Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Print ISSN : 2186-9545
Molecular targeted therapy for thyroid cancer: How to manage adverse events and optimize dose modifications
Naoki Fukuda
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2021 Volume 38 Issue 2 Pages 77-81

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抄録

放射性ヨウ素療法不応の分化型甲状腺癌に対し,sorafenibおよびlenvatinibが本邦で承認となってから5年以上が経過し,実臨床での使用経験が蓄積されつつある。SELECT試験の結果から,lenvatinibが第一選択薬として用いられることが多いが,日本人では高血圧や手足症候群,タンパク尿の頻度が高く,これらの毒性の管理に難渋することも多い。有害事象により休薬・減量を余儀なくされることも多いが,lenvatinibのdose intensityの低下により,治療効果が減弱することも報告されている。どのように有害事象を管理し,投与量を維持していくかは,治療効果の最大化において重要な課題であるといえる。投与量の減量に加えて,有害事象の発現時期を見極めることによる計画的な休薬により,忍容性の改善がみられることがある。また,早期の支持療法介入と過不足のない休薬・減量に加えて,それを可能にする適切な患者教育が,安全な治療継続には不可欠である。

はじめに

ヨード不応性分化型甲状腺癌に対する薬物療法の選択肢として,2014年にsorafenib,2015年にlenvatinibが承認され,早いもので既に5年以上が経過した。これらのマルチキナーゼ阻害薬が実臨床で広く使われるようになり,その使用方法やマネジメントについて,多くの経験が蓄積されてきた。Sorafenibは,国際共同第Ⅲ相試験であるDECISION試験において,プラセボと比較して有意なprogression-free survival(PFS)の延長(10.8カ月vs. 5.8カ月,hazard ratio [HR] 0.59,95% confidence interval [CI] 0.45-0.76,p<0.0001)を示した[]。同様にlenvatinibは,国際共同第Ⅲ相試験であるSELECT試験において,プラセボと比較して有意なPFSの延長(18.3カ月 vs. 3.6カ月,HR 0.21,95% CI 0.14-0.31,p<0.001)を示し,加えて奏効率もプラセボと比較して有意に高いものであった(64.8% vs. 1.5%,p<0.001)[]。これらの結果から,マルチキナーゼ阻害薬は,放射性ヨウ素治療不応性の再発・転移性分化型甲状腺癌の治療において標準的な選択肢となっており,特にlenvatinibは,奏効率の高さやPFSの長さから,優先すべき(“preferred”)薬物療法としてNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインでも推奨されている[]。一方,SELECT試験では,lenvatinib群の97.3%になんらかの有害事象が認められ,Grade 3以上の有害事象は85.4%で認められたように,決して有害事象が軽微な薬剤とはいえない[]。事実,少数例での検討ではあるが,lenvatinibの投与を受けた患者のQOLは,治療開始後早期では有害事象のため悪化することが報告されている[]。これはsorafenibでも同様で,DECISION試験では,投与開始後早期でQOLの低下が報告されている[]。安全に治療を継続し,十分な治療効果を得るためには,適切な有害事象管理が不可欠である。本稿では,第53回日本内分泌外科学会学術大会特別企画で発表した内容を中心に,lenvatinibの用量調節による毒性管理について解説する。

日本人におけるlenvatinibの有害事象

SELECT試験の日本人サブグループ解析では,高血圧,蛋白尿,食欲不振など一部の有害事象の頻度が全体集団と比較して高いことが報告されている[](表1)。その結果として,日本人ではlenvatinibの投与量の維持が欧米人と比較して難しい傾向にあり,SELECT試験では,全体集団(67.8%)と比較して,日本人集団(90.0%)でlenvatinibの減量を要した患者が多かった。実臨床においてもこの傾向は変わらず,本邦の市販後調査では,lenvatinibの投与量平均値が12.06mg/日(標準偏差;5.46mg)であったのに対し,イタリア,フランス,オランダなど欧州各国から報告されたリアルワールドデータにおけるlenvatinibの投与量は高い傾向にあった(表2)[10]。この要因として,代謝酵素の影響の可能性が考えられ,東アジア人に多いUGT1A1の遺伝子多型とlenvatinibによる高ビリルビン血症の関係について報告がされている[11]。しかし,その他の有害事象との関連を含め,大規模に検討されたデータはなく,日本人集団で有害事象の頻度が高い理由については,はっきりとは明らかになっていない。

表 1 .

