Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
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Non-neoplastic lesion
Katsuaki ChikuiNaoyuki OgasawaraHirofumi KuroseKosuke UedaTsukasa Igawa
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2022 Volume 39 Issue 4 Pages 266-271

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抄録

両側副腎病変は偶発性副腎腫瘍の7.8~15%程度を占め,病因の分布も片側副腎腫瘍と異なる。両側副腎腫瘍のほとんどが腫瘍性病変であるが,非腫瘍性病変も少数ながら報告されている。非腫瘍性病変は稀であるが,感染症,囊胞性腫瘤,自己免疫疾患を含む全身性疾患など病因が多岐にわたり,更に両側副腎の萎縮,過形成,囊胞性腫瘤,石灰化など多様な画像所見や副腎不全を含めた様々な臨床像を呈することから診断・治療に難渋することもある。そのため,それぞれの病因の特徴を理解しておくことが必要であり,その特徴に合わせたマネージメントが重要となる。しかしながら,症例数が少なく明確な指針がないのが現状である。非腫瘍性病変を含めた両側副腎病変に対する検討が今後更に進むことを期待する。

はじめに

画像診断技術の進歩により副腎偶発腫瘍(adrenal incidentalomas:AIs)が発見される頻度は近年増加している。画像検査によるAIsの発見率は約1~5%と報告されているが[],これらの大部分が片側AIsである。AIsのうち両側性は7.8~15%を占め,一般人口における両側AIsの有病率は0.3~0.6%と推定されている[,]。両側副腎病変では内分泌活性病変,副腎不全,悪性腫瘍の頻度が片側副腎病変と比較して高いことが報告されており[],片側副腎病変と異なる病因の分布を示す(図1)。これまでの報告によると両側副腎病変の大部分を腫瘍性病変が占めているが,非腫瘍性病変として先天性副腎過形成(CAH:congenital adrenal hyperplasia),副腎囊胞,結核や真菌などの感染症も少数ではあるが両側副腎病変として報告されている[,]。更に偶発的に発見される病変に加えて,副腎不全を契機に非腫瘍性病変が発見されることもある。このように非腫瘍性両側副腎病変の病因は多岐にわたり,両側副腎の萎縮,過形成,囊胞性腫瘤,石灰化など多様な画像所見を呈し,悪性腫瘍との鑑別が困難な場合もある[]。また,画像所見だけではなく,無症状の症例から重篤な全身症状を有する症例まで様々な臨床像を呈する。そのため,非腫瘍性両側副腎病変の特徴を踏まえた評価が必要となる。本稿では両側副腎病変における非腫瘍性病変に焦点をあてそれぞれの病因の特徴を解説する。

図1.

副腎偶発腫瘍と両側副腎病変の病因の分布

A.副腎偶発腫瘍の病因の分布 (文献[]より引用改変)

B.両側副腎病変の病因の分布 (文献[]より引用改変)

NPA:内分泌非活性腺腫 CPA:コルチゾール産生腺腫 APA:アルドステロン産生腺腫 AnPA:アンドロゲン産生腺腫

Pheo:褐色細胞腫 ACC:副腎皮質癌 CAH:先天性副腎過形成

両側副腎病変の病因・頻度

両側副腎病変はデータが限られておりほとんどが少数例の報告のみである。最も症例数の多いYanらの777人の検討では,副腎転移が最も多く,次いで内分泌非活性副腎腫瘍,原発性アルドステロン症,クッシング症候群(BMAHを含む)であることが報告された[]。しかし,この報告の中で非腫瘍性病変はCAH,結核のみであった。患者の選択基準,研究が行われた期間,地域,検査方法,病理学的検査の有無などで疾患の頻度は異なるが,両側副腎病変に占める非腫瘍性病変の割合は低く,非常に稀な病因と推測される。その他の非腫瘍性病変としては,副腎囊胞,感染症,出血,自己免疫疾患であるアジソン病などが報告されている[,,](表1)。

表1.

