長引く国内低金利環境に直面する本邦金融機関は,利鞘確保のため,海外での貸出や海外クレジット商品への投資を積極化してきた.特に2019年前半にかけて,CLO (Collateralized Loan Obligation) を中心に残高が大きく伸びている.これとともに,海外クレジット投融資にかかる金融機関における適切なリスク管理と,その金融安定面への影響が注目されるようになっている.CLOは相対的にレバレッジが高く信用力の低い企業向けの貸付であるレバレッジド・ローンを裏付け資産とする証券化商品であるが,裏付け資産の価格を含む市場データの入手の難しさなどから,近年の注目度の高まりに対して,その市場価格を実証的に分析した学術研究は少ない.また,一般的な1ファクター・ガウシアンコピュラモデルによるデフォルト判定と確定的な回収率の下でモデルのキャリブレーションを試みると,多くのトランチの市場価格を整合的に説明できないことが分かる.そこで本研究では,デフォルト判定と依存関係のある確率的な回収率モデルを導入し,CDOのトランチ価格を評価する.確率的な回収率モデルを導入することで,確定的な回収率モデルに比べて市場価格へのキャリブレーション能力が向上することを確認する.また,キャリブレーションの結果からは,密度関数がバスタブ型の極端な回収率分布がCLO市場に織り込まれている可能性が示唆される.
複数の債権の集合体を裏付けとして組成される証券化商品はCDO(Collateralized Debt Obligation)と呼ばれ,特に,裏付け資産がローンの場合にはCLOと呼ばれる.2007年~2009年の世界金融危機では,サブプライムローンを裏付け資産とする証券化商品の損失がその一因となったが,特に大規模な損失に繋がったのはデリバティブを組み込んだ仕組みの複雑な再証券化商品であったことが知られている. CDOは,CDSを裏付けとして組成するだけでなく,CDOトランチを裏付けとして組成することも可能なため1 ,自由度,逆に言えば複雑性が高いが,これと比較してキャッシュ型であるCLOの複雑性は低く,AAA格については金融危機時でも元利払いが毀損した事例はない.そのため日本銀行金融機構局・金融庁監督局 (2020)では,本邦大手行の保有するCLOがAAA格に集中していることも踏まえ,満期まで持ち切った場合の損失率は抑制されていると評価されている.
経済の下降期にはデフォルト・クラスターが観察されるなど,デフォルトの発生には伝播性があることが知られている.このため,CDOの価格付けには,各裏付け資産の額面,デフォルト確率,デフォルト時の回収率に加えて,裏付け資産間のデフォルトの依存関係を考慮することが必要となる.デフォルトの依存関係を考慮した価格付け手法としては,Li (2000)が提案したファクター・ガウシアンコピュラモデルが広く用いられており,Laurent and Gregory (2005)や室町(2007)にはその詳細が解説されている.小宮(2003)もまたCDOの商品性等を概説したうえで、CDOの価格評価モデルの考え方を整理し,実際にモデルを用いてCDOの損失額分布を計算した結果に基づいて,CDOの特性等を考察している.2007年~2009年の金融危機ではCDOの価値評価を1ファクター・ガウシアンコピュラモデルで行うことによって,リスクを過小評価していたのではないかとの批判が広まったが,現在でもこれらの証券化商品は1ファクター・ガウシアンコピュラモデルで値付けされている.
コピュラを用いた信用リスクの依存関係の分析は価格付けに関するものが多いが,実証分析では吉規・中川(2010)は,中小企業CLOの信用リスク評価として債務者間のデフォルト依存関係を$t$分布2ファクターモデルにより表現することを提案し,日本政策金融公庫が組成したCLOのデータを用いた分析を行っている.室町(2020)は,コピュラを用いたCDOのプライシングモデル(Hull and White (2006)のインプライド・コピュラモデル)をリスク計測モデルへ拡張することを提案し,CDOのリスク計測では,小確率で大規模損失が発生しうるが,これはデフォルト損失ではなくCDO価格の暴落が主因になりうることを示している.また,吉羽(2021)は,複数のコピュラの理論的な性質を踏まえたうえで極値の従属性や資産変動に対する非対称性の強さが,同時デフォルト確率の高まりを通じてリスク評価やトランチ価値評価に及ぼす影響をシミュレーションにより分析している.
前述のように1ファクター・ガウシアンコピュラモデルでは金融危機以前も危機時もCDOの市場価格を十分に表現できなかったことが知られている.ただし,このモデルでは回収率を確定値としていたため,Krekel (2010)は1ファクター・ガウシアンコピュラモデルにおいて,デフォルト判定に用いる確率変数$X_D$の関数として回収率を表現し,$X_D$の値に対して階段関数となる確率回収率モデルを提案している.また,Höcht and Zagst (2010),Otani and Imai (2013)は計算負荷を低くするため,分布関数とその逆関数が閉式解を持つKumaraswamy分布をデフォルト時損失率の分布として用いることを提案している.回収率自体に関する研究としては,Frye (2000)は,格付け社債についてMoody’sの回収データを用いて実証分析を行い,景気後退期の回収率は平均よりも大幅に低いことを示しているが,これはwrong-way-riskの存在を示唆している.
近年では,CLO市場に対する注目度の高まりを受けて,CLOを対象とした学術的な研究が行われるようになっている.Kundu (2023)は,CLO市場の構造を包括的に概観し,市場の急速な成長を促進した一般的なマクロ経済環境,そのメカニズム,および最近出現したリスク等を示している.また,CLOにはOC(Over Collateralization)テストなど上位トランチの投資家の損失を保護する仕組みが講じられているが,この点に着目した研究も進められている.Loumioti and Vasvari (2019)は,CLOのマネージャーがOCテストに違反しないように行うポートフォリオのローンの売買取引に着目した実証分析を行っている.Elkamhi and Nozawa (2022)は,CLOのマネージャーに課されるOCテストがレバレッジド・ローン市場に及ぼす影響を実証的に分析している.
しかしながら,CLOの価格評価に関する研究は,裏付け資産のレバレッジド・ローンの価格を含む市場データの入手の難しさなどから,近年の注目度の高まりに対してあまり多くない.Nedeljkovic et al. (2010)は,モンテカルロ・シミュレーションによる債務者の早期償還と確率的なデフォルト時損失率を考慮したCLOの価格評価モデルを用いて,LCDXの市場価格にキャリブレートした結果を示している2 .また,Bernis et al. (2018)は,デフォルト強度過程にHawkes過程を適用したCLOの価格評価モデルを用いた数値実験の結果を示しているが,市場価格との比較は行われていない.そこで,本研究では,情報ベンダーから取得したCLOおよびその裏付け資産であるローンの市場価格のデータを用いて,回収率を確率変数とする1ファクター・ガウシアンコピュラモデルのキャリブレーションを行う.
