Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Parathyroid carcinoma with brown tumor mimicking multiple skeletal metastasis : a case report.
Yushi UekiTakeshi TakahashiHisayuki OtaRyusuke ShodoKeisuke YamazakiHajime UmezuArata Horii
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2020 Volume 37 Issue 1 Pages 55-59

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抄録

【症例】71歳女性。骨粗鬆症で加療を受けていたが高カルシウム血症を指摘され,当院に紹介となった。FDG-PETで副甲状腺腫瘍と骨への多数の集積を認め,99mTc-MIBIシンチグラフィでは左下副甲状腺への強い集積と,骨病変への弱い集積を認めた。シナカルセトを投与するも高カルシウム血症が改善しないため腫瘍摘出術を施行したところ,病理診断は副甲状腺癌であった。術後血清カルシウム,PTH-intactは正常化した。術後1年経過した時点でFDG-PET再検したところ,骨病変の集積は消退し,硬化性変化が進行していたため,Brown tumorの合併であったと判断した。【まとめ】副甲状腺癌とBrown tumorの合併はきわめて稀であるが,副甲状腺腫瘍に骨病変を伴う場合はBrown tumorを念頭に置き原発巣切除後の画像検査で骨病変の評価を行うことで,侵襲的な検査・治療を回避できる可能性が考えられた。

はじめに

副甲状腺癌は原発性副甲状腺機能亢進症の1~5%と非常に稀な疾患であり[],それに伴う難治性の高カルシウム血症への対応には難渋することがある[]。一方,Brown tumorは進行した副甲状腺機能亢進症に合併する反応性の溶骨性病変であるが[],血中のPTH濃度測定が容易となった近年では,骨病変を伴うほど進行した状態で原発性副甲状腺機能亢進症が診断されることが少なくなり,稀な疾患となっている[]。今回,FDG-PETで全身骨に多発する集積を伴う副甲状腺癌に対して,原発巣切除後に集積の消退を認め,Brown tumorと診断した1例を経験したので報告する。

症 例

症 例:71歳女性

既往歴:骨粗鬆症,右大腿骨顆上骨折手術後

家族歴:娘:乳癌

現病歴:X-5年から骨粗鬆症の診断で近位整形外科にて加療されていた。X-4年ころから高カルシウム血症を指摘されていた。X年1月,血液検査にてPTH-intact 1,246pg/mlと著明高値であったためX年3月に当院代謝内分泌内科を紹介初診。頸胸腹部CT上,甲状腺左葉背側の腫瘍性病変と硬化性,溶骨性の混在した多発性骨病変が指摘され,副甲状腺癌および多発骨転移が疑われた。高カルシウム血症の補正目的にシナカルセトが開始されたが改善得られず,手術目的に当科紹介となった。

初診時現症:頸部に腫瘤を触知せず,喉頭ファイバーでは声帯麻痺を認めなかった。副甲状腺腫瘍および骨病変に関連する自覚症状を認めなかった。

検査所見:血液検査上,血清カルシウム(補正)13.1mg/ml,PTH-intact 1,582pg/mlと高カルシウム血症,副甲状腺機能亢進を認めた。PTH-rPは基準値以下で,甲状腺機能は正常であった。ほかにALP 3,558U/Lと著明高値である以外に異常値を認めなかった。頸胸部造影CTでは甲状腺左葉背側(図1a),左肋骨(図1b),第2腰椎(図1c)に腫瘍性病変を認めた。頸部超音波検査では甲状腺左葉背側に血流豊富な低エコー腫瘤を認めた(図1d)。99mTc-MIBIシンチグラフィ(以下,MIBIシンチ)では甲状腺左葉と思われる部位に強い集積を認めたが,肋骨病変への集積は軽度であった(図2a)。FDG-PETでは甲状腺左葉下極以外にも,全身骨への強い集積を認め(図 2b),甲状腺左葉よりも肋骨病変への強い集積を認めた。

図1.

初診時画像所見(CT,US)

a.甲状腺左葉から背側にかけて腫瘍性病変を認める(白矢頭)。

b.胸腔内に膨隆する肋骨腫瘍を認める(白矢頭)。

c.第2腰椎に溶骨性変化を伴う腫瘍性病変を認める(白矢頭)。

d.超音波にて,内部血流豊富な低エコー腫瘤を認める。

図2.

初診時画像所見(99mTc-MIBIシンチグラフィ,FDG-PET)