SELECT試験全体および日本人サブグループにおける主な有害事象の頻度

表 2 .

SELECT試験および各国のリアルワールドデータにおけるlenvatinibの投与量

一般的に全身化学療法では,休薬や減量などの用量強度の低下は,治療効果の低下と背中合わせである。実際,SELECT試験では,投与中断期間が長い(全治療期間の10%以上)患者群では,投与中断期間が短い(全治療期間の10%未満)患者群と比較してPFSが短く(12.8カ月 vs.未到達),奏効率も低い傾向(52.8% vs.76.1%)がみられた[12]。しかし,休薬・減量を要しやすい日本人サブグループで,lenvatinibの治療成績が悪いということはなく,PFS中央値16.5カ月(95% CI:7.4カ月-未到達),奏効率63.3%と,全体集団とほぼ同様の治療成績が得られている。また,有害事象による毒性中止はむしろ全体集団より少なかった(3.3% vs.14.2%)。このことから,日本人では,lenvatinibによる有害事象の頻度は確かに高く,減量を要することも多いものの,有害事象のマネジメントおよび投与方法の工夫により,十分な治療効果を得ることができるものと考えられる。

Lenvatinibの投与方法の工夫

(1)初回投与量

Lenvatinibの初回投与量について,標準用量である24mgと,18mgとを比較したランダム化第Ⅱ相試験の結果が昨今報告され,18mg開始群で奏効率が劣る(46.8% vs.64.0%,オッズ比 [18mg/24mg] 0.50,95% CI 0.26-0.96)にも関わらず,有害事象の頻度に大きな差を認めないという結果であった。このことから,患者の状態が許せば,初回投与量は24mgで開始し,そこから適宜減量・休薬を考えていくのが望ましいと考えられる。

(2)Lenvatinib内服開始時の留意点

Lenvatinibによる有害事象の発症時期にはかなり幅があるが,SELECT試験では高血圧が開始後中央値2.3週(幅1.4-5.0週)[13],疲労が開始後中央値3.0週(四分位範囲1.1-7.0週)[14]と比較的早期に発現している(表3)。加えて,高血圧や悪心などと比べ,疲労や蛋白尿など一部の有害事象に対しては有効な対症療法がないため,症状が強い場合には休薬とせざるを得ない。このため,まずは治療開始後2週間程度で患者の状況を確認することで,その用量で継続可能かを判断する。この期間を入院で対応することも一つの選択肢である。

表 3 .

SELECT試験での主な有害事象の発現頻度と時期

治療開始の時点で降圧薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬やカルシウム拮抗薬など),軟膏(ヘパリン類似物質や尿素クリームなど),制吐剤(メトクロプラミドなど)などを事前にお渡ししておき,有害事象がみられれば使用を開始する。通常,降圧薬が効果を安定して発揮するまで1~2週間程度要するため,血圧の上昇傾向がみられれば(例:150/90mmHgを超えてくれば)内服を開始し,以後継続するよう指導する。また症状がつらい場合には無理して内服せず,自己判断で休薬してもよく,その旨を治療日誌に記載することを説明する。連日内服する治療薬であり,自宅での治療が大半となるため,このような患者教育も安全な治療継続には不可欠である。

