金融機関における貸出金利の設定は属人化しており、リスクに応じて金利が設定されているとは言えない。一部の金融機関では金利設定のモデルは存在するが、他行との企業の取り合いなどにより、モデルで算出される貸出金利と実際の貸出金利には乖離が生じ十分に活用できていない。また、人が金利を決めると知見やノウハウを蓄積することが難しくなるという課題がある。そこで本研究では、低金利政策下における現行金利からの変動を考察することで、どのように金利が設定されているかを解明する。分析の結果、借入企業の財務や金融機関の資金調達、市区町村単位の競争度などが金利に与える影響度合いが明らかになった。
日本の金融機関では低金利政策による収益悪化(北坂ら,2023)や、異業種からの参入企業の増加による競争環境の変化、デジタル化による顧客ニーズの変化などが原因とされる収益の低迷が問題視されてきた(金融調査研究会,2019)。最近では倒産件数が増加しており(帝国データバンク,2025)、不良債権の増加も収益悪化につながっている。厳しい経営環境においても金融機関は利益を上げるために主な収益源である貸出利鞘を確保できるようにする必要がある。
貸出利鞘とは、金融機関が資金を貸し出すことによって得られる収益と、資金調達にかかる費用との差を指す。ただし、貸出先の企業が倒産すると貸出金が返済されず損失となる可能性があるため、融資業務では貸出先のリスクを把握し、一部の企業が倒産しても利益を確保できるような貸出金利の設定が求められる。
貸出金利は信用コスト、経費率、資金調達レート、利益率で決まっているとされている(杉山,2018a)。これら4つの要因を用いてモデルから金利を決定するとリスクに応じて金利を決めることができると考えられるが、日本の金融機関ではモデルによって金利を決める金利プライシングモデルの活用が十分ではない。世界金融危機後、大規模な金融機関を中心にモデル・リスク管理体制の構築が進展し(金融庁,2024)、メガバンクなど一部の金融機関においてはモデルは存在していると考えられる。しかし、融資においては競合となる金融機関との対抗などもあり、決定要因から算出された金利と実際の金利では乖離が生じている(杉山,2018b)。また、リスクに基づく融資を拡大する取り組みは歓迎されるが、多くの金融機関においてはリスクベースの融資に見合う与信審査能力の開発が必要となっている(International Monetary Fund,2017)。
実際の融資においては様々な要因を踏まえたうえで人によって金利が決められてきたが、人が決めると、判断する人によって金利が異なるという課題がある。また、知識や経験に依存するため、他の人が業務を理解して行うことは難しくなる。2024年3月の金融政策決定会合において低金利政策の廃止が決定され、同年7月には利上げが実施された。政策金利は2007年に一度利上げが行われたが、すぐに利下げに転じるなど、およそ30年もの間、政策金利は0.5%を超えていない。今後は金利のある世界に移行し、政策金利としても0.5%を超えていくことが予想されるが、過去に利上げ時の金利を決めていた人の多くは現在金利設定を担当していない。そのため、利上げが行われたタイミングでの金利設定に関する知見やノウハウを十分持ち合わせていない可能性が考えられる。将来、再び低金利政策が実施された際、現在の金利を決めていた人は現場から離れている場合もあり、引継ぎが十分でなければ適切な金利を設定できず、本来であれば確保できたはずの収益が得られなくなってしまう。属人化していると知見の蓄積が難しく、担当者による金利設定の質にもばらつきが発生するなど課題が存在する。
そこで本研究では、低金利政策下における金利設定について、現行の金利からどのように変動しているのかを解明することを目的とする。現行の金利からそれぞれの要因によってどの程度変動して金利が決定しているのかを明らかにすることで属人化している部分を標準化することができ、リスクベースの融資に取り組む金融機関の基礎モデルになることが期待される。なお、本研究では、業種によって金利設定のメカニズムが異なっていることが想定されるため、製造業を対象として分析を実施する。製造業に着目したのは、日本の基幹産業(経済産業省,2021)であり、2024年10月の資金需要判断DIはどの企業規模においても製造業が最も高く(日本銀行,2024)、今後金融機関との折衝が多く発生する業種であることが想定されるためである。
本論文の構成は、2章で金利に関する先行研究を通して、仮説を検討する。3章では本研究のアプローチと使用データについて言及する。4章で分析の結果を述べ、5章で考察を行う。6章で研究成果をまとめる。