主な両側副腎病変(文献[]を改変)

初期評価

欧州内分泌学会の副腎偶発腫瘍診療ガイドラインでは[10],特殊な状況として両側副腎腫瘍が取り上げられており,それぞれの腫瘍は別個に片側副腎腫瘍と同様に並行して内分泌活性と悪性腫瘍のリスク評価について初期評価を行うことが推奨されている。両側副腎病変においては片側副腎病変の初期評価に加えて更に2つの追加検査を行う必要がある。第1に両副腎皮質の90%以上が破壊されると副腎不全になる可能性があるため副腎不全を除外すること,第2にCAHの遅発型は成人期になってから診断されることがあるためCAHを除外する必要がある[]。非腫瘍性病変においては内分泌学的検査で過剰な副腎ホルモンが分泌される可能性は低く,むしろ副腎不全とCAHの評価が重要であると考えられる。また,遺伝性の疾患や感染,全身性疾患の部分症であることもあるため,詳細な家族歴と病歴の聴取,特徴的な身体所見の確認など丁寧な診察も重要である。

副腎過形成

①先天性副腎過形成(CAH)

CAHは,副腎皮質ホルモンの生合成に関与する酵素の活性低下により,コルチゾールの産生・分泌が低下し,その結果ACTHの過剰分泌をきたし副腎が過形成となる疾患の総称である。5疾患に分類されるが,その中で21-水酸化酵素欠損症(21-hydroxylase deficiency:21-OHD)が最も頻度が高く90~95%を占める。21-OHDは,1/18,000~20,000例で発症する常染色体潜性遺伝性疾患である。臨床的に出生時あるいは新生児期に症状を示す古典型と,それ以降に顕性化する非古典型に大別される[11]。21-OHDは新生児マススクリーニングの対象であり,発症は出生後1カ月以内がほとんどだが,一方で非古典型は酵素活性がある程度残存しておりコルチゾールやアルドステロン欠乏の症状がほとんどなく,幼児期以降にアンドロゲン過剰による症状が出現する[12]。そのため,両側副腎偶発腫瘍として発見される可能性がある。また,最近のシステマティックレビューによると遺伝的にCAHと診断された患者の約24%に副腎皮質腫瘍の形成が認められ,そのうち骨髄脂肪腫の割合は36.6%であったと報告されている[13]。

②ACTH依存性クッシング病,異所性ACTH症候群

ACTH依存性クッシング症候群は,下垂体腫瘍からACTHが過剰分泌されるクッシング病と下垂体外の腫瘍組織からACTHが過剰産生される異所性ACTH 症候群に分けられる。クッシング病では約6割でびまん性副腎過形成を認め,慢性的なACTHの過剰分泌がびまん性副腎過形成に関与していると示唆されている[14]。更に高齢者や病歴の長い患者において結節の併存が多い傾向がみられた[15]。異所性ACTH症候群は,ACTH依存性クッシング症候群の9~18%を占める腫瘍随伴障害であり,様々な部位,様々な程度の組織学的分化と侵襲性を有する神経内分泌腫瘍にみられ,多くは喉頭,胸腺,肺,胃,十二指腸,膵臓に由来する[16]。クッシング症候群の診断と治療,および神経内分泌腫瘍の検索と治療を並行して行っていく必要がありマネージメントはより複雑となる。治療は高コルチゾール状態の制御とACTH産生腫瘍の切除が基本であるが,腫瘍の切除が困難な場合や高コルチゾール状態の制御が難しい場合は両側副腎摘除術も検討しなければならない。一般的に以前はカルチノイドと呼ばれた高分化の神経内分泌腫瘍は比較的予後が良好であるが,神経内分泌癌の場合は予後が不良である。

