Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Outcomes of pharmacotherapies therapies to asymptomatic or mild primary hyperparathyroidism
Noriko Makita
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2021 Volume 38 Issue 3 Pages 141-146

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抄録

原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:PHPT)の多くが,偶発的に診断される無症候性PHPTに占められるようになった現在において,どこまで治療介入すべきなのか,という大きな課題がある。本項では,無症候性,軽度のPHPTに焦点をあて,主に骨に関する薬物治療のアウトカムについて解説する。

はじめに

原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:PHPT)は,副甲状腺からPTHが自律的に分泌される疾患で,1930年にAlbrightが提唱した当初は,線維性骨炎,尿路結石発作,高Ca血症に伴う食欲不振や意識障害を認めてはじめて診断されるものであった。明らかな自覚症状を呈するPHPTでは,骨折や尿路結石のリスクが高くなるため[],外科的切除が第一選択となる。しかし,最近では,別の目的で行った検査でたまたま高Ca血症を指摘される,といった無症候性のPHPTが圧倒的多数をしめるようになった。ここでいう無症候性とは,高Ca血症の症状を自覚していない,椎体骨折や腎結石の存在を自覚していない,という意味である。このような無症候性PHPTであっても,骨粗鬆症や椎体骨折の罹患率は症候性PHPTと同程度であったとする報告もある[]。無症候性PHPTに対する外科的介入による年齢相応の骨量(Z-score)増加効果については,すでにRCTで示されているが,骨折リスク低減効果については,イベント数が少ないため有意差は示されていない[]。このことが今後の検討で有意に示されれば,無症候性PHPT,中でもその時点では手術適応ではないPHPT[]であっても,将来の骨折リスク低減のために外科的手術を考慮することが望まれるだろう。また,無症候性PHPTの中でも骨折リスクの高い集団が選択できれば,効率的に治療介入ができるだろう。さらに,薬物治療が外科的治療による効果の一部でも補完できるならば代替治療となりうるだろう。

本稿では,無症候性のPHPT,軽度のPHPTにフォーカスし,主に骨に関する薬物治療のアウトカムについて解説したい(図1)。一方で,PHPTに伴う腎合併症と薬物治療のアウトカムについてはほとんどエビデンスがないのが現状である。また,手術適応のない転移性副甲状腺がんに対する薬物治療も大きなトピックスであるが,本稿では紙面の関係上割愛した。なお,本稿で用いる無症候性(asymptomatic)と軽度(mild)という言葉の異同であるが,前者は患者本人が合併症に気づいていない,後者は自覚の有無を問わず高Ca血症が軽度である(多くの論文でcCa<12 mg/dl),という違いであり,両者が対象とする患者群はかなりオーバーラップすると考えてよい。

図1.

無症候性あるいは軽度のPHPTに対する治療の効果

ビタミンD~PHPTでは必然的に水酸化ビタミンD(25OHD)が低下する

原発性副甲状腺機能亢進症では25OHDが低値となることは,古くから知られていた疫学的事象である[]。そのメカニズムとして,PTH作用による1α水酸化酵素のupregulationにより活性型ビタミンDの産生が亢進するため,生体のネガティブフィードバック機構によって,活性型ビタミンDを代謝する24水酸化酵素がupregulationされることが主因と考えられている。この24水酸化酵素は基質特異性が低いので,活性型ビタミンDだけではなく25OHDも代謝してしまい,必然的に25OHDが低値となる[]。また,活性型ビタミンDの産生亢進により,皮膚でのビタミンD3の産生が抑制され,これも25OHDの産生の抑制に関与する(図2)。

図2.

