2022 Volume 39 Issue 4 Pages 282-286
レンバチニブは多彩な副作用が報告されているが,市販後調査の結果胆囊炎が報告され重大な副作用として添付文書に追加された。2015年5月から2021年1月の間に当科でレンバチニブを投与した切除不能甲状腺癌26例の後方視的検討の結果,CTにて急性胆囊炎の所見を呈した症例が12例(44%)に認められた。12例中大半の症例がレンバチニブの休薬を余儀なくされ治療中止となった症例もあり,胆囊炎はレンバチニブによる甲状腺癌治療に大きな支障をきたす注意すべき副作用であると考えられた。レンバチニブ開始後は胆囊炎を早期に発見し適切に治療を行う事により,胆囊炎の重篤化による休薬期間の延長や治療中止を避ける事が期待される治療効果を得るためには非常に重要であると考えられた。
レンバチニブはVEGFR,FGFR,PDGFR,KIT,RETなども受容体型チロシンキナーゼのマルチキナーゼ阻害薬であり,国際共同第Ⅲ相試験であるSELECT試験[1]の結果を受けて2015年より放射性ヨード治療抵抗性切除不能甲状腺癌に対し使用が可能となった。レンバチニブが実臨床で使用可能となって5年以上が経過し,市販後調査を経て症例集積が進んだ結果,0.6%の症例に無石胆囊炎を含む急性胆囊炎が出現し,胆囊穿孔に至った例も報告された[2]ことから2018年1月には重大な副作用として添付文書に急性胆囊炎が追記された。今回われわれは,当院で切除不能甲状腺癌に対しレンバチニブを投与した後CTにて急性胆囊炎の所見を呈した症例について,その臨床的特徴を後方視的に検討した。
2015年5月から2021年1月までの間に当科でレンバチニブを投与した切除不能甲状腺癌26例中,CTにて急性胆囊炎の所見を呈した12例について臨床的特徴を後向きに検討した。

患者背景
CTにて急性胆囊炎の所見を呈した12例の年齢中央値は75歳(56~89歳)で,性別は男性3例,女性9例であった。組織型の内訳は乳頭癌9例,未分化癌3例であった。転移臓器は肺9例,骨5例,肝2例,リンパ節11例,脳1例(重複あり)であった。
急性胆囊炎の臨床兆候(右上腹部腫瘤・圧痛・自発痛)を有していたのは7例(58%),無症状の症例が5例(42%)であった。CTにて急性胆囊炎所見を確認するまでの期間の中央値は30日(6~89日)で,血液検査において白血球増多またはCRP上昇は8例(67%)に認めた。胆石または総胆管結石を有していたのは2例(17%)であった。胆囊炎発症時のレンバチニブ内服量は24mg:4例,20mg:3例,14mg:5例であった。
2)胆囊炎に対する治療(表2)
胆囊炎に対する治療
CTにて急性胆囊炎を呈した12例は全例レンバチニブを休薬していた。4例は休薬のみで症状は改善したが,残り8例は胆囊炎に対する治療が行われていた。治療内容は抗生剤,利胆剤などの投薬は8例全例に施行され,外科的手術(胆囊摘出術)は2例,内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)は1例,経皮胆囊ドレナージ(PTGBD)は1例に施行されていた。
3)胆囊炎によるレンバチニブの休薬および再開(表3)
胆囊炎によるレンバチニブの休薬/再開
CTまたは臨床兆候で胆囊炎所見が改善後にレンバチニブの再開が可能であったのは8例(67%)であった。
レンバチニブの再開量は休薬前と同量での再開が8例中2例(25%)であり,大半は減量し再開されていた。レンバチニブ再開後の胆囊炎再燃はなかった。胆囊炎よるレンバチニブの休薬から再開までの期間の中央値は46日であった。レンバチニブ再開が不能であった4例は全例が休薬後に急速に病勢進行し,局所または全身状態の悪化により再開不能であった。

症例1 無石胆囊炎(有症状例)
レンバチニブ24mgで投与を開始し,副作用により14mgへ減量して内服中の60日後に右上腹部自発痛出現。
肝胆道系酵素とCRPの上昇あり,CTにて周囲脂肪織濃度上昇を伴う胆囊腫大を認める。
休薬と利胆剤内服により症状改善し,14mgで内服再開した。
乳頭癌術後再発(多発肺転移,リンパ節転移)に対しレンバチニブを24mgで開始。開始から60日目のレンバチニブ14mg内服中に右上腹部自発痛が出現した。採血で肝胆道系酵素とCRPの上昇を認め,CTにて周囲脂肪織濃度上昇を伴う胆囊腫大を認めた。レンバチニブを休薬し利胆剤投与により症状は改善した。休薬から78日後に休薬前と同量の14mgで内服を再開したが,胆囊炎の再燃は認めなかった。
症例2:無症状の無石胆囊炎症例,64歳女性(図2)
症例2 無石胆囊炎(無症状例)
レンバチニブ24mgで投与を開始し,9日後に施行した採血で肝胆道系酵素とCRPの上昇を認めた。CTにて周囲脂肪織濃度上昇を伴う著明な胆囊腫大を認めた。
休薬と利胆剤内服により症状改善し,20mgで内服再開した。
