Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Pheochromocytoma: pathology update 2022
Noriko Kimura
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2022 Volume 39 Issue 2 Pages 99-104

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抄録

褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)はWHO内分泌腫瘍分類(WHO)第3版(2003)までは良性PPGLと悪性PPGLに2分類されていたが,WHO第4版(2017)では,すべてのPPGLは転移する可能性のある非上皮性の悪性腫瘍(肉腫)であると明記された。その悪性度は低悪性度から高悪性度まであるが,PPGLではGAPP分類が唯一の悪性度の診断基準である。胸腹部PGLはカテコールアミン産生腫瘍として従来から交感神経性PGLと呼称されたが,近年,頭頸部PGLはアセチルコリン合成酵素(ChAT)が特異的に陽性で,副交感神経性PGLであることが判明した。WHO第5版(2022年)では両者は副交感神経性PGL vs 交感神経性PGLと対比して併記された。さらに,本稿ではPPGLの遺伝子異常と形質発現の関係(クラスター分類)とGAPPの類似性や,PPGLと上皮型神経内分泌腫瘍との鑑別診断に言及した。

はじめに

褐色細胞腫(Pheochromocytoma:PCC)とパラガングリオーマ(Paraganglioma:PGL)は副腎髄質および髄質外の傍神経節細胞から生ずる神経堤由来の非上皮性神経内分泌腫瘍であり,両者を合わせてPPGLと呼ぶ。PPGLの発生頻度は人口10万人当たり1~2人と稀な腫瘍であるが,発生年齢や発生部位が多岐にわたり,ホルモン産生面からは機能性や非機能性のものがある。転移例はPCCの10~15%,PGLの20~50%で,緩徐に進行し外科的に摘出可能なものや急速に広範に転移し治療に難渋するものがある。病理組織学的には転移の予測や悪性度の判定,上皮性神経内分泌腫瘍との鑑別診断などが問題になる。PPGLのWHO分類は改訂に伴って内容が変更されてきた。筆者はWHO第3版(2003年)から第5版(2022年)までPPGLの執筆・編集に携わってきたので,WHO分類の変遷を解説しながら,最近の動向をお伝えしたい。

1.腫瘍名称(表1)
表1.

褐色細胞腫と副腎外パラガングリオーマの分類

(WHO Classification of Tumours of Endocrine Organs, Tumours of the adrenal medulla and extra-adrenal paraganglia (2022)を改編

従来パラガングリオーマは頭頸部PGLと交感神経性PGLの2種類に分類されてきた。交感神経性PGLは褐色細胞腫と同様にカテコールアミン産生腫瘍であり,主として大動脈周囲,稀に膀胱,心臓,縦郭などに生ずる。それに対して頭頸部PGLは頸動脈小体や中耳,喉頭などの迷走神経や舌咽頭神経の周囲に生じ,その発生部位により,頸動脈小体PGL,舌咽頭PGL(中耳PGL),迷走神経PGL,喉頭PGLなどと腫瘍の局在による名称で呼ばれることが多い(図1)。頭頸部PGLは副交感神周囲に局在する腫瘍であることから,別名副交感神経性PGLともいわれてきたが,その機能に関しては不明であった[]。従来からPCCや交感神経性PGLはクロームを含む固定液に入れると褐色を呈するが,頭頸部PGLは殆ど着色しないことから,前者はchromaffinomaや褐色細胞腫(pheochromocytoma)と,後者はnonchromaffinomaと呼称された。現在はクロームを含む固定液は使用されていないが,アルデヒド基を有するフォルマリンやグルタールアルデヒドなどで固定するとクローム含有固定液と同様にPCCは褐色に着色するので,褐色細胞腫という名称は捨てがたい。交感神経性PGLはカテコールアミン産生腫瘍で,臨床的にカテコールアミン過剰に伴う高血圧や糖尿病などの症状を呈する機能性腫瘍であることが多いが,頭頸部PGLはカテコールアミン高値を示すことが殆どない非機能性腫瘍であるなど,性格の異なる腫瘍であることが知られていたが,その原因に関しては不明であった。しかしながら,最近になり頭頸部PGLは免疫組織学的にアセチルコリン合成酵素であるcholine acetyltransferase(ChAT)が陽性であり,アセチルコリン産生腫瘍であることが解明され,交感神経性PGLに対して,副交感神経性PGLとして対比する腫瘍群であることが判明した[]。WHO内分泌腫瘍第5版(2022)にも両者は表1のように対比して掲載される予定である[]。

図1.

