Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Clinical features on surgical patients of thyroglossal duct cyst and reports of accidental papillary thyroid carcinoma
Naoko KumashiroKeisuke EnomotoShun HirayamaSaori TakedaGen SugitaMuneki Hotomi
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2021 Volume 38 Issue 2 Pages 107-113

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抄録

甲状舌管囊胞は比較的よく認められる先天性囊胞疾患であり,悪性腫瘍が合併することは稀である。今回われわれは甲状舌管囊胞の診断で手術を行った症例の臨床的特徴について,甲状舌管癌合併症例を含め後向きに調査した。症例は,2011年4月から2020年3月までに当院当科にて甲状舌管囊胞の診断で手術を行った14例で,小児・若年者が6例,成人が8例であった。小児例は囊胞の反復感染が契機で手術を行った症例が多かった。14例のうち2例に乳頭癌の合併を認めた。1例は囊胞内に石灰化を伴う充実部分を認めており,術前から悪性の可能性も疑われた。しかし,1例は完全なる囊胞性病変であり,充実成分を認めなかったことから術前に悪性は疑っていなかった。甲状舌管囊胞は良性疾患であり一般的に悪性の合併は稀であるが,特に内部に石灰化を伴う充実病変がある甲状舌管囊胞は,悪性の可能性も念頭に加療する必要があると考えられた。

はじめに

甲状舌管囊胞は成人の約7%にみられる先天性囊胞疾患である。甲状舌管囊胞は良性疾患であるが,稀に癌が合併する。今回われわれは,当科にて甲状舌管囊胞の診断で手術を行った症例の臨床的特徴や,甲状舌管癌の存在などを明らかにした。

対象と方法

2011年4月~2020年3月までに,当科にて甲状舌管囊胞の診断で手術を行った症例14例を対象とし,和歌山県立医科大学倫理審査委員会の承認を得た後に,後向き調査観察研究(#3014)を施行した。手術時の年齢,性別,主訴,囊胞最大径,画像所見,術前細胞診の有無,術式,術後病理診断,囊胞の上皮成分,甲状腺組織の有無を後向きに調査した。さらに術前画像検査(CT,頸部超音波検査)にて乳頭癌合併の有無で,内部石灰化,隔壁構造,境界不明瞭,CT値が異なるか比較を行った。

結 果

甲状舌管囊胞にて手術を行った14症例を表1に示す。手術時の年齢は3歳~86歳(中央値46歳),男性8例(57.1%),女性6例(42.9%)であった。主訴は前頸部腫瘤が8例(57.1%)で,反復感染4例(28.6%),咽頭違和感1例(7.1%),無症状1例(7.1%)であった。囊胞最大径は10~44mm(平均22.4±10.0mm),囊胞のCT値は13~122HU(平均32.5±26.9HU)であった。全ての症例において頸部超音波検査もしくはCT撮影を行っており,その性状は13例(92.9%)が完全な囊胞性病変であったのに対し,1例(7.1%)は囊胞内に一部石灰化を伴う充実成分を認めた。術前に穿刺吸引細胞診を行っていた2例中1例はclassⅡ,もう1例は判定不能であった。術式は囊胞と共に,舌骨体中央部と舌盲管に向かって甲状舌管遺残組織を切除するSistrunk手術が13例(92.9%),囊胞のみを摘出する単純摘出術が1例(7.1%)であった。術後病理結果は12例(85.7%)が甲状舌管囊胞で悪性所見を認めなかったが,2例(14.3%)に乳頭癌を認めた。全例(100%)で囊胞壁に上皮細胞を認め,さらに12例(85.7%)で囊胞内に甲状腺組織を認めた。囊胞内の上皮成分の内訳は重複を含め,線毛円柱上皮細胞11例(78.6%),重層扁平上皮細胞9例(64.3%),肺胞上皮細胞2例(14.3%)であった。術前CT画像診断では,乳頭癌合併症例において,内部石灰化,内部隔壁構造,境界不明瞭の所見は,それぞれ1例(50%)ずつ認め,乳頭癌を合併しなかった症例では,それぞれ0例(0%),2例(16.7%),1例(8.3%)と頻度は低かった。加えてCT値は乳頭癌合併の2例では71±51HUであったが,乳頭癌合併のない12例では25.4±8.1HUと低い傾向にあった。乳頭癌の合併を認めた2例を以下に提示する。

表1.

