JAMSTEC Report of Research and Development
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Report
Portable Multi-Channel Seismic reflection system
Seiichi Miura Makoto ItoYuki OhwatariSatoshi TsukiokaMikiya YamashitaYasuyuki NakamuraTetsuo NoNarumi TakahashiShuichi Kodaira
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2013 Volume 16 Pages 13-21

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Abstract

マルチチャンネル反射法(MCS)システムは構造探査システムの一つであり,海底下の地層境界や断層等で信号が反射する様子を解析することによって地下構造のイメージングを可能とするものである.海洋研究開発機構では地震発生過程解明などを目指して,様々な構造探査システムによって探査を行ってきている.しかし最近は構造探査の目的が多様化しており,従来以上に高分解能のイメージングが求められてきている.また浅海や極域といった特殊海域での調査も想定され,多様な船舶へ搭載する必要が生じてくる.このような観点から可搬式MCSシステムの導入を2011年に行った.取得データの状態は良好であり,期待した高分解能イメージングが可能であることが確認できた.また,日本海溝陸側斜面先端付近の微細構造イメージングに成功し,掘削候補点選定に貢献した.今後ますます活躍の場が広がると期待される.

1. はじめに

マルチチャンネル反射法(MCS)システムは,海域における地下構造を可視化(イメージング)するシステム(構造探査システム)のひとつである.単一もしくは複数のエアガンから圧縮空気を放出することによって信号源とし(人工震源),ストリーマーケーブル内のハイドロフォンによって信号を受信するシステムであり,その信号が海底下の地層境界や断層などで反射する様子を解析することによって地下構造のイメージングが可能となる(Fig. 1).海洋研究開発機構(JAMSTEC)では,南海トラフや日本海溝等における地震発生過程解明や,伊豆小笠原等における島弧成長過程解明などを目指して,様々な構造探査システムによって探査を行っている(三浦ほか,2009).具体的には,深海調査研究船「かいれい」や海洋研究船「かいよう」に固定装備されているMCSシステム,浅層簡易計測用のシングルチャンネルシステム(SCS),および海底地震計(OBS)である.OBSを除いた構造探査システムの比較をTable 1に示す.これらによって沈み込む海洋プレート上面形状やプレート境界における沈み込む堆積物層の把握(Tsuru et al., 2002)や陸側プレートの変形の様子,分岐断層の発見(Park et al.,2002)および島弧地殻の形成および進化過程(Kodaira et al.,2007; Takahashi et al., 2007)など,多くの知見が得られている.このように,これまでは主に固体地球科学的な目的から,地殻下部や上部マントルなど深部構造把握を行ってきた.しかし最近になって,環境変動や物質循環過程解明,泥火山など海底資源研究や海底掘削の安全性評価など,構造探査の目的が多様化し,かつ従来以上に高分解能のイメージングが求められている.また,調査海域が極域や浅海域,熱水域などの特殊海域での調査も想定されるため,多様な船舶へ搭載する必要がある.このような観点から,JAMSTECでは船舶の制約を受けない可搬式MCSシステムの導入を行った.今後はターゲット深度と求められる分解能に応じて,システムを使い分けていく.本論では可搬式MCSシステムの概要およびシステム構成の紹介と,取得データ例について報告する.

Fig. 1.

Conceptual diagram of MCS survey.

図1. マルチチャンネル反射法探査の概念図.

Table 1. Seismic systems of JAMSTEC.  表1. JAMSTECの構造探査システム比較表.
Seismic system Kairei-MCS Kaiyo-MCS SCS Portable MCS
Vessel for R/V Kairei for R/V Kaiyo portable portable
Target sediments-crust-upper mantle crust-upper mantle seafloor-sediments-basement seafloor-sediments-basement
Source 7,800 in3 Large and impulse 12,000 in3 Large < 1,000 in3 Small < 1,000 in3 Small
Compressor type 72m3/min built-in 22m3/min built-in 2m3/min portable 5-10m3/min portable
Streamer cable length 5,550m 300m 65m 1,200m
Channel number 444ch 12ch 1ch 192ch
Common depth point (CDP) interval 6.25m 12.5m - 3.125m