a.MIBIシンチ(左,早期相 右,遅延相)で甲状腺左葉背側に強い集積を認める(矢印)。肋骨転移には弱い集積を認める(矢頭)。

b.FDG-PETでは甲状腺左葉(矢印)以外にも全身骨に強い集積が多発している。肋骨転移には強い集積を認める(矢頭)。

経 過:診断の確定と制御困難な高カルシウム血症への対応のため,X年4月に手術を行った。術前画像所見からは副甲状腺腫瘍と甲状腺左葉の境界が不明瞭であったことから,副甲状腺腫瘍摘出の際に,甲状腺左葉も合併切除した。腫瘍と周囲組織との癒着は認めず,反回神経は温存した。摘出標本は30×30×15mmのよく被包化された腫瘍であった。病理所見(図3)では線維性の被膜を有し,好酸性細胞がシート状に増殖する像を認めた。核異型は軽度であるものの,脈管侵襲を認めること,Ki-67 indexは 10%でhot spotを認めることから副甲状腺癌の診断となった。甲状腺組織への浸潤は認めなかった。PTH-intact値は術後6pg/ml,血清カルシウム値は最低で8.0mg/dlまで低下したため,カルシウム製剤内服による補充を最大18g/日まで要したが,術後3カ月時点で正常化し内服は中止された。骨病変に対する治療については,当院Cancer Boardにおいて骨転移として検討の結果,肋骨部や腰椎への切除術は侵襲性が高いと判断され,腰椎病変に対してのみ病的骨折予防目的に放射線治療を行い,他病変については増大傾向を見ながら追加治療を検討することとなった。X年5月に腰椎病変に対して放射線治療30Gy/10Frが施行された。X年9月のCTでは肋骨病変は硬化性変化が見られ,X+1年4月にFDG-PET再検したところ,全身の骨病変で硬化性変化が進行し,FDGの集積はほとんど認めなくなっていた(図4)。これまでの臨床経過から副甲状腺癌にBrown tumorを合併したものと判断し,経過観察中である。

図3.

病理所見

a.HE染色(弱拡大),b.HE染色(強拡大)。線維性の被膜を有し,好酸性細胞がシート状に増殖する像を認めるが,核異型は軽度である。

c.CD31染色。脈管侵襲を認める。

d.Ki-67染色。Index10%,hot spotを認める。

図4.

術後12カ月後の画像所見(CT,FDG-PET)

a.胸腔内の肋骨病変は硬化が進んでいる。

b.第2腰椎の溶骨性病変も,硬化性変化が生じている。

c.FDG-PETでは,術前に骨に多発していた集積はほとんど消失している。

考 察

本症例は副甲状腺癌に伴う高カルシウム血症が,骨粗鬆症として治療されていた数年前より遷延していたものと考えられる。そのため,現在は稀となっているBrown tumorを併発した状態で副甲状腺癌が指摘され,原発巣摘出後の骨病変の画像所見の変化によって骨転移ではなくBrown tumorとの診断に至った。

Brown tumorはしばしば悪性腫瘍の骨転移との鑑別が問題となり,多くは骨病変の生検によって悪性腫瘍を除外した上でBrown tumorと診断される[]。Brown tumorは組織学的には破骨細胞増生と骨吸収像,ヘモジデリン沈着などが見られ,骨原発腫瘍である骨巨細胞腫などに類似するため,病理学的所見のみでは鑑別困難とされ[],高カルシウム血症や副甲状腺腫瘍の存在を伴う場合に総合的に診断される。Brown tumorと診断されれば,副甲状腺腫瘍摘出により骨病変は徐々に硬化性変化が進み,骨病変への治療は不要である[]。本症例は高カルシウム血症,副甲状腺腫瘍を伴った多発骨病変が指摘された時点でBrown tumorを鑑別診断として骨病変の組織診断を先行していれば,骨転移と判断して行われた腰椎への放射線治療を回避できた可能性が高く,大きな反省点といえる。

FDG-PETは悪性腫瘍における全身病変の把握に有用で,病期診断や再発・転移の検索に大きな役割を担うが,良性病変・炎症性病変との質的な鑑別が困難な場合もあり,診断に難渋することも少なくない。Brown tumorにおけるFDG-PETの集積について言及した報告の中で,副甲状腺腫瘍の切除後,骨病変が硬化性変化していくことに伴い,FDGの集積も消退した例があり[10],本症例も類似した画像経過を示していた。一方,MIBIシンチは機能性副甲状腺腫の局在診断に有用な検査であり,ミトコンドリアが豊富な好酸性細胞にMIBIが集積するとされているが,Brown tumorにおけるMIBI集積は乏しいとされ,集積が認められる場合でも非特異的な破骨細胞の増生による骨代謝の亢進をみているとする報告もある[11]。それに対して,副甲状腺癌原発巣摘出後の胸椎転移についてMIBIシンチで強い集積を認め,再発の診断に有用であったとの報告がある[12]。

本症例ではFDG-PETで副甲状腺,骨病変ともに強い集積が見られたのに対して,MIBIシンチでは副甲状腺では集積は強く,肋骨病変ではわずかな集積であった(図2)。この点でも本症例の画像所見はBrown tumorについての他の報告と一致していた。

副甲状腺癌の予後は5年生存率20~90%,10年生存率は42~86%とばらつきが大きい[13]が,多くは比較的長期の生存期間が期待できる悪性腫瘍である。また,副甲状腺癌の転移部位としては頸部リンパ節30%,肺40%,肝10%とされ[14],骨転移は症例報告が見られるのみである[12]。このような場合,生存に加えてQOLを考慮した治療戦略が望まれる。Brown tumorは副甲状腺腫瘍の確実な切除を行えば,原発腫瘍の良悪性を問わず骨病変への治療は不要である。副甲状腺癌に骨病変を伴う場合で,明らかな症状を認めず急速増大を疑う所見がない場合は,まず原発巣切除を行ってPTHを正常化させたのちに画像を再検し,骨病変の変化を評価することでBrown tumorと骨転移との鑑別ができれば,侵襲的な検査・治療を回避できる可能性が考えられた。

おわりに

副甲状腺癌にBrown tumorを合併した,非常に稀な一例を経験した。治療前画像検査では多発骨転移と判断したが,治療後の経過によりBrown tumorと診断した。高カルシウム血症を伴う副甲状腺腫瘍症例において骨病変を認める場合,Brown tumorを念頭に置いて原発巣切除後の画像検査で骨病変の評価を行うことで,侵襲的な検査・治療を回避できる可能性が考えられた。

【文 献】
 

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