2022 Volume 39 Issue 3 Pages 170-176
転移性甲状腺腫瘍は,頻度が低いものの治療方針の決定などにおいて極めて重要であり,適切に診断する必要がある。主に中高年に生じ,男女比に明らかな差は認めない。主要な原発臓器は,腎臓,肺,頭頸部,乳腺などである。本稿では,転移性甲状腺腫瘍の自験例を提示し,細胞診および組織診における鑑別点・鑑別のピットフォールを概説する。
転移性甲状腺腫瘍(甲状腺の続発性腫瘍;Tumors metastatic to the thyroid:TMT)は他臓器の悪性腫瘍が甲状腺に転移したものである[1,2]。TMTの頻度は低いものの,鑑別として忘れてはならない。全身の臓器より様々な組織型の腫瘍が転移することから,形態学的な情報に加えて,マーカーや臨床情報などを総合して診断することが重要である。
TMTの頻度は,最近のメタアナリシスでは,甲状腺悪性腫瘍の組織検体の1.15%,穿刺吸引細胞診(FNA)検体で1.9%とされている[2]。良性も含めた全甲状腺切除症例の0.18%,全甲状腺FNA検体の0.3%に相当する。剖検例におけるTMTの頻度はより高いとされており,既報の平均が5.9%(0.5%~24%)である。最も頻度が高かった報告では,剖検例の甲状腺を2~3mmのスライスで全割検索している[3]。また,こうした剖検例における報告は概ね2000年以前の比較的古い報告であり,超音波やPETなどの画像診断が進歩した現在ではこれほどの頻度ではない可能性がある。
本稿では自験例を提示し,TMT診断のピットフォールを解説する。
当院における2003~2022年の甲状腺切除例を検索したところ, 15例のTMTを認めた(表1)。頻度は甲状腺手術症例の約0.5%であった。平均年齢は63.5歳,男性が7例,女性が8例であった(男女比1:1.14)。原発の内訳としては,腎癌3例(20%),頭頸部癌3例(20%),肺癌2例(13%),乳癌2例(13%),食道癌1例,胃癌1例,大腸癌1例,悪性黒色腫1例,原発不明癌1例(各7%)であった。片葉ないし峡部への転移が10例(67%),両葉への転移が5例(33%)であった。12例(80%)は原発巣とは異時性に発生しており,再発までの期間は平均6年で,最長は乳癌で15年後の再発であった。3例は原発と同時性に発症した食道癌,肺癌と原発不明の症例で,いずれも複数臓器への転移が確認された。細胞診(Papanicolaou染色もしくはGiemsa染色)が施行された12例中,8例(67%)は悪性腫瘍と診断した(悪性疑いも含めると10例で83%)。腎癌,乳癌では比較的長い生存期間が観察されたが,その他の腫瘍の予後は不良であった。

がん研有明病院における転移症例のまとめ
これまでに多数のTMT症例が報告されている(表2)[4~9]。報告されているTMTの年齢の中央値は56~68歳程度であるが,7歳から90歳まで報告がある[2]。男女比は,1:1.07で明らかな差は認められないが,女性にやや多い傾向がみられる。これは乳癌の転移例によると考えられる。

