2022 Volume 39 Issue 1 Pages 49-55
副甲状腺囊胞は副甲状腺機能亢進を伴う機能性囊胞と伴わない非機能性囊胞に分類される。ときに囊胞が機能性か非機能性か,あるいは他の囊胞性疾患かの鑑別に難渋する場合がある。われわれが最近経験した副甲状腺囊胞8例のうち,機能性は2例,非機能性は6例であった。機能性囊胞は2例とも当該囊胞が責任腺であるとの術前確定診断には至らなかった。非機能性囊胞のうち3例は手術を行い,ほか3例は経皮的穿刺による囊胞内容液の性状や生化学検査で診断に至った。非機能性囊胞症例のうち1例は囊胞とは別の腺の副甲状腺腺腫による副甲状腺機能亢進症を呈していた。当院で経験した8例をもとに副甲状腺囊胞の診断について検討する。
副甲状腺囊胞は比較的まれな疾患であり,副甲状腺機能亢進を伴う機能性囊胞と伴わない非機能性囊胞に分類される。それぞれ成因も治療法も異なるためはっきりと区別して扱う必要があるが,ときとして機能性と非機能性,あるいは他の囊胞性疾患との鑑別を要する場合がある。
2017年2月~2020年3月に当院で経験した機能性および非機能性副甲状腺囊胞8例について術前の画像所見,血清Ca値,血清インタクトPTH(以下i-PTH)値,病理所見,囊胞内容液のi-PTH値,サイログロブリン(Tg)値について後方視的に検討した。
8例の内訳は機能性副甲状腺囊胞が2例(症例1,2),非機能性副甲状腺囊胞と別の腺を責任腺とする原発性副甲状腺機能亢進症の合併例が1例(症例3),非機能性副甲状腺囊胞が5例(症例4~8)。手術症例は5例,手術は行わずに囊胞の経皮的穿刺で診断した症例はいずれも非機能性囊胞で3例であった。各症例の概要については表1に示す。

副甲状腺囊胞8例のまとめ
以下,症例を提示する。
症 例1:機能性副甲状腺囊胞の症例
患 者:45歳女性
主 訴:頸部腫大,尿路結石
現病歴:来院の2年前より前頸部腫大を自覚,甲状腺左葉の巨大囊胞として2回穿刺排液され,経過観察された。尿管結石を契機に高Ca血症,血清i-PTH高値を指摘され,原発性副甲状腺機能亢進症が疑われ当科受診となった。
尿路結石の既往歴・家族歴:母のみ
初診時現症:左頸部に5×5cmの腫瘤を触知した。
血液検査所見:補正Ca 10.2mg/dL,i-PTH 133pg/mL
頸部超音波検査:甲状腺左葉にスケールアウトする巨大囊胞を認めた。内部に形状不整な充実成分を伴った(図1a)。

症例1の画像(a,b)および病理組織学的所見(c)
a.超音波画像:甲状腺左葉にスケールアウトする巨大囊胞を認め,内部に形状不整な充実成分を伴っていた。
b.99mTc-MIBIシンチグラフィ:左葉囊胞の背側に後期相でも残存する集積を認めた。
c.病理組織学的所見:線維性被膜の内側を副甲状腺の主細胞様の細胞が裏打ちし,偽乳頭状や充実性に増殖していた。
99mTc-MIBIシンチグラフィ:甲状腺左葉の囊胞性病変の背側に一部後期相でも残存する集積を認めた(図1b)。
以上より,甲状腺囊胞と副甲状腺腫瘍の合併もしくは機能性副甲状腺囊胞が疑われたが,術前診断には至らず,囊胞を含めた甲状腺左葉切除術+副甲状腺腫瘍摘出術の方針となった。
手術所見:術中明らかな腫大副甲状腺は認めず,囊胞を含めた左葉切除時を基準に術中迅速PTH測定(QPTH)を行い,執刀前221pg/mL→左葉切除後10分 69pg/mLへの低下を確認し,手術終了とした。
病理組織学的所見:囊胞は線維性被膜の内側を副甲状腺の主細胞様の細胞が裏打ちし,偽乳頭状や充実性に増殖しており,副甲状腺腺腫の囊胞化の診断であった(図1c)。
症 例3:非機能性副甲状腺囊胞と縦隔内副甲状腺腺腫が合併した症例
患 者:77歳女性
主 訴:なし
現病歴:サルコイドーシスの精査中に血清Ca高値,血清i-PTH高値を指摘され,原発性副甲状腺機能亢進症が疑われ,当科紹介受診した。
尿路結石の既往歴・家族歴:なし
併存疾患:サルコイドーシス,高血圧,脂質異常症,2型糖尿病,白内障,緑内障
血液検査所見:補正Ca値:11.2mg/dL,i-PTH 値:112pg /mL
99mTc-MIBIシンチグラフィ:前上縦隔内に後期相でも集積亢進を示す結節を認めた(図2a)。

