Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Current status and issues of 1,110 MBq outpatient “ablation” therapy in Japan
Koichiro AbeTomohide SanadaHidemitsu TsutsuiMana Yoshimura
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 38 Issue 2 Pages 68-73

Details
抄録

分化型甲状腺癌に対する放射性ヨウ素(radioactive iodine [RAI])治療が開始され,75年が経過した。これまで積み上げられた多くの研究結果に基づき,2015年にAmerican Thyroid Association (ATA)のガイドラインが,2018年に本邦の甲状腺腫瘍診療ガイドラインが改訂されている。未だ未解明な点が数多く残されているものの,RAI治療についてもエビデンスに基づく適切な施行が求められている。

本邦では2010年11月に1,110 MBq外来“アブレーション”が承認されたが,事実上遠隔転移のない中~高リスク患者を対象に補助療法(adjuvant therapy)として行われている。自験例を含めた近年の報告によると,対象患者のリスクが上がるほど“アブレーション”成功率が低下することが示唆された。適正な対象患者の選択には血中サイログロブリン値が指標となる可能性がある。

はじめに

分化型甲状腺癌(differentiated thyroid cancer: DTC)に対する1,110 MBq外来“アブレーション”が2010年11月に承認され,すでに10年を越える月日が経過した。腫瘍・免疫核医学研究会のホームページ(http://oncology.jsnm.org/)によると,2021年4月現在で全国110の施設が外来“アブレーション”を実施している。2018年の第8回全国核医学診療実態調査では外来“アブレーション”施行件数はのべ1,642件/年と報告されており,入院を含めたradioactive iodine(RAI)治療総数(4,487件)の4割弱を占めている[]。近年,国内のいくつかの施設から,その成功率,予後,大量投与との比較など,1,110 MBq外来“アブレーション”に関する知見が複数報告されている。入院治療の待機期間短縮にある程度の効果が見られたものの,問題点も明らかになってきた。

2015年American Thyroid Associationのガイドライン(ATA2015)が改訂され[],2018年には日本内分泌外科学会と日本甲状腺外科学会(当時)により甲状腺腫瘍診療ガイドライン(JPN2018)が改訂された[]。アブレーション(remnant ablation),補助療法(adjuvant therapy),治療(cancer treatment)の概念が明示され,甲状腺癌診療においても,1人1人の患者ニーズに応じた,エビデンスに基づく医療を提供しようとする機運が国内外で高まっている。

本稿では,1,110MBq外来“アブレーション”を中心にRAI治療について概説し,その現状と問題点を整理したい。

背 景

DTCに対する最初のRAI治療は,1946年Seidlinらによって報告されている[]。機能性甲状腺癌により甲状腺機能亢進症をきたし,多発肺転移,多発骨転移が出現した51歳男性に対してI-130/I-131を投与し,痛みや機能亢進症状の改善,腫瘍増殖の停止が得られたと報告されている。本邦でもI-131が入手できるようになった1950年代以降,徐々にRAI治療の施行施設が増えていった[]。