本節では、金融機関における金利設定に関する研究や理論的背景を通じ、本研究で軸となる仮説を検討する。
2.1 先行研究渡部(2007)では借入企業の財務情報や銀行の財務情報を用いて短期金利の決定要因について分析を行っている。分析対象期間が2002年、2003年という銀行に対する不良債権圧縮圧力が極めて強い時期ということもあり、メインバンクの不良債権比率の上昇が金利上昇を引き起こしているという結果が得られている。クレジットスコアや借り手企業の自己資本比率なども金利に対して有意に影響しているとされている。また、担保の設定や保証協会の利用については有意ではないものの、設定することで金利が上昇するという結果が得られている。
森岡(2013)では金融機関の業態別に金利の決定要因について分析している。説明変数に借入企業の財務情報と業種や地域のフラグを使用しており、業態によって有意になる変数が異なっていたが、自己資本比率や月商、総資本回転率といった変数が金利に対して影響があることがわかっている。
平賀ら(2017)では都道府県別の平均貸出金利と貸出残高によるHHI(3.2.1で詳細を説明)の関係について分析が行われている。HHIはマイナスの係数が推定されており、寡占市場になると金利は低下するという結果が得られている。
辻ら(2024)では現行の金利からの変動について分析が行われている。借入企業の財務情報や担保の設定の有無、借入先の金融機関の業態フラグを用いて変動メカニズムについて解明している。自己資本比率が高い企業は金利が低下することや、都市銀行はほかの金融機関の業態よりも金利が低いという結果が得られている。
Dealership model を用いて金利に影響する要因を分析することも可能である。Dealership modelとは貸出金利と調達金利について市場金利との差分を取り、金融機関の利鞘についてモデル化するというものであり、利鞘と使用した変数の関係性は金利との関係性と考えることができる。品田(2022)ではDealership modelで分析する際に金融機関の競争度(HHIを使用)や経費率を用いて利鞘と競争度や経費率の関係性について分析している。効率的な経営を行うと、金利の決定要因である経費率の低下に伴い、低金利で融資することになり預貸利鞘が減少していることや、内部留保を活用し預貸利鞘を恒常的に減少させているという結果が得られている。競争度に関しては平賀ら(2017)とは逆でプラスの係数が推定されていた。
海外でも金利に関する研究は行われている。Gambacorta(2008)はイタリアにおける金利の設定に影響を与えるミクロ及びマクロ経済要因を分析している。金利リスクや銀行の効率性・集中度などを説明変数に取り入れており、銀行の効率性や資産と負債の満期のミスマッチなどが金利に影響しているとしている。ヨーロッパ地域を分析対象としている研究もあり、金利には政策金利や地域差などが影響していることが明らかにされた(Gambacorta,L & Marques-Ibanes,D,2011)。また、アメリカを対象とした研究では、担保を設定することによって金利が低下するという結果が得られている(Luck,S., & Santos, J. A,2024)。

これまで金利に影響を与える要因として、企業の財務や担保・保証協会の利用の有無、金融機関の業態や集中度等が考えられてきた。しかし、日本では金利が決定される4つの要因を網羅して低金利政策下における考察が行われていない。また、競争度についてはこれまで都道府県単位の貸出残高(平賀ら,2017)や市区町村単位の店舗数(播磨谷&尾崎,2017)などを用いて算出されていたが、店舗数では規模の影響を考慮することができず、市区町村単位での正確な競争度の把握はできていない。そこで、本研究では金利決定の要因を網羅し、市区町村単位での正確な競争度を用いて、現行金利からの変動要因について仮説を考えて分析を実施する。
金利は借入を行う企業の信用リスク、貸出を行う金融機関の資金調達、経費、利益によって決まっているとされているため、先行研究で提唱された仮説を軸として、具体的な指標に落とし込んで仮説を立てる。仮説の全体像を図1に示す。本研究では現行の金利からどのように変動するかを分析するため、当年の金利も要因として含めている。図1では金利に時点を表す添え字tをつけており、
まず借入企業の信用リスクについて考える。多くの先行研究から、財務が健全だと金利は低下するという結果が得られていることから、本研究の仮説として、健全な財務の場合は金利が低下すると考えられる。借入金額が高額になると返済額も高額になるためリスクが増加し、借入額が大きくなると金利も上昇することが推測される。借入期間が長くなると借入期間内に倒産するリスクが増加することから借入期間が長くなると金利も上昇すると想定される。