具体的に本研究で使用するモデルは,Krekel (2010)と同様に確率的な回収率がデフォルト判定に用いる確率変数$X_D$の関数として表現されるモデルである.ただし,Krekel (2010)の回収率モデルは離散的な分布であるのに対して,本研究ではパラメトリックな連続分布を用いる.なお,本研究では,デフォルト判定に用いる確率変数$X_D$と回収率$R$を依存関係のある2つの確率変数とみなし,コピュラを用いた関係性の定式化を行っている.この立場から言えば,本研究のモデルは$X_D$と$R$が共単調な場合ということになる.このモデルをトランチド・インデックスとCLOの市場価格にキャリブレーションしたところ,市場価格に対する説明力が向上すること,そしてバスタブ型の密度関数を持つ回収率が市場価格と整合的である可能性が示唆される.
本稿の構成は以下の通りである.2節では,デフォルトと回収率の依存関係のモデルを示し,信用リスクのある債権のポートフォリオを裏付け資産とするCDOのトランチ価格の評価式に適用する.3節では,このモデルによるトランチド・インデックスの市場価格へのキャリブレーション事例を示す.4節では,CLOの市場価格へのキャリブレーション結果を示し,5節でまとめる.
本節では,相異なる$J$個の企業の債権からなるポートフォリオを裏付けとするCDOを考え,各企業のデフォルトと回収率が依存関係を持つ確率回収率モデルを定式化する.企業のデフォルトは1ファクター・ガウシアンコピュラモデルで表現し,ポートフォリオの損失額を求め,当該CDOのトランチ価格を導出する.なお,本研究では全体を通じてリスク中立確率$\mathbb{Q}$の下で価値評価を行う.
2.1 CDOの仕組みとトランチ価格の評価式ここでは,提案モデルの適用対象であるCDOについて簡単に説明し,そのあとトランチ価格の評価式を示す3 .また,例として図1にキャッシュ型CDOの仕組みの概要を示す.
CDOの発行体は,投資家から受け取る資金をもとに債券やローンなどの債権を金融機関や市場から購入して担保ポートフォリオとし,それを裏付けとしてCDOを発行する.CDOは,トランチと呼ばれる複数のクラスから成り,その元利金払いは担保ポートフォリオから発生する元利金をもとに優先順位の高いトランチから順に行われる4 .担保ポートフォリオ中の債権にデフォルトが発生しなければ満期に当初元本が全額償還されるが,デフォルトが発生するたびに優先順位の低いトランチから順に損失額が想定元本から減額されていく.投資家は,利払日ごとに保有するトランチの残存想定元本に利率(通常は無リスク金利とスプレッドの和)と利払日間隔を掛けた金額を利息として受け取り,満期時点には残存想定元本が償還される.このため,低リスク低リターンのものから高リスク高リターンのものまで投資家のニーズに合わせた商品の組成が可能である.
例えば,図1の担保ポートフォリオのうちエクイティとメザニンの一部に相当する部分まで想定元本が毀損された場合,エクイティには元本が一切償還されず,メザニンでは元本の一部が毀損されるが,シニアおよびスーパーシニアの元本は毀損せず,全額が償還される.あるトランチの元本償還に損失が発生し始める時の担保ポートフォリオ全体の損失率をアタッチメントポイントといい,当該トランチの元本がちょうど全額損失する時の担保資産ポートフォリオ全体の損失率をデタッチメントポイントという.
続いて,アタッチメントポイント(金額ベース)$A$,デタッチメントポイント(金額ベース)$D,A<D$のトランチの価格評価式を記載する.以下では,リスク中立確率$\mathbb{Q}$の下で取り扱うものとし,将来の無リスク金利は確定的で評価日のイールドカーブから計算されるインプライドフォワードレートとする.また,CDOの利率は無リスク金利とスプレッドの和で与えられるものとする.
時刻を$t\ge 0$で表し,現時点を$t=0$とする.CDOの満期を$T>0$,利払い時点を$t_i,\,i=1,2,\ldots,I$,$t$時点のディスカウントファクターを$DF(t)$とする.$t_i$時点におけるこのトランチの損失率$L_{A,D}(t_i)$は,CDOの担保ポートフォリオ全体における元本の損失額を$L(t_i)$と置くと,
$$L_{A,D}(t_i) = \frac{\min\Big(\max\left(L(t_i) - A,0\right),(D - A) \Big)}{D - A}$$ | (1) |
と書ける.
このトランチの発行時スプレッドを$s_{A,D}$,期間$[t_{i-1},t_i]$に適用する無リスク金利を$r_i$とし,$t_{i}$時点の利息は残存想定元本から発生すると仮定すると5 ,トランチ価格は満期$T$で償還される元本$N_{A,D}(T)$と$t_i$時点の利息$I_{A,D}(t_i)$の割引現在価値の和の期待値であるから,
$$\begin{eqnarray} P_{A,D} &=& \mathbb{E^Q}\left[DF(T)N_{A,D}(T) + \sum_{i=1}^I DF(t_i) I_{A,D}(t_i)\right] \\ &=& DF(T)\left(1 - \mathbb{E^Q}\left[L_{A,D}(T)\right]\right) + \sum_{i=1}^I DF(t_i)\left(1 - \mathbb{E^Q} \left[L_{A,D}(t_i)\right]\right) \left(r_i + s_{A,D}\right) \left(t_i-t_{i-1}\right) \end{eqnarray}$$ | (2) |
書ける.ここで,
$$r_i =\frac{1}{t_i - t_{i-1}}\left\{\frac{DF(t_{i-1})}{DF(t_i)} - 1\right\}$$ |
は,現時点における期間$[t_{i-1},t_i]$の確定的なインプライドフォワードレートである6 .
すなわち,(2)式の通り,CDOのトランチ価格は,そのキャッシュフローが発生する各時点$t_i$のトランチの期待損失率$\mathbb{E^Q}\left[L_{A,D}(t_i)\right]$を用いて書ける.そこで,次節以降はトランチの期待損失率$\mathbb{E^Q}\left[L_{A,D}(t_i)\right]$を計算するために必要な債権のデフォルトと回収率をモデル化したうえで,CDOの裏付け資産ポートフォリオの損失額$L(t_i)$の評価式を導出する.
2.2 デフォルトと回収率のモデル化ここでは,リスク中立確率$\mathbb{Q}$の下で債権$j\in\{1,2,\ldots,J\}$のデフォルトと回収率のモデルを定義する.債権$j$が時点$t=t_i,\,i=1,\ldots,I$までにデフォルトする累積確率は$p_j(t_i)$とする.
この時,$U_{j,t_i}^D$を一様分布$U(0,1)$に従う確率変数とし,債権$j$の時点$t_i$までのデフォルトを
$$\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}$$ | (3) |
と表現する.すなわち,債権$j$が時点$t_i$までにデフォルトしているか否かを$U_{j,t_i}^D$と$p_j(t_i)$の比較により判定する.