Mazzaferriらの甲状腺癌術後40年間の予後調査[]は,3,700MBq以上の大量投与を含むRAI治療が確かに腫瘍再発や腫瘍死の比率を低減させる効果を持っていることを示している(図1)。しかしながら,大規模研究を含むそのほかの多くの研究では,RAI治療の有無により再発率や死亡率に必ずしも有意差を見いだすことができず,本治療の有効性を十分なエビデンスを持って示すことができていない(表1)[]。実際,米国National Cancer Institute(NCI)のデータベースSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)に登録している12,661例の甲状腺癌患者の予後調査においても,観察期間中央値95カ月における全生存率はRAI治療群で87.43%と,非治療群88.12%と比べて有意差は得られなかった[10]。ところが,対象患者の中から中~高リスク患者(論文中はhigh riskと記載)を選択して同様に解析すると,RAI治療群では非治療群に対して有意に全生存率が改善した。また,Jonklaasらは2,936例のDTC患者をTNM stageによって分類しRAI治療が予後に与える影響について解析した結果,StageⅠやⅡの患者では有効性が認められなかったのに対し,Stage Ⅲ&Ⅳ患者で有意に生存率と再発率が改善された[11]。一方,T1a患者(ほとんどがATA2015 low risk,JPN2018超低リスクと考えられる)におけるRAI治療(ほとんどがremnant ablationと考えられる)の意義を検討した19文献のメタアナリシスによると,RAI治療は局所再発,遠隔転移再発,腫瘍関連死亡のいずれの発生にも抑制効果を示さなかった[12]。また,Sacksらは444例のDTC患者をTNM stageに基づいて分類しRAI治療の有効性について検討した結果,いずれのstageにおいても有効性を証明することができず,特にStageⅠ期の患者では非RAI群と比べてRAI群でむしろ有意に再発率が高かったことを報告している[13]。この現象はJonklaasらの解析でも認められるが,おそらくRAI治療群にはより再発の可能性が高いと予測された患者が選択された可能性があり選択バイアスが関与しているものと思われる。また,研究対象の半数以上(290例)がstageⅠであるため,高stage患者の結果の解釈には注意が必要である。Ruelらは,全米の甲状腺癌患者の85%が登録しているといわれるNational Cancer Database(NCDB)からATA2015に基づくintermediate risk患者21,870例を抽出し,RAI治療がこれら患者の全生存率にどの程度関与しているかを解析した[14]。全患者,65歳以上,45歳未満のいずれにおいてもRAI治療が統計学的に有意に生命延長に寄与するという結果であったが,全患者数に対する死亡者数の割合が低くさらなるデータの蓄積が必要である。

図 1 .

甲状腺癌の治療予後(文献より)

甲状腺全摘後,無治療群(None)163例,TSH抑制療法群(T4 alone)230例,TSH抑制療法+RAI治療群(T4+RAI remnant ablation)789例について,中央値16.7年の観察期間で再発率をプロットした。TSH抑制療法+RAI治療群では,TSH抑制療法群に比べて再発率が有意に低かった(P<0.0001)。

表 1 .

RAI治療の治療効果を検討した研究(文献より改変)

ここに挙げた研究を含め多くの知見から,ATA2015 high riskおよびJPN2018高リスクの患者ではRAI治療が検討されるべきであり,反対にATA2015 low risk患者の一部,JPN2018超低リスクおよび低リスク患者ではRAI治療が不要と考えられ,両ガイドラインにも明記されている。一方,Intermediate riskまたは中リスク患者のRAI治療の要否については未だ結論が得られておらず,ガイドラインでもselective useあるいは予後因子を考慮した上での推奨と記載されている。個々の患者ごとに適応を判断されているのが現状であり,精密な患者リスク評価に基づいた治療戦略の選択が望まれる。

1,110 MBq外来“アブレーション”の問題点

本邦におけるI-131を含む放射性物質の使用は厳格に規制されており,特にRAI治療を入院で行おうとする医療機関は多額な費用をかけて放射線治療病室を整備,維持しなければならない。しかしながら,それに見合う保険償還は不十分で,国内でRAI治療を行える稼動病床数は減少傾向である(図2)。一方,患者の高齢化,診断技術の進歩に伴い,RAI治療を必要とする患者数は増加しており,2010年当時RAI治療を受けるために治療病室入院を待つ期間は154.7日と報告されている[15]。こうした状況を打開するため,2010年11月に外来での1,110 MBq“アブレーション”が承認された。承認後から外来でのRAI治療件数は急激に増加しており,2012年調査で入院(2,880件)の27%程度(764件)であった外来治療件数が2017年調査では58%(外来1,642件,入院2,845件)と倍増している(図2)。ところが,当初期待された治療病室入院の平均待機期間は2018年の調査で114日と短縮はされたものの[16],患者数の増加に追いつけず依然3カ月以上の入院待ちが必要な状況が続いている。

図 2 .