融資においては資金使途も重要である。運転資金の調達の場合は資金が足りないということで金利が上昇し、設備資金として投資する場合は、売上の増加が見込まれ、低金利でも融資される可能性がある。保証があると貸し出した金額が全額返済されなくても、担保を取得したり保証協会が代わりに返済を行うことで金融機関の損失は減少する。このことから担保や保証協会による代位弁済がないとリスクが増加し、金利も上昇することが推測される。また、担保は借入金額に対して高額なほど損失を減少させるので、担保の負担割合が小さいほど金利は上昇することが推察される。借入を行う企業に親会社がある場合、親会社があることによって借入を行う企業の信用が補完され(全国銀行協会,2012)金利は低下する可能性がある。保証協会を使用するか担保を設定するかは、企業の財務状況や親会社の有無によって異なることが考えられる。
次に金融機関の資金の調達について検討する。資金調達レートが上昇すると、資金調達に必要な費用が増加し、利鞘確保には貸出による利益を多くとる必要があるため、仮説として、調達金利やTIBORが上昇すると貸出金利も上昇すると考えられる。調達金利の金利設定においては市場金利を表す指標も活用されていることが想定されるため、TIBORが調達金利に影響があるとしている。経費は金利の決定要因の1つであるが、品田(2022)では経費率が低下することで、金利の低下を招き、最終的には利鞘の減少に影響しているという結果が得られている。このことから、経費率と金利には正の相関があり、経費率が低下すると金利も低下することが推測される。
金融機関の利益について、中小企業は大企業に比べて貸出額が小さく、1件当たりの審査費用の割合が高くなり、また、情報開示がなされていないため調査費用が高くなる(塩澤,2000)。そのため、中小企業に多く貸出を行う金融機関ではコストが割高となり、利鞘収益を多くするため金利水準を上げて貸し出していることが推察される。品田(2022)では競争度の係数はプラスで推定され寡占市場になると利鞘が大きくなるという結果が得られており、競争環境が激しい地域ではほかの金融機関を利用されないように少しでも低金利で貸出を行っていることが推測される。
2020 年には新型コロナウイルスによる売り上げ減少への対策として無利子無担保で貸出を行うゼロゼロ融資が実施された。このような状況下では金融機関も金利水準を上げて利鞘収益を増やすことは難しいため金利が低下することが想定される。
本研究では当年の情報を用いて翌年の金利が変動するメカニズムを解明する。金融機関が企業に貸出を行う際の金利については情報が公開されていないため、安孫子(2009)を参考に企業の決算情報を用いて算出する。本研究で用いる金利は式1で算出している。
| (1) |
分子は決算年における支払利息であるのに対し、分母は期首と期末の銀行借入残高の平均値で金利を算出している。借入残高は、期中に返済すると期末時点では存在せず、支払利息のみが期末で計上され、金利が過大に算出されるためである。
3.1 分析手法本研究ではパス解析を用いて金利が変動するメカニズムを明らかにする。パス解析はWright(1934)によって開発された手法であり、変数間の関係性を図を用いて表現しているため視覚的にわかりやすいという特徴がある。また、パス解析では総合効果を直接効果と間接効果に分離しており、現象理解に役立つとされている(狩野,2002)。本研究はRのパッケージlavaanを使用してパス解析を実施する。
分析では仮説として考えたパス図を基にパス解析を実施する。パラメータを推定後、有意でないパスを消去してパス図を修正している研究もある(佐藤,1992)。しかし、本研究で使用するパス図は複数名の金融機関の関係者へヒアリングし、現場における認識と矛盾がないように作成しているため、パス図の修正は行わない。
markov switching model のように景気状況別にモデルを分ける分析手法もあるが、本研究では使用しない。景気状況によって資金需要は異なるが、近年では景気上昇時、下降時ともに貸出金利は減少傾向であるためモデルは分けない。また、景気状況が金利に影響があったとしても、それは金利に対して直接影響があるわけではなく、好景気によって売上が増加するなど分析で使用している変数に影響があると推測されるため、景気状況も考慮できていると考えられる。
3.2 使用データ株式会社帝国データバンクが保有している企業財務データベースCOSMOS1(以下、C1)と信用調査報告書(以下、CCR)、各金融機関が公開しているディスクロージャー、全国銀行協会が公開しているTIBORのデータを使用する。