甲状舌管囊胞手術症例一覧

症 例

症例6:17歳・女性。

主 訴:前頸部腫瘤。

既往歴:特記事項なし。

現病歴:以前より前頸部腫瘤を自覚しており,近医耳鼻咽喉科を受診した。前頸部正中で,舌骨の高さに弾性軟な腫瘤を認め,頸部超音波検査で囊胞性病変であったため,甲状舌管囊胞の疑いで手術目的に当院当科紹介となった。

初診時現症:前頸部正中で,舌骨の高さに横径40mm大の可動性のある軟な腫瘤を触知した。甲状腺に腫瘤を触知せず,頸部リンパ節の腫大も認めなかった。

血液検査所見:特記すべき異常値は認めなかった。

画像検査:頸部超音波検査では,前頸部正中に38×19 mmの一部高輝度の充実部を伴う多房性の囊胞性病変を認めた。甲状腺は正常であり,頸部リンパ節も異常を認めなかった(図1A, B)。単純CTでも同様に舌骨の高さで一部石灰化を伴う充実成分を含んだ囊胞性病変を認めた(図1C, D)。

図1.

症例6の頸部超音波検査および頸部CT検査

A,B:頸部超音波検査;前頸部正中に一部充実部を伴う囊胞病変を認めた。甲状腺内に明らかな病変は認めなかった。

C,D:CT水平断,矢状断;舌骨の高さで一部石灰化を伴う充実成分を含んだ囊胞性病変を認めた(白矢印)。

以上の結果から甲状舌管囊胞と診断して,甲状舌管囊胞摘出術を施行した。

手術所見:Sistrunk手術を施行した。囊胞と周囲組織との癒着は高度であった。囊胞右側は顎下腺,顎二腹筋と高度に癒着していたため,同部位は鋭的に切除した。囊胞は舌骨体部に連続しており,舌骨体部の一部を含め囊胞を切除し手術を終了した(手術時間2時間12分,出血量5ml)。

病理組織検査図2):複数の囊胞性病変が癒合しており,囊胞近傍の一部に乳頭様構造を含む異型甲状腺組織(最大18mm)が認められた。異型濾胞上皮細胞の細胞密度は増加しており,分布は不規則で,核腫大や核溝,核内封入体を認めた。以上より甲状舌管囊胞内の異所性甲状腺組織より発生した乳頭癌と診断した。

図2.

症例6の病理組織標本

A 肉眼所見:囊胞内(*)に一部充実成分(#)を認める。

B HE染色×40:乳頭様構造を含む異型甲状腺組織を認める。

C HE染色×200:異型濾胞上皮細胞の核腫大,N/C比増大,クロマチン増量などの核異型を認める。すりガラス状の核,核溝,核内封入体を認める。

術後経過は良好で術後7日で退院となっている。術後PET-CTにて全身検索を行ったが,明らかな甲状腺癌や転移を示唆する所見は認めなかった。術後33カ月経過し現在外来にて経過観察中であるが,明らかな再発転移は認めていない。

症例7:43歳・女性。

主 訴:前頸部腫瘤。

既往歴:特記事項なし。

現病歴:ダイエットで30kg減少したことを機に前頸部腫瘤を自覚するようになったため,近医耳鼻咽喉科を受診した。前頸部正中で,舌骨の高さに囊胞性病変を認め,甲状舌管囊胞の疑いで当院当科紹介となった。

初診時現症:前頸部正中の,舌骨レベルに横径15mm大の弾性軟な腫瘤を認めた。甲状腺に腫瘤は触知せず,頸部リンパ節の腫大も認めなかった。

血液検査所見:特記すべき異常値は認めなかった。

画像所見:超音波検査では,前頸部正中に15×10mm大の囊胞性病変を認めた(図3A)。単純CTでも同様に舌骨の高さで単胞性の囊胞性病変を認めた(図3B, C)。甲状腺は正常であり,頸部リンパ節の腫大も認めなかった(図3D)。

図3.

症例7の頸部超音波検査および頸部CT検査

A:頸部超音波検査;前頸部正中に囊胞性病変を認めた。

B,C:CT矢状断,水平断;舌骨の高さに単胞性の囊胞性病変を認めた(白矢印)。

D:CT水平断;甲状腺内に明らかな病変は認めなかった。

穿刺吸引細胞診:上皮細胞成分を認めず,判定不能の結果であった。

以上の結果から甲状舌管囊胞として,甲状舌管囊胞摘出術を施行した。

手術所見:Sistrunk手術を施行した。囊胞と周囲組織との癒着なく,容易に剝離可能であった。囊胞尾側は錐体葉と連続しており,切離結紮した。囊胞と舌骨体部を合併切除し摘出した(手術時間1時間16分,出血量5ml,図4A)。

図4.

