Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
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2019 Volume 36 Issue 2 Pages 89

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転移乳癌(遠隔転移を有する乳癌)は現在なお治癒が困難であり,その治療の目的はQOLを維持しつつ生存期間の延長を目指すことである。エストロゲン受容体陽性転移乳癌は,初発から再発までの期間が長い場合(晩期再発)や内臓転移を認めない症例などでは内分泌療法単独での一次治療で1年以上コントロールできる場合が多い。これまで生命を脅かす転移がない場合の二次以降の治療は,一次治療とは作用機序の異なる内分泌療法薬を逐次投与する治療が行われてきた。内分泌療法耐性となった時点,あるいは生命を脅かす転移をきたしている場合は化学療法に移行する。内分泌療法耐性機序は古くから研究されており,最近,耐性克服を目的とした分子標的薬が次々と日常診療に導入されている。現在,mTOR阻害薬のエベロリムス,およびCDK4/6阻害薬のパルボシクリブとアベマシクリブが内分泌療法薬であるアロマターゼ阻害薬あるいはフルベストラントとの併用療法として使用されている。内分泌療法薬にこのような分子標的薬を併用することにより,化学療法にいたるまでの期間や全生存期間の延長が期待されている。

近々,遺伝子パネル検査が保険適用となる(本雑誌が発刊されたときにはすでに保険適用となっているかもしれません)。現時点では遺伝子パネル検査により適切な治療薬が選択できる可能性は1割以下と推測されている。しかし,遺伝子パネル検査で得られる遺伝子情報と患者さんの臨床情報をデータベースに登録,集積することにより新たな治療法の開発につなげていくことが,遺伝子パネル検査を保険適用で行う重要な目的となっている。

一方,遺伝子パネル検査で生殖細胞系列の遺伝子変異が見つかる可能性がある。日本における遺伝性乳癌の頻度は全乳癌の5~10%と推定され,BRCA1/BRCA2遺伝子が遺伝性乳癌全体の約2/3を占める。現在,BRCA1またはBRCA2遺伝子の生殖細胞変異陽性(遺伝性乳癌卵巣癌症候群)かつHER2陰性の転移乳癌に対して,PARP阻害薬であるオラパリブが使用されている。

本特集「エストロゲン受容体陽性転移乳癌の薬物療法」では,治療の基本方針と内分泌療法耐性メカニズムについて,さらに新規の分子標的薬であるCDK4/6阻害薬とPARP阻害薬について,造詣の深い先生方にご執筆いただきました。本特集が,乳癌診療に携わる方々のみならず,癌診療に携わる方々にとっても役に立つと信じております。

 

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