C1 には非上場企業を含めた102万社の830万期分の財務データが含まれており、CCRには200万社分の信用調査情報が含まれている。財務データは上場企業しか入手できないことが多いが、本研究では非上場の企業を含めて
分析を行う。CCRには、企業がどの金融機関からお金を借りているか、担保の設定状況とその金額、企業への出資比率などのデータが含まれている。
ディスクロージャーには金融機関の貸借対照表や損益計算書、経営指標などが記載されている。本研究では、ディスクロージャーに記載されている金融機関の預金額、支払利息、費用、業務粗利益の項目を使用する。
3.2.1 使用変数使用する観測変数を表1に示す。分析においては表1に記載の観測変数と調達金利、OHR(Over Head Ratio, 経費率)、中小企業への貸出数割合に影響を与えるビジネスモデル特性という潜在変数を使用して分析を実施する。
| 対象 | 観点 | 変数 | 説明 | データ出典 |
|---|---|---|---|---|
| 企業 | 信用リスク | 金利 | 銀行借入に対する支払利息の割合 | C1 |
| 営業収益 | 常用対数をとって使用 | C1 | ||
| 自己資本比率 | 総資産に対する自己資産の割合 | C1 | ||
| 営業収益変化率 | 営業収益の前年からの変化率 | C1 | ||
| 売上高経常利益率 | 売上高に対する経常利益の割合 | C1 | ||
| 総資本回転率 | 総資本に対する売上高の割合 | C1 | ||
| 売上高借入金割合 | 売上高に対する借入金の割合 | C1 | ||
| 長期借入金割合 | 全借入金に対する長期借入金の割合 | C1 | ||
| 設備資金フラグ | 借入金の資金使途が設備投資かどうかのフラグ | CCR | ||
| 運転資金フラグ | 借入金の資金使途が運転資金かどうかのフラグ | CCR | ||
| 親会社の有無 | 親会社が判明しているかどうかのフラグ | CCR | ||
| 保証協会の有無 | 借入時に保証協会を使用しているかどうかのフラグ | CCR | ||
| 担保の負担割合 | 借入額に対する担保の設定金額の割合 | CCR | ||
| 金融機関 | 資金調達 | 6か月 TIBOR | 東京銀行間における取引金利 | 全国銀行協会 |
| 調達金利 | 金融機関の預金額に対する支払利息の割合 | ディスクロージャー | ||
| 経費 | OHR | 金融機関の業務粗利益に対する費用の割合 | ディスクロージャー | |
| 収益率 | HHI | 各市区町村における借入金のシェア率の2乗の和 | C1・CCR | |
| 中小企業への貸出数割合 | 金融機関の全貸出件数のうち中小企業の件数が占める割合 | CCR | ||
| ゼロゼロ融資フラグ | ゼロゼロ融資が実施された2020年から2023年まで | 独自設定 |
財務項目としては財務諸表分析や信用リスク分析でよく使用される、企業の規模、安全性、成長性、収益性、効率性の5つの観点から先行研究を参考に使用する変数を決めた。規模としては営業収益、安全性は自己資本比率、成長性は営業収益変化率、収益性は売上高経常利益率、効率性は総資本回転率を使用する。営業収益、自己資本比率以外の財務項目と借入額は企業の規模によって値が大きく異なる。規模による影響を除くため、割合を表す指標を変数として使用している。
C1 やCCRにおいて借入期間は明らかになっていない。その一方で、C1において短期借入金額と長期借入金額が判明しており、長期借入金額の割合を表す「長期借入金割合」という変数を作成し、借入期間を表す変数として分析に使用する。
CCRでは資金使途が書かれており、借入金の使途が運転資金かどうか、設備資金かどうかでフラグを作成してそれぞれを変数として使用する。CCRにおける資金使途は、運転資金・設備資金という2値の変数ではなくテキストとして様々な情報が記載されている。その中でそれぞれの使途に一致するかどうかでフラグを作成している。そのため、運転資金と設備資金で多重共線性は存在せず、両方ともの目的で借入を行っている場合はそれぞれのフラグが1になる。
金融機関側の情報を表す、調達金利、OHR、HHI、中小企業への貸出数割合についてはCCRを用いて主要取引を行っている金融機関の情報を使用する。CCRでは、取引金融機関の中でメインバンクに対するフラグが設定されており、ここで決められているメインバンクを使用する。ただし、メインバンクのフラグがない場合には、借入額が最も大きい金融機関をメインバンクとして扱う。