2. システム概要

可搬式MCSシステムは受振部,震源部,コンプレッサー,ラボコンテナ,ナビゲーション,解析装置によって構成されている(Fig. 2).受振部,震源部,ナビゲーションの船上装置や解析装置はラボコンテナ内に設置されており,コンテナごと艤装する.その他の装置もクレーン等の積み下ろしによる艤装が可能であり,船舶を選ばない可搬式となっている.運用人数は4-7人であり,「かいれい」MCSシステムや「かいよう」MCSシステムでの運用人数10-13人に対して半分程度となる.可搬式MCSシステムの海洋地球研究船「みらい」への搭載例はFig. 3のとおりである.システム各構成をFig. 3(a)からFig. 3(g)に,後部甲板の全景をFig. 3(h)に示す.JAMSTEC船舶のうち,「かいよう」「みらい」には搭載済みであり,深海潜水調査船支援母船「よこすか」にも搭載可能である.「かいれい」や学術研究船「白鳳丸」にはコンプレッサーがあるため,コンプレッサー以外を搭載して運用可能となる.海洋調査船「なつしま」には重量の関係から現状ではコンプレッサーを搭載することができないが、重量対策するか,軽量なコンプレッサーを用意すれば運用可能となる.

可搬式MCSシステムの導入については,2010年度から検討が開始された.導入スケジュールはTable 2のとおり.2010年度末から2011年度にかけて導入,2012年度に試験運用を開始し,2013年度から本格的に運用する予定であった(黒線).これはJAMSTEC船舶で唯一極域調査が可能な「みらい」による北極海調査を念頭に置いていたためである.しかし後述するように,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震発生を受けて,震源域周辺での緊急掘削計画が持ち上がり,掘削候補点提案のための事前調査データ取得に可搬式MCSシステムの使用が要請された.そのため導入スケジュールを前倒しし,2011年度後半から調査航海での使用を開始した(赤線).各航海の詳細については後述する.

Fig. 2.

Schematic figure of Portable MCS system.

図2. 可搬式MCSシステム概略図.

Fig. 3.

Embarkation of Portable MCS unit. (a) Streamer cable with winch, (b) Depth controller (bird), (c) Tail buoy, (d) Airgun array, (e) Compressor, (f)Laboratory container, (g) Inside of laboratory container, (h) Example of embarkation-on R/V Miraiʼs back-deck.

図3 可搬式MCSシステムの搭載例と各構成.(a) ストリーマーケーブルおよびウインチ,(b) 深度調整器(バード),(c) テールブイ,(d) エアガンアレイ,(e) コンプレッサー,(f) ラボコンテナ,(g) ラボコンテナ内部,(h) 「みらい」後部甲板上の搭載例.

Table 2.

Implementation schedule of Portable MCS system.

表2. 可搬式MCSシステム導入スケジュール.

2.1. 受振部

受振部はストリーマーケーブル(Fig. 3(a)),深度調整器(Fig. 3(b)),テールブイ(Fig. 3(c)),およびそれぞれの船上装置から構成される. ストリーマーケーブルはGEOMETRICS社製のGeoEel Solidである(Fig. 3(a)).各チャンネルは12個のハイドロフォンからなり,グループ間隔は6.25mである.また共通反射点(CDP)間隔は3.125mである.このグループ間隔およびCDP間隔は「かいれい」MCSシステムの半分であり,空間的に倍の密度となる.チャンネル数は192チャンネルでアクティブセクションが1200mであり,リードインケーブルやストレッチセクション,バイブレーションアイソレーションセクションなどをいれると全長約1500mとなる.これらは可搬の油圧式ストリーマーケーブルウインチに巻いてある.ウインチの寸法は長さ2.51m,幅2.97m,高さ2.57mで,総重量は7.5トンである.ストリーマーケーブルの深度調整および水中位置把握のためにION社製DigiBird Model 5011を使用する(Fig. 3(b)).ストリーマーケーブルの最後尾にはSEAMAP社製のテールブイIntegrated Tailbuoyを接続しており(Fig. 3(c)),テールブイに搭載したGPS受信機BuoyLinkによって位置をリアルタイムで把握することができる.

ストリーマーケーブルの探鉱機は,データサンプリング間隔が0.062ms, 0.125ms, 0.25ms, 0.25ms, 0.5ms, 1ms, 2msと各種選択でき,高サンプリング間隔まで対応可能である.記録長は最大30000サンプルまでであり,1msであれば30秒まで収録可能である.収録はナビゲーションからの外部トリガーおよび内部トリガーで行う.収録データはSEG-D等のフォーマットで内蔵HDDおよびネットワークアタッチストレージ(NAS)に記録される.

