Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Print ISSN : 2186-9545
Outcomes of surgical intervention for primary hyperparathyroidism : the evaluation of postoperative quality of life
Akihiro Miya
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2021 Volume 38 Issue 3 Pages 136-140

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抄録

臨床研究では,主観的なアウトカムの評価が重要視され,治療介入によるQOL評価には患者報告型アウトカム(PRO)が用いられるようになっている。原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)に対する標準的なQOL評価基準はなく,包括的尺度の代表例であるSF-36を用いた研究や,PHPTに特異的な症状の研究が行われている。高カルシウム(Ca)血症により,精神的および身体的に様々な症状を起こすが,漠然とした非特異的症状のため,加齢,日常生活のストレス,あるいは他の疾患の影響かと判断される可能性がある。手術によりQOLが改善されるという報告が多いが,改善されないという報告もあり,一貫していない。無症候性とされる軽度高Ca血症のPHPTにおいても,手術によりQOLは改善する可能性がありそうだが,確実には証明されていない。今後は評価方法を含めてさらに議論される必要がある。

はじめに

原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)による高Ca血症によって,倦怠感,口渇,いらいら感,筋力低下,認知度低下など様々な症状を起こすが,軽度高Ca血症の症例では,漠然とした非特異的症状のため,加齢や日常生活のストレスなどによる影響との鑑別がしばしば困難である。軽度PHPTにおける手術の適応が議論されているので,治療効果を評価することが求められている。以前われわれはPHPT術後の健康関連QOLを評価する方法としてSF-36とPASスコアを紹介したが[],医療介入によるアウトカムの評価方法の考え方の進歩に伴い,今回は先ずアウトカムやQOLの評価について解説して,次にPHPT術後のQOL評価の研究を紹介する。

1.介入アウトカムの評価

介入によるアウトカムを評価する場合には,体重や血液検査などのデータが客観的数値として得られるアウトカムと,疼痛,嘔気,QOLなど患者の身体症状など主観による数値化しにくいアウトカムがある。後者のアウトカムは患者報告型アウトカム(PRO)といわれ,患者満足度と健康関連QOL(HRQOL)を含む。したがって,PROはQOLと同義ではなく,QOLは患者だけではなく一般人の健康観を含めた健康の捉え方を意味するが,PROは病気に関する捉えやすい部分的な健康観を扱うことが多い。しかしPROは多くの場合で臨床試験のエンドポイントとしてQOLを代替し,症状(疼痛,倦怠感,嘔気,抑うつ気分など),機能(日常生活活動,認知機能など),HRQOL(精神的,身体的,社会的健康など)などを含める。今回の検討もこれにしたがい,PROはQOLを代替して扱った。

2.健康関連QOLの評価

臨床研究で扱うQOLとは,HRQOLといわれる概念で,治療や病状がQOLに与える影響に焦点を当てている。HRQOLを測定する尺度は,「包括的尺度」と「疾患特異的尺度」に分類される。包括的尺度とは,様々な疾患の健康関連QOLを測定することができ,他の疾患や健康人のQOLと比較することもできる。身体機能,メンタルヘルスというように多次元に分けて評価する尺度であり,SF-36(Short-Form Health Survey)がしばしば利用されている。8つの健康概念を測定するための36項目の質問から成り立っている。これを用いるメリットとしては,国民基準値が設定されているので,単アームの対象にQOL調査を行った場合でも国民基準値と比較することが可能である。欠点は,スコアに影響する因子が原疾患によるものか,関係がないイベントによるものなのかわかりにくい点がある。一方,疾患特異的尺度は疾患特有の出現頻度が高い症状について評価するので,スコアの差が検出しやすい。

3.PHPTの術後QOL評価の報告

PHPTの相当数の文献で,治療前の様々な症状が手術によりある程度改善することを報告しているが,否定的な報告もあり一貫していない。治療介入による効果を証明するような大規模のランダム化比較試験(RCT)はない。診断されるほとんどが無症候性PHPTである現在における課題は,これらの症状がしばしば軽度で非特異的であり,PHPTと関係がない可能性があることである。今回特に無症候といわれる軽度高Ca血症のPHPTを中心に術後QOL評価の研究を紹介する。

