Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Surgical treatment for secondary hyperparathyroidism in the new therapeutic era
Yasushi MochizukiTomoaki HakariyaKojiro ObaYasuyoshi MiyataHideki Sakai
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2020 Volume 37 Issue 4 Pages 237-241

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抄録

二次性副甲状腺機能亢進症(Secondary hyperparathyroidism:SHTP)は進行した慢性腎臓病に発症する疾患であり,特に慢性透析患者では高頻度に併発する。その発症は,慢性透析患者の生活の質(quality of life:QOL)ならびに生命予後に影響するとされ,積極的な治療介入が必要である。かつては副甲状腺摘出術(Parathyroidectomy:PTx)が主たる治療であったが,活性型ビタミンD製剤およびカルシウム受容体作動薬(カルシミメティクス)の登場で,手術症例数は低下し,近年はその適応が限られるようになった。しかし薬物療法抵抗性あるいは服薬困難により手術療法が必要となる症例も多く存在する。SHPTに対する治療変遷を振り返り,その中でのPTxの立ち位置を再考する。

はじめに

二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)は慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-mineral and bone disorder:CKD-MBD)における中心的な役割を果たす疾患であり,慢性透析患者では多くの症例が発症する。透析期間と発症率の関連性が示されており,腎代替療法において,腎移植施行数の少数である本邦では長期透析患者が多く,症例数も多い。

SHPTは骨関連事象だけでなく,貧血,心血管疾患,免疫力低下に関連するとされ,QOLだけでなく生命予後にも影響するため,適切な時期に適切な治療を行う必要がある。PTxは副甲状腺機能を確実にコントロールできる有力な治療法といえる。しかしCKD-MBDの病態解明に伴い,薬物療法の進歩がSHPTの治療法に変革をもたらした。カルシウム(Ca)およびリン(P)といったミネラルの動きともに,活性型ビタミンD(vitamin D:Vit.D)およびFGF23/Klotho蛋白といった生理物質が,CKD-MBDの発症と進行に大きく関与することが証明されている。また副甲状腺細胞におけるVit.D受容体およびカルシウム感受性受容体の機能解明が進み,活性型Vit.D製剤,カルシウム受容体作動薬が治療オプションとして登場すると,PTxの症例数にも変化がもたらされた。しかし,PTxは長期慢性透析患者の多い本邦では,適切に症例を選択して,施行される治療であることに現在も変わりはない。ここでは,SHPTに対する治療変遷を振り返り,現時点でのPTxの適応と利点について考察する。

二次性副甲状腺機能亢進に対する治療変遷とPTx

SHPTの治療目的は,副甲状腺機能の抑制にある。2012年に日本透析医学会(JDST)より公表された「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン」に診療方針が示された[]。本指針ではCaとPの目標値達成による副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)の管理を第一目標とされている。これはCa,P,PTHの生命予後に関連する適正値が示されたことにより[],骨病変の原因としてではなく,血管石灰化あるいは生命予後に関連する因子としてSHPTが考えられるようになった。ガイドラインでは,副甲状腺インターベンションとしてのPTxの適応は,内科的治療に抵抗する高度のSHPTとされ,intact PTHが500pg/dl以上を高度のSHPTと定義している。ただしここでもCa,Pがコントロールできない場合は,intact PTHが500pg/dl未満でもPTxの適応とされ,Ca,P適正化の重要性が示されている。

かつてはPTxがSHPTに対する治療の第一選択であったが,CKD-MBDの病態解明に伴い,活性型Vit.D製剤による副甲状腺機能の抑制が内科的治療の主体となった。Vit.Dパルス療法が多くの症例に使用され,PTHの抑制効果が示されたが,高Ca血症,高P血症のコントロール困難な症例が出現し,Ca×P積の上昇による血管石灰化による心血管疾患の増加が懸念された。2006年JSDTにより公表された「透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症のガイドライン」[]においてCKD-MBDの概念が提唱されCa,Pの目標値の設定により,PTxの症例数が増加する。

次に登場するのがカルシウム受容体作動薬(カルシミメティクス)である。副甲状腺細胞のカルシウム受容体に作用し,副甲状腺機能を抑制するシナカルセト,エテルカルセチド,エボカルセトが治療薬として使用可能となった。Ca,PTHの生理作用に準じた治療薬の登場は,PTHの抑制と同時にCa,Pの管理を容易にすることが可能となった。カルシミメティクスの登場によりPTx症例数は激減している。しかし確実なPTH抑制効果のあるPTxは,薬物療法抵抗性を示す症例に対する必要な治療オプションであることは,いつの時代も変わりはない。

変遷するPTxの適応と症例数

前述したように,SHPTの病態解明による薬物療法の進歩に伴い,PTx症例が低下傾向にある。二次性副甲状腺機能亢進症に対するPTx研究会(Prathyroid Surgeonʼs Society of Japan:PSSJ)では,2004年度より全国におけるPTx症例数が報告されている(図1)。

図1.