症例3の画像所見(a,c)および病理組織学的所見(b,d)
a.99mTc-MIBIシンチグラフィ:前上縦隔内右側に後期相でも集積亢進を示す結節を認めた。
頸部超音波でみられた囊胞の位置とは一致せず。
b.病理組織学的所見(縦隔内腫瘍):淡明な胞体を有する小型の類円形腫瘍細胞と好酸性胞体を有する腫瘍細胞が混在し密に増殖していた。
c.超音波画像:甲状腺左葉下極の尾側に18mm大の囊胞を認めた。
d.病理組織学的所見(左頸部囊胞):淡明な胞体を有する菲薄~立方形の副甲状腺の主細胞に類似した細胞に裏装された囊胞で,背景には正常な副甲状腺組織を認め,腺腫成分は認めなかった。
頸部超音波検査:甲状腺左葉下極の尾側に18 mm大の囊胞を認めた(図2c)。
以上より,前縦隔の異所性副甲状腺を責任腺とする原発性副甲状腺機能亢進症と非機能性副甲状腺囊胞の合併と考えた。
手術所見:囊胞に関しても機能性囊胞の可能性を完全には否定できず,術中所見で容易に摘出可能と判断し,摘出の方針とした。縦隔内腫瘍→囊胞の順に摘出し,QPTHは執刀前119pg/mL→縦隔内副甲状腺摘出後10分時点で13pg/mLまでの低下を確認し,終了とした。囊胞内容液は無色透明で,生化学検査に提出し,i-PTH:28,290pg/mL,Tg:70ng/mLであった。
病理組織学的所見:
[縦隔内腫瘍]淡明な胞体を有する小型の類円形腫瘍細胞と好酸性胞体を有する腫瘍細胞が混在し密に増殖しており,副甲状腺腺腫の診断であった(図2b)。
[囊胞]淡明な胞体を有する菲薄~立方形の副甲状腺の主細胞に類似した細胞に裏装された囊胞で,背景には正常副甲状組織を認めるも腺腫成分は認めず,副甲状腺囊胞の診断であった(図2d)。
症 例4:非機能性副甲状腺囊胞の手術症例
患 者:56歳男性
主 訴:なし(検診要精査)
現病歴:検診で指摘された頸部腫大の精査で撮影したCTで甲状腺右葉より縦隔内まで進展する巨大囊胞を認め,当院呼吸器外科を受診した。画像上,気管支原性囊胞が疑われ,手術の方針となった。頸部からの手術目的に当科紹介された。
血液検査所見:血清Ca値:9.0mg/dL,血清i-PTH 値:35pg/mL
頸部超音波検査:甲状腺右葉より縦隔内まで進展する囊胞性病変を認め,大きさは測定困難であった(図3a)。