転移性甲状腺腫瘍に関する報告例
主要な原発臓器は,腎臓(23.7%),肺(21.4%),頭頸部(12.6%),乳腺(10.7%),食道(7.0%),大腸(6.8%)である[2]。骨軟部の肉腫も頻度は低い(2.4%)が甲状腺に転移する。明らかな人種差などは報告されていないが,報告の大多数である欧米のデータと比較するとアジアのデータでは胃癌や食道癌の頻度がやや高い[2,6]。
組織型として甲状腺に転移し易いものとしては,淡明細胞型腎細胞癌(clear cell renal cell carcinoma)と悪性黒色腫が挙げられる。そのメカニズムは明らかでないが,甲状腺の豊富な血行や甲状腺炎,甲状腺腫瘍の存在が腎癌の転移に関与するとの指摘がある[2,10]。実際に当院の腎癌転移症例3例のいずれにも腺腫様甲状腺腫もしくは慢性甲状腺炎が認められた。これらと反対に前立腺癌の甲状腺転移例は極めて少ない。原発不明となった腫瘍の組織型に関しては,組織型自体が確定できなかった症例が2/3程度で,残りの多くは神経内分泌腫瘍,扁平上皮癌,悪性黒色腫で原発不明のものであった[2]。
Wuらの報告[6]では,40%の症例は単発性の転移巣を形成する。また,24%の症例では転移臓器が甲状腺転移のみであった。原発と異時性の発症例が多く(60%),同時性は少ない(34%)。甲状腺の転移巣が初発で,原発巣が後から発見される例もある(6%)ことから,悪性腫瘍の既往歴がなくてもTMTを除外することはできない。
原発性甲状腺腫瘍に転移するTMT症例(腫瘍内転移:tumor-to-tumor metastasis)も少なからず報告されている。悪性甲状腺腫瘍にも良性甲状腺腫瘍にも転移は報告されており,濾胞腺腫や濾胞型乳頭癌への転移の報告が多い。原発臓器は通常のTMTと同様と思われる[11]。甲状腺腫瘍を合併しているTMTはさらに頻度が高く,39%とも報告されている[4]。検体に複数の腫瘍が混在する可能性も考慮する必要がある。
甲状腺癌の予後は一般的に良好であるが,TMTでは腫瘍死の割合が高くなる。悪性腫瘍の複数臓器への転移により切除適応とならない場合もあるが,腎癌や乳癌など比較的緩徐な経過を示す症例で甲状腺切除が実施された場合には予後の改善が期待できる[5,6]。
甲状腺領域において細胞診は病変の質的診断の精度が針生検組織診と同等とされており[12],TMTの診断も基本的には細胞診によってなされる[4,7,8,13]。癌の既往歴は非常に重要な情報で,その形態を比較・考慮することによって転移の診断がある程度は可能となる。既往の情報がない場合や原発巣と同時に発見された場合などは,細胞診により悪性の診断は可能であっても,転移かどうかの判断は難しい。甲状腺細胞診で普段遭遇しないような細胞像であった場合,稀ではあるがTMTの可能性を考慮して鏡検すべきである。
腎癌では淡明細胞型腎細胞癌(clear cell renal cell carcinoma)の頻度が高い。淡明ないし泡沫状の豊富な細胞質が特徴で,明瞭な核小体と円形核を有する細胞が平面~重積集塊で出現し,ときに裸核もみられる(図1)。出血が多く,細胞が十分に採取されない場合も多い。細胞量が少量であると良性濾胞上皮細胞や濾胞性腫瘍との鑑別が困難なことがある。また,腎細胞癌は核内細胞質封入体を有することがあるため,乳頭癌との鑑別を要する。

転移性淡明細胞型腎細胞癌の細胞像
症例6(上段):血液を背景に,泡沫状細胞質を有する異型細胞を重積集塊や裸核状に認める。核は小型円形で明瞭な核小体や核形不整がみられる。症例7(下段):淡明ないし泡沫状の豊富な細胞質を有する異型細胞を充実性集塊や裸核状に認める。核は小型円形で明瞭な核小体や核形不整がみられる。(左が対物40倍,右が対物100倍)
その他の腺癌(消化器癌,乳癌,肺癌など)では核腫大や核形不整,明瞭な核小体,クロマチン増量などを呈する細胞が重積集塊として出現することが多い。細胞異型が比較的目立つため分化型甲状腺癌との鑑別は比較的容易であるが,低分化癌や未分化癌との鑑別はしばしば困難である。自験例(肺癌:症例14)(図2)では個々の細胞異型は目立つが低分化癌とするには集塊の結合性は良好で,集塊内に腺腔形成や柵状配列などの構造がみられたという点で,甲状腺原発の癌とする細胞像とは異なる。また,乳癌は症例により細胞異型の強さは様々で,自験例(乳癌:症例13)(図2)の既往乳癌は細胞異型が軽度な例であった。細胞診では小型異型細胞が小集塊で出現し,クロマチン微細顆粒状で僅かに核形不整がみられ,甲状腺乳頭癌と診断した。臨床的にも甲状腺癌を疑っていたため,転移の可能性を鑑別にあげるには至らなかった。このように細胞異型の目立たない癌の転移では甲状腺分化癌との鑑別が困難なこともある。

転移性乳癌および肺癌の細胞像
症例13(上段,乳癌):液状成分や少数のリンパ球を背景に,小型異型細胞の小集塊を少数認める。N/Cは高く,クロマチン微細顆粒状,核形不整がみられる。症例14(下段,肺癌)組織球や壊死物質を背景に,異型細胞を重積集塊として認める。集塊内に腺腔形成や柵状配列がみられる。個々の細胞は淡明な細胞質を有し,核腫大,核形不整,明瞭な核小体がみられ,異型が目立つ。(左が対物40倍,右が対物100倍)
扁平上皮癌はほとんどが頭頸部領域や食道癌の直接浸潤であるが,一部は非連続に甲状腺に転移する。いずれも高分化な扁平上皮癌であることが多い。壊死物質を伴って,奇怪な形態を呈する角化異常細胞が出現し,扁平上皮癌との診断は容易であるが,未分化癌や扁平上皮癌成分を伴う乳頭癌との鑑別を要する(図3)。また,低分化扁平上皮癌では異型の目立つ細胞が充実性集塊や孤立性に出現するため,低分化癌や未分化癌との鑑別を要する。

