JAMSTEC Report of Research and Development
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ISSN-L : 1880-1153
Report
Red relief image map and integration of topographic data in and around the Japan Sea
Tetsuo NoTakahiro HiramatsuTakeshi SatoSeiichi MiuraTatsuro ChibaSaeko KamiyamaShinji IkiShuichi Kodaira
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2016 Volume 22 Pages 13-29

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Abstract

近年,海洋研究開発機構は多くの地震探査航海を日本海で実施し,その探査中マルチビームによる高品質な海底地形データを同時に取得している.海底地形はその海域におけるテクトニクスや構造発達史を解明する手かがりの1つであり,地震研究においても,例えば震源断層のパラメータの検討の観点から重要である.したがって,高品質な海底地形データを活用することができれば,断層の長さに関する検討の精度が上がり,震源断層の大きさの議論の進展にもつながる.その結果,日本海における地震活動・活構造と地殻構造の関係をより統合的に研究を推進することができる.本報告では,地震探査時に取得された海底地形データを加えた日本海全域及びその周辺の地形データを用いて,それらを統合したDEM(数値標高モデル:Digital Elevation Model)データを作り,さらにそのデータを用いて方向依存性のない立体感が得られる赤色立体地図を作製した結果について記す.

1. はじめに

日本海における被害地震は,主に北海道から九州にかけての日本の沿岸で発生している(e.g. 宇佐美・他,2013).特に,1983年日本海中部地震や1993年北海道南西沖地震は,海底下で発生したマグニチュード7後半の地震で,津波によって日本海全域の沿岸域に多くの被害を与えた(e.g. 宇佐美・他,2013).一方,日本海は太平洋側と比べると,明確なプレートの沈み込みが発達しておらず,歴史地震も十分に把握されていない.さらに,地震活動も太平洋側と比べると相対的に低いこともあり,地震研究のための調査・観測が遅れている現状である(e.g. 篠原,2013; 関口,2014).そこで,2007年に新潟県中越沖地震発生以降,「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」(e.g. 関口,2014)や「日本海地震・津波調査プロジェクト」(e.g. 篠原,2013)など日本海も対象に入った調査観測研究プロジェクトが立ち上がった.海洋研究開発機構(JAMSTEC)は,これらのプロジェクトに参加し,日本海東縁を中心にマルチチャンネル反射法地震探査と海底地震計による地震探査を実施してきた(e.g. 野・他,2014; 海洋研究開発機構,2015).一連の地震探査研究によって,例えば,1983 年日本海中部地震や1964年新潟地震などの地震活動・短縮構造の分布と地殻構造の関係が見えてきている(No et al., 2014; Sato et al., 2014).また,最近いくつかのグループにより日本海における活断層の再検討も行われており(e.g. 岡村,2013; 日本海における大規模地震に関する調査検討会,2014; 東京大学地震研究所,2015; 新井・他,2015),震源断層の大きさや角度等のパラメータの検討は重要な課題の1つである.加えて,日本海拡大時に形成された正断層が逆断層に転換するテクトニクス(インバージョンテクトニクス)による背斜や逆断層の発達(e.g. Okamura et al., 1995)や1983年日本海中部地震の震源断層が地殻構造の境界域に発達している例(No et al., 2014)を踏まえると,日本海における震源断層の研究の上では,日本海の構造発達史と地殻構造の関係をより進展させる必要がある.

以上に関する研究を進めるためには,得られた地殻構造が空間的にどのように広がっているかが重要である.しかし,我々が得られる地殻構造データは鉛直方向の2次元断面であるため,そのデータのみでは空間的な広がりについて検討することは難しい.空間的な地殻構造の広がりを検討するための大きな手がかりの1つが地形である.地形は微地形から大地形まで様々なスケールで検討することができ,そのスケールに応じた構造発達史やテクトニクスを検討する情報が得られる.したがって,詳細な地形データを得ることができれば,日本海における空間的な地殻構造の分布についての議論の精度が向上する.その結果,日本海における地震活動・活構造と地殻構造の関係をより客観的かつ統合的に研究を推進することができる.例えば,日本海における大規模地震に関する調査検討会(2014)では,日本近海での日本海における各々の海域で最大のマグニチュードが想定される地震モーメントにおいて,現時点で震源断層の深さや角度について,十分に検討できるほどのデータが少ないため,最も重要視されたのが断層の長さであった.さらに,地震探査測線の密度には海域によって差があるため,断層の長さの検討において,地震探査データと同様に重要視されたのが海底地形であった.したがって,海底地形データがより高品質になれば,断層の長さの精度が上がり,震源断層の大きさの議論の進展にもつながる.このことは,結果として,震源断層が破壊された際に生じる津波の評価の高精度化にもつながる.

