2022 Volume 39 Issue 1 Pages 35-39
膵に発生する神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasms,NEN)は,2019年に発刊された膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドラインによって,機能性・非機能性,限局性・非限局性,腫瘍径や解剖学的な位置関係などによって膵切除の術式が推奨されている。また,膵臓内視鏡外科研究会,日本肝胆膵外科学会,日本内視鏡外科学会主導で行われた「腹腔鏡下膵切除術の安全性に関する前向き観察多施設共同研究」において,腹腔鏡下膵頭十二指腸切除,尾側膵切除術の約20%が膵 NENに対して行われていた。したがって,今後,膵NENは2020年4月に保険収載となったロボット支援下膵切除術による治療対象となる症例が多いと予想される。徐々に導入が進んでいる本術式の安全性と長期予後の検証,定型的膵切除を必要としない膵NENに対するロボット支援下膵縮小手術の導入によって,低侵襲膵切除術のメリットを享受する患者が増えることが期待される。
神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasms,NEN)は全身臓器に発生する希少腫瘍である。機能性NENは特異的な臨床症状を生じるため,早期発見による早期切除の必要性が認識されてきた。一方,非機能性NENに関しては, 2019年に改定された膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドラインにおいて,腫瘍サイズが1cmから2cmの非機能性膵NENに対する手術適応と推奨される術式がより明確になった。機能性,非機能性いずれの場合でも膵内に限局した腫瘍は低侵襲膵切除術のよい適応であり,2020年4月から保険適応となったロボット支援下膵切除術の治療対象となる。膵NENに対する外科的治療について,ロボット支援下手術の現況と今後の展望について述べる。
膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドライン2019年【第2版】[1]では,MEN1を除く非機能性膵NENの外科治療,インスリノーマ/ガストリノーマの外科治療,その他の機能性膵NENの外科治療がアルゴリズムで示されている。腫瘍径<1cmの非機能性膵NENの内,偶然発見された腫瘍で,かつ画像上転移・浸潤所見を認めない場合は6~12カ月ごとの経過観察も選択肢となりうるが,その他の局所領域病変は基本的に外科治療の対象である(図1)。特に腫瘍径2cm未満の非機能性NETと,浸潤傾向がなく主膵管損傷のリスクが低いインスリノーマでは腫瘍核出術が推奨され,それ以外では定型的な膵切除術を要することが多い。定型的な膵切除術が適応となる場合,膵癌と異なり,随伴性の閉塞性膵炎が起こりにくいことからもロボット支援下手術のよい適応となる例が多く存在すると考えられる。

膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドライン2019年【第2版】における限局性膵神経内分泌腫瘍の手術適応。A,非機能性膵内分泌腫瘍,B,ガストリノーマ,C,インスリノーマ,D,ガストリノーマ,インスリノーマ以外の機能性神経内分泌腫瘍
Neuroendocrine tumor, NET. 下線は保険収載されたロボット支援下膵切除術の適応となりうる術式。
海外のNENに対する代表的なガイドラインはNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)[2],European Neuroendocrine Tumor Society(ENETS)[3]がそれぞれ出版したものである。膵NENに対する外科的治療は,原発巣サイズによる領域リンパ節転移の確率を考慮した膵切除であり,基本的な考え方は本邦のガイドラインと同じである。 NCCNとENETSガイドラインでは2cm未満の非機能性膵NENでG1,G2症例の内,無症状で画像上悪性所見を認めない場合,患者の状態・意向を考慮した上での経過観察を選択肢としている点である。本邦では1cm未満は経過観察も選択肢とし,1cm以上は切除を推奨しているため,手術適応がより広くなっている。
切除を必要とする膵NENの中で,系統的なリンパ節郭清を要する場合や,核出術+リンパ節サンプリングでよい病変であっても,主膵管損傷のリスクがある場合は定型的な膵切除術である膵頭十二指腸切除や尾側膵切除術の適応である。2020年の保険収載によってこれらの術式はロボット支援下に可能となったが,ロボット支援下膵切除術を安全に普及させる目的で日本肝胆膵外科学会と日本内視鏡外科学会により「ロボット支援下膵切除術導入に関する指針」が提言された。現状では本指針の術者(コンソール医師)条件と施設条件を満たす場合に導入可能であり,導入可能な施設は限定的である。一方,本条件を満たすことが可能な,膵切除,腹腔鏡下膵切除術の経験が豊富な施設では徐々に症例が増加していくと予想される。図2に2020年4月から2021年12月までに当科で行ったロボット支援下膵頭十二指腸切除術(Robot assisted pancreaticoduodenectomy,RPD),尾側膵切除術(Robot assisted distal pancreatectomy,RDP)の開腹手術,腹腔鏡下手術に対する割合と(図2A),ロボット支援下膵切除の対象疾患を示す。RPD,RDPは膵頭十二指腸切除,尾側膵切除全体のそれぞれ37%,38%を占めていた。特に2021年は腹腔鏡対象疾患のほとんどがロボット支援下手術で行われており,RPD,RDPともに今後増加を予想している。RDPの56%は膵NENに対して行われており(図2B),本疾患に対する外科治療でロボット支援下手術は重要な役割を果たしていることになる。図3に50歳,女性,膵頭部非機能性NEN,G1に対するRPDの一例を示す。腫瘍径は16mmであったが,胆管,膵管損傷のリスクが高く,系統的なリンパ節郭清も必要であったため本術式の適応となった。

当科における膵頭十二指腸切除術と尾側膵切除術
A,ロボット支援下膵頭十二指腸切除術(RPD)は膵頭十二指腸切除の37%,ロボット支援下尾側膵切除術(RDP)は尾側膵切除全体の38%を占めた。B, RPD, RDPの対象疾患。膵神経内分泌腫瘍(NET)はRDPの56%を占めた。Pancreatic ductal adenocarcinoma, PDAC. Intraductal papillary mucinous neoplasm of the pancreas, IPMN. Biliary tract cancer, Biliary tract ca.. Mucinous cystic neoplasm, MCN.

