Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
To make Endocrine Surgery more attractive - Initiatives in each field (Urology)
Nae TakizawaYusuke MotokiHaruyuki OhsugiHidefumi Kinoshita
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2022 Volume 39 Issue 4 Pages 233-237

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抄録

泌尿器科は内分泌外科の一端を担う診療科の一つであるが,実臨床の現場を見ないと学生,研修医にとっては外科のイメージが湧きにくい診療科である。しかしながら,日本泌尿器科学会における会員数はゆるやかに上昇傾向を続けている。これは,各大学,病院の泌尿器科医の日々の活動に加え,学会が中心となって行っている学生,研修医に対する広報活動が功を奏しているものと考えられる。日本泌尿器科学会では,初期研修医を対象とした合宿形式のセミナーを開催しているほか,本学においても新規入局者獲得に向けた情報発信に腐心している。

日本泌尿器科学会,本学における泌尿器科の魅力を発信するための取り組み,ロールモデルとなる若手医師の育成,内分泌外科領域における泌尿器科について言及する。泌尿器科学会での取り組みが,内分泌外科学の発展の一助となれば幸いである。

はじめに

1992年に本邦の泌尿器科医により腹腔鏡下副腎摘除術が世界ではじめて行われた[]。日本内視鏡外科学会が定期的に行っているアンケート調査によると,副腎疾患に対する腹腔鏡手術の9割は泌尿器科でなされている[]。このように内分泌外科の一端を担っている泌尿器科であるが,その他にも腎,前立腺,尿路,生殖器,後腹膜腔腫瘍,感染症,尿路結石,排尿障害,腎移植,男性不妊,性機能,女性泌尿器,小児泌尿器疾患など多岐にわたる領域の診療を行っている。施設によっては,透析管理,バスキュラーアクセス作成,副甲状腺疾患も扱っている。しかしながら,マイナー外科であるが故に,医学生に机上学習や限られた実習期間で泌尿器科の魅力についてすべてを伝えることは難しい。さらに,学生のうちに泌尿器科の魅力が伝わらなければ,初期研修2年間の間に選択してもらえる見込みは薄い。このため,将来の泌尿器科医をリクルートするためには,医学生,初期研修医を対象とした積極的な取り組みが重要となってくる。

泌尿器科での医学生・研修医に対する取り組み

日本泌尿器科学会では,4年に1度,様々な学会活動に関する評価と提言を行うことを目的としたワークショップを開催している。本年も今後4年間の活動方針を検討する会として「Sustainable Development in JUA 2022」が2日間に渡り開催され,13の大テーマ,32のサブテーマについて検討された。「若手医師,研修医への広報活動のあり方」については,過去会から継続して検討されており,「JUA Future Vision 2018」で報告された後期研修医169名を対象としたアンケート調査では,53.8%の後期研修医が泌尿器科に興味を持ったきっかけとして「内視鏡手術・腹腔鏡手術・ロボット支援手術に魅力を感じたから」を挙げている(図1)[]。また,泌尿器科に興味を持った時期を問うたところ,医学部5年生との回答が最多であった(図1)。これは医学生に対する積極的な情報発信の重要性を感じる結果である。本学では5回生が泌尿器科をローテーションする期間は1週間のみである。この間,ロボット支援手術の見学,コンソールに実際に座ってもらうなど「見て触れてもらう」ようにしている。また,COVID-19により実習が中止となった際には,医局員が作成した教室紹介動画をみせ,当医局の特色を短時間でわかってもらうように工夫をし,泌尿器科について理解してもらうよう心掛けている(本学医局紹介動画URL: https://www.youtube.com/watch?v=QjbqJ0MhVd4)。

図1.

後期研修医へのアンケート結果

JUA Future Vision 2018より抜粋[]。

日本泌尿器科学会ホームページには医学生研修医向けのページが開設されており,ロボット支援手術をはじめとした各種手術,オフィスウロロジー(開業医),基礎研究・生殖医療までを紹介する動画,ニュースレターなどが用意されている[]。この中で,最も人気を集めているコンテンツはセミナーである(図2)。昨年はCOVID-19禍で中止となったが,例年年2回,一泊二日の合宿形式で開催されている。プログラムは,泌尿器科学会の名立たる先生方の講演のほか,ロボット支援手術や腹腔鏡手術のトレーニングなどから構成されており,泌尿器科専門医でさえ参加したいと思わせる充実した内容である。セミナーへの参加により手術の魅力を感じてもらえることは間違いなく,入局に迷う研修医の背中を少なからず後押ししていると考える[]。

図2.