さらに,日本海沿岸の活構造は海陸を跨いで形成されている例も少なくなく(e.g. 岡村・他,2010; 岡村・他,2011),加えて,日本列島上を横切っている構造線が日本海へ延長する可能性に関する指摘もある(e.g. 柳井・他,2010; 馬場,2010).このような海陸を跨ぐ活構造や構造線に関して詳細に検討する上では,海陸を通して品質の良い地形データは必要不可欠である.

近年,日本海の海底地形データに関する研究事例がいくつか報告されており,例えば,泉・他(2014)は日本海東縁でのマルチビームデータを加えた3秒グリッドDEM(数値標高モデル:Digital Elevation Model)データの作成と海底アナグリフ画像を作成しており,後藤(2014)は財団法人日本水路協会発行「海底地形デジタルデータ」M7000シリーズのデータを用いた海底地形と国土地理院の基盤地図情報のDEMデータを用いたアナグリフを作成している.

JAMSTECでは,日本海で実施されている地震探査時の調査航海を通して,マルチナロービーム音響測深機による海底地形データも同時取得しており,高品質な海底地形データを取得している.本報告では,地震探査時に取得された海底地形データを加えた日本海全域及びその周辺の地形データを用いて,それらを統合したDEMデータを作り,さらにそのデータを用いて赤色立体地図(千葉・鈴木,2004; 千葉・他,2007)を作成した結果について記す.赤色立体地図は方向依存性のない立体感が得られる地図で,微地形と大地形を同時に直感的に判別しやすく,立体的に認識できる画像である(千葉・鈴木,2004; 千葉・他,2007).

2. 使用した地形データ

本報告における地形データの統合は,北緯33度~北緯46度,東経128度~142度の領域で行った(図1).まず,海域の地形データに関しては,以下の4種類を用いた.

Fig.1.

Index map about the range and the classification of data integration.

図1. 本報告における統合したデータの範囲と使用したデータの分類.

まず1つ目は,海上保安庁(JCG)とJAMSTECの船舶で取得された海底地形データである.このデータは,各々の機関の測量船や調査船に搭載されているマルチビーム音響測深機によって取得された海底地形データによって構成されている.そのため,測量船や調査船が航行したエリアのみデータがある.データは3タイプで,海上保安庁に申請して提供されたデータ,JAMSTEC地球情報基盤センターに申請して提供されたデータ(坪井・他,2013),JAMSTECの船舶で実施した日本海での地震探査時に取得されたデータ(e.g. No et al., 2009; 野・他,2014; 海洋研究開発機構,2015)である.これらのデータは,日本の排他的経済水域内に限られ,特に富山湾から北海道西方沖の日本海東縁部に集中している.ただし,大陸棚等の沿岸の浅海域はデータが少ない.データフォーマットはテキストファイルである.以後,本報告では,このデータを「JCG・JAMSTECデータ」として記す.

次に2つ目は,海上保安庁海洋情報部海洋情報課/日本海洋データセンター(JODC)のJ-EGG 500(JODC-Expert Grid data for Geography:日本近海500メッシュ海底地形データ)のデータである(浅田,2000日本海洋データセンター,2015).このデータは,海上保安庁をはじめ各機関から得られた水深測量データを統合して作成され,3つ領域に分けて,各区域を2標準緯線によるランベルト正角円錐図法を使用してメートルスケールの平面座標に変換し,500 mの正方メッシュとして作成されている.データは作成された範囲のすべての海域についてあり,日本海においては北朝鮮沖の海域を除く全体の約3/4をカバーしているが,データの少ない箇所に関しては平滑化したデータ補間を行っている(浅田,2000日本海洋データセンター,2015).データはJODCのWeb siteからダウンロードでき,データフォーマットはテキストファイルである.以後,本報告では,このデータを「J-EGG 500データ」として記す.

3つ目は,一般財団法人日本水路協会発行「海底地形デジタルデータ」M7000シリーズのデータである.このデータは,日本近海を29区分して,海浜・沿岸域から沖合60~70マイルまでをカバーしたもので,海域毎に海岸線,低潮線および等深線をシェープファイルフォーマットとテキストファイルフォーマットでまとめられている(日本水路協会,2015).本報告のデータ統合では,その対象となった領域に該当する海域の等深線データを使用した.この等深線データは,等深線間隔が場所毎に異なっているため,水深データの点分布密度にはばらつきがある.以後,本報告では,このデータを「M7000データ」として記す.

