Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Print ISSN : 2186-9545
How to use tyrosine kinase inhibitors for unresectable thyroid cancer
Morimasa Kitamura
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2021 Volume 38 Issue 2 Pages 82-85

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抄録

レンバチニブは根治切除不能な甲状腺癌に対して非常に有効な分子標的治療薬であるが,有害事象が高頻度に出現し休薬・減量を余儀なくされる。長期間の休薬を必要とする場合,分化癌では影響は少ないが,未分化癌では再増大により致命的となる可能性がある。そのため,できるだけ長期間の休薬を行わずに高用量を維持するための工夫が必要である。当科では2019年以降,連日投与する方法(Daily法:11名)から平日5日投薬週末2日休薬する方法(Weekends-off法:6名)に切り替えた。初回減量までの期間はWeekends-off群の方が有意に長く,また導入後3カ月・6カ月時点のレンバチニブの用量はWeekends-off群の方が高用量を維持できていた。症例数が少なく,さらなる症例集積が必要であるが,5日投薬2日休薬という予定休薬の方法は高用量を継続投与していくための一つの方法として考慮してもよいと考えられる。

はじめに

甲状腺癌は他の癌腫と比較すると予後良好な疾患であり,標準的治療は外科的切除および放射性ヨウ素内用療法である。予後良好な疾患とはいうものの,一部に救済手術困難な再発や遠隔転移などをきたす例があり,放射性ヨウ素内用療法が不応となった場合にはこれまで効果的な治療法がなかった。しかし,甲状腺癌に対しても分子標的治療薬の開発が進み,2014年にソラフェニブ,2015年にはレンバチニブが切除不能甲状腺癌に対して保険承認され,患者にとって大きな福音となった。これら分子標的治療薬は甲状腺分化癌のみならず未分化癌に対しても効果を認める[]一方で,有害事象は必発であり,またその症状は決して軽いものとはいえず,休薬・減量を行いながら投薬している。現時点では甲状腺癌治療の最後の砦である以上,有害事象を適切に管理し,できる限り長く投与できることが望ましい。

レンバチニブ投与中にGrade 3以上の有害事象が出現した場合,通常1~2週の休薬を行った後,減量再開する。甲状腺分化癌では休薬中に増悪することは少ないが,未分化癌では急速に再増大をきたし致命的となることもある(図1)。また分化癌であっても胸水貯留時にはレンバチニブ投与でいったん胸水が減少しても休薬している間に胸水が再貯留してくるため,休薬期間を短くする必要がある(図2)。

図1.

甲状腺未分化癌に対してレンバチニブ投与中に休薬した場合の変化

A レンバチニブ投与前:甲状腺腫瘍が高度に腫脹している。

B 休薬前:レンバチニブが奏効し腫瘍が縮小している。

C 休薬1週間後:有害事象の出現にて7日間休薬したところ,腫瘍は再増大している。

図2.

レンバチニブ休薬による胸水の変化

A レンバチニブ投与前:左胸水貯留。

B 休薬前:レンバチニブが奏効し胸水が減少している。

C 休薬14日後:有害事象の出現にて14日間休薬したところ,胸水が再貯留してきた。

Tahara[]は繰り返す有害事象に対しては,無理なく継続するためには予定休薬が有用としている。例えば,患者毎に重篤な有害事象が発現するまでの治療期間をX日とした場合,その前日(X-1日)から7日間休薬することや,休薬後Y日で腫瘍が再増大する場合はY-1日で再開することを推奨している。しかし,実臨床ではその見極めは難しく,投薬に苦労している医師は多いと考えられる。SELECT試験において,レンバチニブの初回休薬までの期間は症例全体で3.0カ月,日本人においては0.9カ月であり[],非常に短期間で休薬が必要となる。そのため,日本人において高用量でレンバチニブを継続していくためには何らかの投与法の工夫が必要となってくる。今回,レンバチニブの開始用量,投与方法の工夫(予定休薬)について自験例を中心に提示する。