第6回日本泌尿器科学会サマースクール2022の集合写真

日本泌尿器科学会ホームページより転載[]。

ロールモデルとなる泌尿器科医の育成

前述のアンケート結果からも,内視鏡手術に興味を持つ学生,研修医が多いことは明らかであり,将来の泌尿器科医をリクルートするためには,ロールモデルとなる若手泌尿器科医の育成も必須である。日本泌尿器科学会ホームページでは,e-learningやJUA WEBINAR受講のほか,手術動画ライブラリーの視聴などが可能である。泌尿器科では腹腔鏡手術に先立ち,内視鏡を用いた経尿道的手術が開発,普及していたこともあり,日本泌尿器科学会とは別に,内視鏡治療を中心に扱う日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会がある。日本泌尿器科学会と日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会の両学会により2004年には泌尿器腹腔鏡技術認定制度が創設された。腹腔鏡技術認定制度創設は術者の教育と技術評価を行うことでより安全な医療の普及を目指すものであり,腹腔鏡,ロボット支援手術共に多数トレーニングの機会が設けられている。また,両学会では腹腔鏡手術およびロボット支援手術に関する重大事例を報告するシステムを構築するとともに,重大事例のビデオを共有するなどして,注意喚起,再発予防に向けた教育を行っている。

日本泌尿器科学会でのダイバーシティ推進

前述のような学会が中心となった継続的な広報活動が功を奏し,日本泌尿器科学会における会員数は男女ともにゆるやかに上昇傾向であり,会員全体に占める女性の割合は2021年時点でさえ8.2%とまだまだ低いものの増加している(図3)。新規入会者に限ればおおよそ5人に1人が女性となっており,学会場に行っても華やかな女性泌尿器科医を見る機会が増えてきた。日本泌尿器科学会では,女性医師の増加・活用を目標に2006年に「女性泌尿器科医の会」が発足したが,2014年には男女共同参画委員会へと発展,2019年からは「ダイバーシティ推進委員会」へと名称を変更し,会員全員が能力を発揮できるシステム構築を目標に活動している[]。ポジティブアクションとして女性を積極的に座長に登用するためのリスト作成,アンケート調査のほか各種イベントを積極的に主催している。2016年の総会では,「わくわくジュニア手術体験セミナー」が開催された。これは,学会員が子供を連れて学会に参加したいと思えるようにする,親の仕事をみてもらって理解を深めてもらう,などの観点から開催されたものであり,会員にとっても魅力のある学会作りの取り組みの一つといえるだろう。

図3.

日本泌尿器科学会男女別会員数の推移

吹き出し内は女性会員の割合を表している。

日本内分泌外科学会における泌尿器科医

日本泌尿器科学会総会員数は増加傾向となっているのに対し,大きな声ではいえないが日本内分泌外科学会における泌尿器科医の会員数は若干減少から横這いという現状である(図4)。筆者が過去の日本内分泌外科学会総会プログラムから演者が泌尿器科であると思われる演題について調査したところ,回により演題数の多寡はあるものの,演題数についても会員数同様,少なくとも増加しているとはいえない状況である(図5)。なお,日本泌尿器科学会総会での副腎腫瘍の演題数は例年おおよそ30演題前後で推移している。泌尿器科学会会員数が増加しているにも関わらず,日本内分泌外科学会での泌尿器科医会員数,演題数が増加していない理由について筆者なりに考えてみた。ひとつは,内分泌外科学会が扱う臓器について副腎,副甲状腺以外はあまり認知されていないという点である。前立腺については,開催年によって演題カテゴリーに含まれている年といない年がある。前立腺を内分泌外科で扱う臓器として扱うかは議論のあるところと思われ,混乱を招いている可能性は否めない。もう一つは,日本内分泌外科学会専門医が泌尿器科医にとってハードルが高いことが要因ではないかと考える。現在,泌尿器科においては主たる術者または指導者として副腎のみ20例以上の執刀が条件の一つとなっている。しかし,副腎腫瘍のうち手術適応となる症例は当院で年間15~20例程度である。腹腔鏡手術をする機会が多い副腎腫瘍は,泌尿器腹腔鏡技術認定医取得を目指す泌尿器科医にとっても貴重な症例であり,内分泌外科専門医取得を目指す医師だけが執刀するわけにはいかない。

図4.