症例7の摘出標本および病理組織標本

A:摘出標本;囊胞(#)は舌骨体部(*)と共に切除した。

B:マクロ組織標本;左上丸印:正常囊胞壁 右上丸印:乳頭癌成分。

C:正常囊胞壁(HE染色×40)。

D:正常囊胞壁(HE染色×200)。

E:乳頭癌成分(HE染色×40);密に配列した乳頭様構造を含む異型甲状腺組織を認める。

F:乳頭癌成分(HE染色×200);クロマチン増量などの核異型を認める。すりガラス状の核,核溝,核内封入体を認める。

病理組織検査:囊胞性病変は異型に乏しい数層の線毛円柱上皮で内面が覆われており,甲状舌管囊胞に矛盾のない所見であった。囊胞近傍に甲状腺組織が少量みられ,そのうち径5mmの範囲に柵状構造と,乳頭状構造を認めるとともに,核溝や核内封入体がみられることから,乳頭癌の診断となった(図4B~F)。

術後経過は良好で術後3日で退院となった。術後PET-CTにて全身検索を行ったが,明らかな転移を示唆する所見は認めなかった。術後58カ月経過し現在外来にて経過観察中であるが,明らかな再発転移は認めていない。

考 察

甲状腺原基は胎生第3週より舌盲孔に生じ,下降して甲状舌管を形成する。通常甲状舌管は胎生8週までに退化消失するが,稀に頸部正中線上に残存して囊胞を形成する(先天性囊胞)。囊胞壁は通常扁平上皮や円柱上皮,立方上皮などが単独もしくは混在して形成されている。自験例でも全例において囊胞内に扁平上皮や円柱上皮などの上皮細胞を病理学的に認めた。甲状舌管囊胞は確立された位置による分類は存在しないが,組織学的に囊胞が口腔近く位置するものでは扁平上皮が,下方に位置するものでは円柱上皮が多いと報告されている[]。またLivolsiらは129例中80例(62%)で,甲状舌管囊胞内に甲状腺組織を認めたと報告しており[],自験例では12例(86%)で甲状腺組織を認めた。

甲状舌管囊胞の治療法は外科的切除が第一選択である。成人群では整容面を目的とし,低年齢群では(症例1,3~5),囊胞感染を繰り返すため感染コントロール目的に手術を行っていた。標準術式はSistrunk手術がよく知られており,これは腫瘍または囊胞と共に舌骨体中央部を切除し,さらに舌盲管に向かって甲状舌管遺残組織を切除するものである。Sistrunk手術はSistrunkにより甲状舌管囊胞の発生病理学的知見に基づき開発された術式である[]。囊胞のみを摘出する単純摘出術では再発率が高いことが知られており[],林らはSistrunk手術では再発が5.1%であったのに対し,単純摘出術では33.3%と高い確率で再発を認めたと報告している[]。甲状舌管囊胞手術は囊胞および瘻管を取り残しなく全摘することが肝要である。今回のわれわれの検討ではSistrunk手術が13例(92.9%),囊胞のみを摘出する単純摘出術が1例(7.1%)であったが,いずれも舌下神経麻痺や出血,感染などの合併症や再発は認めていない。

甲状舌管囊胞は,稀に癌が合併するが,今回の検討で乳頭癌の合併が14例中2例にみられた。その頻度についてKeelingらは1.72%(2/116例)[],Livolsiらは1.89%(7/381例)[],長嶺らは1.61%(12/745例)[],清水らは4.3%(1/23例)[],Iftikharらは3.4%(2/58例)[]であったとそれぞれ報告している。自験例では14.3%と過去の報告よりも高かったが,14例と症例数が少ないため,サンプルバイアスがかかっていると考える。癌の病理組織は,乳頭癌が75%~92%,次いで濾胞乳頭癌が7%,扁平上皮癌が5%と報告されている[1013]。甲状舌管癌は乳頭癌が大部分であることから,甲状舌管上皮由来よりも,囊胞内の異所性甲状腺組織から発生するものが多いと考えられている[]。

術前に甲状舌管癌を診断することは難しい。過去の報告例でも,甲状舌管囊胞として摘出術を行った後の病理診断で癌の診断に至る症例が多く,術前に癌の確定診断には至らないことが多い。画像検査としては頸部超音波検査やCTなどを行うことが多いが,囊胞壁の不整や,囊胞内部の充実性病変,石灰化病変などが悪性を疑う所見として挙げられている。囊胞壁の不整や囊胞内部の充実性病変は高度の炎症性変化を伴う場合は良性であってもみられる所見のため,特異的ではないが,石灰化を伴う場合は悪性を強く疑う所見とされている[1415]。梶川らは本邦での報告例のうち画像診断などの結果が記載されている甲状舌管癌30例を検討した結果,63%に石灰化像が認められたと報告している[16]。坂部らは17例中8例(47%)で石灰化が存在したと報告している[17]。今回のわれわれの検討でも石灰化病変の存在は悪性である傾向が認められた。また近年ではOgawaらが3DCTで甲状舌管遺残に発生した乳頭癌を術前に診断したと報告している[18]。従来のCTやMRI,頸部超音波検査では描出困難であった甲状舌管遺残が,3DCTを用いることで診断ができたと報告しており,今後は3D再構成が可能な撮影を行うべきであろう。