乳頭癌術後再発(多発肺転移,リンパ節転移)に対し,レンバチニブを24mgで開始し6日目の採血で胆道系酵素とCRPの上昇を認め,CTにて周囲脂肪織濃度上昇を伴う胆囊腫大を認めた。局所の臨床兆候は認めなかった。レンバチニブを休薬し利胆剤でCT上胆囊腫大と血液検査データは改善したため,休薬から15日後にレンバチニブを20mgへ減量して内服を再開したが胆囊炎の再燃はなかった。
症例3:有症状の有石胆囊炎症例,56歳男性(図3)
症例3 有石胆囊炎(有症状)
レンバチニブ14mgで投与を開始し,30日後に右上腹部自発痛が出現。
採血で肝胆道系酵素とCRPの上昇あり。CTにて周囲脂肪織濃度上昇を伴う胆囊腫大を認めた。
2週間の休薬の後,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行。創治癒を確認してレンバチニブ14mgで再開した。
乳頭癌術後再発で多発肺転移,リンパ節転移に対しレンバチニブを14mgで開始。内服開始30日後に右上腹部自発痛が出現した。採血は胆道系酵素の上昇と白血球増多,CRP上昇があり,CTで周囲脂肪織濃度上昇を伴う胆囊腫大と胆石を認めた。レンバチニブを14日間休薬後に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行し,休薬から33日後に休薬前と同量の14mgで再開した。
レンバチニブによる胆囊炎の発症機序は不明であるが,レンバチニブと類似したチロシンキナーゼ阻害スペクトラムを持つソラフェニブ,スニチニブにおいても急性胆囊炎の報告がある[3,4]。特にスニチニブにおいては局所の内皮損傷による胆道虚血が原因と推測されている[4]。日本人の胆石保有率は10~15%程度といわれており,また無症状胆石が有症状となるのは年2~3%と報告されている[5]。当科でレンバチニブを投与した26例のうち胆石を有する症例は5例(19%)で有胆石率は平均的と思われるが,5例中2例(40%)がレンバチニブ開始後早期に胆囊炎を発症しており胆囊炎発症率は一般的な胆石症患者と比べ明らかに高く,レンバチニブが胆囊炎発症に関与したと推測される。
SELECT試験での胆道系合併症の発症率は1.2%と報告されている[1]。当科におけるCTにて急性胆囊炎を呈した12例中,臨床症状および炎症所見を有し急性胆囊炎の診断基準に合致する症例は7例(27%)でありSELECT試験での報告よりも多い。ただし,SELECT試験では上腹部痛は13%に,腹痛は10%に報告されており[1],この中に胆囊炎合併例が存在していた可能性は否定できない。レンバチニブは重篤な副作用が多数報告されている薬剤であるがため当科では投与開始直後は2週毎に採血を4週毎にCTを実施しており,綿密な検査により投与初期に発症するといわれている急性胆囊炎の診断率が高くなったのではないかと推測する。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)が運用している医薬品副作用データベースを用いたレンバチニブの副作用の癌種間比較(甲状腺癌/肝細胞癌)の報告[6]において,急性胆囊炎は甲状腺癌患者のみに報告されている。さらにこの報告ではレンバチニブの投与量が12mg以下では急性胆囊炎の報告は0件であり,急性胆囊炎はレンバチニブが高用量投与される甲状腺癌にのみ発症したと推測されている。今回報告した症例は全例,レンバチニブを14mg以上内服中に発症していた。また,下らは用量強度と治療成功期間の相関を検討し,レンバチニブは10mg以上で効果・副作用を含め管理することが望ましいと報告しており[7],治療効果を得るためのレンバチニブの投与量では,胆囊炎のリスクを常に念頭において対処しなければならないと考えられる。
休薬期間が長期に及ぶと一部の分子標的薬にみられる急激な腫瘍の増大(flare現象)を引き起こす恐れがあり[8],胆囊炎はレンバチニブによる甲状腺癌治療に大きな支障をきたす注意すべき副作用であると考えられる。さらにレンバチニブは投与初期に最も腫瘍縮小比率が高い事が示されており[9],24mgでの投与開始が望ましいと考えられている。すなわち腫瘍縮小効果は投与開始から8週までに顕著で,その後も緩やかに継続し容易に治療抵抗性とはならないとされている。今回検討した12名中9名は内服開始から8週間以内に胆囊炎所見が出現していた。治療効果を期待してレンバチニブを高用量で少なくとも8週間投与し続けるためには投与初期は特に副作用管理が重要となり,この間は無症状であっても胆道系酵素やCRP測定および腹部CTまたは超音波検査による胆囊炎のスクリーニングが必要と考える。そして早期に胆囊炎を発見し適切に治療を行う事により胆囊炎の重篤化によるレンバチニブの休薬期間の延長や治療中止を避ける事が,期待される治療効果を得るためには非常に重要であると考えられた。また,休薬後は局所や全身状態の悪化により治療再開不能となる前に速やかにレンバチニブの減量再開を検討し,再開後も短期間での採血や画像検査を施行し胆囊炎の再燃がないことを確認することが肝要であると思われた。
本論文の要旨は第33回 日本内分泌外科学会総会にて発表した。