンとの関連も示唆され,男女比はおよそ2対1で女性に多い[1]。癌抑制遺伝子P53の胚細胞変異として知られるLi-Fraumeni症候群や癌遺伝子insulin like growth factor type 2(IGF-2)の遺伝子変異であるBeckwith-Wiedemann症候群,その他 Multiple Endocrine Neoplasia type1(MEN-1),さらにmismatch repair遺伝子の変異によるLynch症候群などいくつかの家族性副腎皮質癌が知られている[1~3]。さらに,副腎皮質癌は,孤発例においても様々な遺伝子異常によって起こることが知られていることから,単一疾患ではなく,heterogeneityが強いものと考えられる[2]。半数以上が内分泌異常を表して診断の機会となるが,内分泌無機能の症例では症状に乏しく,ほとんどが進行期で診断される。治療に関しては,外科的切除が最も有効であり,遠隔転移症例など切除不能例の予後は不良である[1,2]。薬物療法では,唯一ミトタン(英:mitotane)(オペプリム®(Opeprim®)ヤクルト)が承認されており,臨床投与されているが,他に確立された内科的治療はない。
副腎皮質癌の治療として外科的切除が最も有効であり,転移を認めないものに対しては積極的に根治手術を行うべきだと思われる。また転移巣が数少ない,いわゆるoligo-metsの症例に対しても内科的治療と転移巣切除により長期生存が得られることも報告されており,外科的治療は考慮したい選択肢である[4]。現時点Oligo-metsの場合には可能であれば外科的切除および術後ミトタン補助療法,そうでない進行例ではEDP-M療法(エトポシド(100mg/m2,day2-4),アドリアマイシン(40mg/m2,day1),シスプラチン(40mg/m2,day3,4),ミトタン連日投与)を考慮する[5]。ミトタンは副腎毒とも称され,かつて有機塩素系の農薬に使われていたDDTの異性体で,副腎皮質細胞のミトコンドリアを選択的に阻害することで増殖阻害効果を示す副腎皮質癌に特異的な薬剤である。13~31%の腫瘍縮小効果(objective response rate:ORR)が報告されており,また副腎皮質癌原発巣を根治切除後の術後補助療法としての有用性も報告されている[2,6]。
ミトタンは,経口剤で,治療効果および副作用は薬剤血中濃度に大きく依存するとされ,血清ミトタン濃度は14mg/L以上で治療効果を認めるとされ,20mg/L以上だと強い倦怠感など副腎機能障害による強い副作用のため治療継続が困難となる[1,2]。また,健側の副腎からのホルモン分泌も障害されるため糖質コルチコイドの投与が必要となる。ミトタンは1.5g/日で開始,4~6日間で6g/日に増量し,3週間後にミトタン血中濃度を測定し,14~20mg/Lになるよう用量調整する[1,2]。ミトタン血清値は2~3週ごとに最初の3カ月は測定し,プラトーに達したら6週毎に測定しても良い[3]。用量調節に関しては表1に記載する。3カ月以内に50%前後の症例で至適濃度に入るとされる[1,2]。ミトタンの最大量は12g/日であるが,ほとんどの症例では8g/日で有害事象がおこる[2]。ミトタン薬物療法の有害事象は少なくない。ハイドロコーチゾン50mg(20-20-10mg)の併用投与を行い,時に増量が必要で,血中糖質コルチコイドの測定や血圧やカリウム濃度,血清レニン値,肝機能,腎機能,甲状腺機能,テストステロン値,コレステロール値,血球数などの観察が必要である[1,2]。消化性潰瘍予防にプロトンポンプ阻害剤や,易感染性に対してバクタ(1g)1錠投与など考慮する。
ミトタンの用量補正(例)
ミトタンと抗癌剤との併用では,エトポシド,ドキソルビシン,シスプラチン併用のEDP-M療法の比較的良好な結果がthe First International Randomized Trial in Advanced or Metastatic Adrenocortical Carcinoma Treatment(FIRM-ACT)から報告されており,現時点では副腎皮質癌に対する考慮されるべき内科的治療と思われる[5]。
様々な分子標的治療薬を用いた治験が行われている。IGF-2の過剰発現が多くの副腎癌症例で見られることが知られており,IGF-1Rの過剰発現が病因として重要な役割を果たしていると考えられることから,IGF-1Rに対する単クローン抗体薬であるfigitumumab, cixutumumabや,小分子阻害剤linsitinibなどの開発が進められてきた。これらの中で,linsitinibはプラセボ対照の第Ⅲ相試験が行われたが,survival benefitを示すことは出来なかった[7]。他にもmechanistic Target of Rapamycin(mTOR)阻害剤のeverolimusや,epidermal growth factor receptor(EGFR)阻害剤erlotinibについても小コホートで臨床試験が行われたが,いずれも満足な結果は得られなかった[7]。これらの結果は,副腎癌のheterogeneityに因るものとも示唆され,今後は副腎癌を単一疾患として捉えずに,IGF-1,PTENやmTOR,EGFRなどの蛋白質発現のpre-screeningが必要と思われる。しかしながら,もともと稀な癌であり,さらに分類するのは実際上非常に困難かもしれない。その中では,mismatch repair遺伝子の変異によるLynch syndromeは,副腎皮質癌の3%に見られ[3],大腸癌同様に免疫チェックポイント阻害剤の効果が期待されるだろう。さらに,最近,プレシジョン・メディシンという言葉をよく耳にする。検出された遺伝子変異に応じて適格と思われる薬剤を投与するもので,本邦でも一部の施設では開始されており,現時点すべてが保険医療とならないと思われるが,本疾患のheterogeneityを考慮すると検討する必要があると思われる。
現在の薬物療法では,唯一承認されているミトタンを中心に説明した。しかしながら,現時点,副腎皮質癌の内科的治療は満足な結果が得られておらず,副作用も多いことから,転移症例に対しても可能であれば積極的に外科治療を考慮する必要があると思われる。希少癌であるが,単一疾患として捉えずに,Lynch症候群に対する免疫チェックポイント阻害剤など,遺伝子変異や蛋白質発現などをもとに的確に分類し,薬剤開発にあたる必要があるのではないかと考える。