2020 Volume 37 Issue 4 Pages 226-231
原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)の治療の基本は手術であり,病的副甲状腺をすべて切除することである。今回はPHPTの手術適応を決めるための病状評価に必要な画像診断と,手術成功率を向上させるための局在診断に欠かせない画像診断を解説する。PHPTの骨粗鬆症の評価には,皮質骨である前腕骨での骨塩定量が重要である。一方で腰椎は変形が強いと正確な評価が困難となる。局在診断では,まず頸部USで副甲状腺の解剖学的な局在を念頭に病的腺を検索するが,ときに描出不能な位置に存在することもある。MIBIシンチは,とくに異所性副甲状腺腫の検索に有用である。甲状腺結節に集積することがあり,US所見と併せて鑑別する。CT検査は,造影剤を用いたdynamic studyが局在診断に有用である。当院では3相で撮影しており,とくに動脈相は副甲状腺を確実に造影するために,総頸動脈が造影されてから撮影を開始している。PHPT診療における画像診断の工夫を紹介する。
原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)は,副甲状腺に腺腫,過形成,癌が発生し,PTHが不適切に過剰分泌され,高カルシウム(Ca)血症をきたす疾患である。高Ca血症の原因としては,悪性腫瘍に伴うものに次いで多い。閉経後の女性に好発し,とくに50歳以上では有病率が0.1%とされる。主要な症候が,骨粗鬆症や腎・尿路結石であり,その原因として稀な疾患ではない。治療の基本は手術であり,病的副甲状腺をすべて切除することである。一方で,軽症例や無症候性であれば,専門家による指針に準じて手術を待機し,経過観察や内科的治療となることもある[1]。ただし,症候性であっても病的腺の局在診断がつかず,無治療,ビスホスホネートあるいはカルシミメティクス製剤の内服などで経過観察されている症例も少なくはない。今回は副甲状腺手術の主要であるPHPTの手術適応を決定する上でも重要な画像診断について論じたい。
PHPTの手術適応は,骨粗鬆症,腎・尿路結石,高Ca血症の症状を有する症候性のものであり,病的腺を検索して手術を行う。しかし病的腺の局在診断は医療設備や担当医師の診療経験にも左右され,実際の手術適応は施設によっても異なるのが現状である。画像診断で病的腺の局在が不明の場合には,外科医への紹介率が低く,経過観察される例が多いこと[2]や,一方でPHPT診療のhigh volume centerや経験豊富な内分泌外科医に紹介することで手術成功率が向上するとの報告が散見される[3,4]。重要なことは,USやMIBIシンチなどの局在診断のための画像診断は,あくまでも手術の術式や方針を決める目的であって,病的腺の局在が不明でもPHPTの診断や手術による治療を否定するものではないことである。また検査が不十分で,骨粗鬆症や腎・尿路結石の評価がされず,PHPTの病状が過小評価され,手術を待機されることもある。そこで今回は,①手術適応を決めるための適切な病状評価として,とくに骨粗鬆症の画像診断ポイント,②手術成功率を向上させるための病的腺の局在診断に欠かせない各種画像検査のポイントの2点に絞って解説する。
当院は甲状腺・副甲状腺専門病院として,年間に約100例程度の副甲状腺手術を行っている。副甲状腺疾患に対して当院の初診時には,血液・尿検査,頸部超音波検査,骨塩定量を行っている。また背景となる甲状腺疾患の評価も重要であり,甲状腺機能や甲状腺自己抗体の確認が望ましい。これらの検査でPHPTの診断もしくはこれを疑う所見であれば,局在診断としてMIBIシンチグラフィや造影CT検査などを行う。病的腺の局在診断がつけば原則的に手術を行っている(表1)。

当院での副甲状腺診療の手順
当院では腰椎(L2-4),橈骨(1/3遠位部),大腿骨(頸部)の3部位でDXA(dual-energy X-ray absorptiometry)による骨密度を測定し,骨粗鬆症の評価を行っている。とくにPHPTの骨粗鬆症は,前腕骨の評価が重要である。PTHの過剰分泌が続くと,前腕骨などの皮質骨において骨量が優位に低下するためである。また術前に橈骨の骨密度が低下している症例ほど術後に腰椎や橈骨の骨密度の回復率が高く,手術の効果が予測できることも報告されている[5]。
一方で,海綿骨である腰椎は,変形が強いと正確な骨密度の評価が困難となる。Trabecular Bone Score(TBS,海綿骨スコア)は,DXA画像を用いて骨の微細構造を点数化したもので,骨粗鬆症では点数が低くなるため,より正確な骨粗鬆症の評価が可能となる。
2)頸部超音波検査(US)USは検査担当者の技術や経験に左右されるモダリティであるため,副甲状腺の解剖学的な局在を念頭に病的腺の検索を行う。上副甲状腺は輪状甲状関節の周囲に,下副甲状腺は甲状腺下極の周囲から胸腺舌部とやや広い範囲に存在することが多い。もちろん甲状腺疾患の確認として,びまん性病変や結節性病変を評価しておくことも重要である。とくに甲状腺内に埋没した副甲状腺の場合,局在診断が困難である。一般的には副甲状腺への穿刺吸引細胞診は禁忌とされるが,副甲状腺腫を疑う場合には,USガイド下に穿刺吸引細胞診および穿刺液でのPTH測定が診断に有用である[6]。
また昨今の超音波検査機器は微細な血流の評価ができ,通常病的腺は血流が豊富なため,血流信号の有無でリンパ節と鑑別することが可能である[7]。
一方で,USで描出されない位置に病的腺が存在することもある。気管や食道の背面,上縦隔などは解剖学的にUSでの検索が不可能である。またびまん性甲状腺腫や結節性甲状腺腫が合併している場合には,病的腺の検索が困難となる。これらの局在診断には造影CT検査が有用である(図1)。