a)ランダム化比較試験

軽度PHPT術後のQOLを調査した4つのRCTがあり,これらのうち3つの研究でSF-36を使用している(表1)。結果は,それぞれの試験でSF-36のいくつかの下位尺度やサマリースコアで改善を認めたが,一貫していない。Raoらは,軽度PHPT 53人を手術群(n=25)と経過観察群(n=28)に割り当て,2年間観察した[]。SF-36での評価は,手術群が精神的日常役割機能と社会生活機能で有意に優れていた。心理的機能はSCL-90-Rで評価され,手術群では9項目のうち不安と恐怖症が有意に改善した。3つの試験のうち最大のBollerslevらの研究では,軽度PHPT 191人を手術群(n=96)と経過観察群(n=95)に割り当て,2年間観察し,SF-36とCPRS(Comprehensive Psychopathological Rating Scale)で評価した[]。手術群は1年後の心の健康がわずかに良いが,2年後には差がなかった。精神的日常役割機能は,2年後まで手術群が良いが差は小さい。CPRSは術後1年では経過観察群と比較すると手術群は改善傾向だがわずかで,2年後も同様であった。結論としては,経過観察群と比較して手術群の利点は見られなかった。Ambroginiらは,軽度PHPT50人を手術群(n=24)と経過観察群(n=25)に割り当て,1年後まで,SF-36とSCL-90Rで評価した[]。手術群は,1年後の体の痛み,全体的健康感,活力,および心の健康が有意に優れていたが,SCL-90Rでは,両群で有意差を認めなかった。ベースラインでのSF-36およびSCL-90Rのスコアは,健康な被験者と比較すると差はわずかであった。また,軽度の無症候性PHPT患者の睡眠に対する手術の影響を調査したPerrierらのRCTでは,軽度PHPT18人を手術群と経過観察群に割り当て,6週間後と6カ月後に睡眠について睡眠時間,睡眠効果,過眠症などを評価した[]。過眠症は,手術群は6週間で減少したが,経過観察群では増加した。有意差を認めたが,臨床的重要性はなかった。

表1.

ランダム化比較試験と前向き観察研究

b)前向き観察研究

前述のRCTでは手術の効果の結果は一貫せず,明らかな有用性は認めなかったが,いくつかの前向き観察研究では術後QOLの改善を報告している(表1)。

Edwardsらの研究では,軽度の56人を含むPHPT100人を対象としているが,術後1カ月では,健康全般,エネルギーレベル,気分に対する認識が大幅に改善された[]。このうち軽度PHPTの症例でも術後1から2年でも全体的健康感,筋力,日常活動における精神的あるいは身体的問題の改善が持続していた。Caillardらは,軽度の27人も含むPHPT100人を対象として,SF-36と21項目の症状調査を行った[]。術後1年までSF-36の8つのドメインすべてにおいて有意な改善を認め,食欲不振,体重減少,口渇感,頭痛,悪心の5つの症状も有意な改善が持続した。軽度PHPT群でも術後1年のSF-36で同様に改善を認めた。術前の症状調査では,軽度PHPT群でも同様の症状を認めた。Weberらは,軽度PHPT194人と対照群(甲状腺切除術)186人について,術後1年まで,うつ病,不安,自殺念慮,HRQOLをSF-36,うつ病スケール(HADS),自殺PHQ9健康アンケートで評価した[]。術後1年では,うつ病と不安感は大幅に改善し,自殺念慮の有病率も改善した。SF-36スコアは,手術群で改善したが,対照群では改善しなかった。Blanchardらは,軽度のPHPT116人をSF-36で調査を行った[]。術後3カ月では8つのドメインすべてにおいて大幅に改善を認め,術後1年でも6つのドメインで有意な改善も認めた。特に,70歳未満とカルシウムが10.4mg/dL以上の患者でより有意な改善を認めた。