本邦における入院および外来でのDTCに対するRAI治療件数と放射線治療病室数の推移

2010年の1,110 MBq外来“アブレーション”承認後,外来でのRAI治療件数が急激に増加している。入院でのRAI治療も増加しているが,放射線治療病室の稼動病床数は減少傾向にある。

1,110 MBq外来“アブレーション”は,「遠隔転移のない分化型甲状腺癌における甲状腺全摘術後に,残存甲状腺を破壊する目的でI-131ヨウ化ナトリウムカプセル1,110 MBq を投与される患者に限定する。」とその適応が記載されている[17]。ATA2015ではremnant ablationに相当し,JPN2018でも文字通りアブレーションがこの治療の適応である。ところが,ATA2015,JPN2018ともに低リスク患者の基本術式は片葉切除であり,JPN2018では中リスク患者も片葉切除の適応になり得る。当然ながら,これらの患者は1,110 MBq外来“アブレーション”を含むRAI治療の対象とはならず,JPN2018では純粋にアブレーション(remnant ablation)のみを目的とするRAI治療は推奨されないことになる。つまり,本邦で実施されている1,110 MBq外来“アブレーション”は,遠隔転移のない中~高リスク患者が対象であり,事実上補助療法(adjuvant therapy)が主目的である。

JPN2018での中リスクやATA2015でのintermediate riskに分類される患者の幅は広く,両ガイドラインでも高リスク/high risk,低リスク/low riskのいずれにも該当しない症例とされている。先に述べたように,中リスク/intermediate risk患者ではRAI治療が有効か否かのコンセンサスさえ未だ得られていないが,その理由の一つとして多様な患者背景が関与しているものと思われる。また,補助療法を目的とする場合,ATA2015では150 mCi(5,550 MBq)まで,JPN2018では100-150 mCi(3,700-5,550 MBq)の投与量が必要と記載されているが,本邦の外来“アブレーション”での投与量は「1,110 MBq以下」である[17]。

本邦で行われている1,110 MBq外来“アブレーション”は,果たして有効な治療であるのか?また,有効であるとするとどの様な患者に施行されるべきなのであろうか?

1,110 MBq外来“アブレーション”の成績

東京医科大学では,2009年9月~2019年11月に505例の1,110 MBq外来“アブレーション”を施行した(承認前の臨床研究時を含む)。そのうち,初回“アブレーション”を行い,血液データや画像データが完全に入手できたJPN2018中リスク(144例)および高リスク(97例)の合計241例を対象に,“アブレーション”成功率とそれに寄与する因子を解析した。“アブレーション”成功の定義を,初回RAI治療から半年~1年後に2回目RAI治療または370 MBq診断シンチを施行しその時点(thyroid stimulating hormone[TSH]刺激下)での,①;血中サイログロブリン(Tg)値<2ng/mL,または②;whole body scan(WBS)で異常集積なし,または③;①かつ②,の3通りに定めて“アブレーション”成功率を算出した(表2)。結果,全対象患者の“アブレーション”成功率は①で50.2%,②で51.5%,③で29.1%と,一般に報告されている成功率(45.0~90.3%)に比べて低い値であった[1821]。また,患者のリスクごとに成功率を算定すると,③の判定基準において中リスク患者で31.9%,高リスク患者で24.7%と,リスクが上がるに従って成功率が下がる傾向にあった(表2)。

表 2 .

アブレーション成功患者数と成功率

過去の報告と違いを生ずる理由の一つとして,“アブレーション”成功の定義の違いが挙げられる。HiguchiらはWBS陰性かつ刺激下Tg<5ng/mLで成功率53.2%と報告しており[18],JeongらはWBS陰性,頸部超音波(US)陰性,刺激下Tg<1ng/mLで45.0%と報告している[19]。ZhangらはWBS,US,またはCTで陰性を確認し,抑制下Tg値≦0.2ng/mLまたは刺激下Tg値≦1ng/mLを成功の基準として,1,110 MBq投与群340例中307例(90.3%)が“アブレーション”成功としている[20]。Iizukaらは,WBS陰性,抑制下Tg値<2ng/mLを基準として,1,110 MBq投与群68例中50例(73.5%)が“アブレーション”成功と報告している[21]。われわれの検討した3つの条件においても,①または②と③を比較すると成功率に20ポイント以上の開きがみられた。Tg値測定の時期,TSH抑制下か刺激下か,WBS以外の画像診断を含めるか否かなど,アブレーション成功の定義をどう定めるかによって当然ながら成功率は左右される。また,そもそもreferenceとなる集積部位のないWBS画像で,“陰性”をどう判定するのかという根本的な問題も存在する[22]。