対象の金融機関は都市銀行や地方銀行だけでなく、信用金庫や政府系の金融機関も含まれる。植杉ら(2020)によると日本政策金融公庫とそれ以外の業態で分けて分析を実施したところ、政府系の金融機関では他の金融機関よりも低金利で融資が行われているという結果が得られていた。しかしながら、本研究で用いているCCRとディスクロージャーのデータを用いてそれぞれの業態別1に平均貸出金利の推移を確認すると図2のようになり、政府系の金融機関よりも都市銀行の方が金利が低い傾向が確認された。そのため、都市銀行や政府系金融機関を分けるフラグのような主要取引先の形態を表すダミー変数は使用しない。
金利については金融機関の業態によって水準が異なっている。水準の違いについては各金融機関が利益を目的と

して貸し出しているのか、地域企業の活性化のために貸し出しているのかなど、それぞれのビジネスモデルが関係していると考えられる。ビジネスモデルについてはデータとして得られず直接観測することはできないが、ビジネスモデルに従って金融機関が事業を行った結果として、調達金利・OHR・中小企業への貸出数割合という金融機関の情報を表す変数に繋がっていると推測される。そのため、金融機関の情報に影響を与えるビジネスモデル特性という潜在変数が存在すると仮定し、解析を進める。
競争度を表す変数としては地域内のシェア率の2乗値の合計であるハーフィンダール・ハーシュマン指数 (HHI)を使用する。先行研究においてHHIは利用可能なデータの都合上、都道府県別の貸出額や市区町村別の店舗数を用いて算出されていた(杉山,2021)。しかし、各都道府県においてどの地域でも競争度が等しいということはなく、市区町村などより詳細なレベルでの分析が必要だと考えられる。また、市区町村の店舗数では規模を考慮することができず正確な競争度を把握することが難しい。そこで本研究では市区町村別の借入額でHHIを算出する。
| (2) |
ここで
具体的な算出方法について図3を用いて説明する。P市内には企業A、企業Bが存在する。企業AはX銀行S支店から
| (3) |

| (4) |
となり、競争度(HHI)は式5のように計算される。
| (5) |
CCRでは金融機関との取引額についても調査が行われており、市区町村別に借入額を算出することが可能となっている。市区町村単位で借入額を用いて地域の競争度と金利の関係を明らかにする。
ゼロゼロ融資フラグは著者が独自に設定している。ゼロゼロ融資が開始された2020年からゼロゼロ融資の本格的な返済が開始する2023年までを対象の期間としてフラグを設定している。
3.3 分析対象日本標準産業分類における大分類が製造業で、銀行借入を行っているC1内の企業を対象として分析を行う。対象の決算年は2016年から2024年である。翌年の金利について分析しているため、2024年のデータについては2023年に対する翌年金利としてのみ使用している。決算は通常12か月間の集計で行われるが、決算間隔が12か月でない変則決算期は分析対象から除く。
今回の分析では金利は支払利息を期首期末平均借入残高で割っている。分母の借入金が小さい年から大きい年に変化すると金利としては大きな変化になり、パス係数を誤って推定してしまうため、期首、期末それぞれの借入額が全体のおおよそ下位5%にあたる500万円未満の企業については対象から除いている。
支払利息には銀行借り入れ以外にもリースによる利息も含まれており、銀行借入以外のノイズとなる要因を除くため、リース借入がない企業に限定する。借入額が500万円以上の企業において、リース借入がない企業に限定することによる業種の中分類での対象企業の割合はほとんど変化しなかったが、表2の通り、規模としては大企業2の割合が減少している。
分析では翌年の金利を当年の情報により求めているため、データが連続して3年分以上取得されていない企業については分析から除いている。また、CCRのデータも使用しているが、信用調査が行われていない企業や、取引先の金融機関が不明な企業については分析から除いている。一部のC1に含まれる変数には計算した財務比率に対して異常値かどうかを判定するカラムが存在しており、異常値を判定できる変数についてはデータ内のカラムを使用して異常値を除く。財務項目については外れ値を含む企業が存在するため、四分位範囲に基づく外れ値検出法を用いて外れ値を除く。帝国データバンク(2024)によると、企業の平均借入金利は年々低下している傾向があり、このことから、年ごとに外れ値となる上限を算出し、上限の中で最大値となっている値を今回の分析で使用する上限とする。
| 小規模企業 | 中小企業 | 大企業 | |
|---|---|---|---|
| リース借入をしている企業を除く前 | 36.0% | 59.1% | 4.9% |
| リース借入をしている企業を削除後 | 39.5% | 58.3% | 2.2% |