パラガングリオンとその腫瘍の局在

PPGLは従来から転移の有無により良性PPGLと悪性PPGLの2者があると考えられ,WHO内分泌腫瘍分類(WHO)第3版(2003年)[]ではそのように分類された。しかしながら,症例の蓄積が進むにつれて腫瘍の転移率はPCCの10~15%,PGLの20~50%と高頻度であり,長期間追跡すると転移が高率になることが明らかとなり,WHO第4版(2017)では,すべてのPPGLは転移する可能性がある悪性腫瘍であると定義され,ICD-Oコード3(悪性腫瘍)が付与されると共に,良性や悪性という言葉が削除された[]。他の臓器(下垂体,甲状腺,副甲状腺,膵,消化管など)の悪性神経内分泌腫瘍は上皮性腫瘍であるのでcarcinomaと呼ばれるが,PPGLは非上皮性腫瘍であるので,sarcomaに分類される。また,American Joint Committee on Cancer(AJCC)のCancer Staging Manual 第8版(2017年)に新たにPPGLの章が設けられ,悪性腫瘍としての病期分類も記載された[]。

褐色細胞腫・パラガングリオーマの病理学的悪性度診断

細胞異形・構造異型・核分裂像の数・壊死・脈管浸潤・被膜浸潤などは悪性腫瘍の基本的な診断基準項目であるが,それに基づくPPGLの良・悪性の鑑別と予後の予測は困難だった。「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」研究班(成瀬班)の本邦における疫学調査ではPPGLの推定患者数は2,920例で,このうち悪性(転移)例は320例だったが,その約37%は初回診断時に良性と診断されていた[]。このことは上記のような教科書的な悪性腫瘍の診断基準ではPPGLの転移の有無を予測できないことを意味する。PPGLを研究テーマにしていた筆者も臨床からの「良性か?悪性か?転移の可能性は?」との必然的な問いにどのように診断したら良いのか長年悩んでいたが,上記の悪性腫瘍の鑑別項目に褐色細胞腫の特徴を加えて作成したのが,GAPPと呼んでいる診断基準である(表2)[]。GAPP作成の背景には,内分泌腫瘍は一般的にホルモン産生が盛んな細胞は核異型が高度になるが,核異型は悪性の指標にならないこと,細胞増殖が盛んな細胞は小型で大きさが均一であり,単位当たりの細胞密度が高くなること,アドレナリン産生型(アドレナリンを産生しているタイプ)とノルアドレナリン産生型(アドレナリンを産生していないタイプ)を比較すると後者の予後が悪いこと,転移例には緩徐に転移して予後が悪くないものと,急激に広範に転移して予後の悪いものがあり,両者を鑑別する必要があることなど,それまで自分自身が経験した症例と研究を背景にして考案したものである。それぞれの因子(パラメーター)に点数を配転してスコアリングを行い,転移例と非転移例を比較したところ,両者間に明らかな優位差がみとめられた。また,高分化,中分化,低分化型と3型に分けると,それらの間の生存率に有意差が認められ,悪性度分類として有用であった(表2)。GAPPは転移の予測と悪性度を判定する病理組織学的な診断基準であり,その有用性の検討は病理医による多数例での検討以外は不可能であり,他の統計学的なメタ解析などは数字の遊びでしかない。実際に自施設の多数例を検討した病理医達からは患者の予後とGAPPスコアリングが一致したと高い評価を得ている[10]。GAPPは顕微鏡下にat glanceで診断することに慣れている一般病理医にとって,単位当たりの細胞数をカウントするのは面倒かもしれないが,特に難しい手技ではなく,cell counter一個と接眼レンズにスケールを入れておけば容易にできる。また,「患者のカテコールアミンのタイプが不明ですが,どうしたら良いですか?」という質問が多いが,病理診断を依頼する先生方には,依頼書に一般的な臨床情報と一緒に必ず術前のカテコールアミンの値とその種類を簡単に記載していただきたい。詳細を記載する必要はなく,アドレナリン型(アドレナリンが基準値を超えている)か,ノルアドレナリン型(アドレナリンが基準値内)か,カテコールアミン非産生型かを記載すれば十分である。勿論,アドレナリン,ノルアドレナリンをそれぞれメタネフリン,ノルメタネフリンに置き換えても良い。それぞれの産生量の多寡は問題でないことに注意されたい。院内の情報は電子カルテで共有できるが,病理医は多くの検体を抱えており大変忙しく,自分で検査データまで調べる余裕がないので,臨床的に調べてあるデータは病理依頼書に記載して,病理医に惜しみなく情報提供するのが良い病理診断を得るもっとも確実な方法である。

