Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Print ISSN : 2186-9545
Equalization of the surgical technique in endoscopic thyroid surgery - Efforts toward the endoscopic surgical skill qualification system -
Akihiro Nakajo
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2022 Volume 39 Issue 4 Pages 222-224

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抄録

一般に甲状腺内視鏡手術を比較的安定した手技で行うには20~30症例の術者経験が必要といわれるが,内視鏡手術の普及・均霑化には適切な研修・指導体制の構築が重要となる。施設認定取得における研修については様々な問題点が指摘されていたが,このほど日本内分泌外科学会において「甲状腺・副甲状腺内視鏡手術に関する研修ガイドライン」が作成され,研修・指導体制に関する指針が公表された。この指針ではこれまで常習化していた必要最低限の術者症例のみを他施設で経験することを推奨せず,「自施設への指導医招聘」もしくは「受入れ可能な施設への短期留学」を推奨している。同時に指導医(プロクター)の条件も設定され,指導医氏名も公表されたが,新たな指導医の育成・技術の向上を目的として日本内分泌外科学会内に技術認定制度を発足させることが決定している。本稿では甲状腺内視鏡手術の均霑化に向けた本学会の取り組みについて概説する。

はじめに

甲状腺内視鏡手術は整容性に優れるとともに術後在院日数も短く,患者の満足度が非常に高い。手術用内視鏡システムの進歩は目覚ましく,現在の主流である5mmの硬性内視鏡で映し出される4K画像は非常に鮮明である。高精度モニターに映し出される拡大視野で反回神経や副甲状腺が容易に確認可能であり,もはや肉眼での視認性は遠く及ばない。High volume centerで経験豊富な内視鏡外科医が行う手術は,少なくとも良性疾患においては通常の開創手術をはるかに凌駕しており,標準手術として通常の開創手術に取って代わる日もそう遠くないと考えられる。

甲状腺・副甲状腺の内視鏡手術は本邦では2016年に良性疾患,2018年に悪性腫瘍に各々保険収載され,当初は急速な普及が期待されたが,蓋を開けてみると導入施設は増加したものの実際の手術症例数の増加は緩慢であり,当初の予想どおりに普及しているとはいい難い。普及を妨げている要因として①難易度が高く手技の習得に時間がかかる。②手術時間が延長する(特に導入時)③内視鏡システムの導入にコストがかかる。④術式によっては保険点数が高くない。⑤保険請求を行うためには施設認定の取得が必要。などが挙げられる。特に施設認定の必要条件については図1に示す条件が必要となり,良性疾患の手術については良性5例の甲状腺内視鏡手術を術者として経験した常勤医が必要で,悪性疾患になるとさらに3例の内視鏡下悪性腫瘍手術の術者経験が必要となる。

図1. 

 

これまではこの条件をクリアするために研修医師が他のHigh volume centerを訪問し,必要症例のみを術者として行うことが常態化していたが,これには重大な問題点が指摘されている。例えば,「内視鏡手術の経験の浅い他施設の医師が術者であることの患者説明が不十分となる可能性」,「合併症や医療事故発生時の問題」,「手術時間延長などを含めた受け入れ施設の負担の問題」などである。これらの問題をクリアして甲状腺内視鏡手術が標準術式としての地位を確立するには学会を中心とした教育システムの構築が重要となる。

施設認定取得に必要な術者としての経験症例の研修・指導体制

一般に甲状腺内視鏡手術を比較的安定した手技で安全に行うためには術者で20~30症例の経験が必要といわれている。これまで上述のように様々な問題点を含んでいた研修・指導体制については,このほど日本内分泌外科学会で「甲状腺・副甲状腺内視鏡手術に関する研修ガイドライン」を作成し,施設認定取得に必要な術者としての経験症例の研修・指導体制に関する指針を公表した(図2)。この指針ではこれまで常習化していた必要最低限の術者症例のみを他施設で経験することを推奨せず,「自施設への指導者招聘」もしくは「受入れ可能な施設への短期留学(受け入れ施設の医師として手術を行う)」を推奨している。

図2. 

