Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
A case of papillary thyroid carcinoma with huge lung metastasis treated with Lenvatinib, after lobectomy
Kinya MatsuokaTeiri SagawaToshiko HatachiHitoe MiyazakiToshiharu MaedaAtsurou SugitaKatsumi Kitou
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2022 Volume 39 Issue 3 Pages 210-214

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抄録

レンバチニブは切除不能な甲状腺癌に対して国際第Ⅲ相臨床試験でプラセボ群と比較して有意にPFSを延長させたが有害事象として気胸や局所の出血などに注意が必要である。今回われわれは巨大な病変を含む多発肺転移を有する甲状腺乳頭癌に対して,巨大病変を切除後にレンバチニブを投与して安全に良好な治療効果を得ている1例を経験したので報告する。症例は65歳,女性。初診時,甲状腺癌T3b(Ex1)N1bM1(PUL),StageⅣB,右肺下葉には40mmの肺転移と両葉に多数の小転移巣あり。甲状腺全摘,頸部郭清後に100mCiの放射性ヨウ素を投与したが肺転移には集積なし。その後は無治療で2年間経過観察。肺転移巣の巨大病変,その他の小結節は徐々に増大したためレンバチニブの投与を考慮した。巨大病変は出血や膿瘍形成のリスクが高いと判断して右肺下葉切除をおこなった。その後,レンバチニブを投与し安全で良好な経過を得た。

はじめに

根治切除不能の甲状腺癌で放射性ヨウ素抵抗性・難治性の症例に対してマルチキナーゼ阻害剤の使用が考慮される。レンバチニブは国際第Ⅲ相臨床試験でプラセボ群と比較して有意にPFSを延長させた[]が,有害事象として気胸や局所の出血などへの注意が必要である[]。今回われわれは巨大な病変を含む多発肺転移を有する甲状腺乳頭癌に対して,巨大病変を切除することによって,その後のレンバチニブ投与を安全におこなうことができ良好な治療効果を得ていると考えられる1例を経験したので報告する。

症 例

患 者:65歳,女性。

主 訴:甲状腺腫瘤。

既往歴:50歳頃から右肺下葉に過誤腫疑い,高血圧症。

家族歴:甲状腺疾患なし。

現病歴:かかりつけ医で4,5年前から甲状腺腫瘤を指摘されており,腺腫様結節と言われていた。また,15年前から右肺下葉には4cm程度の結節があり過誤腫疑いで経過観察されていた。甲状腺病変が徐々に大きくなり精査目的に当科紹介受診。

当科受診時現症:甲状腺右葉から峡部にかけて3.5×2.5cmの硬い腫瘤を触知する。嗄声なし。

血液検査所見:甲状腺機能は正常,抗サイログロブリン(Tg)抗体陰性(11.5IU/ml(基準値28.0未満)),Tg(237ng/ml(33.7以下))は高値であった。CEA(2.1ng/ml(5.0以下)),PROGRP(44.6pg/ml(81.0未満)),CYFRA(6.6ng/ml(3.5以下)),β-Dグルカン(14.8pg/ml(20.0未満)),アスペルギルス抗原陰性,クリプトコッカス抗原陰性。

頸部超音波検査所見:甲状腺右葉から峡部にかけて形状不整,境界粗雑,内部エコーレベルは低く不均質な37×23×39mmの腫瘤があり,後方エコーの減弱を認めた(図1)。病変に対して穿刺吸引細胞診をおこない乳頭癌と診断した。

図1.

頸部超音波画像:甲状腺右葉から峡部にかけて形状不整,境界粗雑,不均質で甲状腺外浸潤を認める39mm大の低エコー腫瘤。

PET-CT検査所見:右側から気管を圧排する甲状腺病変と両側気管傍リンパ節,右下内深頸リンパ節転移があり,両肺に小結節を認め多発肺転移を認めた。右肺下葉には4cm大FDG集積を伴う結節を認め原発性肺癌を疑われた(図2)。

図2.