PHPTでは必然的に水酸化ビタミンDが低下する

軽度のPHPT(cCa<12 mg/dl)に対するビタミンD補充による骨への効果を検討した観察研究のメタアナリシス(10研究,340人のPHPT患者)がある。ビタミンDは血中カルシウム値,尿中カルシウム排泄を上昇させることなく有意にPTHを低下させることが示されているが,観察研究であること,また研究によってビタミンDの投与量や投与期間などがまちまちという問題があった[]。そしてようやく,軽度のPHPTに対する高用量ビタミンD補充のRCTが報告された[10]。46人のPHPT患者(平均年齢58歳,女性76%,イオン化Ca 1.39~1.43 mmol/L,iPTH 106~143 pg/mL,25OHD 19.2~24.0 ng/mL)をビタミンD群(1日2,800単位,70μg)とプラセボ群に割り付け,PTX前後26週間で検討している。ビタミンD投与群では血中,尿中のカルシウムパラメーターに有意な変化はきたさず,術前半年間でPTHは有意に低下(-17%)し,腰椎骨量は有意に上昇(+2.5%),しかし骨質の指標TBS(trabecular bone score)値は不変であった。一方,術後半年後では,両群で骨量はもとよりTBS値も有意に上昇していた。PTXの圧倒的な効果である。術前半年間のビタミンD投与で骨質TBS値の上昇がみられなかった原因として,そもそもビタミンD補充では骨質上昇効果はみられない可能性もあるが,半年間という短期間では効果がみえなかった可能性もある。また,ビタミンD補充で骨量は上昇しても骨折リスクを低下させるかどうかについては,今後の検討課題である。これまでの研究を受けて,NIHのガイドライン2013では,PHPT患者に対し,血清Ca,尿中Ca,iPTHなどのパラメーターをフォローしつつ1日600~1,000 IU(15~25μg)のビタミンDを補充することが推奨されている[]。

BP製剤~アレンドロネートを中心に

最もエビデンスのあるのがアレンドロネートである。これまでPHPT患者に対するアレンドロネートの12研究(多くは48週以上使用,7研究でアレンドロネート10 mg/日の高用量)いずれもが,腰椎と大腿骨近位部の骨量を有意に増加,皮質骨優位な橈骨1/3遠位端の骨量は変えない,という結果をだしている[11]。中でも代表的なRCTとして,44人の無症候性のPHPT患者(手術適応を満たさないか,満たしても手術を拒否した患者)に対して1年間アレンドロネートかプラセボ,追加の1年間は両群にアレンドロネートを使用した研究がある[12]。腰椎,大腿骨近位部(頸部,total hip)の骨量は24カ月のアレンドロネート使用により有意に上昇,プラセボ群も追加の1年間のアレンドロネート使用により腰椎とtotal hipの骨量については有意に上昇を認めている。その他のBP製剤として,パミドロネート,クロドロネートでの研究がある。いずれも短期の使用では血清Caは低下傾向を示しているが,骨量に関する長期的な効果は評価されていない。

以上,軽度のPHPT(cCa<12 mg/dl)に対してアレンドロネートを使用すると,PTXと同程度に骨量が上昇することについてはエビデンスが固い[13]。しかし,最終的なエンドポイントである骨折イベントの低下まで達成できなければ意味がないが,そこまで示せた研究はこれまでにないのが現状である。後ろ向きの観察研究であるが,PHPT患者(6,272人,症候性含む)を対象に,PHPTの診断後10年間までの骨折発症率を検討した研究がある[14]。22%が手術,22%がBP製剤(アレンドロネート92%,リセドロネート7%,イバンドロネート1%),55%が経過観察をされたコホートで,大腿骨近位部骨折発症率,全骨折発症率が検討されている。本検討では,BP群にはベースの骨の状態が悪い患者が多いというバイアスがあるため,骨量による階層化(骨粗鬆症群,骨量低下群,骨量正常群)がなされている。驚くべきことに,骨粗鬆症群において10年間の骨折リスクは,PTX群で1,000人中25.9人,経過観察群で1,000人中71.6人,BP群で1,000人中90.9人と,BP群で骨折リスクが経過観察群よりも高いという結果であった。BP製剤は骨回転を低下させ,長期に使用すると非定型骨折のリスクとなることが知られており,PHPTではそれが助長された可能性は否定できない。しかし,PHPTでは年齢相応の腰椎骨量(Z-score)は低下しないことが多くの研究で示されている[1516]。本研究では,骨量として腰椎と大腿骨の骨量の低い方を採用しており,骨量による階層化だけではバイアスが残っている可能性が十分に考えられる。

