Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
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2019 Volume 36 Issue 3 Pages 129-130

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2017年に内分泌腫瘍のWHO分類が改定された。その中で変更された甲状腺腫瘍の分類には,甲状腺腫瘍の診療に大きな影響がある事項が含まれている。本邦では,2015年刊行の日本甲状腺外科学会編「甲状腺癌取扱い規約」(第7版)が標準的に用いられてきた。現在,新WHO分類との整合性を図ることを目的として,「甲状腺癌取扱い規約」の病理組織分類の改定が,日本内分泌外科学会の甲状腺病理委員会により進められている。本邦の甲状腺腫瘍の診療に無用な混乱を生じさせないために,取扱い規約の改定を適切に反映させることが重要である。それにはWHO分類の変更点とその問題点を整理し,コンセンサス形成を図る必要がある。今回の特集号では,甲状腺腫瘍の分類の背景にある甲状腺腫瘍の特異性と新WHO分類における主な変更点3つについてそれぞれ解説いただく。

まず,甲状腺腫瘍のWHO分類の背景にある甲状腺腫瘍の病理診断の特異性と遺伝子変異について,杏林大学の千葉知宏先生に執筆いただいた。甲状腺腫瘍の病理診断には,内分泌腫瘍に共通する特性や甲状腺癌に特有の組織細胞所見が指標として用いられる。甲状腺腫瘍の分類を適切に理解するには,甲状腺腫瘍の他臓器腫瘍と異なる特徴を理解する必要がある。また,新WHO分類では腫瘍の遺伝子異常についての記載が多数みられるが,特に甲状腺の腫瘍発生に関与する遺伝子変異は比較的良く解っている。

新WHO分類における変更点の第一は,境界悪性腫瘍の概念が導入されたことである。被包化された濾胞性腫瘍の中に,1)悪性度不明の濾胞性腫瘍(follicular tumor of uncertain malignant potential:FT-UMP),2)悪性度不明の高分化腫瘍(well differentiated tumor of uncertain malignant potential:WDT-UMP),3)乳頭癌類似の核形状を示す非浸潤性濾胞性腫瘍(non-invasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear featur s: NIFTP)の新たな腫瘍概念が定義された。第二には,濾胞癌の亜分類に被包型血管侵襲性濾胞癌(encapsulated angioinvasive follicular thyroid carcinoma)が設定された。第三には,低分化癌の診断基準がトリノ合意に基づく厳しい基準に変更された。他に,乳頭癌のいくつかの特殊型が加えられ,また,濾胞性腫瘍の特殊型とされていた好酸性腫瘍が,Hürthle細胞腫瘍として,独立してまとめられた。WHO分類の変更に基づき細胞診のベセスダシステムも一部改定になっている。

第一の変更点については,山梨大学の近藤哲夫先生に執筆いただいた。境界悪性の概念は,これまでの甲状腺腫瘍の分類にはなかったもので,大きな変更となる。1)のFT-UMPと2)のWDT-UMPは,被膜浸潤が疑わしい腫瘍で,被膜浸潤の判定を保留することにより生じる境界病変である。3)のNIFTPの概念は,米国での乳頭癌の過剰診断,過剰治療の反省から導入された。欧米と日本の間には乳頭癌の核所見の判定基準の違いがあり,日本ではNIFTPの多くは濾胞腺腫と診断されている。本邦での乳頭癌の核所見の基準を米国に合わせて変更し,NIFTPを導入する意義は少ないと考えられる。

第二の濾胞性腫瘍の変更点については,大東文化大学の日野るみ先生に執筆いただいた。濾胞性腫瘍は被包され,良悪性の診断は浸潤性増殖,即ち被膜・血管浸潤の有無を根拠になされる。このうち血管浸潤が新WHO分類では切り分けられた。血管浸潤の程度により,広範浸潤型濾胞癌との関係を整理する必要がある。また,前述の境界悪性のFT-UMPと微少浸潤型濾胞癌の関係も整理する必要がある。一般に濾胞性腫瘍の良悪性の鑑別を細胞診標本ですることは困難である。第7版の甲状腺癌取扱い規約から,細胞診報告様式にべセスダシステムが採用され,「濾胞性腫瘍」は「鑑別困難」から切り分けられ,良悪性の判断は保留される。これについては国内で異論があり,日本甲状腺学会の「甲状腺結節取扱い診療ガイドライン」では,「濾胞性腫瘍」を3群に分ける分類が推奨されている。

第三の低分化癌の変更点については,隈病院の林俊哲先生に執筆いただいた。低分化癌の診断基準には歴史的な変遷があるが,今回,より厳しく明確化した。低分化癌の頻度は地域により異なるが,診断基準の厳格化により,本邦での頻度は極めて小さなものとなる。改めて臨床病理的なデータとともに,遺伝子異常等のデータの集積が望まれる。

 

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