Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Sclerosing mucoepidermoid carcinoma with eosinophilia
Miho KawaidaKaori KameyamaKoichi Ito
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2022 Volume 39 Issue 3 Pages 165-169

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抄録

日常診療で出会う甲状腺悪性腫瘍の90%以上は乳頭癌であり,それ以外に遭遇することがあるとしても濾胞癌がほとんどと思われる。甲状腺癌取扱い規約では「その他の腫瘍」に分類される粘表皮癌のうち,今回取り上げる好酸球増多を伴う硬化性粘表皮癌(Sclerosing mucoepidermoid carcinoma with eosinophilia,SMECE)は,WHO第5版では新たに唾液腺型に分類されることになった粘表皮癌とは別のカテゴリーに分類されることとなっている。本腫瘍の臨床病理学的な特徴につき概説する。

はじめに

日常診療で出会う甲状腺悪性腫瘍の90%以上は乳頭癌であり,それ以外に遭遇することがあるとしても濾胞癌がほとんどと思われる。頻度は非常に稀ではあるが,組織所見が特徴的な好酸球増多を伴う硬化性粘表皮癌(SMECE)について述べたい。

疾患概念

SMECEは好酸球およびリンパ球浸潤の目立つ硬化性間質と類表皮分化・腺分化を示す上皮成分より構成される癌である。1991年にChanらにより橋本病を背景とした乳頭癌や好酸性細胞型濾胞癌とは異なる悪性上皮性腫瘍として初めて記載された[]。これまでの報告例は100例未満[]と,非常に稀な腫瘍である。成人に発症し(平均年齢:55歳)し,女性に多くみられる癌である(男女比 1:13)。橋本病を背景としていることも特徴の一つである。粘表皮癌とは粘液性,中間型および扁平上皮型の腫瘍性上皮細胞を構成成分とする点が共通している。SMECEはWHO第4版[]まで悪性腫瘍のカテゴリーで粘表皮癌とならび記載されていたが,WHO第5版では組織発生が不明確な腫瘍として唾液腺型癌と新たに分類された粘表皮癌と分別される予定である(表1)。これは近年,CRTC1-MAML2融合遺伝子が唾液腺原発の粘表皮癌だけでなく甲状腺原発の粘表皮癌でも認められた一方で,SMECEでは同様の遺伝子異常は報告されていない[,,]からである。BRAF V600Eとの関連は1例報告[]があるのみで,濾胞上皮細胞由来の甲状腺癌に典型的な突然変異との関連は明らかになっていない。SMECEの起源として濾胞上皮細胞の扁平上皮化生[]やsolid cell nest[]が挙げられているが,それらの説を積極的に支持するような免疫組織化学的な所見を欠いており,あくまで仮説にとどまっている。

表1.

WHO 第5版で予定されている分類。

臨床所見

典型的には片側性で,ゆっくりと成長する無痛性の頸部腫瘤として現れる。甲状腺機能は正常なことが多い。急激に腫大し,嚥下困難,気道圧迫および反回神経麻痺を引き起こした症例も報告されている。超音波検査では平滑な等エコー像を呈し,粗い石灰化を伴うことがある。形成される腫瘤は平均43mm大で,報告された症例には5~130mm程度の幅がある。約20%の症例に乳頭癌の合併がある[]のに加え,SMECEと未分化癌が並存したとの報告[10]もある。

標準治療は切除であるが,術前診断が困難なこともあり,術式は報告によりまちまちである。以前は予後の良い低悪性度の腫瘍と考えられていたが,およそ40%の症例でリンパ節転移を伴うこと[11],時折肺や骨,肝臓などといった遠隔転移を示す症例[]があること,術後20年以上経ってからの再発報告があることから,長期フォローアップが必要と考えられる。

病理所見

肉眼的には,通常,背景の甲状腺組織との境界は不明瞭であるが,境界明瞭なこともある。硬い病変で,他の癌に比べると一様な白色調を示すようである。

組織学的には,好酸球に加えリンパ球や形質細胞が浸潤する膠原線維性の硬化性間質を背景に,粘液細胞と扁平上皮様あるいは類上皮様細胞が小胞巣ないし索状構造をとりつつ浸潤する像を示す。SMECEの上皮成分のみに着目すると唾液腺で多くみられる粘表皮癌と類似性があるものの,炎症・線維化が高度であるため似た組織像とはいえない(むしろ慢性甲状腺炎の組織像により近い)。背景の甲状腺は橋本病の像を呈する。組織化学的には,粘液細胞では胞体内粘液がPASやムチカルミンで証明されるとともに,扁平上皮様ないし類上皮様細胞では,サイトケラチンやp63が陽性となる。甲状腺癌の診断に頻用されるTTF-1のSMECEにおける陽性率は50%程度と高くない[]。同様に甲状腺のマーカーとして知られるサイログロブリンやPAX8はほぼ陰性となる[]。

細胞診所見はしばしば非特異的な所見を示す。組織像を反映した様々な像が出現しうる。鑑別困難あるいは悪性の疑いと判定されることが多い。細胞診でSMECEを推定診断するのは困難と思われる。

提示症例

50代女性。10年近く前に脱毛を主訴に近医で橋本病と診断され,レボチロキシン服薬にて管理されていた。その他特記すべき既往歴や家族歴はない。フォローアップ中,超音波検査で結節の増大を指摘された。穿刺吸引細胞診で分化の低い乳頭癌と診断されたため,甲状腺片葉切除術が施行された。画像検査所見,組織所見を供覧する(図12345678910)。なお術後5年以上無再発である。

図1.

術前の造影CT。甲状腺右葉下極に境界明瞭な低吸収域を認める。気管への浸潤は明らかでなく,肺への転移は明らかでなかった。

図2.

カラードプラー。血流を欠いた,辺縁整,境界明瞭な低エコー値の腫瘤である。石灰化は明らかでない。

図3.

手術検体割面(ホルマリン固定前)。一様な白色調を示す充実性腫瘤である。割面には隔壁の形成がうかがわれる。

図4.

ホルマリン固定後の割面。

図5.

HE所見(弱拡大)。細胞密度の少ない間質成分が腫瘍の多くを占めている。左上は背景の甲状腺組織(慢性甲状腺炎)である。

図6.

HE所見(強拡大)。淡青色を示す粘液を胞体内に有する粘液細胞と,好酸性胞体を有する扁平な中間細胞からなる囊胞状の上皮成分がみられる。

図7.

HE所見(強拡大)。小囊胞あるいは胞巣を形成する上皮細胞の一部は扁平上皮様の像を呈する。周囲には密なリンパ球浸潤を示す慢性甲状腺炎の像をみる。

図8.

HE所見(強拡大)。密な膠原線維束の増生を背景に,核小体の目立つ腫大核を有する腫瘍細胞が索状構造をとりつつ浸潤・増殖している。間質には単核あるいは二核の赤色顆粒を有する好酸球が多数認められる。

図9.

免疫染色(p63)。腫瘍細胞で陽性となるが,背景甲状腺では陰性である。

図10.

免疫染色(サイログロブリン)腫瘍細胞は陰性を示す。背景甲状腺組織では陽性である。

おわりに

非常に稀な腫瘍とされるSMECEを病理所見を中心に提示した。実際に遭遇する可能性は低いと思われるが,橋本病を背景とする甲状腺腫瘍の一つとして記憶にとどめていただければ幸いである。

【文 献】
 

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