Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
A review of risk-group classification for recurrence of papillary thyroid carcinoma
Toshiharu KanaiKen-ichi ItoTatsunori ChinoMayu OnoKoichi OonoTokiko ItoKazuma Maeno
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2019 Volume 36 Issue 4 Pages 209-212

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抄録

2018年に改訂された本邦の甲状腺腫瘍診療ガイドラインでは,甲状腺乳頭癌を再発リスクに応じて超低リスク,低リスク,中リスク,高リスクの4群に分類し,それぞれのリスク分類に基づいた管理方針が推奨されるようになった。ATA,NCCNといった海外のガイドラインでも類似した分類がなされており,腫瘍径,腺外浸潤,遠隔転移などは共通したリスク因子である。超低リスク乳頭癌に対する非手術経過観察の推奨や,低リスク乳頭癌に対する葉切除の推奨など本邦が海外に影響を与えてきた点,放射性ヨウ素内用療法の適応など海外から本邦が取り入れた点,また将来的なリスク分類の展望などについて述べる。

はじめに

本邦の甲状腺腫瘍診療ガイドラインは2010年に刊行され2018年に改訂された。甲状腺乳頭癌のリスク分類に関して2010年版では,TNMが最も推奨されるリスク分類であり,T4 (Ex2),N1b,M1などは高危険度群と位置づけられていた。これが2018年版では,TNM分類を基にしたリスク分類が具体的に示されるようになり,予想される再発あるいは癌死のリスクに応じて4段階(超低リスク・低リスク・中リスク・高リスク)の分類が明記された。それぞれのリスク群に応じて治療方針,すなわち術式や放射性ヨウ素内用療法(RAI),TSH抑制療法といった治療を加えるか否かを選択していくことが指針として示され,臨床医にとっては,より日常診療に直結する内容となり活用されていくことと思われる。本稿ではこのリスク分類を読み解きつつ,National Comprehensive Cancer Network (NCCN) やAmerican Thyroid Association (ATA) など海外で広く用いられているガイドラインのリスク分類と比較する。

本邦のリスク分類

甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018における乳頭癌のリスク分類は,最も普及した病期分類であり我が国の甲状腺癌取扱い規約[]も採用するUICC/AJCC TNM分類[]に基づいており,超低リスク(T1aN0M0),低リスク(T1bN0M0),中リスク(超低・低・高リスクのいずれにも該当しない症例),高リスク(①T>4cm②Ex2またはsN-Ex③径が3cmを超えるN1④M1 の4項目のうち1項目以上を満たす症例)に分類されている。ほとんどの乳頭癌症例で初期治療となる手術術式の選択もこのリスク分類を元に行われることとなり,したがってまずはUSやCTなどの画像診断および穿刺吸引細胞診検査を行いclinical TNM (cTNM)に基づいたリスク分類を行うことになる。そして術後は病理学的診断(pTNM)により診断の修正がなされ,中リスク群および高リスク群では症例に応じてRAIやTSH抑制療法が施行されることになる。

超低リスク乳頭癌はT1aN0M0すなわちリンパ節転移や遠隔転移のない微小乳頭癌である。転移や浸潤の徴候がない微小乳頭癌症例の非手術・経過観察が本ガイドラインで初めて推奨される方針に加わったが,今後,超低リスク乳頭癌症例では非手術・経過観察症例が増加していくと推測される。これに関しては今回の特集の別項で詳しく述べられているので詳細は省くが,世界に先駆けて行われた本邦の前向き研究の結果[,]がエビデンスとなり,さらにNCCNやATAのガイドラインでも類似した選択肢が示されるようになったことは大変画期的なことである。

低リスク乳頭癌はT1bN0M0すなわち腫瘍径1~2cmの乳頭癌であり,甲状腺は葉切除が推奨される。これはT1症例の治療成績を術式で比較した後ろ向き研究で,疾患特異的生存率において全摘と葉切除に差が無かったこと[,]がエビデンスとなっており,加えて甲状腺機能温存や手術合併症の観点からも葉切除が推奨されるものである。欧米諸国と比較して以前から甲状腺温存手術が広く行われてきた本邦は,温存手術の手技が確立されており,また術後遠隔成績のデータも豊富である。これにより今回のガイドラインでは葉切除を適応とすべき基準がより具体的となり,臨床で迷うことが少なくなると思われる。郭清範囲は中央区域のみが推奨となり外側区域予防的郭清は推奨されない。これは外側区域の予防的郭清は再発に影響しないとする報告[]や腫瘍径と遠隔転移をリンパ節再発危険因子とする報告[]が根拠となっている。

高リスク乳頭癌は①腫瘍径>4cm(すなわちT3以上)②Ex2またはsN-Ex(転移リンパ節にEx2相当の浸潤あり)③径が3cmを超えるN1④M1のいずれかを満たす症例であり,甲状腺全摘術が推奨される。これは術後の再発リスクを低下させる意義と手術後に行われる放射性ヨウ素内用療法(RAI)に備えての意義がある。さらに血清サイログロブリン値を腫瘍マーカーの代用にできるメリットもある。外来アブレーションを含むRAIは,遺伝子組換えヒト型甲状腺刺激ホルモン製剤(rhTSH)の適応に伴い本邦でも多くの施設で施行可能となり,主に海外のエビデンスをもとに推奨されるようになったが,その適応についてはRAIの歴史が長く症例も多い海外のガイドラインに,より具体的に示されている。