症例4の画像(a)および病理組織学的所見(b)
a.頸部超音波およびCT画像:甲状腺右葉より縦隔内まで進展する囊胞を認めた。
b.病理組織学的所見: 散在性の1層の上皮で裏打ちされ,壁内には脂肪組織に混在して副甲状腺組織を認めた。
手術所見:手術は頸部からのアプローチで行った。囊胞は甲状腺や気管との剝離は容易であったものの,腕頭動脈のさらに尾側へと続いており,腕頭動脈周囲を剝離の際に囊胞が破裂した。囊胞内容液を吸引し,一部は生化学検査へ提出した。尾側への剝離を進め,囊胞内に生理食塩水を注入して尾側端を確認し全体を摘出した。囊胞内容液は無色透明で,i-PTH:16,779pg/mL,Tg:670ng/mLであった。
病理学的所見:散在性の1層の上皮で裏打ちされ,壁内には脂肪組織に混在して副甲状腺組織が認められ,副甲状腺囊胞の診断であった(図3b)。
症例6~8:経皮的穿刺で診断に至った非機能性副甲状腺囊胞
症例6は頸部腫大の精査で他院から紹介され,症例7,8は気管支原性囊胞が疑いで頸部からの手術目的に呼吸器外科から当科紹介された症例で,画像上は甲状腺囊胞,副甲状腺囊胞,気管支原生囊胞などが疑われた。
いずれも血液検査で副甲状腺機能が正常であることを確認の上,経皮的穿刺を行った。囊胞内容液はいずれも無色透明で,生化学検査でi-PTH値高値およびTg値低値を確認した。
副甲状腺囊胞は副甲状腺機能亢進を伴う機能性囊胞と伴わない非機能性に分類される。
成因に関しては,非機能性囊胞は胎生期の遺残に由来するなど諸説あり,機能性囊胞は副甲状腺腺腫や過形成に2次的に囊胞が生じたものとされ,それぞれ異なる[1,2]。無症状の非機能性囊胞は原則治療の必要はなく,囊胞増大に伴う症状出現がないか経過観察するのみである一方で,機能性囊胞は通常の原発性副甲状腺機能亢進症の手術適応に準じて治療すべきとされ,両者ははっきりと区別して扱われる必要がある[3~5]。機能性囊胞は血清i-PTH値や血清Ca値の上昇と超音波所見で診断し,局在診断に99mTc-MIBIシンチグラフィが有用とされるが,自験例において副甲状腺機能亢進症と画像上で囊胞性病変を認めた症例は3例(症例1~3)あり,症例1,2は実際に機能性副甲状腺囊胞であったが,術前には機能性副甲状腺囊胞か副甲状腺腫瘍と甲状腺囊胞の合併かの鑑別が困難であった。特に症例2では99mTc-MIBIシンチグラフィでの異常集積も認めなかったように,99mTc-MIBIシンチグラフィでは囊胞変性した副甲状腺腫瘍を検出できないことがある[3,6]。症例3に関しては囊胞は非機能性副甲状腺囊胞で別の腺の副甲状腺腺腫を合併していたが,副甲状腺腺腫は縦隔内であったために超音波ではとらえられず,99mTc-MIBIシンチグラフィで縦隔内の異常集積を認めた。以上のように,副甲状腺機能亢進症と囊胞性病変を認めた場合には,①機能性副甲状腺囊胞,②副甲状腺腫瘍+非機能性副甲状腺囊胞,③副甲状腺腫瘍+他の囊胞性疾患の3つのパターンが考慮される。
病理所見に関して,非機能性副甲状腺囊胞は一般的に結合組織よりなる薄い壁をもち,内面は一層の立方上皮で覆われている。機能性囊胞は副甲状腺腫瘍が囊胞化したものとされ,囊胞壁は厚く,囊胞の壁内や内側に腫瘍がみられる[7,8]。副甲状腺囊胞の超音波所見に言及した報告は少ないが,以上を踏まえて当院の超音波所見を見返すと,機能性囊胞の2例はいずれも囊胞内に充実成分を指摘できた一方で,画像が記録されていた非機能性囊胞の3例ではいずれも囊胞内は完全な無エコーであった(図4)。副甲状腺機能亢進症と囊胞性病変が存在する場合の超音波検査では囊胞内に充実成分があるか,他の副甲状腺に腫大がないかに着目して観察することが術前診断の一助となる可能性がある。

症例1~5の超音波画像
<上段> 機能性副甲状腺囊胞の2例(症例1,2)では,囊胞内に充実成分を認めた。
<下段> 非機能性副甲状腺囊胞の3例(症例3~5)では,囊胞内は完全な無エコーであった。
非機能性副甲状腺囊胞は,甲状腺囊胞や気管支原性囊胞,リンパ管囊腫など他の囊胞性疾患との鑑別を要するが,画像上特徴的な所見はないとされる[4,5,9]。穿刺吸引が診断に有用であり,囊胞内容液を生化学検査に提出し,PTH高値,Tg低値であれば副甲状腺囊胞と診断される[4,9,10]。今回の非機能性副甲状腺囊胞6例のうち3例(1例は手術,2例は経過観察)は気管支原生囊胞疑いで頸部切開でのアプローチでの摘出が考慮され呼吸器外科から紹介された。気管支原生囊胞は時に前上縦隔に発生し,細胞診は診断的意義少ないため通常は施行せずに,無症状の場合にも悪性や出血・感染などを考慮し原則手術と記されているが[11,12],非機能性副甲状腺囊胞であれば手術は必要でない。前上縦隔の気管支原性囊胞が疑われる場合には,副甲状腺囊胞を鑑別診断に挙げ,経皮的穿刺による性状の確認とPTH測定を積極的に考慮すべきであり,呼吸器外科医との意見交換の必要性を考える。
自験例で術中に採取した囊胞内容液と経皮的穿刺により採取した囊胞内容液の生化学検査について比較すると,経皮的穿刺した3例ではPTH高値,Tg低値を認めた一方で,術中採取の3例はすべてにおいてPTHのみでなくTgの高値も示した。機序は不明であるが,術中の甲状腺操作の影響が考慮され,囊胞内容液による診断は経皮的穿刺の場合のみ有用な可能性が示唆される。
副甲状腺囊胞の8例を経験したため,主に診断について検討した。機能性囊胞,非機能性囊胞のいずれにおいても診断に難渋する場合がある。
なお,本論文の要旨は第53回日本内分泌外科学会学術大会(2020年11月,東京)において報告した。