表2.

GAPPスコアと悪性度,転移の関係

すべてのPPGLは悪性腫瘍である(ICD/O 3)とWHO腫瘍診断で明記されて以来PPGLは非上皮性悪性腫瘍(肉腫)であると定義されたが,振り返ってみれば,肉腫(筋肉,骨,脂肪組織,血管,脳などの非上皮性組織の悪性腫瘍)には同一臓器内に低悪性度のものから高悪性度のものまであり,悪性度をGradingされてあるものが多い。長い間PPGLの病理診断に問題があったのは,肉腫であるということの認識不足のためでもある。さらに,偶然ではあったが,カテコールアミンタイプをパラメーターに加えたGAPP分類は遺伝子変異によるクラスター分類と非常によく似ているのも興味深い。

クラスター分類と褐色細胞腫・パラガングリオーマの特徴

PPGLはその約40%に胚細胞性変異がみられ,内分泌腫瘍の中でもっとも高率に遺伝子変異が解明されている腫瘍である[11]。PPGLには現在20以上の胚細胞/体細胞変異が知られており,これらの遺伝子群はシグナル伝達の活性化に基づいて3つのクラスターに分類されている。クラスター分類はPPGLを有する患者の臨床的な特徴を明らかにした(図2)[12]。Cluster 1(Pseudohypoxia Signaling CLuster)の遺伝子にはHIF2A,SDHxSDHA,SDHB,SDHC,SDHD),SDHAF2,VHL,EGLN1/2,FH,MDH2,IDHが含まれており,このクラスターに含まれるPPGLは増殖が激しくしばしば転移する。さらに多発や再発がしばしばみられ,患者の臨床経過はクラスターの中で最悪である。このクラスターの腫瘍の特徴はすべてノルアドレナリン産生型で,副腎外PGLである。Cluster 2(Kinase Signaling Cluster)にはRET,NF1,TMEM127,MAX,ATRX,CSDE1が含まれており,ATRXを除くと臨床経過は全体に良い。このクラスターの腫瘍はアドレナリン産生型であり,PCCであり,患者の予後は最も良い。Cluster 3(Wnt Signaling Cluster)には体細胞変異のCSDE1MAML3が含まれる。このクラスターの標的遺伝子にはMYC protooncogenecyclin D1が含まれ,腫瘍の悪性度はCluster 1と2の間にある。

図2.