表3は,自験例を含めた国内4施設からの1,110 MBq外来“アブレーション”の報告を,“アブレーション”成功率の高い順に並べたものである[182123]。同じ国内であるのに関わらず,最も高い成功率は低い成功率の3倍以上の値である。この違いは,上記判定基準の違い以外に適応患者のリスク分類に起因するものと推測され,高リスク/high risk患者が多く含まれるほど成功率が低下している。興味深いことに,成功率の比較的低い2つの施設は放射線治療病室を有していない。比較的リスクの高い患者に,1,110 MBqでも良いからRAI治療を行いたいとする臨床家の心情が反映された結果かもしれない。

表 3 .

国内4施設での1,110MBq外来“アブレーション”成功率の比較

では,どの様な患者因子が“アブレーション”成功に関与しているのであろうか?自験例において,表4に示す各因子についてReceiver Operating Characteristic (ROC)解析を行った結果,年齢,性別,手術から“アブレーション”までの期間,転移陽性リンパ節の個数,TSH抑制下および刺激下のTg値が,“アブレーション”成否に関わる有意な因子であった。これら6因子について二項ロジット解析を行うと,TSH抑制下および刺激下のTg値が最も影響力の強い独立因子として同定され,過去の研究と同様の結果であった[1823]。

表 4 .

“アブレーション”成功率に影響する因子(ROC解析)

血中Tgは分化型甲状腺癌の腫瘍マーカーとして古くから用いられており,体内に存在する甲状腺由来組織の総量を反映すると考えられている[2425]。“アブレーション”成功を予測する指標として,IizukaらはTSH抑制下でのTg≦4ng/mLを挙げている[21]。Higuchiらは抑制下Tg<5.4ng/mLの患者が“アブレーション”の良い適応であり,Tg>10 ng/mLでは不成功となる確率が高いとしている[18]。Abeらの解析では,刺激下Tg>9ng/mLの患者では1,110 MBq以上のI-131投与を考慮すべきとしている[23]。われわれの検討では,刺激下Tg≦2.9ng/mL,抑制下Tg≦0.3ng/mLが“アブレーション”成功を予測する因子と考えられたが,抑制下,刺激下を考慮しても施設によりかなりのばらつきがみられる。さらなる研究結果が待たれる。

終わりに

分化型甲状腺癌は10年生存率が90%以上と予後良好であるため,前向き試験が容易でなく,また大量データの必要性から統計学的解析が困難である。しかしながら,RAI治療の75年の歴史の中で多くの議論が積み重ねられ,現在われわれは一定のエビデンスを得るに至っている。治療病室不足を補うために本邦ではじめられた1,110 MBq外来“アブレーション”についても,複数施設から知見が報告されその実態が徐々に明らかになりつつある。

依然,解明されるべき点が多く残されているが,RAI治療の適応には患者リスクに基づいた治療戦略が必須であり,I-131投与量もそれに応じて考える必要がある。同時に,現状の1,110 MBq外来“アブレーション”では不十分であると思われる症例では,躊躇なく高用量を投与できるように環境整備がなされる努力が必要である。放射線治療病室管理加算の増点,外来での3,700 MBq投与の承認が喫緊の課題である。

謝 辞

本稿は,2020年11月26日に行われた第53回日本内分泌外科学会学術大会のシンポジウムの内容をまとめたものである。演者の朝永博康先生,尾身葉子先生,飯塚裕介先生,友田智哲先生,伊藤勅子先生,稲木杏吏先生に深謝申し上げます。

【文 献】
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top