Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Pathological prognostic factors in differentiated thyroid carcinoma
Tomohiro Chiba
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2022 Volume 39 Issue 3 Pages 184-189

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抄録

甲状腺分化癌の手術適応は,多くの場合,画像所見と細胞診によって判断されることから,手術検体の病理診断は,診断の確定および治療方針の決定にとりわけ重要である。乳頭癌,濾胞癌のいずれにおいても組織型と病期を評価することが基本となるが,副所見の中にも予後との相関が報告されている事項がある。本稿では術後病理診断のポイントと形態学的ないし免疫組織学的な予後因子を概説する。

はじめに

甲状腺分化癌は基本的に予後良好な腫瘍である。しかしながらその一部に予後不良な症例が含まれており,そうしたハイリスク群を適切に評価することが望まれている。甲状腺癌の診断・治療のプロセスは他臓器と異なり,多くの場合,画像診断と穿刺吸引細胞診によって手術適応を判断する。病理診断の確定は主に手術検体によってなされ,術後病理診断に基づいて,その後の追加治療・経過観察の方針が決定される。

手術検体の病理診断・病理学的評価は甲状腺癌取扱い規約(第8版)[]やWHO分類[ ,]に従って行われる。すなわち,組織型の確定に加え,UICCのTNM分類,病期分類(Stage)を記載することに注意が払われる。これらの記載事項はminimal requirementsとしてとりわけ重要な予後因子である。現在記載事項に含まれず,強調されていない病理学的所見でも,リスク因子として重要とされるものが報告されており,そうした副所見も合わせることにより,さらに適切に予後を評価できると考える。

本稿では,甲状腺分化癌における術後病理診断のポイントと術後病理所見に基づく予後因子を概説する。分化癌である乳頭癌(papillary thyroid carcinoma:PTC)と濾胞癌(follicular thyroid carcinoma:FTC)に注目し,各々に共通の予後因子と相互に重要性の異なる予後因子を解説する(表1)。また,純粋な病理形態学的な評価に加えて,免疫染色を利用した予後評価に関しても考察する。

表1.

甲状腺分化癌において重要な術後病理所見

1.乳頭癌における病理形態学的予後因子

PTCは甲状腺癌の中で最も頻度の高い組織型であり,基本的に予後が極めて良好の腫瘍である。しかしながら,PTCの5~10%程度に予後の悪いものがあり,それらがPTCによる死亡のほぼ全体を占めると想定されている。

PTCはすりガラス状クロマチン,核内細胞質封入体,核溝などの特徴的な核所見から診断される。その名の通り乳頭状に増殖するものが通常型であるが,増殖形態・組織構築が異なる亜型が多数定義されている(表2)。これらの亜型の中には通常型と比較して,予後不良ないし良好なものが知られている[,]。予後不良な亜型としては,高細胞型,ホブネイル型や充実型乳頭癌が知られている。高細胞は腫瘍細胞の高さが幅の3倍以上を示すもの(図1)とされ,WHO分類第5版[]では高細胞成分が30%以上含まれるものが高細胞型PTCと定義された。ホブネイル型も転移・再発が多い予後不良な亜型であり,高細胞型と同様に同成分が30%以上を占めるものとされる。若年に頻度の高いびまん性硬化型乳頭癌も,多少の議論があるものの,やや高リスクと考えられている。

表2.

乳頭癌の亜型[

N/A;不明

図1.

高細胞型乳頭癌

乳頭癌の核異型を示す腫瘍細胞で,高さが幅の3倍以上を示す。

PTCにおける脈管侵襲の影響に関しては,予後因子であるという報告が多いものの[],脈管侵襲が独立した予後因子ではなかったという報告もあり[],いまだ議論の余地がある。実際の診断において,PTCではリンパ行性転移の頻度が高いが,形態の観察からはリンパ管侵襲よりも血管浸潤の頻度が高いという不一致があり,PTCの脈管侵襲の評価は困難であると実感している。

切除断端の評価は基本的に重要と考えられ,実際に米国の大規模データベースの解析にて,切除断端陽性に関しては死亡リスクを増加させることが確認されている[]。しかしながら,顕微鏡的な切除断端陽性は必ずしも予後因子とはならないという報告もあることから[10],断端露出の程度を評価することが重要と思われる。

PTCでは,慢性甲状腺炎(橋本病)を合併する頻度が高いが,予後との関連は不明である。橋本病合併例の方がリンパ節転移の頻度が高いという報告があるものの[11],合併例の方が予後が良い[12],合併例において予後を含めた臨床病理学的な差異は認められなかった[13]など様々な報告がある。乳癌など他臓器癌において,腫瘍浸潤リンパ球(Tumor infiltrating lymphocytes:TILs)が注目されているが,こうした背景からPTCにおけるTILsは橋本病の有無を考慮して評価する必要があると思われる。