2.2. 震源部

震源部は高分解能エアガンとして,BOLT社製2800LLXを2基組み合わせたクラスター構成を使用する(Fig. 3(d)).このエアガンは高分解能を実現するとともに,1組0.8m四方,約130㎏と比較的軽量で扱いやすく可搬式システムに適している.チャンバーサイズは10立方インチ(0.16ℓ),20立方インチ(0.32ℓ),40立方インチ(0.66ℓ),120立方インチ(1.97ℓ)および150立方インチ(2.45ℓ)の5種類まで揃っており,調査目的に応じて選択できるようになっている.曳航深度は1.5m,3m,5mから選べるよう深度調整索を備えている.使用空気圧力は2000psi(13.7MPa)である.1例として,40立方インチ(0.66ℓ)2本で合計80立方インチ(1.31ℓ)のシミュレーション波形を示す(Fig. 4).エアガン深度は3mで,音圧は距離1mの際の圧力(bar-m)に換算している。初動の音圧は4.5 bar-m(0.45 MPa, 233 dB re 1 micro Pascal at 1m)で,プライマリーバブル比(P/B)は7.9である.

エアガン制御装置はRTS社のHotShotを2台用意している.1台でエアガンを最大4台まで制御できる.エアガン発振時刻精度は0.1秒である.発振はナビゲーションからの外部トリガーおよびマニュアルトリガーが可能である.なお,エアガンについてはSCS用のSercel社G-gunやGI-gunなど,他のシステムのものを使用することも可能であり,HotShotで制御可能である.

Fig. 4.

Simulated source signature of Portable MCS system. The source is 80 cu. in. (1.3ℓ) in total, composed of two 40 cu. in. (0.66ℓ) guns at 3-m water depth. (a) Time domain, (b) Frequency domain.

図4. 震源モデリング波形.40立方インチ(0.66ℓ)2本による80立方インチ(1.3ℓ),深度3mで実施.(a) 時間領域,(b) 周波数領域.

2.3. コンプレッサー

コンプレッサーはNational Compressed Air社のNCA5-138である(Fig. 3(e)).圧力13.8MPaの高圧空気を毎分最大5立米供給できる能力があり,このコンプレッサー2台を20フィートコンテナ内に配置している.重量は14.1トンである.動力は三相440V電源を用いる.

2.4. ラボコンテナ

ラボコンテナは20フィートの保冷用コンテナを改造したものである(Fig. 3(f)).前後にドアや貫通孔を設け,内部には上記の船上装置類を設置するための19インチラック3本と,モニタ類を配置した壁面パネルおよびマルチモニタデスクを配置してある(Fig. 3(g)).また,甲板上での温度変化に対応するためエアコンを配置している.ラボコンテナの電源は100Vと200Vを用いる.

2.5. ナビゲーション

ナビゲーションはSercel社製のTriggerFishを使用する.TriggerFishは柔軟性のあるナビゲーションシステムであり,単独の船舶での使用はもちろん,無線による複数の発振船 および受信船を用いた調査も可能である.海底ケーブル(Ocean Bottom Cable: OBC)やノード(Ocean Bottom Node:OBN)など様々な調査形態に対応し,操作性のよいソフトウエアインターフェースである。しかもハードウエアの要求能力は高くない.スペース等の制約がある可搬式システムには適したシステムである.

2.6. 解析装置

解析装置はHalliburton社のProMAX2Dをインストールしたワークステーションである.収録後のデータをProMAXによって取得データの品質管理(QC)を含めた1次処理を実施する.場合によってはデータ再取得といったチェックも可能となる.また船上処理によって各種パラメータテストを行い,調査後の陸上における処理解析に引き継ぐことが可能となる.探鉱機で記録したMCSデータとナビゲーションデータをネットワーク経由で転送し,ジオメトリやパラメータテストおよびQCを行う.

3. 可搬式MCSシステムの試験航海と調査航海

3.1. KY11-07航海

本航海は,可搬式MCSシステム導入の作動確認試験航海である.「かいよう」によって2011年6月29日から7月3日まで,相模湾にて行われた.作動確認や曳航試験を経て,相模湾内に設定した測線にてデータ取得を行った.データ取得仕様は,震源として40立方インチ(0.16ℓ)エアガン2本で合計80立方インチ(1.31ℓ)クラスターを水深1.5mに曳航し,18.75m間隔で発振した.ストリーマーケーブルは水深3mに曳航した.ストリーマーケーブルはグループ間隔6.25m,192chである.データのサンプリング間隔は1msである.なお可搬式のコンプレッサーについては製造中であったため,「かいよう」固定装備のコンプレッサーを使用した.