本邦におけるPTx症例数の年次推移

2006年のガイドラインによりCa,P適正化を目的としたPTxの推奨により,2007年に1,771例と症例数がピークとなったが,2008年のシナカルセトの登場により,徐々にPTxは低下し,2019年には98例にまで減少した。近年は新しいカルシミメティクスであるエテルカルセチド,エボカルセトが使用されるようになったことも症例数に影響した。しかし,薬物療法抵抗性あるいは有害事象による治療困難例が存在し,最近はそういった症例がPTx適応となりつつある。今後のPTxの症例数の動きを注視したい。また近年の症例数低下はPTx施設の手術経験あるいは技術の継承が困難となる可能性もある。PSSJの活動目的の一つにPTx技術の継承と人材育成の必要性が挙げられており,持続可能な手術手技の継承も重要な課題である。

長崎大学におけるPTxの経験

ここで長崎大学におけるSPTHに対するPTx症例の経験をレビューする。二次性副甲状腺機能亢進症に対する術式はさまざまであるが(表1)[],当院では副甲状腺全摘出および前腕筋肉内部分自家移植,可及的両側胸腺舌部摘出を全例に施行している。1996年に1例目を経験し,これまでにPTx 202例を施行した。患者背景を示す(表2)。性別は男性,女性ともに101例(50%)であり,年齢は55.0±10.6歳,透析歴は13.7±6.9年であった。術前血清Ca 10.4±0.9mg/dl,血清P 6.4±1.3mg/dlと高Ca血症,高P血症を認め,intact PTH 1,131.8±712.8pg/mlであった。

表1.

二次性副甲状腺機能亢進症の術式

表2.

患者背景

手術症例数の年次推移(図2)は,PSSJの全国調査と同様の傾向であり,2006年のJSDTガイドライン発表後増加したが,2008年のシナカルセト登場後,症例数は著明な低下傾向を認めた。

図2.

当院におけるPTx症例数年次推移

術前の局在診断は,頸部CT,頸部超音波検査,副甲状腺シンチグラフィー(MIBIシンチ)を用いて行っている。当院では,術前の診断腺数が2.9±1.0腺で,術後の摘出腺数が4.0±0.6腺であり,4腺未満の過小摘出腺数が18例(8.9%)であった(表3)。図3に術後intact PTHの推移を示す。多くの症例で副甲状腺機能のコントロールが可能であったが,術後intact PTHが60pg/ml以下とならず,機能亢進が持続した症例を12例(5.9%)に認めた。12例は,頸部残存腺摘出2例(0.5%),縦隔内異所性腺摘出2例(1%),薬物療法8例(4%)が後日必要となった。

表3.

治療成績(術前診断腺数/術後摘出腺数)

図3.

治療成績(PTx後のintact PTHの推移)

PTx後の全生存率は,1年生存率99.5%,5年生存率92.3%,10年生存率75.3%であり(図4),JSDTより公表されている統計調査で公表されている慢性透析患者の生命予後と比較すると[],PTx施行症例は生命予後が良好である可能性が示唆された。

図4.

治療成績(PTx後の全生存率)

PTxの利点と適応

CKD-MBDの病態解明に伴い薬物療法が治療の主たる役割を果たすようになってきた。しかし,PTxは迅速かつ確実に副甲状腺機能をコントロールできる治療法である。PTxの利点を考慮すると,適応すべき症例は数多く存在する。

PTx術後の早期の症状改善はQOL改善に寄与するといえる。PTxとシナカルセトによる治療前後のQOLスコアを比較した報告を集積したシステマティックレビュー[]では,PTxではSF-36,PAS(parathyroidectomy assessment of symptoms)スコア,VAS(visual analogue scale score)による評価で改善を認めたが,シナカルセトでは改善を認めなかった。

PTxでは生命予後改善効果も認められている。本邦では,JSDTの統計解析による4,428例のPTx症例に対する傾向スコアマッチング法を用いた1年死亡率の比較検討が報告されている。コントロール群と比較して,全死亡率が34%,心血管死亡率が41%低下していた。またシナカルセトを主とした薬物療法とPTxの死亡率を比較したレビューも報告されており,多くでPTx群の方が生命予後良好という結果であった[]。

さらにPTxには医療経済的利点があることも多く指摘されている。Schneiderらは,初回PTx症例を対象に,シナカルセトあるいはパリカルシトール使用群の医療費を比較検討したところ,それぞれ9カ月および12カ月でPTx単回の医療費を上回っていた[10]。本邦でも,安永らが,PTxの医療経済に関する検討を報告している[11]。シナカルセト+活性型Vit.D製剤+リン吸着薬を用いた典型的モデルによる治療を継続すると,約40~60週でPTx単回分の医療費を超過する概算している。PTxの医療経済的利点は明らかといえる。慢性透析患者の生命予後が良好とされる本邦では,長期透析症例が多い。長期の薬物療法による医療コスト増大は問題であり,長期予後の期待できる透析患者ではQOL改善,医療経済効果を考慮するとPTxを積極的に検討すべきである。

おわりに

CKD-MBDの病態解明に伴い,現在SHPTの主たる治療は薬物療法による内科的治療となっている。しかし,PTxはQOL,生命予後,医療経済性において薬物療法を上回る利点のある治療法といえる。特に長期慢性透析患者が多い本邦では,症例に応じて適切にPTxを選択することが重要であるといえる。症例数は低下傾向にあるが,これからも変わることのない治療法としてPTxという外科治療を次世代に継承していくことが必要であろう。

【文 献】
 

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