A)開始用量に関して

SELECT試験のサブ解析において,レンバチニブ導入後8週時点でのAUC(Area Under the Curve:血中濃度曲線下面積)と抗腫瘍効果に相関を認めるという報告[]があり,導入時から用量強度を高く保つことが望ましいと考えられている。しかし,前述したようにSELECT試験において初回休薬までの期間は症例全体で3.0カ月であるが,日本人に関しては0.9カ月と非常に短い[]。また用量強度に関して韓国や日本など東アジア人の維持用量が10mg程度[]であるのに対して,西欧人の維持用量は約20mg[10]と大きな差があり,日本人がレンバチニブの連日投与で高用量を維持していくのは難しいと考えられる。

導入早期から有害事象により休薬・減量が必要となることから,国内では導入時から減量するケースも多くみられる[]。しかし,ESMO Asia 2020においてBroseらが発表したレンバチニブの開始用量を24mgと18mgで比較したPhase Ⅱ試験の結果によると,奏効率は24mg群で64%,18mg群で46.8%と,開始用量が24mgの方が奏効率は高かった。一方でGrade 3以上の有害事象などの安全性の面では24mg群と18mg群の間で有意差は認めず,有害事象の管理をきちんと行えば用量強度を高く保つ方がよいという結果であった。

B)投与方法の工夫

レンバチニブを24mgから導入するといっても,日本人では連日投与を行うと有害事象によって早期に休薬・減量を余儀なくされるため何らかの投与方法の工夫が必要と考えられる。Tahara[]は有害事象が出現する直前に休薬し,再増大する前の投薬再開を薦めているが,外来通院の患者を診ていく中で,個々の患者に対して休薬・減量に関して細かく設定していくのは実際にはかなり難しい。一度Grade 3以上の有害事象が出現すると,患者自身にレンバチニブ内服に対する抵抗感が出てくるケースもあり,また休薬期間が長くなると腫瘍が再増大する危険性も出てくるため,短期間の予定休薬を挟むことで,レンバチニブを長期継続できるのではないかと考え,週末2日間休薬する方法を行うこととした。

1)5投2休投与図3

図3.

Weekends-off法

5日投薬2日休薬で,週末の2日間を休薬している。

レンバチニブは24mgで導入し,連日投与(以下,Daily法とする)を行うと,早期から休薬・減量が必要になる患者が多かったため,京都大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科では2019年以降,平日5日間投薬し週末2日間休薬する方法(以下,Weekends-off法とする)に切り替えた。

レンバチニブの半減期は約35.4時間であるため[11],2日間休薬するとレンバチニブの血中濃度はいったんゼロに近づく。そのため,体がリフレッシュされた状態で新たに内服でき,また血中濃度が低下する時間が短いため未分化癌であっても再増大の危険性が低いことが予想される。また連続5日間の投与であれば,有害事象の出現も少ないのではないかと考えた。

切除不能甲状腺分化癌または未分化癌に対して,2015~18年にレンバチニブを連日投与した11名(Daily法;観察期間4~42カ月/中央値16カ月)および平日5日間投薬し週末2日間休薬する方法(図2)で投与した6名(Weekends-off法:観察期間:4~16カ月/中央値7カ月)を対象とした。レンバチニブは全例24mgから導入した。

2)レンバチニブ導入後3カ月および6カ月の投与量

両群ともレンバチニブを24mgから導入しているが,導入後3カ月の維持量はDaily法では0~24mg(平均9.6mg/中央値10mg),Weekends-off法では14~24mg(平均18.3mg/中央値17mg)と,Weekends-off法の方が高用量を維持できていたものの,有意差は認めなかった(Mann-Whitney U test)。ただ導入後3カ月の時点でDaily法ではすでに3名において内服中止となっていたが,Weekends-off法では中止した患者は認められなかった。

