Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Robot-assisted laparoscopic surgery for retroperitoneal and pelvic endocrine tumors
Taketoshi NaraKazuyuki NumakuraTomonori Habuchi
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 39 Issue 1 Pages 44-48

Details
抄録

後腹膜腫瘍・骨盤腔内の内分泌腫瘍に対するロボット支援手術は,従来の開放手術と比較しても,術後の早期回復が期待でき,より低侵襲な治療となる可能性がある。しかし,現時点では症例報告がほとんどでエビデンスに乏しい。腫瘍の生物学的な特質や解剖学的な位置関係などから,開放手術を選択するなどケースバイケースの対応が求められるが,今後の症例の蓄積によって,後腹膜腫瘍・骨盤腔内の内分泌腫瘍に対するロボット支援手術の適応の拡大と術中や術後短期・長期の成績向上が期待される。

はじめに

開放手術と比較し低侵襲であるロボット支援手術は,国内でも多くの領域で術式が保険収載され,一般的な医療として普及している。しかし,後腹膜腫瘍・骨盤腔内の腫瘍に対するロボット支援手術については,国内での報告は見当たらず,海外からも症例報告がほとんどで,現時点ではエビデンスに乏しい。本稿では後腹膜腫瘍・骨盤腔内の腫瘍,特に後腹膜内分泌腫瘍・骨盤腔内の内分泌腫瘍に対するロボット支援手術の文献的考察を行い,今後の導入の可能性を検討する。

①後腹膜内分泌腫瘍の概説

後腹膜内分泌腫瘍の代表的な疾患としてパラガングリオーマがある。

後腹膜腫瘍は全腫瘍の0.2%と稀な疾患であり[],この中でパラガングリオーマの占める割合は1.8%との報告[]から,後腹膜原発のパラガングリオーマは極めて稀な腫瘍である。高川らによるとパラガングリオーマはカテコールアミンの分泌活性の有無により機能性と非機能性に分類され,本邦における後腹膜パラガングリオーマ106例のうち,機能性は27例(25%),非機能性は79例(75%)であった[]。機能性の場合は,高血圧や頭痛などの臨床症状を呈する場合が多いが,非機能性のものは最大径15cm以上の症例が多く,腹部腫瘤として指摘される場合が多い[]。治療法は,放射線治療や抗腫瘍薬などの薬物療法に抵抗性を示すこと,無症候性パラガングリオーマでも高血圧クリーゼを引き起こす可能性があることから,機能性・非機能性いずれにおいても手術療法による腫瘍切除術が治療の第一選択とされる[]。実臨床では,後腹膜パラガングリオーマに対する術式を選択する際に,腫瘍の局在,腫瘍サイズ,術者の技量などを考慮し,開放手術または腹腔鏡手術(本邦では保険適応外)が選択される。後腹膜パラガングリオーマに対する腹腔鏡手術の適応は,議論が分かれるところであるが,腫瘍径が小さく,非浸潤性の症例では腹腔鏡手術も選択肢となる[]。一方で,悪性度の高いパラガングリオーマ(腫瘍径5cm以上,SDHB:Succinate Dehydrogenase Subunit B 遺伝子変異など)では慎重な術式選択が必要とされる[]。また,パラガングリオーマの腫瘍局在として87%が横隔膜下に存在し,腎門部から腎下極,大動脈分岐部までが多いとされる[]。症例によっては大血管と接するため,腹腔鏡手術の術者の技量が必要となる。さらに,術中操作による腫瘍の圧迫により腫瘍からのカテコールアミン放出が急激に増加し,術中高血圧,頻脈,不整脈などを生じる危険性がある[]。これらの理由から,大きな腫瘍や周囲臓器への浸潤,大血管への癒着が予想される場合は,従来の腹腔鏡手術のみでは限界があり,依然として開放手術が選択されることが多い[]。当院でも後腹膜腔の大血管周囲に発生したパラガングリオーマの腹腔鏡による切除経験は数例あるが(図1),このような症例でロボット支援手術を導入することにより,術中の循環状態,術後の早期回復など,従来の腹腔鏡手術と比較して,より質の高い手術が可能となるかが興味のあるところである。

図1.