術前に悪性を疑う場合,穿刺吸引細胞診を施行することがあるが,その正診率を島本らは50%[19],梶川らは55%であった[16]と報告している。正診率が低い理由として,癌が甲状舌管遺残組織の一部分に限局しており,穿刺しても囊胞液や正常遺残組織のみを吸引してしまうことが多いためと考えられている[19]。自験例で細胞診を行っていたのは14例中2例(14.3%)と少ない結果であったが,これは画像所見上囊胞性病変であることがほとんどであったこと,また小児例は穿刺が難しいことが原因と考えられた。自験例で最終的に悪性と判明した2例中1例においては,穿刺吸引細胞診を行っていたが,術前に悪性の診断を得ることはできなかった(症例7)。術後病理結果では5mmの微小乳頭癌であり,本症例では術前に癌の合併を予測することが困難であったと考える。一方で,症例6は囊胞内部に石灰化を伴う充実成分を有していたことから,悪性の可能性を疑い,術前に積極的に穿刺吸引細胞診を検討すべきであった症例と考えられた。

甲状舌管癌(乳頭癌)の予後に関してだが,Sistrunk手術による摘出を行うと,10年生存率が100%[10],治癒率が95%[12]であったと報告されている。また甲状舌管由来の乳頭癌合併症においてSistrunk手術のみを行った群と,Sistrunk手術に甲状腺全摘術を追加した群との間では,全生存率の有意差は認めなかったと報告されている[10]。甲状腺癌の合併は比較的稀で,Weissらは11.4%であったと報告しており[20],明らかに甲状腺内に異常を認めない場合は,甲状腺の合併切除は必要ないと考えられている。

甲状舌管癌の頸部リンパ節転移の頻度については,Vanらは14.6%であったと報告している[12]。甲状舌管癌は,特に乳頭癌の場合は比較的予後良好であり,頸部リンパ節転移の頻度も低いことから,明らかな頸部リンパ節転移を認める場合は頸部郭清術を必要とするものの,予防的頸部郭清術に関しては必要ないと考えられていることが多い。

症例6と症例7はいずれもSistrunk手術にて摘出しており,明らかな癌の遺残を認めなかったこと,甲状腺内に癌の合併がなかったこと,明らかな転移リンパ節を認めなかったことから,追加治療は行わず経過観察を行っているが,いずれの症例も現在まで再発転移なく経過している。

甲状舌管由来の乳頭癌の発症年齢は,梶川らが本邦報告57例検討したところ10歳~77歳と全年齢にみられ,ピークは30歳台であったと報告しており[16],一般的な甲状腺癌と比較し発症年齢が低い。本邦での甲状舌管癌症例で20歳未満の小児・若年者の割合は,島本らの報告によると7%(4/51例)であった[19]。通常の甲状腺分化癌での小児・若年者の割合が1~2%であること[2123]と比較すると,甲状舌管癌は若年者に認められやすいと考えられる。これは甲状舌管囊胞が先天性囊胞疾患であり,手術時の年齢が低いことが影響しているのかもしれない。予後に関してだが,甲状舌管癌の多くは乳頭癌であり,甲状舌管に発生する乳頭癌もまた通常の甲状腺乳頭癌と同様に低悪性度と考えられる。島本らや犬山らは,特に乳頭癌では腫瘍死は認めなかったと報告している[1924]。甲状舌管癌の予後因子に関する報告は少ない。若年性甲状腺乳頭癌では,術前の頸部リンパ節転移,遠隔転移がないものは予後良好であったと報告されており[25],若年発症の甲状舌管由来の乳頭癌の予後因子が,若年者の甲状腺乳頭癌に準ずると考えると,今回経験した症例6の予後は良いであろうと考える。

おわりに

甲状舌管囊胞の手術契機は成人では前頸部腫瘤が多く,小児では囊胞の反復感染が多かった。甲状舌管癌の囊胞壁は, 主に線毛円柱上皮と重層扁平上皮によって構成されていた。一般的に悪性の合併は稀であるが,悪性を疑う所見として囊胞内の石灰化病変を伴う充実病変があり,内部に石灰化病変を認める甲状舌管囊胞は悪性の可能性も念頭に加療する必要があると考えられた。

【文 献】
 

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