(3)投与継続の工夫

Lenvatinib 24mgで治療を開始し,2週間の時点で忍容性が問題なければそのまま継続とする。内服継続が困難な有害事象が認められた場合には,まずは1週間程度休薬を挟むことで,回復がみられるかを確認する。この際,内服開始からどのくらいの日数で内服継続が難しくなったかを確認することが重要である。治療日誌を用いて患者と状況を共有するとわかりやすい。有害事象の出現が内服開始後早期の場合は,その有害事象がlenvatinibの投与量に依存していることが多いが,少し時間が経ってから生じた場合はlenvatinibの投与期間に依存している場合もある。この場合,有害事象が出現する手前で予め休薬を指示する「計画休薬」が有効なことがある[15]。具体的には,内服開始3週目に入ると症状がつらくなってくるようなケースでは,3週目に入る前に休薬するよう予め指示し,2週間内服,1週間休薬とすることで,治療継続可能となる場合がある。肝細胞癌での報告ではあるが,lenvatinib 12mgを5日内服2日休薬することで,単純に8mgへ投与量を減量して継続内服するよりも血中濃度がシミュレーション上は高く保たれ,実際に忍容性・治療効果も良好であったことが報告されている[16]。肝細胞癌では,lenvatinibの投与量が8~12mgと甲状腺癌の半分以下であることには注意が必要であるが,内服開始1週間以内に症状が強くなるケースでは,5日内服2日休薬による計画休薬も一つの選択肢であると考えられる。

最終的にlenvatinibの投与量をどの程度維持すればよいか,という点については,明らかな基準はない。SELECT試験では,lenvatinibによる腫瘍縮小効果は開始後最初の8週で最も大きく(中央値 25%),また8週時点でのlenvatinibの血中濃度と腫瘍縮小に相関がみられている(R2=0.355)[17]。当院での後ろ向き研究では,8週時点での相対用量強度(relative dose intensity)が60%(14.4mg/日)を上回る症例では予後が良好であった[18]。これらの知見から,エビデンスレベルは高くないものの,腫瘍の縮小が最も見込める開始後8週間において,計画休薬や減量を用いてrelative dose intensityを60%程度維持できるようにすることが,治療強度の一つの目安となると考えられ,開始後8週間がいわゆる治療の頑張りどころであるといえる。

今後の分化型甲状腺癌治療の展望

昨今,遺伝子パネル検査が承認され,実臨床でも用いられるようになった。特に分化型甲状腺癌は,BRAF[1922]やRET[2324]など,既に治療薬の開発が進んでいるドライバー遺伝子変異の頻度が高く,今後これらの薬剤が承認となることで,治療選択の幅はかなり広がることが予想される[25]。一方で,現時点での遺伝子パネル検査の適応が標準治療後であることや,lenvatinibやsorafenibは遺伝子変異によらず使用可能であることなどを考えると,まだまだこれらの薬剤を上手く使いこなすための検討はなされていく必要があるだろう。加えて,既存のマルチキナーゼ阻害薬で議論されてきた治療開始の適切なタイミングなどは,特異的な治療の開発が進んだ場合でも,進行の遅い甲状腺癌においてはやはりついてまわる議論となるだろう。分子標的治療薬の適切な使用方法に関する研究は,引き続き重要であると考えられる。

おわりに

Lenvatinibの有害事象は,欧米人と比較して日本人でやや強い傾向がみられるものの,現時点におけるヨード不応性分化型甲状腺癌治療のキードラッグであり,有害事象を適切に管理誌,治療を継続することが重要である。初期投与量の安易な減量を避け,支持療法や計画休薬(2週内服1週休薬や5日内服2日休薬など)を適切に用いることで,特に開始後早期(2カ月前後)の用量強度を維持することが,良好な治療効果に結びつくと考える。このためには,主治医による管理だけではなく,適切な患者教育も重要である。休薬や減量の方法については,前向き試験やランダム化試験の構築が難しく,さらなる検討が必要であるが,実臨床での工夫から,着実にデータを積み上げていくことが重要であると考える。

【文 献】
 

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