2.濾胞癌における病理形態学的予後因子

濾胞腺腫(follicular thyroid adenoma:FTA)とFTCを,その細胞異型のみで鑑別することが不可能であることから,細胞診においては,両者を合わせて濾胞性腫瘍(follicular neoplasm:FN)と呼ぶ。つまり,FNの場合には良悪性不明のまま手術を実施し,手術検体の精査によって最終的な判断が下される。つまり,FTCにおける病理形態学的予後因子としては,病理組織診断がとりわけ重要である。

FNは通常,線維性被膜に囲まれるが,これは腫瘍に対して反応性に形成されるものである。時間の経過に従って被膜は厚く,硬く変化する。FNを構成する個々の腫瘍細胞の異型では良悪性の判定はできず,被膜浸潤,脈管侵襲,転移のいずれかをもって悪性と判断する。こうした結節病変を呈するFNの診断では,図2のようなアルゴリズムが利用される。すなわち,浸潤の有無,乳頭癌の核所見の有無によって大きく4群に分類する方法である。いずれも認めないものをFTA,核所見がなく,被膜浸潤があるものをFTC,核所見があるが被膜浸潤がないものをNIFTP(noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features),いずれも認めるものを濾胞型PTCとする。WHO分類では,さらに浸潤や核異型がはっきりしない境界病変(FT-UMPやWDT-UMP)も定義されている[,]。

図2.

被包性濾胞性腫瘍の診断アルゴリズム

被膜を有する腫瘍は,乳頭癌の核所見の有無(横軸),浸潤の有無(縦軸)により,大きく4つに分類される。NIFTP; noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features, FT-UMP; follicular tumor of uncertain malignant potential, WDT-UMP; well differentiated tumor of uncertain malignant potential, WDC-NOS; well differentiated carcinoma, not otherwise specified.

FTCのリスクを再分類するために,WHO分類では3つの亜型を定義している(表1)。すなわち,顕微鏡で確認できる程度のわずかな被膜浸潤を認める微少浸潤型(miFTC),血管浸潤のみみられる被包性血管浸潤型(eaFTC),肉眼的にも浸潤が認識できるような著明な浸潤性を示す広汎浸潤型(wiFTC)の3つである。AFIPの分類[14]などでは,脈管侵襲の程度が軽度のもの(4箇所未満)と高度のもの(4箇所以上)をさらに細分類している。被膜浸潤や血管浸潤の評価は必ずしも容易でないが,これらのFTC亜型は予後と一定の相関を示すことが知られている(表3)[1516]。海外および日本のデータのいずれにおいても4箇所以上の血管浸潤があるFTCの予後が悪いことは繰り返し確認されている。Yamazakiらの報告[17]では,303例のeaFTC症例の解析において,2箇所以上の血管浸潤が確認された症例では統計学的有意に無病生存率が低下したとされ,血管浸潤の個数は重要な予後因子といえる。被膜浸潤に関しては,海外のデータからwiFTCの予後が悪いとされたが,Itoらの523例のFTC症例の解析の結果[18]では,4箇所以上の血管浸潤を認めた症例で無再発生存率が有意に低下するものの,wiFTCで血管浸潤がみられない症例に関してはmiFTCとの間に差が認められなかった。この結果は本邦のFTCの特徴である可能性があり,予後予測のためには,wiFTCにおいても血管浸潤を正確に評価する必要があることを示している。

表3.

甲状腺濾胞癌の診断区分[

FTCにおいても,PTC亜型のような細胞形態に基づく亜型がある。淡明細胞型FTCや印環細胞型FTCなどであるが,いずれも稀な亜型であり,予後との関連は知られていない。膨大細胞腫瘍(好酸性細胞腫瘍)は,WHO分類第3版においては,FTA/FTCの特殊型(好酸性細胞型FTA/FTC)とされていたが,遺伝子背景の違いが明らかとなり,WHO分類第4版より独立した腫瘍群として定義された。濾胞性腫瘍と同様に,良性の膨大細胞腺腫と悪性の膨大細胞癌とが定義されており,被膜浸潤や脈管侵襲の有無より鑑別される。膨大細胞腫瘍では,腫瘍の最大径に比例して被膜浸潤のリスクが上昇したり,索状ないし充実性の増殖パターンが予後と相関するといったFNとの相違点も指摘されている。