日本泌尿器科学会新規入会者数の推移と日本内分泌外科学会における泌尿器科医会員数の推移

図5.

日本内分泌外科学会における泌尿器科医による演題数の推移

折れ線グラフは日本泌尿器科学会総会における副腎腫瘍に関連する演題数の推移を表している。2022年度はCOVID-19流行に伴う日本泌尿器科学会総会開催時期調整のため開催されなかった。

前述の泌尿器腹腔鏡技術認定申請には専門医取得後2年以上の修練,主たる術者として20例以上の腎・副腎腹腔鏡手術執刀経験などが必要である。全国から提出される泌尿器腹腔鏡技術認定申請ビデオのうち副腎症例は15%程度と少なく,ほとんどは腎腫瘍などに対する手術ビデオである。しかし,近年技術認定申請に使用できる腎がん症例が減少している印象である。ロボット支援手術導入に伴い,従来の腹腔鏡手術では部分切除術が困難であった腎がん症例にロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術がなされるようになり,腹腔鏡下腎摘除術は病期の進行した症例を対象とすることが多くなった。すなわち,一筋縄ではいかない症例が増加したからである。病期が進行するほど周囲臓器との高度な癒着を認め,術中悩まされることも多くなる。このため,腹腔鏡技術認定医取得を目指す医師は副腎腫瘍も積極的に執刀することになる。

なお,2022年4月にはさらにロボット支援手術の適応が拡大され,根治的腎摘除術,副腎摘除術なども適応となった。これに伴い,さらに腹腔鏡手術の対象となる症例は減少すると考えられる。このため,日本泌尿器科学会では今後腹腔鏡技術認定申請ビデオにロボット支援手術症例も含める方向で検討されている。

副腎の術式は開腹,腹腔鏡ともに腎へのアプローチと似通っており,泌尿器科医は腎摘除術や腎部分切除術の際に,経腹膜アプローチであれば腸管脱転,後腹膜アプローチであれば後腹膜腔の展開から副腎静脈の処理,腎副腎の境界の剝離を日常的に行っている。このことから,泌尿器腹腔鏡技術認定取得医師については,日本内分泌外科学会専門医取得条件における副腎腫瘍の執刀症例数を緩和いただき,かつ内分泌外科専門医としての意義を残すべく診断治療経験症例数は20例のままとするなどのご配慮をいただければ,泌尿器科医の内分泌外科学会会員数が増加する契機になるのではと個人的に考えている。

おわりに

日本泌尿器科学会,本学における次世代を担う若手医師育成への取り組み,日本内分泌外科学会における泌尿器科医について言及した。近年,新たな診断・治療技術の開発に伴い,関連学会,研究会の数が増加してきている。それに伴い,入会する学会,研究会の取捨選択が進んでいる印象である。筆者は副腎自家移植をテーマに研究していたが,この際に副甲状腺の自家移植,副腎と同一の原基から発生する卵巣の研究などから研究のヒントを得ることができた。その経験から,一つの分野にとらわれず様々な観点から考える重要性を実感した。診療科の枠組みを超え議論することは,間違いなく内分泌外科学分野の発展に繋がると考える。日本内分泌外科学会が,さらに活発な議論・交流がなされる魅力あふれる学会となることを期待している。

【文 献】
  • 1.   Go  H, Takeda  M,  Takahashi  H, et al.: Laparoscopic adrenalectomy for primary aldosteronism: a new operative method. J Laparoendosc Surg 3: 455-459, 1993
  • 2.  日本内視鏡外科学会学術委員会:(8)泌尿器科領域.内視鏡外科手術に関するアンケート調査―第15回集計結果報告―.一般社団法人 日本内視鏡外科学会,東京,2021,p112-117.
  • 3.  日本泌尿器科学会:JUA Future Vision 2018.日泌尿会誌 119(Supplement):101-111,2018
  • 4.  日本泌尿器科学会:医学生・研修医のみなさま  http://www.urol.or.jp/student/  令和4年10月17日参照
  • 5.  日本泌尿器科学会:ダイバーシティ推進委員会  https://www.urol.or.jp/society/gender/about.html 令和4年10月17日参照
 

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