デノスマブ

アレンドロネートと比較してPHPTに対するデノスマブの効果については,研究が少ない。しばらくは,25人の高齢女性PHPT患者と背景がそろった25人の原発性骨粗鬆症患者に対する1年間のデノスマブの効果を後ろ向きに検討した研究のみであった[17]。PHPT患者の方が1年後の骨量は有意に上昇している。そして,デノスマブでもようやく最近RCTがだされた[18]。46人のPHPT患者(骨量T score -1.0~-3.0)を対象にした単施設の検討で,デノスマブとプラセボ(cCa 10.9±0.08 mg/dl),デノスマブとシナカルセト併用(cCa 10.7±0.12 mg/dl),プラセボ(cCa 10.8±0.12mg/dl)の3つのアームからなる(すべての群でビタミンD補充)。シナカルセト併用の有無によらず,デノスマブは1年後の骨量を有意に上昇させることが示された。しかし,骨質や骨折リスクについては不明である。本邦からの最近の報告で,PHPT患者に対するデノスマブとPTXの効果についての後ろ向きの研究がある[19]。デノスマブ群(n=19,71.8±7.1歳,cCa 10.2±0.5 mg/dl,wPTH 46.3 pg/ml)の方がPTX群(n=19,63.2±10.4歳,cCa 11.5±1.0 mg/dl,wPHT 140.5 pg/ml)と比較して若干高齢でPHPTの程度は軽度であったが,両群ともに骨吸収マーカー(TRAP-5b)依存的に1年後の骨量は有意に上昇した。特筆すべきは骨質の指標TBSがデノスマブ群で有意に上昇をみている(PTX群は傾向のみ)。PTXをもってしてもTBSの上昇まではみられないという報告[2022]がある一方で,薬物治療によるTBS改善効果は初である。今後は骨折リスクの低下効果について検討が望まれる。

カルシミメティクス

カルシミメティクスは,カルシウム感知受容体(CaSR)に対するアゴニストであるカルシウムイオンの感受性を高めることで,低いカルシウム濃度でも副甲状腺からのPTH分泌を抑制できる薬剤である。本邦では,原発性副甲状腺機能亢進症に対して2014年からシナカルセト,2019年からエボカルセトが使用可能となっているが,米国でのPHPTに対するシナカルセトの歴史は長く,先に述べたデノスマブとの併用のRCTをはじめ,いくつかのRCTがなされている。結論を先にいうと,シナカルセトは早期に血清カルシウムとPTHを低下させる効果はあるが,骨量増加作用については有意な効果は示されていない。

78人の中等度PHPT(cCa 10.3~12.5 mg/dl)を対象とする1年間のRCTで,シナカルセトにより73%の患者のカルシウムは正常化することが示された[23]。PTHも低下するため,長期使用による骨量増加効果が期待されたが,このコホートをベースとした4.5年間の長期研究で(n=45),腰椎,大腿骨近位部,前腕のいずれの骨量(Z score)も有意に変えないことが示された[24]。先にも示したが,デノスマブとシナカルセト30 mgの併用を1つのアームとし,デノスマブによる骨量の変化を検討した1年間のRCT(デノスマブ+プラセボ,デノスマブ+シナカルセト,プラセボの3アーム)では,シナカルセト併用群で1年間安定したカルシウムのコントロールが達成された[18]。デノスマブ初回投与後は,単剤,シナカルセト併用群ともにカルシウムの低下に伴うPTHの反跳上昇を認めたが,2回目のデノスマブではPTHの上昇は認めていない。骨量に関しては,デノスマブ単剤でもシナカルセト併用でも1年後に同程度の腰椎,大腿骨近位部の骨量の上昇を認めている。