膵頭部非機能性膵神経内分泌腫瘍に対するロボット支援下膵頭十二指腸切除術
A,膵頭部に径16mmの多血性腫瘍を認める。B,腫瘍は総胆管(common bile duct,CBD)と主膵管(main pancreatic duct,MPD)を圧排している。C,膵実質を門脈(portal vein,PV)前面で切離した。Proper hepatic artery, PHA. Common hepatic artery, CHA. Pancreatic head, Ph.
膵NENに対するロボット支援下膵切除術の今後を予想する上で参考になるのは,2016年から2018年に膵臓内視鏡外科研究会,日本肝胆膵外科学会,日本内視鏡外科学会によって行われた「腹腔鏡下膵切除術の安全性に関する前向き観察多施設共同研究(UMIN000022836)」である[4]。腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術(Laparoscopic pancreaticoduodenectomy,LPD)は25施設から232例が登録され,膵NENは51例(22%)で膵管内乳頭粘液性腫瘍(98例,42%)と胆管腫瘍(52例,22%)についで3番目に多い対象疾患であった。腹腔鏡下尾側膵切除術(Laparoscopic distal pancreatectomy)は98施設から1,197例が登録され,膵NENは230例(19%)で,通常型膵癌(405例,34%)についで膵管内乳頭粘液性腫瘍とともに2番目に多い対象疾患であった。年間20例以上のLPD,LDPをそれぞれ行っている施設を“experienced center” と定義して解析し,LPD では完全鏡視下率と手術時間,LDPでは完全鏡視下率,予定術式完遂率,手術時間,出血量,膵液瘻率について,experienced centerでの成績が優れていた。全施設ではLPDとLDPでそれぞれ合併率が30%と17%,90日死亡率が0.4%と0.3%と安全性が確認されている。「ロボット支援下膵切除術導入に関する指針」によって,鏡視下膵切除術に習熟した施設で本術式は導入可能となっているため,膵NENに対しても本術式が安全に行われていることが期待される。
海外でもロボット支援下手術に限定した有用性を検証した無作為化比較試験(RCT)の結果は出ていないため,現況を検証するために,LPD/LDP,minimally invasive DP(MIPD)と開腹手術のRCTを参照した。LPDでは3編のRCTがあり[5~7],224の登録症例の内,膵NENは5例(2.2%)のみで,本邦の前向き登録結果と比較して少なかった。これらの報告で有意差を認めたのはLPDで手術時間が長く,出血量が少ないことであった。問題点としては,オランダで行われたLEOPARD-2 trialにおいて,LPD群で5例(5/50,10%)の手術関連死を認めたことである。これらの対象疾患の詳細は不明であるが,本邦で,膵NENに多くの低悪性度症例が含まれていることを考慮すると,慎重な適応の検討と,十分に鏡視下手術と膵切除に習熟した施設での治療が望まれる。LDP,MIDPでは2編のRCTがあり[8,9],224の登録症例の内,膵NENは49例(22%)で,本邦の前向き登録と同等であった。MIDP(LDP 42例,RDP 5例)における機能回復期間の短縮[8]とLDPの在院日数の減少[9]がそれぞれ示されており,RDPでも低侵襲手術による患者への負担軽減が期待される。
本邦ではロボット支援下膵腫瘍核出術や中央切除術などの縮小手術は保険適応となっておらず,各施設の倫理審査委員会承認のもとで行えば実施可能となる。これらの術式について,海外からは表1のように報告がみられる。

膵神経内分泌腫瘍に対する膵腫瘍縮小手術の有用性に関する報告
2016年にTianら[10]とJinら[11]がそれぞれ膵腫瘍核出術を開腹手術とロボット支援下手術の治療成績を比較している。Tianらの報告は,対象疾患を膵NEN,G1/G2に限定し,ロボット支援下手術の方が有意に手術時間が短く,出血量が少なかった。さらに,術後合併症が少なく,術後在院日数も短い傾向にあったことから,ロボット支援化手術の有用性が示唆されている。2019年にBartoliniら[12]は膵NENを含めた低悪性度膵腫瘍に対するロボット支援下手術を核出術と定型的膵切除術で比較し,核出術で術後在院日数が短く,膵液瘻の頻度が低く,より膵機能が温存されていたことを基にその有用性を主張している。より細かい操作を必要とする核出術を腹腔鏡で行うことは時に困難であり,ロボット支援下手術は腹腔鏡よりも有用であることが予想されるが,今後の検証は必要である。
Shiら[13]は,ロボット支援下膵中央切除術(n=110)が開腹膵中央切除術(n=60)よりも出血量減少,手術時間短縮の点でロボット支援下手術が有用であったことを報告している。ただし,有意差はなかったものの,術後合併症率は51.8%,膵液瘻は34.5%と開腹手術より高い傾向にあった点と,中央切除術はそもそも合併症が比較的多い術式であることに注意する必要がある。
膵NENはロボット支援下膵切除術の治療対象となる例が多く,本術式の安全性と長期予後の検証がこれから必要である。本邦ではガイドラインによってリンパ節転移の可能性が低い1~2cmの非機能性膵NENは外科的切除の対象であることから,海外からの報告が増えているロボット支援下膵縮小手術についても検証し,低侵襲膵切除術の利点を享受できる患者が増えることが望まれる。