Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Print ISSN : 2186-9545
Prognostic factors for anaplastic thyroid carcinoma
Iwao Sugitani
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2019 Volume 36 Issue 3 Pages 165-170

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抄録

甲状腺未分化癌(ATC)は稀ながら極めて予後不良なorphan diseaseで,その1年生存率は5~20%程度である。患者の多くは高齢者であり,外科的根治切除,放射線外照射,多剤併用化学療法などによる集学的治療を積極的に行うべきか,quality of survival(QOS)を重視してbest supportive careに徹するべきか迷う場合も少なくなかった。ATCの予後因子研究によって,prognostic index(PI)が開発され,その有用性が国内多施設共同研究レジストリである甲状腺未分化癌研究コンソーシアムにおいて検証された。その結果,腫瘍の進展度(stage)や患者状態と合わせてPIなどの生物学的予後因子を考慮することで,積極的治療が生存期間の延長をもたらしうる群とQOS維持を重視すべき群とを区別したうえでのATCの個別化治療がある程度可能となった。

はじめに

甲状腺未分化癌(anaplastic thyroid carcinoma:ATC)の発生頻度は全甲状腺悪性腫瘍の1~2%程度と稀である。診断後の平均生存期間は3~6カ月程度,1年生存率は5~20%と最も予後不良な悪性腫瘍のひとつである。患者のほとんどは高齢者であり,分化癌に比べ男性の頻度が高い。長期にわたり存在していた分化癌が未分化転化して発生するものも多い。急激に増大する前頸部腫瘤を主訴とし,嗄声・呼吸困難・嚥下障害など周辺組織への圧迫・浸潤症状を伴うことが多い。局所の炎症症状や発熱・倦怠感・体重減少などの全身症状を伴うこともある。ときに著明な白血球増多や高カルシウム血症を伴う。診断時から肺ほか全身への遠隔転移を認めることも少なくない。

ATCに対しては従来,外科的根治切除に加え,放射線外照射,多剤併用化学療法などの集学的治療を行い得た患者の中に少数ながら比較的長期間生存する症例を認めてきた。一方,こうした積極的治療が生存期間の延長に寄与しないばかりか,かえって患者のquality of survival(QOS)を損なう場合も少なくない。ATCの予後因子を知ることは,ATC患者に対し個別に治療計画を立案するうえで非常に重要であると考えられる。われわれは癌研究会附属病院(現がん研有明病院)においてATCのprognostic index(PI)を開発,それに基づく治療方針を提案し,検証してきた。その有用性は国内多施設共同研究レジストリである甲状腺未分化癌研究コンソーシアム(ATC research consortium of Japan:ATCCJ)においても確認され,2018年に改訂された甲状腺腫瘍診療ガイドラインにも採用された。

PIの開発

1976年4月から1999年3月に癌研病院で取扱った偶発型(分化癌として手術された腫瘍内にわずかにATC成分を認める症例)を除く通常型ATC44例について,後向きに予後因子解析を行った[]。多変数解析の結果,1カ月以内の急性増悪症状(hazard ratio [HR]:4.07,95% confidence interval [CI]:1.53-10.84),5cmを超える腫瘍径(HR:3.87,95%CI:1.48-10.10),10,000/m3以上の白血球増多(HR:2.65,95%CI:1.04-6.76),遠隔転移の存在(HR:3.27,95%CI:1.28-8.38)の4項目が独立した有意の予後不良因子であった。これら4項目の該当項目数をその患者におけるPIと定義したところ,PIが1以下の症例の6カ月生存率が62%であったのに対し,3以上では6カ月生存例はなく,PI=4では3カ月生存例も認めなかった。この知見により,PIの低い症例には積極的な集学的治療を行って生存期間の延長を目指すのがよいが,PIが高い症例にはQOSを重視しbest supportive care(BSC)に徹するべきであると結論づけた。

PIの有用性の前向き検証

1999年4月以降,癌研病院では原則としてPIが1以下の場合には積極的な集学的治療を奨め,PIが3以上の患者にはアグレッシブな治療は避けQOSを重視する方針を奨めることにした。2009年12月までに新たに治療を行った74例の通常型ATC患者について,前向き検討を行った[]。PI1以下の26例中,実際に手術・放射線外照射・化学療法の三者併用療法を行いえたのは11例(42%)にとどまったが,26例の6カ月生存率は72%で,1999年3月までのPI1以下症例における62%を上回る傾向を認めた(p=0.06)。一方,PI3以上の28症例においても6カ月生存率は12%と以前の18症例(0%)より改善していた(p=0.038)。加えて以前の症例ではそれぞれ8例(44%),9例(50%)認めていた局所原因(窒息,出血など)による死亡,気管切開(気管皮膚瘻造設)は,前向きシリーズでは3例(11%,p=0.02),4例(14%,p=0.02)と有意に減少した。PIは前向き適用においてもATCの予後を反映しており,その妥当性が証明されるとともに,タイムリーな治療方針決定に有用であることが示された。