経後腹膜法による腹腔鏡下手術で摘除できた後腹膜パラガングリオーマ(秋田大学の例):

IVCや腎動静脈に接した,7cm径を超える後腹膜パラガングリオーマである。このような症例をロボット支援下に行うと,より短時間で低侵襲に質の高い手術が行えるかが期待される。

②後腹膜内分泌腫瘍のロボット支援手術

泌尿器科領域ではロボット支援手術が他の領域に先行して普及しており,特に前立腺癌に対する前立腺全摘除(RARP)や小径腎腫瘍に対する腎部分切除(RALPN)は標準術式となった[]。その理由として,ロボット支援手術の特徴である,3D画像,アームの可動域の大きさ,狭い術野で繊細な手技が可能なこと,腹腔鏡手術に比し短いラーニングカーブなどが,操作の困難な後腹膜や骨盤の手術に適していたからと考えられる[]。このような流れから,後腹膜腫瘍対してもロボット支援手術の導入が試みられ,2009年Parkらは後腹膜パラガングリオーマに対するロボット支援手術を報告した[]。RALPNやRARPに習熟している泌尿器科医にとって,後腹膜腫瘍に対するロボット支援手術は必ずしも困難ではないと思われる。むしろ,手ブレ防止機構の備わった繊細な操作システムなどロボットの特性を利用することで,より低侵襲な手術を達成できる可能性がある。また,従来の腹腔鏡では困難な大きな腫瘍や大血管に癒着のある例などもロボット支援手術で摘出できる可能性が期待される。Lehrfeldらは,左腎動静脈間に位置する3.5cm大のパラガングリオーマに対して行ったロボット支援手術を報告している[]。腫瘍が腎血管に取り囲まれるように存在し,腹腔鏡手術では,習熟した術者でも剝離には困難が予想されるが,ロボットの利用により安全に行い得たとするものである。このように解剖学的に困難な位置に発生し,繊細な手技を必要とする腫瘍にはロボット支援手術が向いている可能性がある。

後腹膜腫瘍に対するロボット支援手術と腹腔鏡手術を比較した報告は,検索した限りではなかったが,ロボット支援手術と開放手術を比較した報告を提示する。Liuらは,後腹膜腫瘍摘除を施行した86例(うちパラガングリオーマ14例)から,開放手術30例(パラガングリオーマ7例)とロボット支援手術30例(パラガングリオーマ2例)をpropensity score-matched studyでの検討を報告している[10]。腫瘍の局在部位を主要血管への隣接の有無で2群間に分けた検討では,ロボット支援手術で,出血量の減少,術後入院期間の短縮を認めており,周術期合併症では有意な差を認めなかった(表1)。さらに,腫瘍サイズ5cm以上の症例の検討でも,ロボット支援手術群で,出血量の減少,術後入院期間の短縮,周術期合併症での差は認めなかった(表2)。以上より,アプローチしやすい位置に腫瘍が存在し,大血管への癒着がない後腹膜腫瘍では,ロボット支援手術が有用であることを示唆している。ただし,この報告では少なからず患者の選択バイアスがあると考えられ,術野の確保に難渋するような大きな腫瘍や周囲臓器への浸潤あるいは癒着が予想される症例へのロボット支援手術の適応については,なお慎重な判断が求められる。

表1.

主要血管へ隣接した症例の比較(文献[10]Liu Q, et al. 2019より引用改変)

表2.

