2022 Volume 39 Issue 4 Pages 245-249
両側副腎皮質大結節性過形成primary bilateral macronodular adrenal hyperplasia(PBMAH)は,かつてACTH非依存性大結節性副腎皮質過形成(ACTH-independent macronodular adrenal hyperplasia:AIMAH)と呼ばれていた病態を含む疾患概念である。近年,両側副腎大結節性過形成が必ずしもACTH非依存性にコルチゾール自律性産生を生じないことが明らかとなったため,「ACTH非依存性」といわずPBMAHあるいはbilateral macronodular hyperplasia(BMAH)などと呼ばれるようになった。PBMAHに対する手術療法は両側副腎摘除術が標準とされてきたが,片側副腎摘除術の有用性が諸家より報告されている。PBMAHについて概説するとともに,自験例6例について報告する。
ACTH非依存性大結節性副腎皮質過形成(ACTH-independent macronodular adrenal hyperplasia:AIMAH)は両側副腎に1cmを超える大結節が多発し,ACTH非依存性にsubclinical Cushing症候群からovert Cushing症候群まで様々な程度の高コルチゾール血症を呈する病態である。近年,一部の症例で腫大した副腎皮質自体からACTHが産生され,パラクリンあるいはオートクリンにコルチゾール自律性産生に寄与していることが示された[1]。このため,「ACTH非依存性」を抜き,両側副腎皮質大結節性過形成primary bilateral macronodular adrenal hyperplasia(PBMAH),あるいはBMAHと呼ぶことが普及しつつあった。しかし,分子生物学的な病態が明らかになるにつれ,これまでの名称が見直され,2022 WHO classificationで新たに定義がなされ,名称が大きく変更されることとなった(図1)[2]。各結節が独立したクローン性増殖を示すことから「hyperplasia」は使用せず,両側大結節性副腎皮質病* bilateral macronodular adrenal cortical diseaseと呼ぶことが定められている。ただし,2022 WHO classification of Endocrine and Neuroendocrine Tumorsはまだ刊行されておらず,本稿では混乱を避けるため従来のPBMAHと表記することとする。

副腎皮質結節性疾患についての新WHO分類より引用改変[2]
従来,両側副腎摘除が標準術式であったが,欧州の副腎偶発腫に対するガイドラインはovert Cushing症候群を呈していないPBMAHに対する両側副腎摘除は勧めておらず,年齢,高コルチゾール血症の程度,合併症の有無などにより片側副腎摘除も選択肢であるとしている[3]。この背景には,両側副腎摘除により生涯のステロイド補充が必要となること,急性副腎不全のリスクを背負うこと,特に軽度の高コルチゾール血症のみの患者に両側副腎摘除術を施行しステロイド補充を行うことは,外因性のステロイド補充は内因性ステロイドに比し過剰となりがちであるため,両側副腎摘除術により得られるメリットは少ないと考えられることなどが挙げられる[4]。
本稿では,PBMAHについて概説するともに,PBMAHに対する片側副腎摘除術の成績,薬物療法の可能性,当院でのPBMAHに対する治療経験を報告する。
*現在,和名については用語の統一に向けて協議中。
PBMAHの90%以上は様々な程度の高コルチゾール血症を呈するが,overt Cushing症候群を呈することは稀である[2]。画像上,両側副腎には1cm以上の大結節が多発し,著しい腫大を呈するが,その細胞あたりのコルチゾール産生量は高くない。これはPBMAHを構成する細胞におけるステロイド合成酵素発現が特異的であり,このために非効率的なステロイド産生が生じているためと考えられている[4]。一方,内分泌非活性のものは少数である。
PBMAHの約25~55%でアルマジロリピート含有タンパク5(Armadillo Repeat Containing 5:ARMC5)遺伝子の病的バリアントが報告されているが。本邦での調査ではPBMAH患者の71%でARMC5病的バリアントが認められた[2,5]。ARMC5はがん抑制遺伝子であり,ARMC5生殖細胞系列病的バリアントに加え,対立遺伝子にセカンドヒットが生じることでtwo-hit theoryによりPBMAHを発症すると考えられている[6]。同一患者の結節ごとに異なるセカンドヒットとなる体細胞変異が報告されており,過形成というよりは多クローン性腫瘍に合致する所見であり,これが2022 WHO classificationで「hyperplasia」を使用しないとされた所以である[2,6]。ARMC5遺伝子変異を有する症例では,髄膜腫をはじめとした副腎外の腫瘍(良性含む)の合併率が高いとも報告されている[4]。ARMC5のほかにもGNASなどの病的バリアントが報告されているが,MEN1,APC,FHなどの家族性腫瘍の原因となる病的バリアントも報告されている。なお,PBMAHの悪性転化や転移は報告されていない[4]。