本航海での取得データ例をFig. 5(a)に示す.なおほぼ同じ測線の既存測線データ(KY06-01, KR10-01)についてFig. 5(b)Fig. 5(c)に示す.相模トラフのトラフ底を北東―南西方向に横切る測線の重合時間断面である.海底面は1.75秒付近にあり,その下に反射イベントが複数みられる.トラフ内では,南西側から北東側に向かって傾斜している様子が確認できる.2秒付近にみられるやや大きい振幅の反射イベント(Fig. 5(a)の丸印)について波長を確認するとKY11-07データでは約6msとなる.P波速度を2000m/sと仮定すると12mとなる.垂直分解能は概ね波長の1/4(Sheriff and Geldart,1995)とすると,3mとなる.一方のKY06-01およびKR10-01データでは,2秒付近の反射イベント(Fig. 5(b), Fig. 5(c)の丸印)の波長は28msとなり,P波速度を2000m/sと仮定すると56mとなる.波長の1/4は14mとなり,KY11-07データよりも長波長となる.これらのことからデータ取得仕様を適切に選ぶことによって,掘削コアと比較できるような分解能のイメージを得られると考えられる.各調査のデータ取得仕 様をTable 3に示す.

Fig. 5.

Comparison of MCS data. (a) Portable MCS data (KY11-07), (b) Kaiyo MCS data (KY06-01), (c) Kairei MCS data (KR10-01). Open circles indicate locations of wave lengths examples in the text.

図5. MCSデータ比較例.(a) 可搬式MCSデータ(KY11-07)(b) かいようMCSデータ(KY06-01)(c) かいれいMCSデータ(KR10-01).図中の丸印は本文中で波長の例を記載している場所を示す.

Table 3. Acquisition specifications of Fig. 5.  表3. 図5のデータ取得仕様比較.
KY11-07 KY06-01 KR10-01
Airgun Type BOLT 2800LLX Sercel GI-gun BOLT APG
Volume (cu. in./liter) 40 / 0.66 G250+I105 / G4.1+I1.7 100-600 / 1.6-9.8
Number 2 2 32
Total vol. (cu. in./liter) 80 / 1.33 710 / 11.6 7800 / 127.8
Towing depth (m) 1.5 5 5
Streamer Type Geometrics GeoEel Stealtharray Sercel Sentinel
Group interval (m) 6.25 25 12.5
Channel number (ch) 192 18 444
Sensor length (m) 1200 450 5550
CDP interval (m) 3.125 12.5 6.25
Towing depth (m) 3 8 6

3.2. KY11-E05航海

本航海は,2011年東北地方太平洋沖地震の震源域周辺における高分解能イメージングおよび,地球深部探査船「ちきゅう」による緊急掘削調査研究の掘削候補点提案のための事前調査データ取得のために,急遽行われたものである.「かいよう」によって2011年10月21日から11月11日まで,日本海溝宮城沖にて行われた(中村ほか,2012).調査海域周辺では「かいれい」によってプレート境界など比較的深部までの構造把握を目的とした調査が先行して行われていた.その先行調査の結果を参考にしながら,日本海溝の海溝軸近傍から陸側斜面までの浅部詳細構造を把握することを目的として,可搬式MCSシステムによる初めての調査航海を実施した.なお調査海域の水深は7000mより深いため,事前に震源波形のシミュレーションおよび調査直前に波形観測を行い,震源の検討を行った.データ取得仕様は,震源として40立方インチ(0.66ℓ)エアガン2本と120立方インチ(1.97ℓ)エアガン2本の合計320立方インチ(5.24ℓ)アレイを水深5mに曳航し,37.5m間隔で発振した.ストリーマーケーブルの曳航深度は水深6mとした.データのサンプリング間隔は1msで,記録長は最大14秒とした.

取得データ例をFig. 6に示す(Mori et al., 2012).HD33Bが海溝軸に直交する測線,HS41Bが海溝軸に平行な測線である.海溝海側では海底から約300m下まで堆積層があり,その下に海洋性地殻の基盤が認められる.海溝軸付近では海洋性地殻の基盤に落ち込みがみられ,さらに陸側に基盤の高まりがみられることから,ホルストーグラーベン構造のグラーベンと考えられる.また,沈み込む海洋性地殻直上や堆積層内の変形イベントも確認できる.「かいれい」MCSデータと比べると認識できる堆積層内層厚が非常に細かくなっている(Kodaira et al., 2012).このデータをもとに掘削候補点が選定され, 2012年4月1日から5月24日まで掘削された.これらから可搬式MCSシステムによるデータが掘削候補点提案のための事前調査に有効なことが実証された.