PET-CT画像:(a)甲状腺右葉から峡部に40mmの低吸収値腫瘤,不均一なFDG集積あり,気管を圧排している。(b)両肺に多発の小結節影を認める。(c)右肺下葉に40mm大の境界明瞭な結節を認めFDG集積亢進を伴っている。

気管支鏡下生検病理所見:右肺下葉の腫瘤から気管支鏡下に生検をおこない,線維血管周囲に乳頭状増殖する腺癌を認め,核内封入体,核溝がみられ,免疫染色でTg陽性のため甲状腺乳頭癌の転移と診断した(図3)。

図3.

気管支鏡下肺生検病理像:(a)HE染色で気管支上皮に混じって,線維血管周囲に乳頭状増殖する腺癌を認め,核内封入体,核溝がみられる。(b)Tg免疫染色で陽性。

術前診断:甲状腺乳頭癌T3b(Ex1)N1bM1(PUL),StageⅣB(甲状腺癌取り扱い規約第8版)。甲状腺全摘,右側D2a郭清をおこなった。

手術所見:主腫瘍は胸骨甲状筋,気管表面への浸潤を認めた。右反回神経は腫瘍に巻き込まれていた。反回神経は腫瘍を割って温存,気管表面はShavingで切除した。

病理組織診断:周囲結合織と骨格筋に広く浸潤する乳頭癌。未分化転化の所見は認めなかった。甲状腺乳頭癌pT4a(pEx2)pN1b(甲状腺癌取り扱い規約第8版)であった。

術後経過:甲状腺手術6カ月後に3.7GBq(100mCi)の放射性ヨウ素治療をおこなったが肺への集積は認めなかった。肺転移に関しては経過観察をおこなった。術後2年で多発肺転移は新出病変の出現・増大を認め,それぞれ1cm弱の大きさになったが,右肺下葉の病変は初診時42×34mmの大きさであったが42×37mmと著変はなかった。国際第Ⅲ相試験に準じて多発の小転移巣が13カ月以内にPDと確認でき評価可能病変が1cmを超えた時点でレンバチニブを開始する予定とし,投与開始前に巨大病変切除をおこなう方針とした。甲状腺切除2年半後にPDと判断し胸腔鏡補助下右肺下葉切除をおこなった。主病変は気管支内に突出し肺動静脈も近接していた(図4)。周囲には小転移巣を多数認めた。肺切除後1年半(甲状腺切除後4年)で多発肺転移はさらに個数も増加,新出病変も認めた。同時にTgのダブリングタイムは図5の②時点(X+3年~X+4年の間で半年毎の3回分のTg値)で0.91年,図5の①時点(X+2年半からX+3年半の間で半年毎の3回分のTg値)での1.59年と比べて短縮傾向(図5)のためレンバチニブの投与を開始した。レンバチニブ投与開始後9カ月で多くの肺転移巣は縮小,消失を認めPRの状態になった。倦怠感,高血圧,口内炎,蛋白尿の有害事象のため,減量,休薬をおこないながら内服開始後,約2年の現在,治療継続中である。

図4.

肺切除割面マクロ像:右肺下葉内に多発性の結節あり。巨大転移巣は気管支内への浸潤を認める。

図5.

