Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Radiotherapy update
Hiroshi MoriHiroshi WakabayashiDaiki KayanoSeigo Kinuya
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2022 Volume 39 Issue 2 Pages 110-115

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抄録

難治性褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)の治療の1つに,131I-metaiodobenzylguanidine (MIBG)を用いた放射線治療(核医学治療)がある。PPGL患者には様々な治療法が提供されているが,131I-MIBGの腫瘍集積は選択的・特異的で,131I-MIBG治療は治癒切除不能なPPGL病変のある患者に対して優れた治療法である。131I-MIBG治療で客観的奏効が完全奏効に達することは少ないが,複数回治療によって部分奏効が長期間持続し,カテコラミン値の低下による症状改善が報告されている。代表的な有害事象として骨髄抑制を認めるが,不可逆的なものはほぼ認められないと報告されている。2022年からPPGLに対する131I-MIBG治療の保険診療が開始された。本項目では筆者の施設での経験を交えながら,131I-MIBG治療の有効性や治療の実際について解説を行う。

はじめに

治癒切除不能な褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)の治療として,131I-metaiodobenzylguanidine(MIBG)を用いた核医学治療があり,特に病変が広範囲に及ぶ場合は全身治療として支持されている[]。本邦では2021年まで保険診療が認められていなかったため,欧州で認可された医薬品を個人輸入し,一部の施設で自由診療として行っていた。そのため,患者・家族の負担は大きく,関連学会や患者会などから保険診療可能な131I-MIBG開発要望が提出された。先進医療Bや企業治験を経て,2022年1月にライアットMIBG-I131静注(以下ライアット)が富士フイルム富山化学株式会社(現:PDRファーマ株式会社)から発売され,本邦で待望の保険診療が可能となった。本項目ではPPGLに対する131I-MIBG治療の基本や国内治験の結果を紹介し,ライアットを用いた治療の実際について,筆者の施設の経験を交えながら解説を行う。

131I-MIBG作用機序

131I-MIBGはノルエピネフリン類似物質であるMIBGに放射性同位体(131I)を組み込んだ放射性化合物であり,ノルエピネフリントランスポーター(NET)(uptake-1) を介した再摂取機構による能動的機構と受動拡散によって腫瘍細胞内に取り込まれる。131I-MIBGは主に606keVのβ線と364keVのγ線を放出し,PPGLの治療や診断に使用することが可能である。

131I-MIBG適用

2008年に欧州核医学会から131I-MIBG治療に関するガイドラインが策定されており[],転移性または手術不能なPPGLの治療に推奨されている。妊娠中,授乳中,余命3カ月未満(難治性の骨痛の場合を除く),短期間の透析が必要な腎不全は,131I-MIBG治療の絶対禁忌とされている。相対的禁忌としては,放射線管理区域に隔離する医療リスク,排尿管理が困難であるもの,糸球体濾過率が30mL/min未満,総白血球数が3,000/μL未満または血小板数が100,000/μL未満の骨髄機能低下が挙げられる。日本核医学会のガイドライン案が2015年に策定され,同様の推奨がなされている[]。本邦でライアットを用いた保険診療を行う場合,MIBG集積陽性の治癒切除不能な褐色細胞腫・パラガングリオーマが対象となるため,診断用核種を用いた123I-MIBGシンチグラフィによる治療前診断が必須である。131I-MIBG投与後は患者自身が放射線源になり,他者へ放射線被ばくを起こしてしまうため,放射線治療病室からの退出基準を満たすまでは,患者単独で数日間の入院生活が求められる。そのため,日常生活動作(ADL)が自立していること,放射線治療病室内での生活ルールを理解・遵守できることが必要不可欠である。多くの放射線治療病室では緊急対応が困難であるため,治療前に入念な準備や原疾患・併存疾患のコントロールを行い,緊急時の対応がスムーズにできるように体制を整えておくことが重要である。