腫瘍径5cm以上の症例の比較(文献[10]Liu Q, et al. 2019より引用改変)

③骨盤腔内の内分泌腫瘍の概説

本邦における骨盤内臓器を対象とするロボット支援手術は,2021年1月時点で,直腸・前立腺・膀胱・子宮領域で保険収載されている[11]。特に泌尿器科領域では,2012年から前立腺癌に対する腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術,2018年から腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術が保険適応となり,広く普及している。すなわち,後腹膜腫瘍と同様,私たち泌尿器科医にとって骨盤腔内の腫瘍に対するロボット支援手術は,手技的に馴染みやすいものといえる。海外でも同様で,2010年Nayyarらは,片側の膀胱尿管移行部に局在するパラガングリオーマに対するロボット手術を報告し[12],以降,骨盤腔内の腫瘍に対するロボット支援手術の症例報告が複数なされている[1315]。

④骨盤腔内の内分泌腫瘍のロボット支援手術

症例報告の多くは,後腹膜腫瘍と同様パラガングリオーマである[1315]。しかし,腫瘍の局在が膀胱尿管移行部[12]や膀胱三角部[15]の場合,切除範囲によっては膀胱尿管の新吻合が必要となり,手術の難易度に影響する。Ravichandran-Chandraらの報告は,14歳女児の膀胱三角部に発生したパラガングリオーマの症例である(図2)。はじめは膀胱尿管移行部の温存可能な切除ラインを予定していたが,術中の迅速病理診断で切除断端陽性のため追加切除が必要となり,両側膀胱尿管移行部の合併切除さらに両側の膀胱尿管新吻合(Politano-Leadbetter法)を施行している。手術時間は220分,出血150ml,周術期の合併症認めず,術後10日目に退院となった[14]。このような症例は,腹腔鏡手術でも手術自体は可能かもしれないが,膀胱背側での視野の確保や精細な膀胱尿管新吻合など,ロボット支援手術の利点が生かされるケースと考えられる。

図2.

MRI(T2強調画像)膀胱三角部5×5×3cmの腫瘤

(文献[15]Ravichandran-Chandra A, et al. 2017より引用)

⑤後腹膜・骨盤腔内の悪性腫瘍に対する手術

後腹膜悪性腫瘍に対するロボット支援手術に関しては,複数の症例報告がある[1617]。Vicenteらは,右腎静脈に接する3cmの後腹膜平滑筋肉腫に対するロボット支援手術を行い,切除断端陰性の完全切除を報告している[16]。また,Trandemeらは,左腎静脈に近接する後腹膜平滑筋肉腫に対するロボット支援手術を行い,術後6カ月の非再発を報告している[17]。一方,2017年 WHO 腫瘍分類では,すべての褐色細胞腫・パラガングリオーマは,潜在的に悪性腫瘍とみなしているように[18],一部の症例は初回診断・術後に,遠隔転移,局所再発をきたし,進行性の増悪,致死性の病態を示すことから,全例で少なくとも術後10年間,高リスク群では生涯にわたる経過観察が推奨されている[]。局所にとどまるパラガングリオーマでは手術治療により根治が期待できるが,転移を伴う症例では,手術,化学療法(CVD療法:cyclophosphamide,vincristine,dacarbazine 併用療法など),MIBG照射を組み合わせた全身治療が必要となり,手術の適応にも厳密な決まりはない。後腹膜悪性腫瘍に対するロボット支援手術の適応症例については症例に応じた慎重な判断が必要と考えられる。

おわりに

後腹膜腫瘍,骨盤腔内の内分泌腫瘍に対するロボット支援手術は,従来の開放手術に比べ,術後の早期回復が期待でき,低侵襲な術式となる可能性がある。しかし,腫瘍の生物学的な特質や解剖学的な位置関係などから,開放手術を選択するなどケースバイケースの対応が求められるが,今後の症例の蓄積によって,後腹膜腫瘍・骨盤腔内の内分泌腫瘍に対するロボット支援手術の適応拡大と術中や術後短期・長期の成績向上が期待される。

【文 献】
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top