本研究では,各債権のデフォルトについては,市場で広く使われている1ファクター・ガウシアンコピュラモデルを用いて表現する.具体的には,$V_{t_i}, \varepsilon_{j,t_i}$を標準正規分布に従う独立な確率変数,$\Phi$を標準正規分布の分布関数として
$$U_{j,t_i}^D = \Phi\left(\sqrt{\rho} V_{t_i} + \sqrt{1-\rho}\varepsilon_{j,t_i}\right), \quad 0\leq\rho\leq 1$$ | (4) |
とする.債権$j$の状態(デフォルトしているか否か)は,$\rho=0$ならば独立な確率変数$\varepsilon_{j,t_i}$のみに依存するため他の債権の状態と独立になるが,$\rho\neq 0$ならば$V_{t_i}$と$\varepsilon_{j,t_i}$に依存するため$V_{t_i}$を通して他の債権の状態との間に相関が生じる.
続いて,時点$t_i$までのどの時点で債権$j$のデフォルトが生じたとしても回収は時点$t_i$で行われると仮定し,時点$t_i$までにデフォルトしている債権$j$からの回収率$R_{j,t_i}$は非負の連続的な確率変数とする.この時,債権$j$を元本$N_j$だけ保有するポートフォリオの時点$t_i$での損失額は,
$$L(t_i) = \sum_{j = 1}^{J} N_j\left(1-R_{j,t_i}\right) \unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}}$$ | (5) |
となる.
また,時点$t_i$までにデフォルトしている条件の下での回収率の期待値$\bar{R}_{j,t_i}$を
$$\bar{R}_{j,t_i}:=\mathbb{E^Q}\left[R_{j,t_i} \mid U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i) \right], \quad 0\leq \bar{R}_{j,t_i}\leq 1$$ |
とすると,満期$t_i$,額面1の信用リスクのあるゼロクーポン債の期待損失額は,
$$\begin{eqnarray*} \mathbb{E^Q}\left[(1-R_{j,t_i})\unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}} \right] &=&\mathbb{E^Q}\left[1-R_{j,t_i} \mid U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i) \right]\mathbb{Q}\left(U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right)\\ &=& \left(1-\bar{R}_{j,t_i}\right)p_j(t_i) \end{eqnarray*}$$ |
となる.このように,$\bar{R}_{j,t_i}$を用いると期待損失額が$p_j(t_i)$と$1-\bar{R}_{j,t_i}$の積の形で書けるが,$\bar{R}_{j,t_i}$を時点$t_i$によらず一定と仮定すれば,現在の市場標準である回収率を定数とするモデルによる期待損失額と同じ形であり,現行のキャリブレーション手法の結果をそのまま活用できることも示唆している7 .そのため,以下では回収率$R_{j,t_i}$の$\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}$の条件下での分布を考える.
回収率$R_{j,t_i}$の$\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i) \right\}$の下での条件付分布関数を$G_j$,その逆関数を$G_j^{-1}$とする.この時,Krekel (2010)と同様に$R_{j,t_i}$が$U_{j,t_i}^D$と共単調となるように
$$R_{j,t_i} := G_j^{-1}\left(\min\left(\frac{U_{j,t_i}^D}{p_j(t_i)},1\right) \right)$$ | (6) |
とする8 . $\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}$の上では,
$$R_{j,t_i} =G_j^{-1}\left(\frac{U_{j,t_i}^D}{p_j(t_i)}\right)$$ | (7) |
となる.ここで,$U_{j,t_i}^D/p_j(t_i)$は$\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}$の条件下で一様分布$U(0,1)$に従うことに注意されたい.
なお,付録Aでは,デフォルトを判定する確率変数$U_{j,t_i}^D$と回収率$R_{j,t_i}$の依存関係をコピュラを用いて一般的な定式化を行っている.
2.3. 回収率の分布関数本研究では,Höcht and Zagst (2010)およびOtani and Imai (2013)に倣い,リスク中立確率$\mathbb{Q}$の下での回収率の条件付分布としてKumaraswamy分布を仮定する9 .回収率の分布については,$R_{j,t_i}\in[0,1]$とするためベータ分布が用いられることが多いが,Kumaraswamy分布もこの条件を満たす.また,いずれの分布も2つのパラメータで様々な分布形状を表現することが可能である.本研究では,モンテカルロシミュレーションを行いCDOトランチの損失分布の分位点を求める必要があるが,ベータ分布は分布関数とその逆関数が複雑なため,計算負荷が重い.これに対して,Kumaraswamy分布は分布関数とその逆関数が閉式解を持つため,本研究の計算手法に適している.なお,Kumaraswamy分布の期待値と分散はベータ関数を用いて表現されるため,ベータ分布の期待値と分散の式より複雑である.
Kumaraswamy分布の密度関数は,$0\leq x \leq1$かつ$a,b>0$として
$$f_{\rm Kum}(x) = abx^{a-1}\left(1-x^a\right)^{b-1},$$ |
分布関数は
$$F_{\rm Kum}(x)=1-\left(1-x^a\right)^b,$$ |
その逆関数は
$$F_{\rm Kum}^{-1}(x) = \left(1-(1-x)^{1/b}\right)^{1/a}$$ | (8) |
である.この分布に従う確率変数$X$の期待値と分散は,$\mathrm{B}(x,y)$をベータ関数として
$$\begin{eqnarray} \mathbb{E}[X] &=& b\mathrm{B}\left(1+\frac{1}{a},b \right) \\ \mathbb{V}[X] &=& b\mathrm{B}\left(1+\frac{2}{a},b\right)-b^2\mathrm{B}\left(1+\frac{1}{a},b\right)^2 \end{eqnarray}$$ | (9)(10) |
である.
図2の左に示すように,この分布の密度関数は,2つのパラメータ$a,b$の値によって,単峰型,単調増加,単調減少,バスタブ型など種々の形状をとることができる.例えば,$a,b$がともに1より大きい場合には単峰型となり,$a,b$がともに1より小さい場合にはバスタブ型となる.また,$a=b=1$では一様分布となる.
本研究では,(6)式に$G_j^{-1}=F_{\rm Kum}^{-1}$として適用し,
$$R_{j,t_i} = \left\{ \begin{array}{lc} F_{\rm Kum}^{-1}\left(\displaystyle{\frac{U_{j,t_i}^D}{p_j(t_i)}}\right) , & U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i) \\ 1 , & U_{j,t_i}^D > p_j(t_i) \end{array} \right. $$ | (11) |
とする.回収率の条件付期待値$\bar{R}_{j,t_i}$が与えられる時,(9)式よりパラメータ$a,b$のいずれかの値を決めるともう一方も決まるため,分布の形状を決定できる.また,Höcht and Zagst (2010)に倣い,回収率の期待値が0.4,標準偏差が0.2となるように(9),(10)式からKumaraswamy分布のパラメータを決めると,$(a,b)=(1.75,3.27)$となる.この時の密度関数を図2の右に示す10 .
本節ではシミュレーションによるトランチ価格の計算手順を示す.