副腎囊胞

副腎囊胞は副腎に外接する良性の液体を含む腫瘤または結節と定義される[17]。多くの場合が偶発的に発見され,副腎腫瘤の最大4%を占める。文献のレビューでは,若干の女性優位性と平均7.9cmの囊胞サイズが報告されている[18]。ほとんどが片側性副腎囊胞の報告であり両側性の報告は非常に稀である。副腎囊胞は組織学的に内皮性囊胞,偽囊胞,上皮性囊胞,寄生虫囊胞の4種類に分類され,最も一般的な副腎囊胞は偽囊胞で様々な病因による出血や感染,外傷に起因していると考えられている[1719]。組織学的には囊胞壁は線維被膜で構成され内皮細胞の裏打ちを認めないことから比較的容易に診断は可能である。更に画像上も単房性で境界明瞭,内部均一な腫瘤であることが多く診断に迷うことは少ない。しかし,一部の症例では囊胞内の石灰化,出血,器質化した血種などにより悪性腫瘍との鑑別が難しい場合があり,生検,手術による組織学的評価の検討を必要とする。偽囊胞はその大きなサイズのためにしばしば症状を有するが,対照的に内皮性囊胞および上皮性囊胞は,偶発腫として診断されることが多い。これらの病変は,それぞれ内皮(CD31),リンパ(D2-40),またはケラチンマーカーを発現する真性内膜を有するものと定義される[1718]。内皮性囊胞は拡張し血栓化した血管やリンパ管から発生し,上皮性囊胞は中皮細胞の遺残に関連すると考えられている[19]。偽囊胞,内皮性囊胞,上皮性囊胞の画像所見は類似しており,これらの囊胞の分類には組織学的診断が必要となる。

寄生虫性囊胞はエキノコックス感染に関連し,画像所見としては多房性胞,石灰化などが特徴的であり,病理学的にはPAS 染色陽性の虫体囊胞壁であるクチクラ層を確認することで確定診断となる[17]。しかし,ほとんどの症例が肝に発症し,副腎への発症は非常に稀である。

副腎囊胞のマネージメントについては明確なガイドラインやコンセンサスがなく,単房性の内部均一な副腎囊胞であれば経過観察が選択されることが多い。しかし,囊胞サイズの増大傾向や囊胞壁の不整な肥厚,不均一な囊胞成分,石灰化などの画像所見を認める場合は良悪性の判断が困難であり病理学的診断のため手術が選択されることが多い。

出血,梗塞

副腎出血は稀な疾患であり,剖検での報告では推定発生率は0.14%~1.1%とされている[20]。副腎出血は外傷性と非外傷性の病因で生じ両側副腎出血は約20%の症例で起こる[]。非外傷性の病因としては,敗血症,手術,ストレス,血栓塞栓症,抗凝固療法,熱傷,副腎腫瘍などがあげられる。Waterhouse-Friderichsen症候群は主に髄膜炎菌感染により起こる両側副腎出血を主徴とする症候群であるが,髄膜炎菌以外にもインフルエンザ桿菌,大腸菌,A群連鎖球菌,肺炎球菌,黄色ブドウ球菌などの幅広い種類の細菌が副腎出血を引き起こす可能性がある[2122]。CT所見は,出血早期で高吸収域を示し,時間が経過すると吸収域が低下し血種も縮小する。長期の経過では石灰化,偽囊胞を形成することもある。また,副腎出血の初期評価で悪性腫瘍の鑑別が困難であった症例は出血後も定期的な画像検査が推奨される。両側副腎出血は副腎クリーゼを引き起こし,早期に副腎皮質ホルモンを補充しなければ死に至る可能性がある疾患である。しかしながら,敗血症や熱傷などにより既に重篤な状態に至っている患者から副腎クリーゼの徴候を確認することは難しいことが推測される。実際にショックで亡くなった患者の剖検では約15%に両側副腎出血がみられたとの報告がある[23]。そのためTanらは,副腎出血前の徴候として副腎うっ血を示唆する両側副腎のびまん性肥厚と副腎周囲の脂肪組織の毛羽立ち所見の確認が有用であると報告している[20]。

副腎は血流が豊富なため副腎梗塞に至ることは稀であるとされているが,過凝固状態における微小血管や静脈の血栓症が副腎梗塞を引き起こす可能性がある[]。抗リン脂質抗体症候群,本態性血小板血症,真性多血症,クローン病,妊娠などで報告例があり[24],最近では重度のCOVID-19感染者の約2割に副腎梗塞が確認され,その内9割が両側性であったことが報告されている[25]。

感染症

両側副腎病変を呈する感染症としては結核,真菌性(ヒストプラスマ,クリプトコッカス),サイトメガロウイルスなどが主な原因となる。感染により副腎皮質の90%以上が破壊されると副腎不全になる。このような感染による副腎不全は,平成23年度全国調査報告によると原発性副腎不全の原因の約3割を占めていた[26]。その中で結核が最も多く,次いで真菌感染であった。このような副腎感染による副腎皮質機能低下は,AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)などの免疫不全患者でしばしば認められる。