4つ目は,GEBCO(General Bathymetric Chart of the Oceans)のデータである.このデータは,地球全球の海域の30秒グリッドデータで,海図や人工衛星データや各国の機関から提供されたデータから作成されており,地球全球スケールにおける海底地形のDEMデータを代表するものの1つである.今回使用したデータは,GEBCO_2014(20141103)である.このデータは,日本近海においてはGEBCO_08をベースに海上保安庁のマルチビームデータとJ-EGG 500を重ねて,データ境界部は'' buffering zones''を設定して,接するデータセットを元に補間する処理を行っている(General Bathymetric Chart of the Oceans, 2014).以後,本報告では,このデータを「GEBCOデータ」として記す.

陸域の地形データに関しては,以下の2種類を使用した.

1つは,国土地理院が発行している「国土地理院数値地図50 mメッシュ(標高)」である.このデータは,国土地理院が刊行している2万5千分1地形図に描かれている等高線を計測してベクトルデータを作成し,それから計算によって求めたDEMデータであり(国土地理院,2001),日本の領土内はカバーされている.日本の領土内の地形データとしては,国土地理院の基盤地図情報サイトのWeb siteから数値地図(国土基本情報)のDEMデータ(5 m,10 m)も入手ことが可能であるが,本報告では海域のデータと統合することとデータの作成範囲が広域に至るため,50 mメッシュのデータを使用することとした.以後,本報告では,このデータを「国土地理院データ」として記す.

もう1つは,SRTM(Shuttle Radar Topography Mission)のデータである.これは2000年にスペースシャトルのエンデバー号によるCバンドの干渉合成開口レーダーで取得され,作成されたDEMデータである(Farr and Kobrick., 2000).本報告において,日本の領土外の海外の陸域はSRTM-3(3秒メッシュ,約90 m)のデータを使用した.以後,本報告では,このデータを「SRTMデータ」として記す.

3. 地形データの統合処理

本報告では,「2.使用した地形データ」に記した海域4種類と陸域2種類の計6種類の地形データの中で,海域のデータに関しては同じ範囲でデータが重複している部分がある.そこで,海域で使用するデータに関して,各々のデータの品質を考慮して,「JCG・JAMSTECデータ」を最優先で使用することにして,「M7000データ」「J-EGG 500データ」「GEBCOデータ」の順で採用することを基本的な方針として作業を進めた.

まず,最優先に使用する「JCG・JAMSTECデータ」は,高密度のデータである一方,エラーデータが混入しているケースも少なくない.そのため,このエラーの除去が重要である.そこで,本報告では,航空レーザ測量で用いられているデータ処理手法(e.g. 齊藤,2008)を採用して,エラーデータの除去等のデータ処理を行った.航空レーザ測量の分野では,ノイズ除去処理や様々なフィルタリング処理を用いて,大容量かつ高密度なDEMデータの編集・処理のノウハウがある.航空レーザ測量と海底地形調査では,扱っている対象やデータ取得手法に違いはある.しかし,航空レーザ測量における飛行機は,海底地形調査における船舶に対応して考えることもでき,さらに今回扱うデータは複数のタイプが混合しており,各航海のRawデータから検討するにはデータが膨大であるため,大容量かつ高密度なDEMデータの編集・処理のノウハウがある航空レーザ測量の技術を応用して,適用することにした.

まず,エラーの状況を把握するために,「JCG・JAMSTECデータ」をそのまま赤色立体地図化して,エラーの位置や状況を把握した.赤色立体地図化することによって,エラーがより強調されてイメージされるために,エラーの状況を判別しやすい.これにより,同じ場所を交差して航行したデータで段差が生じているケース,船体動揺等によるビームの縁辺部のエラーやそれらに伴う航跡の模様などによって,かえって実際の地形が判読できない状況になっている部分がある(図2).そこで,今回重点的に適用した処理は,航空レーザ測量において樹木・建物除去に用いられる自動フィルタリング処理とその結果を赤色立体地図化して目視確認によって,エラーデータを除去する手動フィルタリング処理である.樹木・建物除去に用いられる自動フィルタリング処理は,例えば明らかに高い突起の点群や逆に明らかに低い点群があった場合の除去に使用した.また,手動フィルタリングは,例えばビームの縁辺部のエラーの除去や浅海域の走行で取得された幅の狭いデータの削除の際に使用した(図2).これらの処理は,航空レーザ測量の処理で広く使用されているTerrasolid社のTerraScanというソフトウェアを用いて行った.このソフトウェアは,緯度経度データを扱えないので,すべてのデータをUTM53N系の座標に変換した後に,座標を1/100に縮小し,全領域を8$\times$7(200 km$\times $200 km)の56ブロックに分割して行った.データ処理後は,WGS84系の緯度経度データに再変換した.

