Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Survival rate as an outcome for surgical intervention to patients with primary hyperparathyroidism
Yasuhiro Takeuchi
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2021 Volume 38 Issue 3 Pages 126-129

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抄録

原発性副甲状腺機能亢進症の根治的治療法は外科的副甲状腺摘除である。一方で,無症状で診断されることが多いのみならず,最近では高齢になり初めて診断が付くことも稀ではない。そのため,生命予後とQOLに関する手術と保存的治療の比較検討は重要な臨床的課題となっている。20世紀後半に報告された大規模なコホート研究では,原発性副甲状腺機能亢進症における生命予後の不良が報告されている。また,その死因は心血管疾患や悪性腫瘍によるものであることが報告されている。一方で,保存療法(非手術療法)と生命予後の悪化との間には相関は認められないとされている。手術により生命予後の改善を認めるとする観察研究は数多く認められるが,手術対象となる患者の選択バイアスや原疾患の重症度あるいは合併症に影響されるところが大きいため,患者全体として外科的治療により保存療法と比較して生命予後が改善すると結論されるには至っていない。

はじめに

原発性副甲状腺機能亢進症は有病率が0.1%あるいはそれ以上と推定される頻度の高い内分泌疾患である[]。現在,新たに診断される患者の多くは骨粗鬆症あるいは骨密度低下以外の問題を有しない無症候性であることが多く,その外科的あるいは内科的(保存的)治療の臨床的意義について議論が高まっている。そのため,疾患の自然経過に加えて,外科治療および内科的治療による長期予後についての知見が重要となっている。無作為化割り付け試験での外科治療や内科治療による長期予後の評価は困難であるため,単一もしくは少数施設での症例レジストリや地域におけるコホートを用いた臨床研究で,手術や内科治療による長期予後が検討されている。

本稿では,これまでに報告されている臨床研究の成績に基づいて,原発性副甲状腺機能亢進症の長期予後,特に外科治療介入のアウトカムとしての生命予後に焦点をあてて概説する。

1.原発性副甲状腺機能亢進症の生命予後

原発性副甲状腺機能亢進症患者の死亡率は対照群に比して高いことがいくつかの観察研究から報告されており,その死亡率上昇に寄与する疾患は,心筋梗塞などの心血管障害であると推定されている。しかしながら,過去の臨床研究では,高カルシウム血症が顕著であった時代の症例が多く含まれるために,近年になって軽症あるいは無症候性原発性副甲状腺機能亢進症が主体となっている状況では,必ずしも同様の結果が得られるとは限らないという懸念がある。実際に,1965年から1992年にかけての検討では,血中カルシウム濃度の平均値が低下するのに相関して心血管障害に関連する死亡率が低下していることが明らかにされている[]。従って,本症に対する外科治療による生命予後の変化を評価する場合,対象症例の診断や手術が行われた年代を考慮することが必要である。

また,古い文献では本症には高血圧を合併することが多いとされている[,]が,現在の高血圧の定義に当てはめて年齢別の高血圧合併頻度を検討すると,一般住民における高血圧の頻度よりも高いという明白な根拠はない。本症における高血圧は生命予後との関連では重要であるとする報告はある[]ものの,治療方針の検討に際して優先的に考慮される因子とはされていない。

オーストラリアのRoyal North Shore Hospitalで1961年から1994年までに診療された原発性副甲状腺機能亢進症患者561例では,一般住民に対して相対死亡率の上昇を認めた(相対生存率86.8%:95% CI 84.9~86.2,P<0.001)[]。血清カルシウム値12mg/dLより高値群と低値群に分けても,両群間の死亡率に差は認めなかった。全体561例中113例は副甲状腺手術を受けなかったが,手術の有無で生命予後に相違は認められなかった。本研究では,原発性副甲状腺機能亢進症において死亡率が上昇することは確認されたものの,手術による生命予後の改善は認められなかった。ただし,手術群の血清カルシウムと副甲状腺ホルモン(PTH)濃度は非手術群より有意に高かったことが示されている。非手術群では血中PTH高値が死亡リスクとして抽出されており,手術の生命予後への影響はこの点を考慮して評価する必要がある。血中PTH高値以外に,非手術群における死亡率を高める因子として,冠動脈疾患の既往と腎結石が抽出されている。なお,手術群と非手術群で共通に生命予後悪化と相関する因子は糖尿病の合併であったことが明らかにされている。一方で,この研究では,血清カルシウム値の高低と生命予後の間には密接な関連は認められていない。