まず,ここまでの記述をまとめて時点$t_i$におけるポートフォリオの損失額$L(t_i)$を表現する.(5)式に(6)式を代入すると,
$$\begin{eqnarray} L(t_i) &=& \sum_{j = 1}^{J} N_j\left(1-R_{j,t_i}\right) \unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}}\\ &=& \sum_{j = 1}^{J} N_j\left\{ 1-G_j^{-1}\left(\min\left(\frac{U_{j,t_i}^D}{p_j(t_i)},1\right)\right) \right\} \unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}}\\ &=& \sum_{j = 1}^{J} N_j\left\{ 1-G_j^{-1}\left(\frac{U_{j,t_i}^D}{p_j(t_i)}\right) \right\} \unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}} \end{eqnarray}$$ | (12) |
となる.ここで$G_j^{-1}=F_{\rm Kum}^{-1}$とし,(12)式に(8)式を適用すると,
$$\begin{eqnarray} L(t_i) &=& \sum_{j = 1}^{J} N_j\left\{ 1 - F_{\rm Kum}^{-1}\left(\frac{U_{j,t_i}^D}{p_j(t_i)} \right) \right\} \unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}}\\ \label{eq0213} &=& \sum_{j = 1}^{J} N_j\left[1-\left\{1-\left(1-\frac{U_{j,t_i}^D}{p_j(t_i)}\right)^{1/b} \right\}^{1/a}\right] \unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}} \end{eqnarray}$$ | (13) |
となる.
本研究では,時点$t_i$毎の$U_{j,t_i}^D,\, j=1,\ldots,J$から(13)式より$L(t_i)$を計算し,(1)式より$L_{A,D}(t_i)$を計算する.これを多数回繰り返すことで,(2)式より$P_{A,D}$を算出する.これを具体的な計算手順として以下にまとめる.
シミュレーションを用いたCDOのトランチ価格の計算手順は,以下の通りである.シミュレーションの試行を$m\in\{1,2,\ldots, M\}$とする.
ステップ1(c)を除けば,市場標準モデルである確定回収率の下での1ファクター・ガウシアンコピュラモデル($R_{j,t_i}$を定数としたモデルであり,以下では確定回収率モデルと呼ぶ.)によるCDOの価格計算と同様である.
本研究におけるシミュレーションの試行回数は$M=100,000$である.各トランチの額面を$100$とした時の,キャッシュフローの割引現在価値の標準偏差を$\sigma$とすると,理論価格の標準誤差は$\sigma/\sqrt{M}\sim 10^{-1}$であり,本研究の議論に必要な精度は確保されている.また,3節および4節に記載するキャリブレーションでは,相関の推定を異なる乱数を用いて複数回実施して,推定結果への影響が軽微であることを確認している.
なお,(7)式に(4)式を適用すると,時点$t_i$においてデフォルトしている債権$j$からの回収率は,
$$R_{j,t_i} = G_j^{-1}\left(\displaystyle{\frac{\Phi\left(\sqrt{\rho} V_{t_i} + \sqrt{1-\rho}\varepsilon_{j,t_i} \right)}{p_j(t_i)}}\right)$$ |
となる.$V_{t_i}$が小さい場合には$U_{j,t_i}^D$が小さくなりやすいため,時点$t_i$における債権$j$の条件付デフォルト確率は高まり,かつ回収率$R_{j,t_i}$は小さくなりやすい.これは,$V_{t_i}$を景気を表す確率的なファクターと考えると,景気後退期にはデフォルトが増え,回収率も低くなることに相当し,経済的な直観と整合的である.
本節では,モデルをトランチド・インデックスに適用してモデルの有効性を検証する.
図3は2019年9月以降のCDX.NA.IG.33のスプレッド推移であり,2020年3月のコロナショック期にはスプレッドが大きく拡大する局面を迎えていることが分かる.ここでは,市場が安定していた2020/1/3とスプレッドが急拡大した2020/3/20の価格データを用いて,1ファクター・ガウシアンコピュラモデルの相関を求めることで確率回収率モデルの有効性を確認する.
実務で使われる相関には,コンパウンドコリレーションとベースコリレーションの2つがある.コンパウンドコリレーションは,各トランチの理論価格を市場価格に一致させる相関である.実際の市場ではコンパウンドコリレーションはトランチによって異なる値をとることが知られており,また推定値が2つとなる場合や存在しない場合があることなどが知られている.一方,McGinty et al. (2004)で提案されたベースコリレーションは,デタッチメントポイント$D$のエクイティトランチ$[0$–$D]$の理論価格を市場価格に一致させる相関であり,トランチ$[A$–$D]$の価格は2つのエクイティトランチ$[0$–$A]$と$[0$–$D]$の価格の差として求められる.ベースコリレーションは,コンパウンドコリレーションよりも値を推定しやすいことや,デタッチメントポイントとともに値が大きくなる傾向があるためトランチ間の相関の値を補間しやすいことなどが知られている.ただし,あるトランチのベースコリレーションを推定する際には,その下位の全トランチの市場価格を観測可能なことが必要である.標準的でないトランチの相関を,市場で観測される標準的なトランチ価格から補間によって求めやすいという利便性から,現在ではベースコリレーションが市場でより広く用いられるようになっている.
CDX.NA.IG.33に関してはBloomberg端末から全トランチの市場価格を取得できるため,本節では,ベースコリレーション$\rho_b$をトランチごとに求める.ここで使用するCDX.NA.IG.33の構成銘柄とトランチ価格および金利等の情報はBloomberg端末から取得した.また,裏付け資産の$\bar{R}_{j,t_i}$は市場慣行に従い$0.4$とした.回収率の分布を決めるパラメータは,$(a,b)=(1.75,3.27),(1,1.5),(0.1,0.34)$の3パターンとした.その理由は次の通りである.まず,Höcht and Zagst (2010)に倣い回収率の標準偏差が0.2となる設定として$(a,b)=(1.75,3.27)$を選択した12 .また,2.3節で述べた通り,$\bar{R}_{j,t_i}=0.4$の下ではKumaraswamy分布のパラメータ$a$の設定だけで回収率の分布を決めることができるため,特徴的な分布となる$a=1$および$a=0.1$を選択した13 .この時の回収率の標準偏差は,それぞれ$0.26,0.40$である.密度関数は,$a=1.75$では単峰型,$a=1$では単調減少,$a=0.1$ではバスタブ型の形状となる.なお,$a=1$の時は$(\alpha,\beta)=(1,1.5)$としたベータ分布${\rm Beta}(\alpha,\beta)$に相当する. 図4に,本節で用いた3パターンのKumaraswamy分布の密度関数を示す.
キャリブレーションの結果を表1および表2に示す.ここで,$\rho_b$を$(1.00)$とした箇所はベースコリレーションが存在せず,理論価格と市場価格の差の2乗を最も小さくする$\rho_b$が上限の1であったことを示している.