Tg値の変化と治療経過。①時点でのTgダブリングタイム:1.59年,②時点:0.91年。

考 察

甲状腺乳頭癌においても遠隔転移は予後不良因子であることは周知の事実である[]。しかし,若年者,転移巣が小さいもの,肺転移のみなどでは長期間進行しない症例も認められると報告されている[]。今回の症例も本人聴取の病歴や古い診療録から右肺下葉の肺結節は15年前には存在し,その時点で2cm程度の大きさがあったと診療録に記載されており,緩徐に進行する肺転移と考えられる。しかしながら放射性ヨウ素抵抗性の切除不能甲状腺癌に対して,レンバチニブの使用はPFS,OSの延長を認めた[]ことから,その使用も考慮された。しかし,レンバチニブには様々な有害事象があり,高血圧(67.8%),下痢(59.4%),疲労/無力症(59.0%),食欲減退(50.2%),体重減少(46.4%),嘔気(41.0%)などが頻度の高いものとして報告されている[]。緩徐に増大する自覚症状のない転移病巣に対して有害事象を伴う薬剤の投与開始に関してためらわれるところではある。しかし,レンバチニブの国際第Ⅲ相試験(SELECT試験)のサブ解析で肺転移巣の大きさを1.0cm以上,1.5cm以上,2.0cm以上に分けてPFSとOSを検討した結果1.0cm以上の症例でプラセボに比してレンバチニブは有意にOSを改善したと報告されている[]。このため,肺転移に対するレンバチニブ投与開始は1cmが妥当と考えられる。

しかし,レンバチニブ使用に伴う合併症として注意すべきものとして,その治療効果による組織織破綻として出血や気胸が報告されている。特定使用成績調査(2015年5月20日~2018年2月12日の期間で投与開始6カ月後までの観察)[]で腫瘍縮小・壊死に伴う頸動脈出血,腫瘍出血(Grade3以上)は分化癌で6例(1.4%),未分化癌では9例(7.3%)であった[]。レンバチニブによる出血の症例報告は甲状腺未分化癌[10]と肝細胞癌[11]で報告されており,甲状腺癌の場合は出血による直接死か合併症で死亡にいたったと考えられ,肝細胞癌では治療継続ができないために病勢が進行して死亡したと考えられる。

また,肺転移に使用した場合の気胸に関しては国内市販後の報告(2018年10月11日時点)で12例,15回の重篤な副作用が報告されており,未分化癌と分化癌のそれぞれ1例の死亡例も報告されている[12]。いずれも頻度は稀ではあるが重篤な合併症のため添付文書改訂で使用上の注意として記載されている。気胸に関する症例報告も散見され,その特徴としては胸膜面近傍の病変,病変に対する治療効果により病変の空洞化などがあげられる[1314]。いずれの合併症に関しても起こってしまうとレンバチニブ継続が困難になるため治療効果を落とすことになり予後不良になると考えられる。

本症例において右肺下葉の巨大な病変は胸膜面には接していなかったが気管支内腔へ突出しており,肺動静脈と接していることなどからレンバチニブを使用した際に治療効果で急激な腫瘍の縮小,壊死に伴う気管支出血や感染,気瘻など予期せぬ合併症を伴うと判断して巨大病変はレンバチニブ投与開始前に切除をおこないリスクを排除する予定とした。また,巨大な病変の切除後は小結節のみ治療評価病変となるため1cm程度まで増大を許容としたが,個々の増大とともに新出病変も目立つようになりレンバチニブ導入へと至った。また,巨大病変の切除時期に関しては,巨大な病変の腫瘍径ダブリングタイムが7.93年と非常に緩徐で,増大による症状出現までは余裕があり,他の小結節に対するレンバチニブ導入までの期間は放射性ヨウ素抵抗性と判断した時点から数年の単位と判断し,肺切除に伴うQOLの低下を考慮して投与開始前におこなうこととした。肺切除後は軽度の労作時呼吸苦を認めたが,ADLの低下はなく,その後のレンバチニブ投与に支障をきたさなかった。肺切除から1年半で両肺の小転移巣は1cmを超えて増大し新出病変も増加,13カ月以内でのPDと判断したためレンバチニブを開始して合併症なく約2年間継続投与中である。

おわりに

巨大な肺転移を有する甲状腺乳頭癌に対して,原発巣切除後,肺切除をおこなった後にレンバチニブを開始して多発肺転移巣をコントロールした1例を経験したので報告した。多発転移を有する症例に対して姑息的な手術は賛否両論であるが,その後の治療を安全におこなうためには症例を選べば必要な治療と思われる。

本論文の要旨は第32回日本内分泌外科学会総会(2020年9月17日・18日,WEB・誌上開催)で発表した。

【文 献】
 

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