スコットランドにおいてNational Health Serviceで登録されている原発性副甲状腺機能亢進症の病名が付いた入院患者(1986年から2010年)2,589例(男性571例,女性2,018例)の標準化死亡率は一般住民に対して上昇を認めた(1.58,95% CI,1.48~1.67)[]。原発性副甲状腺機能亢進症の死亡原因として,一般住民に比して有意に高率であったのは,心血管疾患,内分泌代謝疾患,腎不全,呼吸器疾患であった。

2.手術と生命予後

先に述べたスコットランドにおける原発性副甲状腺機能亢進症を対象とした研究では,全症例の54.8%は副甲状腺手術を受け,その標準化死亡率は一般住民に対して 1.30倍であった(95% CI,1.18~1.43)[]。非手術例の標準化死亡率は一般住民の1.88倍(95% CI,1.73~2.03)であり,手術例に比べて有意に高値であった(P<0.001)。チャールソン併存症指標で調整すると,非手術例の標準死亡率は1.49倍(95% CI,1.30~1.70)であった。本研究では,原発性副甲状腺機能亢進症において死亡率が上昇することが確認された。また,手術による生命予後の改善を認めると結論されている。一方で,併存症の有無や数で調整すると,手術による生命予後の改善効果は小さくなることも示されている。

スウェーデンのSahlgren大学病院において1953年から1982年の間に手術を受けた原発性副甲状腺機能亢進症患者845例(男性216例,女性629例)の後ろ向き観察研究では,原発性副甲状腺機能亢進症の術後の死亡率は,高血圧症を合併する群では非合併群に比べて50%高いことが報告されている[]。死亡の原因となる心血管疾患は,術前血清カルシウム値や切除された副甲状腺腺腫重量あるいは線維性骨炎の有無や腎機能と相関を認めた。一方で,腎結石症の合併例では,心血管疾患のリスクが低かった。手術後に経年的に死亡リスクの低下を認めること,その低下傾向は高血圧合併例で顕著であることが報告されている。また,死亡の主な原因である心血管疾患の合併は,原発性副甲状腺機能亢進症の病状と相関が認められている。本研究の対象は40年以上前の症例であり,術前の血清カルシウム値を含めて,現在の患者に演繹することに妥当性があるかどうかは不明である。

米国ミネソタ州のMayo Clinic単一施設で,1980年から1984年の間に手術を受けた原発性副甲状腺機能亢進症患者1,052例における後ろ向き観察研究では,本症の術後患者の生命予後には,本症を有しない対照群と比較して有意差を認めなかった[]。背景因子別の検討からは,腎結石がある症例や骨粗鬆症のない症例において生命予後が良好であったとされている。腎結石のない症例に限ると,男性,年齢あるいは血中PTH濃度の高値が生命予後の不良に関連していた。腎結石のある症例では,年齢のみが生命予後の不良と統計学的に有意に関連していた。腎結石症あり群で生命予後が良いことは,他の観察研究でも認められており[],興味深い現象である。本研究の結果は,術後の生命予後が対照群と同等ということである。従って,もし本症の生命予後が対照群と比べて不良であるという仮説が正しいとするならば,手術は生命予後を改善するという仮説を支持することになる。