また,本治療の実施にあたって,公益社団法人日本アイソトープ協会が主催する,アイソトープ内用療法講習会(3-ヨードベンジルグアニジン(I-131)注射液を用いた治癒切除不能なPPGLに対する核医学治療の安全取扱講習会)を受講することが必要で,医師の中から放射線安全管理責任者を1名以上,診療放射線技師または看護師などの中から放射線安全管理担当者を1名以上指名することが求められているため,留意しておきたい[]。

131I-MIBG治療の投与量および効果

欧州核医学会によるガイドラインでは3.7~11.1GBq/回の投与量を推奨しているのに対し,本邦では厳格な放射性物質使用認可量の規制のため,5.55~7.4GBq/日を3~4カ月以上の間隔を空けて,複数回繰り返す治療が一般的かつ妥当である。国内第Ⅰ相試験(難治性PPGL患者20名に5.55~7.4GBq/回を1~3回投与)と国内第Ⅱ相試験(難治性PPGL患者16名に5.55~7.4GBq/回を単回投与)の結果について提示する(表1)。国内第Ⅰ相試験の結果では,Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)に基づく最良効果判定は完全奏効(CR)10.0%,安定(SD)65.0%,進行(PD)15.0%,評価不能(NE)10.0%であった[]。国内第Ⅱ相試験でのRECISTに基づく客観的奏効率はCR 0.0%,部分奏効(PR) 5.9%,SD 70.6%,Non-CR/Non-PD 11.8%,PD 5.9%,NE 5.9%であり,奏効率(CR+PR)は5.9%であった[]。尿中カテコラミン奏効率は23.5%,123I-MIBGシンチグラフィ奏効率は29.4%であった[]。転移性PPGL患者の予後について,1992~2016年に発表された20本の論文をシステマティックレビュー・メタアナリシスしたものでは,5年生存率は37%,10年生存率は29%と報告されている[]。筆者の施設ではPPGL初発診断からの5年生存率・10年生存率はそれぞれ79%,67%,初回131I-MIBG治療からの5年生存率・10年生存率はそれぞれ69%,50%であった[]。これらから,複数回投与であっても腫瘍縮小やカテコラミン症状緩和,生命予後の改善が期待できると考えられる。その他,病勢安定している患者の方が5年後の全生存率が有意に高いという報告があり[],131I-MIBG療法の予後不良因子として,ホルモン性PD,客観的PD,単回131I-MIBG治療,骨転移,便秘が報告されている[,]。

表1.

国内第Ⅰ相・Ⅱ相多施設共同試験の治療効果

131I-MIBG治療による有害事象

血液毒性

国内第Ⅰ相・Ⅱ相試験でGrade3の骨髄抑制は見られたが,Grade4の骨髄抑制は認められなかった。また,治療を繰り返しても血液学的毒性のグレードの上昇は認められなかった。高用量131I-MIBGを単回投与した報告[10]では,Grade3または4の血液学的毒性の発生率が最多であった。ほとんどの血液学的毒性は一過性で,不可逆的な骨髄抑制は131I-MIBG治療後の患者にはほぼ認められなかった[11]。ただし,治療前から化学療法などにより骨髄機能低下がある場合,全身・骨への被ばく量が高くなる場合(腎機能低下,腫瘍量が多い症例など)は骨髄抑制を強く認める可能性があるので,慎重な経過観察が必要である。

非血液毒性

代表的な早期有害事象として,放射性宿酔や放射線性胃腸炎に伴った胃腸障害がある。国内第Ⅱ相試験では,治療に因果関係のある悪心は68%,嘔吐は6%と報告されている[]。腫瘍量が多いと,食欲不振や悪心が3~4週間程度継続することがあるが[11],これらの症状は軽度であり十分にコントロールできるものである[12]。対策としてセロトニン5-HT3受容体拮抗薬が使用される。筆者の施設では必要に応じて,H2受容体拮抗薬も処方している。また,腫瘍崩壊に伴いカテコラミン症状が増悪する可能性がある[13]。カテコラミン症状を認める場合はα遮断薬,補液投与など全身管理が重要になる。