上記2つのRCTを含む4つのRCTと,コホート研究とを合わせた28研究のメタアナリシス(n=722)[25]で,血清カルシウム正常化率90%(CI 0.82-0.96),カルシウム低下度(ΔcCa)の平均は1.65 mg/dL(CI 1.37-1.92)であったが,PTHの正常化率は10%であった。治療前のcCa>12.0 mg/dLと血中のカルシウムが高いとカルシウム低下度も高いという結果もでている。

まとめると,手術不能あるいは手術拒否のPHPTにおいて,シナカルセトは血清カルシウム値を低下させる効果が期待できる。

女性ホルモン,選択的エストロゲン受容体モジュレーター(selective estrogen receptor modulator:SERM)

骨吸収を抑制する効果といえば,女性ホルモン,SERMがあげられる。閉経後の軽度のPHPT(ホルモン補充群:cCa 10.3±0.12 mg/dL,iPTH 81.1±10.4 pg/mL,プラセボ群:cCa 10.5±0.12 mg/dL,iPTH 74.5±7.5 pg/mL)患者42人に対して行われた2年間のRCTでは,当時標準的であった抱合型エストロゲン(0.625 mg/日)とメドロキシプロゲステロン(5mg/日)で女性ホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT)がおこなわれており,HRT群では有意に腰椎(5.2%±1.4%,p=0.002),大腿骨頸部(3.4%±1.5%,p=0.05)の骨量は上昇している。一方で,血清カルシウム,PTHについては不変であった。この46人のうち23人(11人がHRT,12人がプラセボ)については4年後まで延長研究がなされており,HRT群では腰椎で7.5%,大腿骨頸部で7.4%,前腕で7.0%の骨量増加作用が認められている[26]。しかし,閉経後長期にHRTを続けることについては,心血管イベント発生,乳がんなどのリスクの観点から議論があり,骨への介入効果を期待するよりは閉経後更年期障害に対する介入効果を期待すべきであろう。一方,PHPTに対するSERMの効果については,ほとんど研究がないのが実状である。ある前向き研究で,24人の骨粗鬆症を伴うPHPT閉経後患者に対し,ラロキシフェン(60mg/day)とアレンドロネート(70mg/wk)の効果をコントロール群と比較している。1年後はラロキシフェン群,アレンドロネート群いずれも有意に腰椎,大腿骨頸部の骨量の上昇をみている。

標準的でない治療

サイアザイド

サイアザイドは,腎臓の遠位尿細管からのCa再吸収を亢進させることが知られており[27],PHPTに対しては高Ca血症を助長するためむしろ避けるべき薬剤とされている[28]。しかし,興味深い検討がある。PTX不成功あるいは不能なPHPT患者500人から,サイアザイドの使用歴がある患者72人をピックアップした検討である[29]。サイアザイド使用中は,血清カルシウムは有意に上昇することなく,尿中カルシウム排泄,iPTHは有意に低下している。なお,この研究ではサイアザイドによる骨量,骨折リスクについては検討されていない。PHPTとは離れるが,冠動脈疾患を有する高血圧患者を対象にしたALLHAT研究において,降圧剤の違いによる大腿骨近位部・骨盤骨折のリスクを検討したサブ解析の結果がだされている[30]。降圧剤としてクロルタリドリン(サイアザイド系利尿薬)を使用した群はアムロジピンあるいはリシノプリルを使用した群と比較して,大腿骨近位部骨折のリスクが有意に低かったという結果である。この結果がPHPT患者にスライドできるものでは決してないが,今後の治療オプションとして一考の価値があるものと思われる。

まとめ

無症候性あるいは軽度のPHPTにフォーカスし,主に骨に関する薬物治療のアウトカムについて解説した。今後は,ハードエンドポイントとしての骨折イベントまで検討した研究が待たれる。

【文 献】
 

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