金融機関側の要因に関しては同じ金融機関がメインバンクとなっているため、外れ値を除くと多くのデータが除かれる。そのため、金融機関側の要因については99パーセンタイルを超える値を99パーセンタイルの値に置換する。最終的に使用するデータは企業数12,998社、41,166件のデータである。
分析対象について確認すると、金利と翌年金利を比較すると翌年金利の方が平均値が小さくなっている。これは金利が低下傾向であったため、金利が最も高かった2016年のデータが金利には含まれ、翌年金利には含まれないためである。短期借入を行っていない企業も多く、長期借入のみの企業も全体のおおよそ4分の1程度存在している。自己資本比率はマイナスになっている企業が一定数存在するが、2021年版の中小企業白書においても製造業の企業のうち9.4%が自己資本比率がマイナスであるとされており(中小企業庁,2021)、自己資本比率が負になっている企業が含まれていることは不自然ではない。
パス解析を行った結果を述べる。パス係数の有意水準については0~0.001:’***’, 0.001~0.01:’**’, 0.01~0.05: ’*’, 0.05~0.1:’.’, 0.1~1:’ ’ で表している。パス図内の矢線においては、見やすさの都合上、翌年金利に対して直接効果を表している矢線を実線で、それ以外の線を点線で記載している。
結果を図4に示す。
企業の信用リスクという観点では、金利、営業収益の変化率、保証協会の有無が5%有意で正になった。一方で、営業収益、自己資本比率、売上高経常利益率、総資本回転率については5%有意で負になった。金融機関側の要因では、調達金利、HHI、中小企業への貸出割合、6か月 TIBORが5%有意で正になり、ゼロゼロ融資が5%有意で負で推定された。

| 指標 | 値 | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| AGFI | 0.948 | - |
| RMSEA | 0.075 | [0.074, 0.076] |
| SRMR | 0.051 | - |
| 観点 | 変数 | 直接効果 | 間接効果 | 総合効果 |
|---|---|---|---|---|
| 信用リスク | 金利 | 0.898*** | 0.898*** | |
| 営業収益 | -0.016*** | -0.002** | -0.018*** | |
| 自己資本比率 | -0.041*** | -0.002 . | -0.042*** | |
| 営業収益変化率 | 0.016*** | 0.000* | 0.016*** | |
| 売上高経常利益率 | -0.021*** | 0.000 | -0.021*** | |
| 総資本回転率 | -0.016*** | 0.000 . | -0.016*** | |
| 売上高借入割合 | -0.004 | - | -0.004 | |
| 長期借入金割合 | -0.003 | - | -0.003 | |
| 設備資金 | -0.006 | - | -0.006 | |
| 運転資金 | -0.005 | - | -0.005 | |
| 親会社の有無 | -0.005 | -0.003*** | -0.009 | |
| 保証協会の有無 | 0.016*** | - | 0.016*** | |
| 担保の負担割合 | 0.001 | - | 0.001 | |
| 資金調達 | TIBOR | 0.034*** | 0.003*** | 0.037*** |
| 調達金利 | 0.012*** | - | 0.012*** | |
| 経費 | OHR | 0.001 | - | 0.001 |
| 収益率 | HHI | 0.004* | - | 0.004* |
| 中小企業への貸出数割合 | 0.012*** | - | 0.012*** | |
| ゼロゼロ融資期間 | -0.058*** | - | -0.058*** |
潜在変数については調達金利の因子負荷が1となるようにしているため、潜在変数から調達金利への係数は1 になっている。
適合度の結果を表3に示す。なお、本研究で用いた適合度指標は付録にて詳細を記載している。
本研究で焦点を当てている翌年金利のモデルについての自由度調整済み決定係数は0.854であった。
各要因から翌年の金利への直接効果、間接効果、総合効果の推定結果を表4に示す。ブートストラップ法を用いて1000回リサンプリングを実施し、有意水準を算出している。記号についてはパス図と同様で、直接効果の有意水準はパス係数と等しい。