PBMAHでのコルチゾール過剰分泌にはcAMP/PKA経路の活性化が関与している。通常,ACTHは副腎皮質細胞膜表面にあるGタンパク質共役受容体(G-protein-coupled receptors:GPCR)であるメラノコルチン2受容体(Melanocortin-2 receptor:MC2R)に結合する。ACTHのMC2Rへの結合によりGNASが活性化し,cAMP/PKAのカスケードが活性化する。これがコルチゾール産生へとつながる。前述のGNASに変異があると,PKAが恒常的に活性化し,コルチゾール過剰産生が生じる。また,PBMAHの77~87%で,GIP受容体,カテコールアミン受容体,バソプレシン受容体,セロトニン受容体,アンギオテンシンⅡ受容体,LH/hCG受容体,などの異所性/正所性GPCRの過剰発現が報告されている[4]。これらの異常なGPCRにリガンドが結合することで,ACTHがなくともcAMP/PKA経路の活性化からコルチゾール産生が生じることが示唆されている[4]。一方,ARMC5 の不活性化はステロイド合成酵素発現低下,コルチゾール合成低下との関連が示されている[7]。ARMC5遺伝子変異症例は,そうでない症例に比し,有意に副腎サイズ,結節サイズ,overt Cushing症候群を呈する傾向があることが示されている。これはもっぱら副腎皮質細胞数の増加による可能性が示唆されている[8]。
両側副腎に1cmを超える多発結節を認め,内分泌活性を反映しデキサメサゾン抑制131I-アドステロールシンチグラフィで両側副腎に一致した集積を認める。CT,MRIでは内部に脂肪を含むことを反映し,副腎皮質腺腫に類似の所見を呈する。副腎には異なる性質の腫瘍が同時に同側,あるいは対側に生じることが少なからずあるため,異なる性質の腫瘍の合併を鑑別することは重要である。なお,18F-FDG PETは一般に良悪性の鑑別に有用とされるが,内分泌活性副腎腫瘍では様々な程度のFDG取り込みを呈することがあり,PBMAHでもFDG集積を認めた症例が報告されており注意が必要である[9,10]。また,近年偶発的に診断される症例が増加しており,それに伴い非典型例も認められる。
コルチゾールの日内変動の消失,1mgデキサメサゾン抑制試験での抑制欠如,ACTH低値などコルチゾールの自律性産生を証明する。ただし,PBMAHでは局所でのACTH産生,異所性/正所性GPCRを介した影響があり,本来の「自律性」産生,「ACTH非依存性」とは異なる。このため,CRH試験でACTHの上昇反応を示すことがあり,結果の解釈に注意が必要である[11]。診断基準については,それぞれCushing症候群/subclinical Cushing症候群の診断基準を確認されたい。一般的な副腎皮質腺腫によるovert Cushing症候群と異なり,PBMAHでは円滑なステロイド産生は行われていない。このため,デヒドロエピアンドロステロン(Dehydroepiandrosterone:DHEA)高値を呈することがある[4]。DHEAの上昇は副腎皮質がんで認められるパターンであり,画像所見などから総合的な判断が必要である。なお,異常なGPCR発現の証明には,各受容体に応じた負荷試験が必要であるが,実臨床では全例に施行されているわけではなく,主に研究レベルで行われている。
悪性例は報告されていないため,PBMAHでは高コルチゾール血症のコントロールが治療の目的である。従来,両側副腎摘除術を施行していたが,冒頭で述べたように近年片側副腎摘除術の有用性が報告されており,overt Cushing症候群に対する片側副腎摘除術の結果,90%以上で初期寛解が得られている[4]。ただし,Osswaldらは,PBMAHによるovert Cushing症候群25例に片側副腎摘除術を施行し,9割以上で臨床的にCushing症候群の制御ができたものの,生化学的なコントロールは両側副腎摘除術に比し不十分であったことを報告している[12]。彼らは,片側副腎摘除術後の生化学的制御が不十分であった3例の死亡を報告しており,2例は敗血症が死因であったことから,不十分な高コルチゾール血症の制御が死亡につながった可能性が示唆される[12]。一方,PBMAHによるSubclinical Cushing症候群に対する片側副腎摘除術については,経過観察あるいは内科的治療を施行した群を対照としたレトロスペクティブスタディが報告されている[13]。症例数は少ないものの,対照群に比し片側副腎摘除術群で有意に生化学的な改善,高血圧や糖尿病などの代謝障害の改善を認めている[13]。なお,対側に腫大した副腎が残存しているにも関わらず,overt Cushing症候群に対する片側副腎摘除術後の約3割,subclinical Cushing症候群の約5割で術後副腎不全が認められている[4,13]。これは,体積あたりの有効なコルチゾール産生量が少ないことに起因していると考えられ,overt/subclinical Cushing症候群いずれにおいても術後のステロイド補充が推奨される[4,13]。Overt Cushing症候群の10~15%程度で術後対側副腎摘除術が必要と報告されているが,追跡期間が長くなるほど上昇することが予想される[4]。