転移性扁平上皮癌の細胞像
症例10(左,喉頭癌)と症例12(右,口腔底癌):いずれも壊死物質とともに,奇怪な形態の角化異常細胞を認める。(いずれも対物40倍)
神経内分泌腫瘍の代表的なものとして肺小細胞癌がある。N/Cが高く,核クロマチン微細顆粒状,鋳型配列や核線がみられ,肺小細胞癌と推定し易い。その他の多くの神経内分泌腫瘍の特徴は粗大顆粒状の核クロマチン(salt and pepper chromatin)であり,甲状腺髄様癌との鑑別が問題となる。細胞形態のみから甲状腺髄様癌と転移性神経内分泌腫瘍を鑑別することは困難である。
その他の悪性腫瘍としては悪性黒色腫がある。明瞭な核小体を有する類円~紡錘形細胞が孤立散在性や上皮様集塊で出現する。細胞質にメラニン顆粒が確認できれば診断は比較的容易である(図4)。

転移性悪性黒色腫の細胞像
症例15(悪性黒色腫):明瞭な核小体を有する類円形~紡錘形細胞が孤立散在性や上皮様集塊で出現している。細胞質は淡明でメラニン顆粒がみられる。核内細胞質封入体(Apitz小体)がみられる。(いずれも対物100倍)
細胞診と組織診に不一致が生じた例としては,①細胞診で甲状腺未分化癌としたものが平滑筋肉腫,非小細胞肺癌,扁平上皮癌ないし悪性黒色腫であった,②細胞診で濾胞性腫瘍としたものが腎細胞癌であった,③乳頭癌としたものが腺様囊胞癌であったなどのケースが報告されている[4,8]。
近年,甲状腺領域においてもLBC(liquid-based cytology)を導入する施設が増えている[14,15]。標本作成時の手技の影響を受けず,血液の多い検体や細胞量の少ない検体からの細胞回収率を上げ,検体不適正率の減少が期待できる。さらに同時に複数枚の標本を作製できるため免疫染色や遺伝子検索の追加を容易に行うことができる。LBCの利用により,上記のような診断困難例において有用な情報を得ることが期待できる。
細胞診と比較して,組織診はより情報量が多く,比較的鑑別が容易である。転移巣としては大きく分けて2つのパターンに分けられる[1]。一つは脈管内に腫瘍塞栓を形成するもので,もう一つが甲状腺内に腫瘤を形成するものである。前者は特に甲状腺の辺縁や濾胞間に腫瘍胞巣が確認でき,血管壁が被膜様に胞巣を取り囲む。後者の方が頻度は高く,甲状腺内に正常甲状腺組織とは異なる形態の腫瘍塊が確認できる。腫瘍の鑑別が問題になる例としては,神経内分泌腫瘍と髄様癌の鑑別が難しいこと,淡明細胞型腎細胞癌と明細胞型濾胞癌・濾胞腺腫や甲状腺内副甲状腺との鑑別が難しいことが挙げられる。乳頭状構造を呈する腺癌の転移も甲状腺乳頭癌との鑑別が問題となるが,通常前者の異型が高度であることから鑑別可能である。
原発臓器,組織型の鑑別に重要となるのが免疫染色である(表3)。鑑別の詳細は成書に譲るが,TMTでの要点を記す。TMTが腺癌の場合,臓器特異的マーカーとCK7およびCK20の発現パターンがポイントとなる。TTF-1は甲状腺と肺に陽性になるため,甲状腺に陽性のPAX8と共に用いることが重要である。また,肺腺癌で陽性となるnapsin Aは乳頭癌の一部(高細胞型)でも陽性となるため注意が必要である。腎癌はPAX8が陽性であることから,CD10,RCCなどで鑑別する。扁平上皮癌ではP63やP40が陽性となるが,扁平上皮分化を示す乳頭癌や未分化癌などでも陽性となる。神経内分泌マーカーは甲状腺髄様癌でも陽性となるが,通常はcalcitonin,CEAにより髄様癌と鑑別できる。神経内分泌腫瘍の原発巣の推定は難しいが,肺原発ではTTF-1が,消化管原発ではCDX-2が,膵十二指腸由来ではNKX6-1の陽性率が高いとされる。未分化癌との鑑別が問題となる腫瘍では,各種マーカーの発現が低下し,診断困難な場合が多いが,悪性黒色腫や悪性リンパ腫の鑑別を忘れないことが重要と思われる。

原発性および転移性甲状腺腫瘍の鑑別点
TMTの頻度は低いが,鑑別が極めて重要である。既往歴が最も有用な情報であるが,既往がない場合や臨床的に甲状腺原発が疑われる際にもTMTの可能性に注意を払う必要がある。
本稿執筆にあたりご協力頂いた,がん研有明病院・頭頸科の三谷浩樹先生,新橋渉先生,戸田和寿先生,同病理部の竹内賢吾先生,同細胞診断部の杉山裕子先生,阿部仁先生,藤山淳三先生に深謝致します。