トランチ | 確定回収率モデル | 確率回収率モデル | ||
---|---|---|---|---|
$(a=1.75,b=3.27)$ | $(a=1,b=1.5)$ | $(a=0.1,b=0.34)$ | ||
0--3% | $0.42$ | $0.38$ | $0.37$ | $0.35$ |
3--7% | $0.52$ | $0.48$ | $0.46$ | $0.44$ |
7--15% | $0.71$ | $0.64$ | $0.63$ | $0.60$ |
トランチ | 確定回収率モデル | 確率回収率モデル | ||
---|---|---|---|---|
$(a=1.75,b=3.27)$ | $(a=1,b=1.5)$ | $(a=0.1,b=0.34)$ | ||
0--3% | $0.68$ | $0.61$ | $0.58$ | $0.52$ |
3--7% | $0.89$ | $0.77$ | $0.74$ | $0.66$ |
7--15% | $(1.00)$ | $(1.00)$ | $0.96$ | $0.87$ |
確定回収率モデルでは,CDX市場が安定していた局面(2020/1/3)では,各トランチの$\rho_b$は存在したがトランチに依存し,より上位のトランチほど$\rho_b$は高くなった.一方,スプレッドが急拡大した局面(2020/3/20)では,$\rho_b$は安定局面よりも高くなり,7–15%のトランチでは市場価格と整合的な$\rho_b$は得られなかった.
確率回収率モデルでは,安定局面では確定回収率モデルよりもやや低い$\rho_b$が得られ,トランチ間の差も低下した.この傾向はスプレッド拡大局面でも同様で,確定回収率モデルでは得られなかった$\rho_b$がいくつかの確率回収率モデルでは得られるようになったが,依然としてトランチ間の差は大きい.また,Kumaraswamy分布のパラメータ$a$を小さくするにつれて,得られる$\rho_b$も小さくなる.$(a,b)=(1.75,3.27)$の時は,7–15%のトランチで$\rho_b$が上限の1になり,各トランチの$\rho_b$を市場価格から求めることができなかった.一方,$(a,b)=(1,1.5),(0.1,0.34)$とした時は,全トランチについて市場価格と整合的な$\rho_b$を求めることができた.
以上の結果から,本研究で提案した確率回収率モデルは,実務で一般的に用いられる確定回収率モデルよりも高いキャリブレーション能力を有しており,市場が多少荒れた時でもコリレーションスマイルの議論はできるようになると期待できる.しかし,トランチ間のベースコリレーション$\rho_b$の差はまだまだ大きく,全トランチの市場価格を統一して説明するには至っていない.
本節では,モデルをCLOのトランチに適用する.
4.1 分析に用いたデータと設定CLOの分析においては,情報ベンダーから各トランチの市場価格,裏付け資産ポートフォリオの構成情報および各銘柄の市場価格等の計算に必要になる情報を十分に取得できることが必要である.そこで,ここではElevation CLO Ltd 14-2A(CUSIP:28622QAB7)を分析する.このCLOの担保残高は471,905千ドル,裏付け資産は302銘柄のローンで構成されているが,うち298銘柄は市場価格が得られている.残る4銘柄は市場価格を$100$で代替したが,結果への影響は軽微であると考えている14 .評価日は2022/4/2とし,その時点でのトランチの構造と市場価格を表3に示す15 .CLOの各トランチの市場価格はRefinitiv社のDataScope Selectから取得し,裏付け資産ポートフォリオを構成するローンの銘柄情報および市場価格等はBloomberg端末から取得した.
クラス | 格付 | 額面(千ドル) | 割合(累積) | スプレッド | 市場価格 |
---|---|---|---|---|---|
A1R | AAA | 306,992 | 100% | 123bp | 100.03 |
A2R | NR | 15,000 | 35% | 135bp | 99.29 |
BR | NR | 45,000 | 32% | 175bp | 98.77 |
CR | NR | 27,000 | 22% | 220bp | 98.53 |
DR | NR | 30,000 | 17% | 320bp | 96.26 |
ER | NR | 23,000 | 10% | 635bp | 95.45 |
FR | NR | 9,000 | 5% | 864bp | 94.16 |
Principle | --- | 15,913 | 3% | --- | --- |
表3のElevation CLO Ltd 14-2Aのトランチ情報の通り,最下位のPrincipleの市場価格が入手できなかったため,ここではコンパウンドコリレーション$\rho_c$を扱う.また,裏付け資産の$\bar{R}_{j,t_i}$としては,市場で一般的に期待されている$0.7$を仮定した.なお,表3の構造では,上位トランチからウォーターフォール構造に従い利息の支払いを行うと,A1RからFRまでの全トランチへの支払い後に残余分が生じる.ここでは簡単のため,残余分の50%を使って担保を購入できると仮定し16 ,時点$t_i$の期待損失を$\mathbb{E^Q}\left[L(t_i)\right]$,期初の裏付け資産ポートフォリオ全体の加重平均スプレッドを$s_{\rm ave}$,トランチ$k,\,k=1,\ldots, K$の期初残高とスプレッドを$B_k,s_k$として
$$\left(\sum_{j=1}^J N_j - \mathbb{E^Q}\left[L(t_i)\right]\right) \left(s_{\rm ave} - \frac{\sum_{k=1}^K B_k s_k}{\sum_{k=1}^K B_k}\right) (t_i-t_{i-1}) \times 0.5$$ |
を裏付け資産ポートフォリオの元本に加算することとした 17 .
4.2 感応度分析ここでは,$\bar{R}_{j,t_i}=0.7$と固定したもとで,Kumaraswamy分布のパラメータ$a,b$とコンパウンドコリレーション$\rho_c$を変化させ各トランチの価格を求めることで,パラメータ設定が価格へ与える影響(感応度)を分析した.なお,2.3節で述べた通り,$\bar{R}_{j,t_i}=0.7$という条件の下ではパラメータ$a$の設定のみで回収率の分布を決めることができる.図5に確定回収率モデルの場合と,パラメータとして$a=5,4,3,2,1,0.1$の6パターンの確率回収率モデルの場合の計算結果を示す18 .ここで,mktは市場価格,fixは確定回収率モデルによる計算結果である.
確定回収率モデルから分析結果を述べる.まず,AR1,AR2の上位トランチについては,理論価格は$\rho_c$の変化に感応せず,かつ理論価格が市場価格に対して高い結果となっている.これは,回収率が0.7で定数の時,表3に示した優先劣後の構造ではアタッチメントポイントが債権のデフォルト時損失率$0.3$より高く,裏付け資産が全てデフォルトした場合でもトランチの元本が毀損しないため,理論価格が市場価格より高くなるからである.一方で,FR,ERの下位トランチについては,上位トランチと逆に理論価格が市場価格に対して一貫して低い結果となっている.これは,市場価格に織り込まれたトランチの期待損失額に対して,信用力が低いレバレッジド・ローンの市場価格に織り込まれた高いデフォルト確率と確定回収率モデルの下では,$\rho_c$の値によらずトランチの期待損失額が大きくなるため,理論価格が市場価格より低くなるからである.結果として,確定回収率モデルでは,BRとCRを除くトランチの市場価格を全く説明できていない.