ATCCJによるATCの臨床的予後因子解析

ATCのようなorphan diseaseにおいては,単一施設での症例集積には限界があり,エビデンスレベルの高い診療方針の確立は不可能である。2009年1月,本邦におけるATCの現状把握とエビデンス構築を目的に施設の枠を超えた多施設共同研究機構として,ATCCJが設立された。2019年6月現在,ATCCJには全国74施設が参加しているが,2011年7月までに38施設から登録された1995年から2008年に取扱われた677症例を用いた予後因子解析が行われた[]。

病型は通常型547例,偶発型29例,頸部における未分化転化型95例,遠隔転移部位における未分化転化型6例であった。このうち偶発型の予後は有意に良好で,1年生存率は57%であった(図1)。偶発型ATCは唯一治癒可能なATCとも考えられるが,結局のところ半数程度は癌死しており,今後,術後補助療法の確立が期待される[]。

図1.

甲状腺未分化癌の病型別疾患特異的生存曲線

通常型ATC547例(男性208例,女性339例,年齢28~100歳,平均68.7歳)の生存期間中央値は113日,6カ月疾患特異的生存率は36%,1年疾患特異的生存率は18%で,1年を超える生存例は84例(15%)であった。多変数解析の結果を表1に示す。AJCC/UICC(American Joint Committee on Cancer/Union for International Cancer Control)によるstage分類第7版に含まれる2項目(原発腫瘍の甲状腺外浸潤,遠隔転移)およびPIに含まれる4項目はいずれも有意な予後不良因子であり,加えて年齢70歳以上が有意に予後不良であった。stage分類別,PI別の生存曲線を図2図3に示す。

表1.

通常型甲状腺未分化癌の予後因子(多変数解析)

図2.

通常型甲状腺未分化癌のAJCC/UICC第7版stage別疾患特異的生存曲線

図3.

通常型甲状腺未分化癌のprognostic index(PI)別疾患特異的生存曲線

根治切除,40Gy以上の外照射,何らかの化学療法はいずれも有意な予後改善因子であった。しかし,根治手術を受けたstage IVA症例では追加治療による予後改善は有意でなかったのに対し,stage IVBでは根治切除前後の外照射,化学療法の追加が有意に予後を改善していた。また,stage IVB症例に対する拡大根治切除施行症例23例の検討も行われ[],術後1年生存率はPI1以下では50%,2以上では11%であったことが示された。予後因子評価に基づくことで,気管・喉頭,食道・下咽頭や縦隔への浸潤例に対する他臓器合併切除を伴う根治手術も正当化されうると考えられた。

これらの結果より,ATCの初期治療方針決定におけるstage分類による病変の広がりの評価とPIなどの生物学的悪性度評価とを組み合わせた個別的戦略(図4)を提示した。stageと予後因子を考慮した治療方針は甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018年版にも反映されている(図5)。

図4.

甲状腺未分化癌研究コンソーシアムで提案した病変の広がりと生物学的悪性度を考慮した甲状腺未分化癌の個別化治療方針

RTX:放射線外照射,CTX:薬物療法,BSC:best supportive care

図5.

甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018における甲状腺未分化癌の管理方針のフローチャート

ATCCJにおける長期生存ATCの病理組織学的特徴の検討

ATCCJデータベースを用いて,1年以上の長期生存例68例と3カ月以内の早期死亡例88例の病理組織学的検討が,3名の甲状腺専門病理医により行われた[]。

長期生存例では前駆病変(分化癌)の併存,上皮性増殖,扁平上皮癌成分の混在,リンパ球浸潤を認めることが多く,早期死亡例では肉腫様細胞や好中球浸潤を認めることが多かった。両群間でAE1/AE3,TTF-1,p63,p53による免疫染色態度やKi-67標識率に有意の差はなかった。

おわりに

ATCとひとくくりにされる疾患の中にも,積極的治療が生存期間の延長をもたらしうる群とQOS維持のためにはBSCに徹するべき群とがある。そうした発想から始まったATCの予後因子研究により,腫瘍の進展度や患者状態と合わせて生物学的予後因子を考慮することで,ATCの個別化治療がある程度可能となった。今後はATCCJによる医師主導型前向き臨床試験でも検討されたpaclitaxel週1回投与法[]や新規分子標的薬として2015年に保険収載されたlenvatinib[]などを治療アルゴリズムにどのように当てはめていくのかが課題となる。

AJCC/UICC分類は2017年に第8版が発行された。ATCについては,すべてT4としていたものが,分化癌同様のT分類となり,stage分類にN因子による区別が加わるなどの変更が行われた(図6)。その妥当性について,今後の検討が待たれる。

図6.

甲状腺未分化癌のAJCC/UICCによるTNM分類とstage分類の第7版と第8版の差異

また,最近では好中球/リンパ球比,リンパ球/単球比などが腫瘍と宿主の免疫状態を反映する因子として,予後因子としての価値が取り沙汰されている[]。より精緻な予後予測因子としての分子マーカーの開発にも期待が寄せられる[1011]。

謝 辞

これまでATCCJの活動にご協力いただいた多くの先生方に深く感謝申し上げます。

【文 献】
 

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