導入後6カ月になると,Daily法では半数以上の7名において内服中止または死亡しており,内服量も0~14mg(平均3.3mg/中央値0mg)とかなり少なくなっていた。一方,Weekends-off法では内服量は0~24mg(平均13.3mg/中央値16mg)と,Weekends-off法の方が高用量を維持できていたが有意差は認めなかった(Mann-Whitney U test)。導入後6カ月の時点で24mgを維持できている患者が3名いる一方で,内服を中止した患者は2名認めた。

3)初回減量までの期間

初回減量までの期間はDaily法では3~96日(中央値22日/平均25日),Weekends-off法では15~441日(中央値68日/平均155日)で,Weekends-off法が有意に長かった(Log-rank test)。

Weekends-off法において6カ月時点でレンバチニブを24mg内服していた患者は3名いた。うち1名は導入後3カ月の時点で蛋白尿Grade 3のため,1週間の休薬後20mgに減量したが,未分化癌の増大を認めたため,再度24mgに戻し,そのまま導入後11カ月を過ぎる時期まで減量せずに内服を続行したが,344日目に全身転移にて原病死した。また1名は導入後441日目に筋肉痛Grade 3が出現し,休薬減量を行ったが,1年2カ月以上もの長期にわたり24mgを継続できた。もう1名は導入後10カ月以上経過するが,高血圧Grade 2以外の有害事象を認めず,現在も24mgを内服継続中である。

4)腫瘍縮小効果

ターゲット病変(5カ所以内)の長径の和の最大縮小率をみてみると,Daily法ではPartial response(PR)2名・Stable disease(SD)9名で,Weekends-off法ではPR 5名・SD 1名であった。再発部位や投与時期などの違いがあり単純な比較はできないが,Weekends-off法の方が縮小効果は高い傾向にあった。

5)肝細胞癌に対するWeekends-off法

レンバチニブは現在甲状腺癌だけでなく,肝細胞癌に対しても適応がある。レンバチニブは肝代謝であるために肝細胞癌での導入用量は12mg(甲状腺癌の導入用量の1/2)であるが,Daily法ではやはり有害事象のため休薬・減量を余儀なくされている。有害事象としては特に疲労感が強く出現し,継続困難なケースが多く見受けられる。Iwamotoら[12]は,われわれと同様,Weekends-off法を用いており,治療期間や生存率に関して連日投与よりも有意に良好な結果を得ている。また有害事象に関して,治療継続に大きな影響を及ぼしている疲労感はWeekends-off法では66.7%に忍容性があるが,Daily法では全例で忍容性を認めなかった。一般的に薬剤の治療効果はAUCと相関があるが,レンバチニブ12mgDaily法のAUCを100%とした場合,8mg Daily法ではAUC 45%,12mg Weekends-off法はAUC 70%と,予定休薬した方がAUCが高いという結果であり,実際レンバチニブを増量してWeekends-off法を導入すると腫瘍の縮小を認めた。

肝細胞癌での状況を甲状腺癌患者にそのまま当てはめることはできないが,有害事象によりレンバチニブを減量せざるを得なくなるよりも,Weekends-off法を行うことでAUCが多少下がってもレンバチニブを高用量で維持していく方法もよいのではないかと考える。

まとめ

今回,Weekends-off法を行った6名のうち,3名において長期間高用量を維持できた。導入後3カ月および6カ月の内服量に関して両群間に有意差はないものの,Weekends-off群の方が高用量を維持できている比率が高く,腫瘍縮小効果に関しても高い傾向を認めた。初回休薬までの期間はWeekends-off法の方が有意に長く,また長期間高用量を維持できている症例を半数に認めることから,症例数は少ないものの5日投薬2日休薬という方法は試みてもよいのではないかと考える。

本研究は京都大学医の倫理委員会にて研究番号R2031として承認されている。またこの内容の一部は第52回日本内分泌外科学会学術大会(東京)のシンポジウムにおいて口演した。

【文 献】
 

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