USで描出困難な病的腺
a:気管や食道の背面の副甲状腺。
b:上縦隔内の副甲状腺。
c:甲状腺右葉に多発結節がみられ,その背側に副甲状腺がみられる。
本邦では,2010年4月に保険適応となった。Tc-99m MIBIは副甲状腺の主細胞よりも好酸性細胞の多い副甲状腺腺腫によく集積する。甲状腺にも早期相で集積がみられるが,副甲状腺腺腫には集積が長くとどまるため,後期相で局在診断を行う。SPECTやSPECT/CTを併用すると,解剖学的な位置関係が把握しやすい。一方で,小さい病的腺や過形成病変には集積しにくい特徴がある。また甲状腺結節にも集積することがあり,鑑別の際に注意が必要である(図2)。MIBIシンチは,上縦隔や下顎周囲に存在する異所性副甲状腺腫の場合,背景となる甲状腺の影響を受けにくいために有用である。症例はMIBIシンチで上縦隔に集積がみられ,造影CTで前縦隔に濃染する小結節が確認された。胸骨切開により胸腺内の副甲状腺腺腫を摘出した(図3)。

PHPTと甲状腺結節の合併例
a:MIBIシンチ 早期相。
b:MIBIシンチ 後期相。甲状腺右葉全体と左葉下極端に集積がみられる。
c:US 甲状腺右葉に結節がみられる。
d:US 甲状腺左葉尾側に血流を伴う腫瘤影がみられ,左下副甲状腺腫大と診断した。

縦隔内副甲状腺腫
a:MIBIシンチ 早期相。
b:MIBIシンチ 後期相。縦隔に淡い集積がみられる。
c:造影CT 前縦隔に濃染する小腫瘤がみられる。
d:術中所見 胸腺内の副甲状腺腺腫を摘出した。
CT検査は,造影剤を用いて同じ部位を経時的に撮影するdynamic studyが局在診断に有用で,2相・3相・4相などの撮影方法が報告されている[8,9]。一般的に病的副甲状腺は,単純CTで甲状腺より低吸収,造影早期相で甲状腺と同程度に強く造影され,後期相では甲状腺より早くwashoutされるため,やや低吸収となる。そのため甲状腺周囲の異所性甲状腺との鑑別も可能である。当院では3相で撮影しており,造影プロトコルを示す(図4)。まず単純撮影では頸部と併せて腹部を撮影し,腎・尿路結石の有無を確認している。次に動脈相は,副甲状腺を確実に造影するために,心臓CTなどで用いるBolus Tracking法を採用し,総頸動脈が造影されてから撮影を開始している。通常は,右肘静脈から造影剤を急速注入しており,開始から20秒前後での撮影となる。造影剤投与量は除脂肪体重で換算し,男女差や体格差による造影のばらつきを減らしている。またPHPTでは腎機能が低下している症例もあり,eGFR値によってガイドラインで推奨される造影剤の減量や補液などの管理を行っている。動脈相撮影40秒後に静脈相を撮影して検査を終了する。

造影CTプロトコル
撮影時の体位は,頸部を後屈して,さらに両肩を背側に広げることで,鎖骨によるアーチファクトを低減でき,診断能の低下を防げる。また被ばく線量の低下や手術体位での病的腺の位置関係の確認にも有用である。
通常はUSとMIBIシンチで病的腺の局在が一致すれば診断としては十分と思われる症例が多いが,約10%程度に多腺腫大例があるため,当院ではCTも行い,可能な限り造影剤を使用することで,より確実な局在診断を心がけている。症例はUSとMIBIシンチで左下副甲状腺腫大が疑われたが,造影CTで右下腺にも病的腺であり,2腺病変であった(図5)。

副甲状腺2腺腫大例
a:MIBIシンチ 早期相。
b:MIBIシンチ 後期相。左下副甲状腺に集積がみられる。
c:造影CT 右下(矢頭)と左下副甲状腺(矢印)が造影された。
d:造影CT 3D再構成 右下と左下副甲状腺の腫大の位置関係が把握しやすい。
さらにワークステーションを用いて3D画像を作成することで,病的腺への血流が同定できることがあり,局在のイメージがより把握しやすくなる[10]。術前に画像検査で局在が診断できても,術中に病的腺の同定が困難な症例や,術中PTH測定で低下が確認できない症例もときどき経験する。CT検査は,USやMIBIシンチと比較して客観性が高いため,このような際にも見直しが可能である。
PHPTの適切な病状評価や病的副甲状腺の局在診断における画像診断のポイントについて述べた。病的腺は大小さまざまで,ときに甲状腺と離れた部位に存在し,さらに多腺に病変が及ぶこともあり,診断や手術の難易度も症例により大きく異なる。副甲状腺の手術成功のためには,それぞれのモダリティの特長を活かした局在診断が重要である。一方で,副甲状腺手術が年間10例未満の施設が,2008年当時の甲状腺外科学会会員が所属する施設の80%以上であるのが現状である[11]。当院での画像診断の工夫を,多くの内分泌外科医の副甲状腺診療に役立てて頂ければ幸いである。