Ryhänenらは,軽度の24人も含むPHPT124人を対象として,15Dという15個項目の調査ツールを用いて,手術前後の健康関連QOLを評価した[10]。術前スコアは,一般集団と比較すると有意に低下していた。術後6カ月で有意に改善し,術後1年でも持続していた。軽度PHPTに限定しても同様の結果であった。Zanoccoらは,軽度の10人を含むPHPT群35人と対照群9人(甲状腺結節による甲状腺切除術を実施患者)を,患者報告アウトカム測定情報システム(PROMIS)を用いて身体的および精神的健康を評価した[11]。PHPT群では,倦怠感,睡眠障害,不安神経症,認知,うつ病が術後有意に改善した。また,5つのドメインで対照群よりも改善を認めた。軽度PHPTに限定しても同様の結果であった。Bannaniらは,正常Ca血症PHPT(NcPHPT)と軽度PHPTについて,SF-36v2による手術前後のQOLと25項目の症状を評価した[12]。SF-36では,身体的QOLは両群とも術後有意に改善したが,精神的QOLは軽度PHPT群のみ改善した。症状調査は,軽度PHPT群は9つ改善したが,NcPHPT群は2つのみであった。NcPHPT群においても,手術によってQOLと一部の非特異的症状が,わずかだが改善することを示した。Strovallらは,軽度PHPT 124人を手術後平均3.3年経過観察し,健康関連QOLを15Dで評価した[13]。術後各項目とも良好で,特に睡眠,精神機能,不快感,うつ病は改善され,一般集団と同等であった。しかしながら,3.3年後の全体的HRQOLは一般集団まで改善しない。Shah-Beckerらは,軽度PHPT35人を術前と手術1週間後に,神経認知機能を複数の神経心理学的ツールで評価した[14]。認知機能は,術後1週間で,即時想起,作業記憶,注意力の有意な改善を認めた。気分の検査では,うつ病,不安,負の感情が有意に改善した。不眠症スコアも有意に改善した。手術1週間後という早期に神経認知機能の改善を認めた。

c)その他の研究

Pasiekaらは副甲状腺疾患に特異的な尺度の13項目の質問で構成されるPASスコアを考案した[15]。これにより手術直後から10年経過後も術前より症状が改善していることを報告した[16]。無症候性の症例に限定した文献はなかったので,われわれは,軽度PHPT59人についてPASスコアで調査を行い2014年の第26回日本内分泌外科学会総会で発表した。甲状腺良性結節で甲状腺片葉切除した86人を対照群として,術前と手術1,3,6,12カ月後に調査した。PASスコアの合計は術前と比較すると術後1カ月で有意に低下した。それ以降も術前よりは低値であったが有意差はなかった。PAS項目別では,術後1カ月で疲労感,気分のかわりやすさ,腹痛,筋力低下,口渇において有意な改善を認め,術後12カ月でも疲労感,気分の変わりやすさの改善は持続していた(表2)。対照群ではいずれも有意な変化を認めなかった。Webbらは,PHPT特有のHRQOLを評価する16項目のツール(PHPQoL)を作成した[17]。手術あるいは薬物療法の介入群と経過観察群を比較して検証したところ,治療介入群は術後1年まで改善していた。また,ベースラインでは症候性の患者は無症候よりもスコアが低く,症状が悪化していた。

表2.

術前と術後1,12カ月の項目別PASスコア

4.PHPTの術後アウトカム

今回紹介した研究結果をまとめると,軽度PHPTを対象とした4つのRCTでは手術によりQOLが改善される部分と,改善されない部分があり,一貫していない。9つの観察研究や自験例では,手術により改善される部分が多かったが,改善されない部分もあった。無症候性とされる軽度高Ca血症のPHPTにおいても,手術療法によりQOLは改善する可能性がありそうだが,確実には証明されていない。

Horiuchiらは,軽度の高Ca血症のPHPT患者についてHRQOLを含むPROでの有益性を過去の文献をレビューした結果,軽度のPHPTに対する外科治療はPROの改善と関連している可能性があるが,手術による変化の臨床的重要性は確認されていないとしている[18]。主観的な結果に対する外科的介入の有効性を評価する際には,ふたつのバイアスを考慮する必要があることを指摘しており,第一は手術を受けるストレスによる心理的症状などへの影響,第二は手術のプラセボ効果である。したがって,PHPTにおける治療介入のアウトカムの評価は非常に難しいといえる。

様々なQOL評価のためにSF-36が使用されることが多い。PHPT治療介入に対するQOL評価のためにもSF-36で評価した文献が多いが,これが本当に適切かどうかは不明で,適切なPROを使用しないと臨床的に重要な評価項目を見逃す危険性もある。特に軽度のPHPTでは,曖昧な非特異的症状の変化を確実に測定する適切な評価ツールが存在しない可能性もある。

おわりに

HRQOLの評価には,包括的尺度と疾患特異的尺度の両方を用いることが一般的になっているので,PHPTにおいても,この点を考慮する必要がある。スクリーニングで発見されるような軽度の高カルシウム血症で診断される,いわゆる無症候性PHPTの患者が増えており,手術適応が議論されている。一見自覚症状がなくても,手術によって様々な症状が改善する可能性はありそうだが,確実に実証されていないので,評価ツールの開発を含めて適切な評価方法を検討すべきである。

【文 献】
 

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