3.高分化癌における低分化癌・未分化癌成分の影響

高分化癌の診断のもと手術が実施された検体の一部に低分化癌(poorly differentiated thyroid carcinoma:PDTC)ないし未分化癌(anaplastic thyroid carcinoma:ATC)成分が見出される場合がある。ATC成分に関しては,極めて予後不良である点を考慮して,PTCやFTCの一部に少量でも認めた場合にはATCと診断することが推奨されている。高分化成分の含有率を記載するが,基本的にATCとして取り扱う。PDTCの定義は,WHO分類第4版以降,トリノ提案に従うとされており,充実性,索状,島状の増殖(STIパターン)が全体の半分を超える場合にはPDTCの診断となるが,50%未満の場合には低分化成分を含む高分化癌(PTCないしFTC)の診断となる。

WHO分類第5版では,Follicular-derived carcinomas,high-gradeの項目が新たに加えられた。この項目には,PDTCと高異型度(ハイリスク)高分化癌(Differentiated high-grade thyroid carcinoma:DHGTC)が含まれる。DHGTCは,従来のPDTCの形態学的要件を満たさないPTC,FTCなどの高分化癌の中で,壊死ないし核分裂像の増加(≥5 per 2mm2 [おおむね≧5個/10HPF])が確認される予後不良な癌と定義される。すなわち,PTC,FTCにおいても,核分裂像の個数,壊死の有無は重要な評価項目となる(表1)。現在のところ,MIB-1標識率は診断基準に含まれていないが,おおむね10~30%程度を示すとされている。DHGTCには腫瘍全体に対する割合の規定はなく,核分裂像もhot spotで計測することとされており,鑑別診断において問題となる可能性がある。

4.免疫組織学的な予後因子

純粋な病理形態学的な評価に加え,免疫染色も予後評価に利用されている。最も研究されているのがKi-67(MIB-1)標識率であり,PTC,FTCともに予後との関連が報告されている[1921]。Itoらの報告では,PTCにおいてKi-67標識率が1%を超える症例では無病生存率が有意に低下し,3%を超える場合に死亡リスクが生じるとされている[22]。Matsuseらの報告では,PTC症例におけるKi-67標識率が5~10%で無病生存率が軽度に低下し,10%を超えると明らかな低下となる[23]。Hellgrenらは,FNのKi-67標識率を解析し,FTAにおいて平均2.6%,FTCで平均5.8%と報告している[24]。FTCにおいてもKi-67標識率が5%を超える症例で無病生存率が有意に低いと報告されている[2526]。Kjellmanらの検討では,PTC,FTA,FTC,ATCのKi-67標識率の平均は,1.9%,0.5%,2.7%,16.2%と報告されている[21]。こうした報告を総合すると,甲状腺高分化癌ではKi-67標識率が1~3%程度であり,5%を超える症例はハイリスクの可能性がある。

ATCやPDTCにおいてTP53変異の頻度が高いことからP53染色によりハイリスク成分を検出できる[27]。予後の悪いPTC亜型である高細胞型PTCやホブネイル型PTCにおいてP53陽性率が高いことも報告されている[2829]。CyclinD1もPDTCやATCで強発現することが報告されている。また,CyclinD1は,増殖活性の高いPTCやFTCでも陽性になると報告されており[30],予後因子と考えられる。

TTF-1,PAX8は甲状腺濾胞上皮のマーカーとして利用される。PDTCではTTF-1の発現が軽度低下することがあり,ATCではTTF-1の発現が通常消失する。HBME1,Galectin-3,CITED1免疫染色は,PTCおよびFTCの補助診断に利用できる。いずれも特異性が高い訳ではないが,良性病変との鑑別が難しい際に実施して,複数が陽性になる場合にはより悪性を考える指標とされる。予後との相関は知られていない。PTCにおいては,CK19,CD56免疫染色も補助診断に利用される。CD56は正常濾胞上皮に発現しており,PTCでは発現が低下・消失する。CK19はPTCにおいて発現がみられるが,高発現例はハイリスクであるとの報告もある[31]。遺伝子変異の検出による悪性の確認を目的として,PTCではBRAF-V600E特異的抗体,FTCではRAS-Q61R特異的抗体やPPARG抗体による免疫染色も実施されている。これらの変異と予後との間に明確な関連性は示されていない。

おわりに

甲状腺分化癌の予後因子として重要と思われる術後病理学的所見を概説した。PTCとFTCにおいて観察すべきポイントがやや異なるため,第一に適切な組織診断をすることが前提となる。新しいWHO分類第5版では,DHGTCという診断が組み込まれ,核分裂像や壊死などの評価がポイントになると思われる。免疫染色による補助所見を併せ,客観性・再現性の高い病理診断を実施することが求められている。

【文 献】
 

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