結核は血行性に副腎に拡がり,剖検例の検討では活動性結核の約6%に副腎結核が認められ,その約7割が両側性であったと報告されている[27]。臨床症状が明らかになるまでには何年もかかることがあり,無症候性感染も珍しくない。画像所見では,感染初期では副腎は腫大し,内部に乾酪壊死を伴い,その後,線維化と石灰化が進み副腎は萎縮する。副腎結核患者の約12%は副腎以外の病変がなく,画像所見では悪性腫瘍との鑑別が困難であるため多くの場合で生検による結核菌の証明が必要となる[28]。

ヒストプラズマ症は本邦ではほとんどみられない輸入真菌症であり,免疫不全などがなければほとんどの場合は自然治癒する。しかし,HIV感染者のような特に細胞性免疫不全の低下した患者では高率に播種性の病変として発症し致命的となりうる。副腎ヒストプラスマ症の約4割に原発性副腎不全を認め,画像所見では両側に副腎結核と類似した副腎の腫大と慢性期の石灰化,副腎の萎縮を認める[2930]。

サイトメガロウイルス,クリプトコッカスによる感染も稀ではあるが両側の副腎腫大を認めることがあり,特に免疫不全状態の患者には副腎不全の原因として留意すべき疾患である。

自己免疫疾患

アジソン病は副腎に病変が原発し,慢性副腎皮質機能不全を呈する疾患で自己免疫性(特発性)と非自己免疫性(結核,各種感染症,悪性新生物,出血など)に分類される。更に自己免疫性副腎炎は単独で発症する孤発性と多腺性自己免疫症候群の範疇で発症するものもある。2003~2007年を調査対象期間とする原発性副腎不全の平成23年度全国調査報告では国内発症率911人/5年と推計され,成因では特発性アジソン病が49%と報告されている[26]。特発性アジソン病の発症機序については完全に解明されてはいないが通常副腎皮質の3層(球状層,束状層,網状層)すべてが機能不全に陥るためコルチゾール,アルドステロン,副腎アンドロゲンの総合的な脱落症状を呈する。内分泌検査では,血中コルチゾール,アルドステロン,DHEAの低値と血中ACTHの増加を認め,ACTH負荷に対する血中コルチゾールの無~低反応を認める[3132]。また特発性アジソン病では抗副腎抗体を検出することもある。画像所見では両側副腎の萎縮を認め,原則として治療は生涯にわたって副腎皮質ホルモンの補充が必要になる。

近年では免疫チェックポイント阻害薬によるirAEとして稀ではあるが原発性副腎機能低下症が抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)や抗PD-1/PD-L1抗体(ニボルマブ,ペンブロリズマブ,アベルマブ)による単独療法で0.7~2%程度,抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体の併用療法で4.2~7.6%程度で発症すると報告されており,発症後早期の画像検査では副腎炎を示唆する両側副腎の腫大がみられる場合がある[33]。

浸潤性病変

アミロイドーシスは,全身の臓器の細胞外領域に難溶性のアミロイド線維が沈着し,機能障害を引き起こす一連の疾患群であり,内分泌器官を含む他のすべての臓器に障害が生じる可能性がある。これまでいくつかの剖検での報告で副腎への浸潤が示されており,更に副腎の画像評価を行ったGündüzらの報告では両側副腎が健常者と比較して有意に肥大していたことが確認されている[34]。しかしながら,臨床的に重大な副腎機能不全まで引き起こすことは稀である。

おわりに

本稿では両側副腎の非腫瘍性病変に焦点をあて解説した。日常診療で遭遇することは稀であるが,原発・続発性の副腎疾患に加え,感染症や自己免疫疾患を含む全身疾患の一部分症として生じる可能性もあり,鑑別疾患は多岐にわたる。近年,両側副腎病変に対する報告が散見され,今後更に検討が深まっていくことが予想される。しかしながら,現段階では明確な指針がなく,それぞれの疾患の特徴に合わせたマネージメントが重要である。

【文 献】
 

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