一方,確率回収率モデルでは,上位および下位のトランチについては,$a$が小さくなるほど$\rho_c$による価格の変化が大きくなり,理論価格と市場価格が一致するコンパウンドコリレーションが存在しやすくなる傾向がある.$\rho_c$が大きいほどポートフォリオに含まれる債権間のデフォルト発生の相関が高まるため,シミュレーションにおいてデフォルトする債権が多いシナリオとデフォルトする債権が少ないシナリオの両方が発生しやすくなるが,更に$a$の値が小さい場合には,デフォルトする債権が多い時に回収率も低くなりやすいため,上位トランチの理論価格が低くなり市場価格に近づくと考えられる19 .下位トランチはこれと逆で,デフォルトする債権が少ない時に回収率も高くなりやすいため,理論価格が高くなり市場価格に近づくと考えられる.なお,中位のトランチについては,$\rho_c$の増加に対して価格が下がった後,徐々にその変化が緩やかになる傾向がある.
今回比較した中では,Kumaraswamy分布のパラメータを$a=0.1$としたケースが最も説明力が高いと考えられる.$a=0.1$では,DRを除き理論価格の曲線が市場価格と交差する点が存在し,DRについても,その他の設定より理論価格が市場価格に近くなっているためである.
4.3 キャリブレーション結果あるトランチの市場価格を再現できる回収率の条件付分布とコンパウンドコリレーション$\rho_c$の組み合わせは無数にありえる.4.2節で試したケースでは,$a=0.1$のKumaraswamy分布の時が最も説明力が高かった.そこで,ここでは$a=0.1$として理論価格と市場価格が一致する$\rho_c$の値を求める.
こうして求めた$\rho_c$の推定結果を表4に示す.ここで,$\rho_c$を$(1.00)$とした箇所は理論価格と市場価格が一致するコンパウンドコリレーションが存在せず,理論価格と市場価格の差の2乗を最も小さくする$\rho_c$が上限の1であったことを示している.
クラス | 市場価格 | 確定回収率モデル | 確率回収率モデル | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
$\rho_c$ | 理論価格 | 差異(%) | $\rho_c$ | 理論価格 | 差異(%) | ||
A1R | $100.03$ | $(1.00)$ | $108.28$ | $8.24$ | $0.79$ | $100.03$ | $0.00$ |
A2R | $99.29$ | $(1.00)$ | $109.08$ | $9.86$ | $0.25$ | $99.29$ | $0.00$ |
BR | $98.77$ | $0.97$ | $98.77$ | $0.00$ | $0.16$ | $98.77$ | $0.00$ |
CR | $98.53$ | $0.20$ | $98.53$ | $0.00$ | $0.03$ | $98.53$ | $0.00$ |
DR | $96.26$ | $(1.00)$ | $60.34$ | $-37.3$ | $(1.00)$ | $92.91$ | $-3.33$ |
ER | $95.45$ | $(1.00)$ | $62.26$ | $-34.8$ | $0.80$ | $95.45$ | $0.00$ |
FR | $94.16$ | $(1.00)$ | $63.80$ | $-32.2$ | $0.73$ | $94.16$ | $0.00$ |
表4に示すように,確定回収率モデルに比べて確率回収率モデルの方がより多くのトランチでインプライド・コンパウンドコリレーションが得られたことは大きな進展であるが,得られた$\rho_c$はトランチごとに大きく異なる.また,得られた$\rho_c$はDRを境に不自然な構造を示している点も注意する必要がある20 .しかし,4.2節で記載したように,上位と下位のトランチの市場価格を説明するには,ポートフォリオの損失額が極端に高い,あるいは低いシナリオが発生しやすい状況,すなわち高い$\rho_c$が必要であり,感応度分析の結果とは整合的と考えられる.なお,$(a,b)=(0.1,0.13)$の時のデフォルト条件下での回収率の密度関数を図6に示す.提案モデルではまだCLO全体の市場価格を整合的に説明できているわけではないが,密度関数がバスタブ型の回収率モデルの方が確定回収率モデルよりもCLOの市場価格をより説明できることが示唆されたことは興味深い.
本研究では,デフォルトと回収率の依存関係を考慮した価格評価モデルを用いて,トランチド・インデックスおよびCLOのトランチの市場価格を分析した.
確率的な回収率がデフォルト判定に用いる確率変数と共単調なモデルを市場標準である1ファクター・ガウシアンコピュラモデルによる信用リスクモデルと結合し,CDOのトランチ価格を評価した.ただし,付録Aに記載するようにデフォルトと回収率を規定する確率変数の同時分布を考え,これらの間に依存関係のあるモデルを一般的に定式化したうえで,実務での使いやすさを考えてデフォルト条件下での回収率がパラメトリックな連続分布に従うモデルを用いている.提案した確率回収率モデルは,企業のデフォルト確率が全体的に高まる場合には,回収率も低くなりやすいという,経済的な直観とも整合的なものである.数値例では,構築モデルのキャリブレーション能力が市場で一般的な確定回収率モデルよりも向上することが示唆された.また,CLOの市場価格へのキャリブレーション結果からは,デフォルト条件下における回収率の条件付密度関数が極端なバスタブ型であることが示唆された.
本研究は,確率回収率モデルの有効性を示しただけでなく,情報ベンダーから購入したCLOの市場価格のデータを用いた実証研究でもあり,データ入手の困難さから学術研究が少ないCLOの分野において有意義な示唆を与える成果と考えられる.しかし,提案モデルでは全てのトランチ価格を整合的に説明するには至っておらず,まだ大幅な改良の余地がある.本研究におけるデフォルトと回収率の依存関係については,付録Aの(15)式のコピュラ$C_j$が共単調であるモデルを考えたが,$U_{j,t_i}^D,U_{j,t_i}^R$が他のコピュラに従うモデルも考えられる.また,例えばで提案された$t$分布2ファクターモデルなど,1ファクター・ガウシアンコピュラモデルではなく,より同時デフォルトが発生しやすいモデルの利用も考えられる.他には,デフォルト発生時の元本償還等,今は簡易的に扱っているCLOトランチの優先劣後構造をより精緻に評価することも挙げられる.これらについては今後の課題としたい.
本稿の執筆にあたっては,室町幸雄教授,吉羽要直教授,竹原浩太准教授から,さまざまなご指導や有益なご意見を頂いた.この場を借りて,感謝の意を表したい.なお,本稿の内容は全て著者の個人的見解であり,その所属する組織の公式見解を示すものではない.また,ありうべき誤りはすべて筆者の責任に帰する.本研究は,JSPS科研費21K01581に対する独立基盤形成支援を受けて契約したリフィニティブの評価時価サービス(EPS)でのCDO/CLOの価格データを用いた.
1 ローンや社債等の現物資産を裏付けとして組成するものはキャッシュ型CDOと呼ばれる.CDS等のデリバティブを裏付けとして組成するものはシンセティックCDOと呼ばれる.また,CDOを裏付けとして組成するものはCDOスクエアードやCDO$^2$等と呼ばれる.
2 LCDXは,レバレッジド・ローンを裏付けとしたCDSを対象として100銘柄の均等ウェイトで構成される指数である.ただし,現在は取引が行われていない.
3 詳細は,室町(2007)を参照されたい.
4 この仕組みをウォーターフォールという.
5 デフォルトが起こるとスーパーシニアの償還が発生するなどのキャッシュフローのウォーターフォール構造は扱っていない.