金利が上昇する要因は総合効果の係数がプラスで推定されている変数であり、金利が低下する要因は総合効果の係数がマイナスで推定されている変数である。
ここからは得られた結果について考察していく。
適合度の指標についてはAGFIは0.9を超えていると当てはまりが良いとされており(Baumgartner& Homburg,1996)、RMSEAについては0.05~0.08であればまずまずな適合(Browne&Cudeck,1993)、SRMRは0.08未満が望ましいとされており(Hu&Bentler,1999)、今回の結果はこれらの基準を満たしている。
本研究では翌年の金利が現行の金利からどのように変動するかを明らかにすることに焦点を当てており、翌年金利を推定するモデルの自由度調整済み決定係数は0.854であった。森岡(2013)の研究では複数のモデルが作成されていたが自由度調整済み決定係数は大きいモデルでも0.5を超えていなかったことからも、本研究で作成されたモデルについては金利変動について十分説明できていると考えられる。
営業収益変化率を除く4つの財務変数は値が大きくなることで金利は低下するという結果になった。森岡(2013)の研究でも自己資本比率や売上高経常利益率、総資本回転率が使用され、マイナスの係数が推定されていた。得られた結果は先行研究とも整合的であり、財務が健全になると企業の信用リスクが減少し、金利は低下すると推測される。推定された総合効果をみると、財務の中では自己資本比率の絶対値が最も大きく、他の財務指標よりも金利に対して大きな変動要因となっていた。自己資本比率は企業の安全性を表しており、安全性は返済可能かどうかに直結しているため、貸出判断でも重要視されていることが想定される。営業収益変化率に関しては、成長している企業はさらに成長できるように金利が高くても借り入れていることが考えられる。
保証協会の有無については係数がプラスで、保証協会を利用している企業の方が金利が高いという結果になったことから、借入企業のリスクが高い企業は保証協会を使用しないと借入ができないということが示唆された。仮説では、保証協会を利用することによってリスクが減少し、低金利になるということを想定していたが、仮説とは逆の結果となった。森岡(2013)では担保の有無フラグを使用し結果プラスの係数が推定され、リスクが高い企業は担保を設定しないと借入ができなかったと考察されていた。保証協会の有無の結果は森岡の担保の結果と同様であると考えることができ、リスクの高い企業は保証協会を利用しないと借入ができない状況にあり、代位弁済が確保されることで借入が可能になっていると推察される。
親会社の有無は直接効果は有意ではなかったが、間接効果はマイナスの係数で有意であった。親会社があることによって、保証協会による代位弁済がなくても親会社が代わりに返済することが可能になるなど、他の変数を介してリスクが減少し、金利低下に繋がっていると推測される。
TIBOR は仮説通りプラスの係数が推定され、TIBORの上昇は金利上昇を引き起こすと推測される。企業融資においてはTIBORに一定の利率を上乗せするということが言われているように、資金調達費用の増加が金利に転嫁されていると考えられる。また、調達金利においてもプラスの係数が推定され、TIBOR同様に資金調達費用の増加により、金利も上昇すると考察できる。
経費を表すOHRは有意ではなかった。金融機関のOHRは毎年大きく変動するわけではないため、金利への影響はあまりなく、有意ではなかったと考えられる。
金融機関の競争度を表すHHIは係数がプラスであり、競争環境の激しい地域は金利が低下することが示唆された。競争度を表すHHIは値が大きくなると金利が高くなる、つまり、寡占度が高くなり独占市場に近づくほど金利は高くなるという結果である。競争度と金利については、低い競争度により金利が上昇するという「市場構造成果仮説」と低い競争度により経営効率が高くなり金利が低下する「効率性仮説」がある。本研究では係数がプラスであったため、「市場構造成果仮説」が支持される結果となった。これまで市区町村単位では店舗数や従業員数といった指標で金利との関係性を分析されていたため、借入額を使用した競争度と金利の関係性については不明であったが、本分析により明らかにすることができた。市場構造成果仮説が支持されることから、金融機関が多く、借入企業を取り合っている地域では、自行で借入を行ってもらえるように金利を低く設定していることが推測される。その一方で、寡占市場にある金融機関は利益を多く得られるように金利を設定していると推察される。
中小企業への貸出数割合は仮説通り係数がプラスで、中小企業へ多く貸出を行っている金融機関は金利が高くなることが示唆された。中小企業への貸出は大規模な企業と比較すると割高になることが多く、1件当たりの融資における利益が少ないため金利を高くして利益を確保していることが想定される。