 

自施設へ指導者を招聘する場合は患者へのinformed consentに関する問題点はなく,自施設の器械を用いた手術が可能であるとともに看護師をはじめとする手術室スタッフの研修も同時に行えるメリットがある。ただ,施設認定取得までの症例は保険請求ができないため自施設が負担することになる。さらに良性5例・悪性3例の必要最低限の症例だけでは手技の習得は不十分であるため,施設認定を取得した後も,手技が安定するまではQuality conotrol目的に時々指導者を招聘することが望ましい。

これに対して受入れ可能な施設への短期留学は,受け入れ施設(High volume center)の医師として患者説明・手術・術後管理を行うことになる。この場合留学期間にもよるが技術の習得に関しては最も効果的な研修が期待できる。手技の安定に必要とされる20~30症例の経験を積めば,自施設に戻って内視鏡手術を安全に導入することが可能となる。いずれにせよ初期の術者経験においては,安全性・倫理性を担保しながら自身で安全に施行可能となるレベルまでの手技を指導医のもとで習得することが重要である。

施設認定取得後の手術手技向上や安全性についてのquality control

上述の如く自施設に講師を招聘して施設認定を取得した場合に特に重要となる。手技の安定に必要とされる20~30症例の経験を積むまでは,施設認定取得後も定期的に講師を招聘して自身の手術手技向上や安全性の確保に努めるべきである。また,学会でも今後指導医による講習会やビデオクリニックなどの教育システムの整備を進める必要がある。

指導医の育成

甲状腺内視鏡手術には特に初期の研修が重要であることはいうまでもないが,その指導を行う一定の技術レベルに到達した指導者を育成することが急務である。これについては「甲状腺・副甲状腺内視鏡手術に関する研修ガイドライン」の中に指導医(プロクター)としての条件が記載されている(図3)。現状の指導医としての条件は①日本内視鏡外科学会(JSES)技術認定医(甲状腺)②日本内視鏡外科学会 技術認定医(甲状腺以外の臓器)で甲状腺・副甲状腺内視鏡手術を50例以上経験している医師,③甲状腺・副甲状腺内視鏡手術を術者あるいは指導的助手として100例以上経験している医師のいずれかの条件を満たす医師である。日本内分泌外科学会ではこの条件を満たす医師を指導医(プロクター)として学会のホームページで公開し,これから甲状腺内視鏡手術の研修を受ける際に近隣のあるいは希望するプロクターに指導を受けやすい体制が構築された。

図3. 

 

今後は指導医(プロクター)の手術手技を客観的に評価するシステム構築も重要となってくる。そこで,日本内分泌外科学会では2023年度より甲状腺内視鏡手術における技術認定制度を設立することが決定した。この技術認定制度は内視鏡手術における指導者を育成し,日本における甲状腺・副甲状腺内視鏡手術の技術向上および均霑化を目指すものである。現在は日本内視鏡外科学会(JSES)に甲状腺内視鏡手術の技術認定制度があるが,外科医が中心で取得者も少ない。2023年度よりこの技術認定制度をJSESから本学会へ移管することで,外科医のみならず耳鼻科医にも広く参加して頂き,内視鏡手術のより効果的な研修・指導体制を構築するとともに,技術向上・均霑化・普及を目指す。

おわりに

日本内分泌外科学会を中心とした甲状腺・副甲状腺内視鏡手術の研修・指導体制の現状について概説した。内視鏡手術を安全に導入するためにはラーニングカーブに必要といわれる20~30症例の研修・指導が最も重要となる。日本内分泌外科学会における教育システムは始動したばかりだが,今後,施設認定取得後のquality controlに関して,学会のセッション以外の講習会やビデオクリニック,自宅および職場で参加・視聴可能なWebセミナーなどの企画が整備されていく予定である。

甲状腺内視鏡手術の均霑化・普及には課題が多いが,技術認定制度や効果的な教育システムが構築された近い将来には,標準手術として位置づけられる日が必ずやってくると思われる。

 

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