6 簡単のため,本研究ではキャッシュフローを規定するプロジェクションカーブとディスカウントカーブを同一として扱っているが,実務では必ずしも一致するわけでない.
7 CDS市場では,市場クォートの前提となる回収率を定数とする慣行となっている.
8 2.4節に記載するように,これは信用力の悪化が著しい時に回収率が小さくなりやすいという直観とも整合的なモデルである.
9 先行研究ではデフォルト時損失率の分布としてKumaraswamy分布を用いているのに対して,本研究では,回収率の分布としてKumaraswamy分布を用いる点が異なる.
10 Höcht and Zagst (2010)では,デフォルト時損失率の分布としてKumaraswamy分布を用いており,CDSの市場慣行に基づく期待値とAltman and Kishore (1996)の実証分析に基づく標準偏差となるように,パラメータを決めることを提案している.
11 本研究では,(4)式の通り$U_{j,t_i}^D$の分布は時点$t_i$に依存しないこと,および(2)式の通り異なる時点での同時分布は価格に影響しないことから,共通の乱数を使っても結果に影響を与えない.
12 Höcht and Zagst (2010)では期待値が0.6,標準偏差が0.2となるようにKumaraswamy分布のパラメータを設定しているのに対して,本研究では期待値が0.4,標準偏差が0.2となるようにKumaraswamy分布のパラメータを設定していることに注意.
13 付録Bに示す回収率分布を含めたキャリブレーションの結果から,$a=0.1$とすることは否定されるものでないと考えている.
14 この4銘柄の総残高は裏付け資産全体の1%未満であり,該当の4銘柄全ての価格を5%動かした場合にトランチの理論価格に与える影響は,100程度であるCLOの市場価格に対して0.1程度である.
15 Principleの額面は,全担保残高からFR以上のトランチの額面合計を控除した値としている.
16 松井(2021)には,金利ダイバージェンテストに抵触した場合,「下位トランチェへの配当に充当されるはずであった利金収入の残余キャッシュフローを最上位トランチェの返済に充当するのではなく,一部([50]%といった水準に設定されることが多い)を担保の追加購入に充当する」とある.
17 例えばポートフォリオの元本の損失が1%で,利息の残余の大きさが元本に対して0.5%の時は,ポートフォリオの元本の損失は0.5%となる. また,ここでは簡単のため,各シミュレーションパスに応じた計算ではなく期待値計算としたが,現実のCLOにより近いと考えられる計算は付録Cに示した.
18 図7に示す通り,密度関数の形状を確認した上でKumaraswamy分布のパラメータを選択している.
19 2.4節でデフォルトと回収率の依存関係を示した.ここでは確率回収率の期待値を固定しているため,$a$が小さいほどその分散が大きくなり,デフォルトと回収率の依存関係がポートフォリオの極端な損失シナリオ発生に強く寄与する.
20 Kundu (2023)には投資家のタイプに応じた保有状況が図示されている.例えば,預金取扱金融機関が保有するのはスーパーシニアが殆どであるが,こういった投資家は強いストレス時の元本の毀損を意識するなど,主要な投資家の投資スタンスを反映している可能性がある.
ここでは,デフォルトと回収率の依存関係を考慮してモンテカルロシミュレーションでCDOトランチの価格を評価するためのモデルとして,より一般的な定式化を行う.
2.2節と同様に,リスク中立確率$\mathbb{Q}$の下で考える.$\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}$の下,すなわち債権$j$が時点$t_i$までにデフォルトしているという条件下での回収率$R_{j,t_i}$の条件付分布関数を$G_j$,その逆関数が存在すると仮定し$G_j^{-1}$として,$\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}$の条件下で一様分布$U(0,1)$に従う確率変数$U_{j,t_i}^{R\mid D}$を用いて,
$$R_{j,t_i} := G_j^{-1}\left(U_{j,t_i}^{R\mid D}\right)$$ | (14) |
と表現する.
以下では,$U_{j,t_i}^{R\mid D}$を構成する. 無条件で一様分布$U(0,1)$に従う確率変数$U_{j,t_i}^R$と$U_{j,t_i}^D$の同時分布関数を2変量コピュラ$C_j$を用いて,
$$\mathbb{Q}\left(U_{j,t_i}^R \leq u, U_{j,t_i}^D \leq v\right)=C_j(u, v)$$ |
と表現すると,時点$t_i$までにデフォルトしているという条件下での$U_{j,t_i}^R$の条件付分布は
$$\begin{eqnarray*} \mathbb{Q}\left(U_{j,t_i}^R \leq u \mid U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right) &=&\frac{\mathbb{Q}\left(U_{j,t_i}^R \leq u , U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right)}{\mathbb{Q} \left(U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right)} \\ &=&\frac{C_j\left(u,p_j(t_i)\right)}{p_j(t_i)} \end{eqnarray*}$$ |
と書けるため,$C_j\left(U_{j,t_i}^R,p_j(t_i)\right)/p_j(t_i)$は$\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}$の条件下で一様分布$U(0,1)$に従う.そこで(14)式で
$$U_{j,t_i}^{R\mid D}=\frac{C_j\left(U_{j,t_i}^R,p_j(t_i)\right)}{p_j(t_i)}$$ |
とすれば,
$$R_{j,t_i} = G_j^{-1}\left(\frac{C_j\left(U_{j,t_i}^R,p_j(t_i)\right)}{p_j(t_i)} \right)$$ | (15) |
となる.(15)式より,$R_{j,t_i}$の分布は$G$により決まるため,時点$t_i$に依存せず,期待値$\bar{R}_{j,t_i}$も一定となる.
ここで,$U_{j,t_i}^R$と$U_{j,t_i}^D$が共単調であると仮定すると,$C_j(u,v)=\min(u,v)$,$U_{j,t_i}^R = U_{j,t_i}^D$となるため,$\left\{U_{j,t}^D \leq p_j(t_i)\right\}$の上では,
$$\begin{eqnarray*} R_{j,t_i} &=& G_j^{-1}\left(\frac{\min\left(U_{j,t_i}^R, p_j(t_i)\right)}{p_j(t_i)}\right) \\ &=& G_j^{-1}\left(\frac{U_{j,t_i}^D}{p_j(t_i)}\right) \end{eqnarray*}$$ |
となり,(7)式が得られる.
付録B 回収率の分布を含むキャリブレーションについて本文中におけるキャリブレーションの結果は,回収率$R_{j,t_i}$の分布を決めるKumaraswamy分布のパラメータ$a$を固定値として,1ファクター・ガウシアンコピュラモデルの相関を推定したものである.そこで,ここではトランチド・インデックスのケース(評価日2020/3/20)で回収率の分布を含むキャリブレーションを行い,$a=0.1$とすることの妥当性を検証する.