晩期有害事象の中に甲状腺機能低下症がある。131I-MIBG治療後の尿中代謝物のうち85%以上は131I-MIBGのまま尿排泄されていたが,遊離131I(約6%)やその他の131Iを含んだ放射性化合物が排泄されていたと報告があり[14],これらが甲状腺に取り込まれ,甲状腺機能低下を引き起こすと推察される。ヨウ化カリウムによる甲状腺ブロックを行った状態で,単回の低用量131I-MIBG療法を実施したにも関わらず,甲状腺機能低下症が発生することが報告されている[12]。

二次性悪性腫瘍として,急性骨髄性白血病(AML),骨髄異形成症候群(MDS)が報告されている[1015]。低用量131I-MIBG治療後では14人中1人にMDS,高用量131I-MIBG治療を複数回施行後では50人中2人にMDSを発症し,同時にAMLも発症したと報告がある。131I-MIBG療法後のMDSの臨床経過は,2年以上後に発生すると報告されている[10]。

131I-MIBG治療後の性腺機能低下は,単回の高用量治療(約34~37GBq/回)や複数回治療(約59~63GBq/合計)で報告されている[10]。

PPGL患者は30~40歳代に多く,病勢のコントロールがついた場合は長期生存の可能性があるため,晩期有害事象についても治療前に十分な説明を行い,治療後には慎重な定期観察が必要と考えられる。

治療の実際

筆者の施設では図1のような流れで治療適用を確認し,治療を行っている。2022年1月以降は保険診療が開始されたが,ライアット1.85GBq/瓶当たりの薬価は1,072,505円(2022年3月現在)で,通常1回7.4GBq(4瓶)使用するため,非常に高額となる。また,ライアット発注の締め切りは,投与(検定日)から4週間前の金曜日17時で,ライアット到着は毎月の第3火曜日であるため,治療計画の際には注意しておきたい。131I-MIBG治療の実際について図2で提示する。遮蔽容器から取り出すことなく131I-MIBG投与ができ,医療従事者の被ばくを大幅に減らすことが可能になった。最後に131I-MIBG治療を行った症例を提示する(図3)。治療後に撮影される131I-MIBGシンチグラフィは123I-MIBGシンチグラフィに比べ,投与される放射能が約34倍であるため,病変の検出力が高く,治療だけでなく診断にも有効である[16]。

図1.

治療実施までの流れ(金沢大学附属病院の場合)

図2.

ライアットの投与準備と治療の様子(金沢大学附属病院の場合)

ライアットのバイアルを長針・チューブ・短針で連結し,生理食塩水の持続点滴による圧力で,ライアットが患者へ投与される。バイアルは遮蔽容器に入ったままなので,医療従事者の放射線被ばくを大幅に減らすことができる。

図3.

治療症例

褐色細胞腫の左肩甲骨転移,胸椎転移,腹部リンパ節転移,骨盤内播種の症例。治療前の診断用123I-MIBGシンチグラフィ(222MBq投与)に比べ,131I-MIBG治療後シンチグラフィ(7.4GBq投与)では病変への集積が明瞭化している。治療1年後の123I-MIBGシンチグラフィでは病変への集積が治療前の123I-MIBGシンチグラフィと比べて不明瞭化している。

おわりに

PPGLに対する131I-MIBG治療の保険診療が本邦で可能となった。131I-MIBG治療は優れた治療法であるが,長期生存例では晩期有害事象(甲状腺機能低下症や二次性悪性腫瘍)を考慮する必要があり,治療後も長期的なフォローアップが必要である。また,131I-MIBG治療以外に177Lu-DOTATATE(ルタテラ®)を用いた核医学治療がある。これはソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍に保険適用があるが,PPGLでもソマトスタチン受容体が発現することがあるため[13],123I-MIBG陰性あるいは131I-MIBG治療抵抗性となったPPGLではソマトスタチン受容体シンチグラフィでも確認をしておきたい。本項目が131I-MIBG治療のupdateとなり,適用判断や治療の際に役立てていただければ幸いである。

【文 献】
 

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