中リスク乳頭癌は,上記の超低・低・高のいずれにも該当しない症例とされている。敢えてTNMにのっとれば,T1 N1 M0もしくはT2 N0~1 M0ということになろう。甲状腺切除術式や郭清範囲については,その他の予後因子や患者背景などにより症例ごとに決定することが推奨されており,いわゆるグレーゾーンの症例が含まれる。本邦でもこれまでに幾つかリスク因子が提唱されている[]が,治療方針にある程度の幅があるのが中リスク乳頭癌ということになる。

海外のガイドラインとの比較

American Thyroid Association (ATA) 2015,National Comprehensive Cancer Network (NCCN) 2019,British Thyroid Association (BTA) 2014などが国際的に広く知られたガイドラインであるが,これらで示された乳頭癌のリスク分類と本邦のリスク分類の類似点や相違点はどのようなものだろうか。

各ガイドラインを比較してみると,リスク分類の条件となる因子の多くは共通である(表1)。これは多くのガイドラインがTNM分類に基づいて作成されていることが大きく影響していると考えられる。乳頭癌に関してこれまでに提唱されているリスク分類は,TNM以外にAGES,AMES,MACISなどがあり,構成する危険因子は年齢,性別,被膜外浸潤,腫瘍径,リンパ節転移,遠隔転移,病理診断による分化度などがある。これらの分類法を比較した報告では,TNM分類が最も再発や生命予後に関連していたとするものが多く[10],多くのガイドラインがTNM分類を軸に再発リスクを分類している根拠となっている。

表1.

各ガイドラインのリスク分類

原発腫瘍径や甲状腺外浸潤,また臨床的リンパ節転移や遠隔転移の有無などが,各ガイドラインのリスク因子として挙げられており,特にhigh riskとなる因子については,ほぼ同様の意義付けとなっている。人種や医療環境が変わっても,重要なリスク因子は共通しており,過去の報告から導き出された因子には普遍性があることが見て取れる。

ATAのガイドラインではBRAFTERTなどの変異がリスク因子として限定的ながら言及されている。これらの遺伝子変異は甲状腺乳頭癌では高頻度に認められることが知られているが,変異陽性例では再発リスクが有意に高いことが報告されている[1112]。今回の本邦のガイドラインではこれらの遺伝子変異については触れていないが,近い将来,遺伝子変異に基づいたリスク分類が導入される可能性が高いと考えられる。

各ガイドラインでリスク分類から導き出される治療方針については,時代の変遷とともに徐々に共通した内容になってきている。各ガイドラインが本邦を含む世界各地から発信されるエビデンスを徐々に採用してきたためであろう。

本邦のガイドラインが海外に影響を与えた最大の点は,リスク分類による手術方針の選択,特に低リスク乳頭癌に対する甲状腺葉切除術(=温存術)の推奨が挙げられる。ATA 2015やNCCN 2019でも,低リスク乳頭癌に対しては甲状腺全摘術でなく葉切除術を考慮してもよいとしている。不要な全摘術やそれによる合併症,また不要なRAI治療を避けることにつながるこの変化は,本邦の甲状腺外科専門医により蓄積された臨床データが海外でも評価された結果と考えられる。

もう1点,T1aN0M0症例に対する非手術・経過観察の推奨も海外に影響を与えている。2018年に改訂された本邦ガイドラインでは,特に超低リスク乳頭癌として分類し,その意義が強調されているが,既に2015年に改訂されたATAガイドラインでは,本邦からの報告を引用した上で[13],同様の症例については乳頭癌が疑われても穿刺吸引細胞診(FNA)を行わずに経過観察をすることを推奨し,またFNAで悪性と診断されても経過観察の選択肢を示している。FNAの是非についての議論はあるが,超低リスク乳頭癌と判断される症例に対して積極的治療を行わないという方向性は同じであり,本邦からの報告がエビデンスとして受け入れられていると考えられる。

一方,本邦のガイドラインが海外に近づいた点としては,RAI治療の推奨とその内容であろう。改訂された本邦ガイドラインでは,高リスク乳頭癌に対するRAI治療は強い推奨となり,さらにRAI治療の内容についても詳細に言及している。RAI治療の詳細は別項にあるのでここでは省くが,2010年版の本邦ガイドラインに比較してより詳細かつ具体的に示されるようになった。

おわりに

本邦ガイドラインが採用しているTNMは術前・術中に判断できる因子で構成されており,術式の決定に大変有用である。これによりリスク分類を行い,甲状腺切除術式および郭清範囲を定めた本ガイドラインは,手術治療に重きを置いて多彩な手術を行ってきた本邦の甲状腺外科の歴史を反映したものと感じられる。甲状腺癌では,ドライバー遺伝子変異と腫瘍の病理組織像やバイオロジーの相関に関する知見が蓄積されつつある。おそらく数年後には,病理診断に加えて遺伝子変異の情報も取り入れたリスク分類と,さらに個別化した治療方針を提示するガイドラインが作成されると期待される。

【文 献】
 

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