表1に当院で経験したPBMAHによるOvert Cushing症候群4例,subclinical Cushing症候群2例に対する治療成績を示す。2003年までに手術を施行した症例1,2については両側副腎摘除術を施行している。症例4についてはPBMAHの家族歴,Cushing症候群で亡くなられた親族がおられことから,患者の強い希望もあり単孔式で両側副腎摘除術を施行している。症例6については,セロトニン受容体,バソプレシン受容体,βアドレナリン受容体の過剰発現が示唆されており,今後コルチゾールが再上昇した際にはこれらに対する治療薬での治療も視野にいれ内分泌内科で経過観察中である。Overt Cushing症候群に対し片側副腎摘除術を施行した症例3の画像所見,術後の内分泌検査所見の推移を図2に示す。術後Cushing兆候は消失している。術後6年を経過したころから緩徐に高コルチゾール血症,ACTHの抑制が出現してきているものの,現時点ではCushing兆候再燃や糖尿病などの代謝異常の合併なく,subclinical Cushing症候群の状態である(図2)。以上,両側副腎摘除術を施行した症例1,2,4では術後急性副腎不全やステロイドミオパチーなどを経験しているが,片側副腎摘除術を施行した症例3,5,6ではいずれも合併症なく,ステロイド離脱に成功している。なお,PBMAHにおいて片側副腎摘除術を施行する場合,左右どちらの副腎を摘除するかについては,CTやMRIによる体積の評価,131I-アドステロールシンチでの摂取率での評価などが報告されている[14]。副腎静脈サンプリングを使用した報告もあるが,現時点では報告数が少なく,侵襲性,高度な技術,内分泌学的な評価の難しさから議論があるところである。

当院でのPBMAH症例の成績
血中コルチゾール基準値4.0-20.0μg/dl, LTA: laparoscopic total adrenalectomy, LPA: laparoscopic partial adrenalectomy, LESS: laparo-endoscopic single-site surgery

症例3の腹部単純CT,MRI T2強調画像,131I-アドステロールシンチグラフィ,術後のコルチゾール,ACTHの経時的な変化
異所性/正所性に過剰発現したGPCRが証明できれば,それらに対する拮抗薬などが高コルチゾール血症のコントロール目的に使用できる可能性がある。食後のGIP分泌を抑制するオクトレオチドは高コルチゾール血症を改善する効果が報告されているが,その効果は一時的である。長期的な成績が報告されているものとしては,β遮断薬と長時間作用型LHRHアナログのリュープロレリン酢酸塩が挙げられる。しかし,β遮断薬による高コルチゾール血症制御のためには高用量のβ遮断薬が必要なことが多く,効果が得られても次第に効果が減弱する症例,低血圧やレイノー症候群,気管支攣縮などの副作用で投薬中止となる症例が少なからず認められている[15,16]。異常なGPCRに対する治療薬を使用しても,腫瘍増大は抑制されない。このため,はじめは生化学的に制御されていても,将来的に手術が必要となった症例も報告されている。また,同時に複数のGPCRの過剰発現を認める症例もあり,一部のGPCRに対する治療薬のみでは生化学的な制御ができない可能性も高く,現時点ではその効果は限定的と考えられる。
また,コルチゾール合成阻害剤も薬物療法の選択肢となりうる。コルチゾール合成阻害剤のうち,本邦で使用できる薬剤としてはメチラポン,トリロスタン,ミトタンの3剤に加え,昨年発売されたオシロドロスタットリン酸塩が挙げられる。過剰発現したGPCRに対する治療薬と異なり効果は確実であるが,副作用の問題や腫瘍増大に伴い最終的に手術が必要となった症例も報告されており,副作用や長期的な成績は十分ではない[17]。
近年の次世代シークエンサーを含む解析技術の発展により,PBMAHの病態が明らかになってきたが,ARMC5遺伝子変異と過剰発現しているGPCRとの関係などはまだ未解明である。現時点では,内科的治療は限定的と考えられ,overt Cushing症候群を呈する症例のうち重症例では,速やかに血中コルチゾールを下げる必要があるため両側副腎摘除術も視野に入れる必要があると考える。一方,Subclinical Cushing症候群では,副腎皮質腺腫によるSubclinical Cushing症候群同様,個々の症例によって治療適応について検討する必要があり,合併症がない症例では経過観察も選択肢であろう。一方,overt Cushing症候群の軽症例や合併症を伴うsubclinical Cushing症候群では,自験例からも片側副腎摘除術により長期的に生化学的な制御ができる可能性が期待される。症例によっては,コルチゾール合成阻害剤による治療や,過剰発現しているGPCRに対する治療薬が有効である可能性も期待されるが,現時点では腫瘍増大につれその効果は減衰する可能性があり,症例ごとの検討が必要である。