Fig. 6.

Example data for KY11-E05 cruise (Mori et al., 2012).

図6. KY11-E05航海データ例 (Mori et al., 2012).

3.3. KY12-02航海

本航海は,南海トラフの熊野灘から東海沖にいたる海域に沈み込むフィリピン海プレート上面の堆積層や基盤の形状や変形構造などの把握を目的として行われた(Yamashita et al., 2012).調査仕様は概ねKY11-E05航海と同じで,震源として40立方インチ(0.66ℓ)エアガン2本と120立方インチ(1.97ℓ)エアガン2本の合計320立方インチ(5.24 ℓ)アレイを水深3mに曳航し,37.5m間隔で発振した.ストリーマーケーブルの曳航深度は水深4mとした.データのサンプリング間隔は1msで,記録長は最大10秒とした.取得データ例をFig. 7に示す(Yamashita et al., 2012).南海トラフのトラフ底に溜まる堆積層内の細かな層序が認められ,それらが変形しているのも確認できる.海底下2秒付近の振幅が大きく連続した反射イベントは,沈み込むフィリピン海プレート上面の基盤と考えられる.このデータから,堆積層内の変形構造を詳細かつある程度の深度までのイメージングすることが可能であることがわかった.

Fig. 7.

Example data for KY12-02 cruise (Yamashita et al., 2012).

図7. KY12-02航海データ例 (Yamashita et al., 2012).

3.4. MR12-01航海

本航海は「みらい」の性能確認試験航海であり,その中で可搬式MCSシステムの総合作動確認を実施した.可搬式コンプレッサーの最初の実海域試験でもあり,「みらい」にお ける初めての可搬式MCSシステム作動確認でもある.実施海域は南海トラフ熊野灘で,KY12-02航海の測線と隣接している.120立方インチ(1.97ℓ)エアガン2本の合計240立方インチ(3.93ℓ)アレイを水深3mに曳航し,37.5m間隔で発振した.ストリーマーケーブルの深度は4m,データのサンプリング間隔は1ms,記録長は10秒と,概ねKY12-02航海と類似した調査仕様とした.「みらい」でのオペレーションは初めてであったが順調に実施できた.可搬式コンプレッサーも想定性能を発揮して,エアガン発振中,順調に充気することを確認した.これをもって可搬式MCSシステムの導入が完了した.

4. まとめ

固体地球科学的な目的だけでなく,環境変動や物質循環過程解明,泥火山など海底資源研究や海底掘削の安全性評価など、多様な目的のため高分解能の構造イメージングが可能で,多様な船舶に搭載可能な可搬式のシステムが必要なため,可搬式MCSシステムを導入した.

2011年の試験航海において基本動作の確認を行うとともにデータ取得も実施し,取得データの有用性を確認した.この結果,データ取得仕様を適切に選ぶことによって,掘削コアと比較できるような高分解能のイメージを得られることが確認できた.さらに,日本海溝域や南海トラフ域において調査航海を実施し,高分解能の地下構造イメージングに成功した.特に日本海溝域の調査航海では,2011年東北地方太平洋沖地震震源域周辺での高分解能イメージング行い,「ちきゅう」緊急掘削候補点選定に貢献した.可搬式コンプレッサーも含めた可搬式MCSシステムの総合作動確認を行い,システム導入が完了した.今後はこれまでの航海において見出された不具合(ケーブル外皮破損やノイズ混入等)の改善等を行うとともに,他船舶での調査にも対応する.

謝辞

可搬式MCSシステム導入にあたり,日本海洋事業株式会社の皆様には大変お世話になりました.KY11-07航海の漁野船長,KY11-E05航海およびKY12-02航海の田中船長をはじめとする「かいよう」乗組員の皆様,MR12-01航海の堤船長をはじめとする「みらい」乗組員の皆様,岡田主任をはじめとする観測技術員の皆様には航海中大変お世話になりました.山本富士夫氏および匿名査読者によるコメントは原稿の改善に大変有益でした。ここに記して感謝の意を表します.

参考文献
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