クラスター分類

すなわち,クラスター分類は遺伝子変異と腫瘍の形質発現(腫瘍により産生されるカテコールアミンの種類をアドレナリン型か,ノルアドレナリン型かに分類),さらに腫瘍の悪性度(転移)と相関することを明らかにしたものである。組織学的にはアドレナリン型はカテコールアミンの最終産物であるアドレナリンを産生する,機能的にも成熟した腫瘍であることを意味し,細胞増殖能は低いのが普通である。一方,ノルアドレナリン型(非アドレナリン型)はアドレナリンの手前でカテコールアミン合成が止まった腫瘍であり,細胞の成熟度がアドレナリン型よりも未熟な腫瘍である。副腎外PGLはすべてこのタイプであり,また,PCCの50%はこのタイプである[]。

GAPP分類ではPPGLをアドレナリン型とノルアドレナリン型に分類し,ノルアドレナリン型の配点を高くしたが,奇しくもクラスター分類(遺伝子変異)による分類と共通の結果になったわけで,遺伝子変異から攻めても,組織分類から攻めても同じところに辿り着いたのは興味深い。

腫瘍の局在と他の神経内分泌腫瘍の鑑別

PPGLは骨とリンパ節を除くいかなる臓器にも発生しうる[13]という極論に基づき,PPGLと上皮性神経内分泌腫瘍(epithelial Neureneocrine Tumors:eNETs)の鑑別を十分に行う必要がある。

PPGLのマーカーとして汎用されているクロモグラニンA(CGA),INSM1,シナプトフィジン,NCAM(CD56)はeNETsにも共通に陽性になる感度と特異度の優れた腫瘍マーカーである。PGLの支持細胞を同定するS100はeNETsその他の腫瘍でも陽性になる[14]ために,CGAやINSM1とS100の組み合わせだけではPPGLの診断には不十分である。GATA3はPPGLに陽性になるが,通常の染色法では非常に染まりにくい症例が多い一方,乳がんや膀胱がん,副甲状腺腫瘍では感度の良いマーカーでもあるので,それらの転移を含めてGATA3によるPPGLの診断には注意が必要である[15]。カテコールアミンの合成酵素のtyrosine hydroxylase(TH)とdopamine beta-hydroxylase(DBH)はPPGLのマーカーとして有用であるが,THはeNETsでも12%に陽性になると報告されており,THが陽性だからといって100%PPGLであるとはいえない[14]。また,また頻度は低いながらTH陰性のPPGLもあるので,必ずDBHを併用するようにしたい[16]。DBHは胞体内の大型分泌顆粒内に含まれており,様々な細胞変性に抵抗性であるが,THは胞体内のcytosolに含まれており細胞変性の程度に大きく左右されることが,病理標本においてはTHよりもDBHの方の感度が良い理由の一つと考えられる。eNETsとの鑑別診断で最も重要なものはケラチン(CAM5.2,AE1/AE3)である。ケラチンはeNETsではほぼ100%陽性であるが,PPGLの大部分は陰性である[14]。

さらに重要なのは,SDHBの免疫染色である。PPGLの転移や多発に関係するクラスター1の遺伝子SDHxSDHA,SDHB,SDHC,SDHD,SDHAF2)変異例の組織学的同定にはSDHBの免疫染色が有用である。すなわち,SDHB免疫染色が陽性であれば,上記の遺伝子群の変異は否定できるが,陰性であれば上記の遺伝子のうちのどれかが変異している可能性を示唆する[17]。大腸PGLは非常に稀であるが,私どもは上行結腸と直腸に生じた2例を経験した。2例共にSDHB免疫染色が陰性だった。そのうちの1例は2.5cm大の腫瘍で,術後転移がなく良好に経過したが,他の1例は7.5cm大の腫瘍で,術後再発を繰り返し,5年後に多発転移で死亡された。病期は両者ともにpStageⅡだったが,組織学的には前者はGAPP2点の高分化型で,後者はGAPP7点の低分化型だった[18]。このように,通常と異なる部位に生じたPGLの場合は遺伝子変異,特にSDHxの変異例であることが推定されるので,必ずSDHBの免疫染色でスクリーニングを行い,陰性だったら遺伝子検査を施行することが望まれる。SDHx変異例でも腫瘍サイズやGAPPスコアリングによる組織分化度の違いにより予後が全く異なることが証明されたのは興味深い。

おわりに

PPGLに関するWHO分類の変遷およびクラスター分類とGAPP分類の関係,PPGLとeNETsの鑑別診断に言及した。

【文 献】
 

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