スウェーデンで1958年から1997年の間に手術を受けた20歳を超える原発性副甲状腺機能亢進症患者10,995例における術後の標準化死亡率は,一般住民に対して1.2(95%CI,1.19~1.27)と上昇が認められた[]。しかしながら,対象を1985年から1997年に手術された6,386例に限定すると,一般住民と比較して上昇は認められなかった。1958年から1984年では術後死亡率が高く,それ以降では術後死亡率の上昇が認められないという結果は,早期診断に基づく手術が死亡率の低下に寄与することを示唆している。

デンマーク全国で1980年から1999年の間に原発性副甲状腺機能亢進症として入院歴のある患者で1,934例の副甲状腺手術例を,内科的治療あるいは経過観察した1,279例と比較した研究が報告されている[10]。手術群では非手術群に比べて,死亡の相対リスクは0.65(95%CI 0.57~0.73)と低下が認められた。また,手術群では,急性心筋梗塞の相対リスクは0.59(95%CI 0.42~0.83),脳卒中の相対リスクは0.57(95%CI 0.37~0.88)といずれも低下が認められた。

スウェーデン全国で1964年から1999年の間に多腺腫大を認める原発性副甲状腺機能亢進症の手術を受けた患者3,485例においても,単腺腺腫例と同様に術後の標準化死亡率は,一般住民と比較して高い(1.4;95% CI,1.37~1.52)[11]。死亡率が高い状況は術後15年以上まで持続する。超過死亡の原因は,心血管疾患,糖尿病,泌尿生殖系疾患および悪性腫瘍であった。本研究の中では最も年代が新しい1990年から1999年の症例においては,全体の超過死亡は高い状況を認めるものの,心血管疾患による超過死亡は認められないという結果が明らかにされている。この点は,他の臨床研究の成績と矛盾しない。

スウェーデンのLund大学病院で1989年から2003年の間に原発性副甲状腺機能亢進症の手術を受けた患者323例の術後においては,10年にわたり相対死亡率の上昇が認められた[12]。これは,一般住民の死亡率との比較であり,手術が死亡率を上昇させることを示すものではない。手術前後に一貫して糖尿病と高尿酸血症を認めることと相対死亡率上昇との間に相関が認められる。糖尿病の合併により原発性副甲状腺機能亢進症術後の死亡率の上昇を認めることは,オーストラリアからの報告[]と矛盾しない結果である。

おわりに

原発性副甲状腺機能亢進症は頻度の高い内分泌疾患であり,その根治的治療法は責任病巣となる腫大副甲状腺の外科的摘除である。手術による骨折抑制効果や腎結石の改善効果はコンセンサスの認められるところであるが,生命予後とQOLに関する手術と保存的治療の比較検討は,現在の重要な臨床的課題となっている。その背景としては,臨床的に無症候性とされる患者が多く存在することに加え,最近では高齢になって初めて診断が付くことも稀ではないことがある。

2009年に報告された無症候性原発性副甲状腺機能亢進症の国際会議における過去の研究成果に基づいた報告によると,1987年から1998年までに報告された大規模な地域住民コホートを対象とした観察研究では原発性副甲状腺機能亢進症における生命予後不良が認められている[13]。同様の結果は,平均血清カルシウム値 10.4mg/dlという軽度の副甲状腺機能亢進症を対象とした観察研究においても示されている。また,その死因は心血管疾患や悪性腫瘍によるものであることが報告されている。血清カルシウム値と死亡率の間には相関が認められるものの,保存療法(非手術療法)と生命予後の悪化との間には相関は認められないとされている。一方で,手術により生命予後の改善を認めるか否かは,対象となる患者の選択バイアスや原疾患の重症度あるいは合併症に影響されるところが大きいため,一律に結論を求めることは困難であるとされている[13]。

わが国では本症に関する大規模な長期にわたる観察研究がなく,今後の検討課題である。また,これまでの生命予後に関する観察研究は北欧や北米あるいはオーストラリアで行われたものであり,心血管障害の頻度が相対的に低い日本人に適用できるか否かについては慎重な評価が必要であろう。

【文 献】
 

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