回収率の分布を決めるパラメータ$a$は全トランチで同一であり,ベースコリレーションはトランチごとに異なると仮定する.トランチ$k,\,k=1,\ldots,K$について,ベースコリレーションを$\rho_{b,k}$,理論価格を$P_k^{\rm mdl}(\rho_{b,k}, a)$,市場価格を$P_k^{\rm mkt}$とし,
$$\begin{eqnarray*} \textrm{Minimize} & &\quad \sum_{k=1}^K \left(P_k^{\rm mdl}(\rho_{b,k}, a) - P_k^{\rm mkt}\right)^2 + w \sum_{k=1}^K (\rho_{b,k} - \bar{\rho})^2\\ \textrm{Subject to} & &\quad 0 \leq \rho_{b,k} \leq 1,\, 10^{-4}\leq a \leq 1 \end{eqnarray*}$$ |
により,回収率分布を含むキャリブレーションを行う.ここで$\bar{\rho}$は$\rho_{b,k}$の平均値であり,$w>0$はハイパーパラメータである.
キャリブレーションの結果を表5と表6に示す.ここで,各トランチにおける理論価格と市場価格の差異の絶対値を価格誤差として記載している.$w=1$のときに,パラメータ$a$の推定結果がやや小さくなったものの,その他のケースで$a=0.1$に近い値となっており,本文中で$a=0.1$を採用したことは一定の妥当性があると考えられる.
トランチ | $a$を固定 | $w=0.1$ | $w=1$ | $w=10$ |
---|---|---|---|---|
0--3% | $0.52$ | $0.52$ | $0.51$ | $0.52$ |
3--7% | $0.66$ | $0.66$ | $0.65$ | $0.59$ |
7--15% | $0.87$ | $0.86$ | $0.84$ | $0.73$ |
$a$ | $0.1$ | $0.096$ | $0.048$ | $0.10$ |
$a$を固定 | $w=0.1$ | $w=1$ | $w=10$ | |
---|---|---|---|---|
価格誤差(0--3%) | $4.9\times 10^{-5}$ | $1.2\times 10^{-4}$ | $1.1\times 10^{-3}$ | $7.4\times 10^{-3}$ |
価格誤差(3--7%) | $2.1\times 10^{-6}$ | $4.1\times 10^{-3}$ | $3.8\times 10^{-2}$ | $2.3\times 10^{-1}$ |
価格誤差(7--15%) | $2.4\times 10^{-5}$ | $4.6\times 10^{-3}$ | $4.3\times 10^{-2}$ | $3.0\times 10^{-1}$ |
$\sum_{k=1}^K (\rho_{b,k} - \bar{\rho})^2$ | $0.061$ | $0.060$ | $0.054$ | $0.024$ |
ここでは,本文中では期待値を用いて簡単に取り扱った利息の再投資について,利息の残余部分をシミュレーションのシナリオに応じて計算する場合について記述する.
債権$j$のスプレッドを$s_j^{\rm loan}$とする.利息計算期間$[t_{i-1},t_i]$において,デフォルトしていない債権から生じる利息のキャッシュフローは,
$$I_{\rm suv}(t_i) = \sum_{j=1}^J N_j \unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D > p_j(t_i)\right\}}\left(r_i+s_j^{\rm loan}\right) (t_i-t_{i-1})$$ |
である.また,デフォルトした債権については,それからの回収をもとに再投資が行われるため,再投資銘柄のスプレッドがデフォルト銘柄と等しいと仮定すれば,
$$I_{\rm def}(t_i) = \sum_{j=1}^J N_j R_{j,t_i} \unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}}\left(r_i+s_j^{\rm loan}\right) (t_i-t_{i-1})$$ |
である.すなわち,裏付け資産から生じる利息のキャッシュフローは,
$$I_{\rm port}(t_i) = \sum_{j=1}^J N_j \left(\unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D > p_j(t_i)\right\}}+R_{j,t_i} \unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}}\right)\left(r_i+s_j^{\rm loan}\right) (t_i-t_{i-1})$$ |
となる.一方,この期間に各トランチに支払う利息の合計は,トランチ$k$の期初元本を$B_k$,発行時スプレッドを$s_k^{\rm CLO}$,$t_i$時点の損失額を$L_k^{\rm CLO}(t_i)$とすると,
$$I_{\rm CLO}(t_i) = \sum_{k=1}^K \left(B_k - L_k^{\rm CLO}(t_i) \right)\left(r_i + s_k^{\rm CLO}\right) (t_i-t_{i-1})$$ |
である.
以上より,債権ポートフォリオから生じる利息をもとに全トランチの利息を支払った後の残余は,
$$\begin{eqnarray*} I_{\rm rem}(t_i) &=& I_{\rm port}(t_i) - I_{\rm CLO}(t_i)\\ &=& \left\{\sum_{j=1}^J N_j \left(\unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D > p_j(t_i)\right\}}+R_{j,t_i} \unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}}\right)\left(r_i+s_j^{\rm loan}\right)\right. \\ &&\quad\quad\quad\quad\quad\quad\quad\quad\quad\quad\quad\quad \left.- \sum_{k=1}^K \left(B_k - L_k^{\rm CLO}(t_i) \right)\left(r_i + s_k^{\rm CLO}\right)\right\} (t_i-t_{i-1}) \end{eqnarray*}$$ |
である.さらに,$\sum_{j=1}^J N_j \left(\unicode{x1D7D9}_{\{U_{j,t_i}^D > p_j(t_i)\}}+R_{j,t_i} \unicode{x1D7D9}_{\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\}}\right)=\sum_{k=1}^K \left(B_k - L_k^{\rm CLO}(t_i) \right)$であれば,
$$I_{\rm rem}(t_i) = \left\{\sum_{j=1}^J N_j \left(\unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D > p_j(t_i)\right\}}+R_{j,t_i} \unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}}\right)s_j^{\rm loan} - \sum_{k=1}^K \left(B_k - L_k^{\rm CLO}(t_i) \right) s_k^{\rm CLO}\right\} (t_i-t_{i-1})$$ |
となる.ここで期待値$\mathbb{E^Q}[I_{\rm rem}(t_i)]$について,
$$\mathbb{E^Q}\left[\sum_{j=1}^J N_j \left(\unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D > p_j(t_i)\right\}}+R_{j,t_i} \unicode{x1D7D9}_{\left\{U_{j,t_i}^D \leq p_j(t_i)\right\}}\right)s_j^{\rm loan}\right] = \left(\sum_{j=1}^J N_j - \mathbb{E^Q}\left[L(t_i)\right]\right) s_{\rm ave}$$ |
および
$$\mathbb{E^Q}\left[\sum_{k=1}^K \left(B_k - L_k^{\rm CLO}(t_i) \right) s_k^{\rm CLO}\right] = \left(\sum_{j=1}^J N_j - \mathbb{E^Q}\left[L(t_i)\right]\right) \frac{\sum_{k=1}^K B_k s_k^{\rm CLO}}{\sum_{k=1}^K B_k}$$ |
を仮定すれば,本文中の簡易的な計算と一致する.
付録D CLOの市場価格へのキャリブレーション時に用いた分布形状CLOのキャリブレーションで用いた6パターンのKumaraswamy分布の密度関数は,図7の通り.