金融機関では十分活用できる金利プライシングモデルがなく、貸出金利設定は属人化しているという課題のもと、本研究では継続的に借入を行っている製造業の企業を対象に、金利の変動について分析を行った。分析の結果、自己資本比率をはじめとする信用リスクを表す要因やTIBORや調達金利といった資金調達レートに対する金利の感応度が明らかになった。本研究で得られた結果については、借入金額が500万円以上でリース借入がない企業など分析対象を限定していることから、中小企業を中心に分析が実施されているバイアスが存在することが想定される。全ての製造業の企業に対して当てはまる結果ではないが、融資対象の企業の多くをカバーできていると考えられる。
金融機関同士の競争度を考慮して、現行の金利からそれぞれの要因がどの程度影響して金利が設定されているのかが明らかになったため、金融機関においては独自の要因を追加しモデルを改良することで、実際の融資においてもモデルを活用し、リスクに応じた金利で融資ができるようになることが期待される。また、HHIの結果から市区町村内の金融機関が多く、競争率が高いと金利は低下し、寡占市場になると金利は上昇することが示唆されたことから、金融機関の新規支店の出店計画にも用いることが可能であると考えられる。
本研究では、現行金利からの変動について分析を実施したため、過去の取引があることが前提となっているが、金融機関ではこれまで取引を行っていない企業に対する融資の金利設定も重要な課題である。また、低金利政策下における分析にとどまっていることから、今後利上げが実施された場合には対応できない可能性がある。今後の課題として、現在の金利が不明な企業に対する融資の金利水準の解明や、金利上昇時における低金利政策下の金利設定との差異についての考察も検討していく。
今後の展望としては金融機関の貸出ポートフォリオを最適化し、利鞘収益の増加に貢献できるようになると考えられる。これまでは知識や経験のある人が金利を設定して利益を確保していたが、今後は経験が浅い人でも、金利が変動するメカニズムを用いて、シナリオごとにシミュレーションを実施できるようになる。シミュレーション結果に応じて、どの程度リスクのある企業にどの程度の割合で貸出を行えば利益を最大化できるようになるかを求めることができ、利鞘収益の増加につながると期待される。
本研究を進めるにあたり、専修大学の尾木教授から大変貴重なコメントを賜りました。心より感謝申し上げます。また、定期的な研究報告を通してご助言をいただきました滋賀大学データサイエンス研究科の岸田氏、毎月の進捗報告でコメントをいただいたり、ディスクロージャーのデータ収集にご協力していただいたData Engineering and Machine Learning Center の皆様に感謝申し上げます。
本研究はJSPS科研費25K03084の助成を受けたものです。
1 政府系と都市銀行以外の凡例を減らすため、地方銀行と第二地方銀行、信用金庫などの業態はその他にまとめている。
2 中小企業庁の定義に従って企業規模を分類
外れ値を除いた後のデータの、フラグを除く変数の平均値と標準偏差を表5に、分布を図5以降に示す。
| 表5 使用データの平均値と標準偏差 |















パス解析の適合度の指標としてGFIがある。
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GFI は1からモデルが説明できていない部分を引くことによって求められる指標であるが、自由度が小さくなると見かけ上の適合度が改善されるという欠点がある(豊田,1998)。そのため、GFIを自由度(df)で調整したAGFIがある。
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ただし、nは飽和モデルのパラメータ数を表している。AGFIは1が最大で、値が大きいほど当てはまりが良いと判断される。
RMSEARMSEAはモデルの分布と真の分布との乖離を1自由度当たりの量として表現した指標で(豊田,1998)、値が小さいほど当てはまりが良いとされる。
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SRMRは標本の分散共分散行列と、モデルによって推定された分散共分散行列の間の残差を定量化する指標で(伊藤ら,2022)、値が小さいほど良いとされる。
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