Fig.2.

(a) Example of spike-like noises (white arrows) and errors of edge data of beam (yellow arrows) which were confirmed in "JCG-JAMSTEC data (multi-beam data)". The color pallet is the color arrangement of ridge valley value and sloop in this red relief image map. (b) Example which conducted noise suppression by data processing using the airborne laser scanning survey to (a). (c) Mapping of the difference between (a) and (b). This figure shows the noise data which are suppressed by data processing.

図2. (a)「JCG・JAMSTECデータ」における突起状の点群のノイズ(白矢印)やビームの縁辺部でのエラーによるノイズ(黄矢印)の例.カラーパレットはこの赤色立体地図における尾根谷度と斜面傾斜に関する配色を示す.(b)(a)に対して航空レーザ測量で用いられるデータ処理によってノイズ抑制させた例.(c)(a)と(b)の差を示した図.データ処理によって抑制されたノイズを示す.

以上の処理を適用した「JCG・JAMSTECデータ」の領域以外の部分は,前述のとおり,「M7000データ」「J-EGG 500データ」「GEBCOデータ」の順で採用することを基本的な方針として作業を進めた.ただし,明らかに「JCG・JAMSTECデータ」より「M7000データ」の方が品質の良いデータである場合には,部分的に「M7000データ」を採用した.また,陸域の地形は,前述の通り,日本の領土内は「国土地理院データ」を採用し,日本の領土外は「SRTMデータ」で埋めている.以上を踏まえて,今回の報告において,各々のデータを採用した領域は図1のとおりである.

海域の異なるデータ間の接合においては,水深差が大きい箇所については,お互いのデータ間に空白(バッファ)を設定し,空白部に生成される傾斜の傾きができるだけ小さくなるようにした.バッファの設定は一律に決めずに,データの状況を見て設定した.ただし,「GEBCOデータ」と「J-EGG 500データ」の境界については,段差の小さい接合線を探した後,境界部の点データを削除して,滑らかになるように接合した.

海陸のデータの接合に関しては,標高データの海岸線(最高潮位)から低潮位までの間の領域をすべて0 mとして扱うこととした.なお,今回作成した50 mメッシュのデータで見る限り,低潮位と海岸線の間の幅はほぼ50 m以内に収まっている.

以上のデータ処理を行ったランダムな点群データをグリッドデータ化するにおいては,グリッド間隔を0.0005°(約50 m),0.001°(約100 m),0.002°(約200 m)の3タイプ作成し,空間補間はマルチレベルBスプライン法(Lee et al., 1997)を適用した.

4. 統合処理したデータと赤色立体地図

今回作成したデータと同じ範囲の既存のデータセットにJTOPO30v2(一般財団法人日本水路協会が発行している日本近海30秒グリッド水深データ第二版)がある.これらのデータと今回作成したデータを比較した結果が図35である.今回作成したデータで特に改善された部分の1つは,「JCG・JAMSTECデータ」のデータが多く存在する北海道西部から富山湾にかけての日本海東縁である(図4).日本海東縁には多くの活構造が推定され,日本海においては大きな地震も繰り返し発生しており,今回のデータは海域での震源断層モデルの断層の長さを検討する上,非常に重要である.図4中の黒線が岡村(2013)で推定されている海底活断層であるが,今回の海底地形データを用いることにより,震源断層に関する検討がより高精度化すると期待できる結果となっている.さらに,陸域では「国土地理院データ」を採用しているので,JTOPO30v2や「GEBCOデータ」と比較すると,日本の領土内の陸上地形は明らかに詳細なデータとなっている.海陸を通じて品質の良いデータとなるので,日本海沿岸の活構造が海陸を跨いで形成されている日本海沿岸の活構造や日本列島上を横切っている構造線が日本海へ延長しているか否かの検討する上でも有用である.例えば,富山市には呉羽山断層という北東-南西方向に走向を持つ断層があるが,この断層が海域へ延長しているとの指摘がある(竹内・他,2011).その指摘に対応する地形も明瞭にイメージされている(図5).

Fig.3.

Color shaded relief map which is created from DEM data of the whole area of this report (left), and color shaded relief map by JTOPO30v2 data of same range (right).

図3. 本報告で扱った全領域のDEMデータから作成した段彩陰影図(左図)と同じ範囲のJTOPO30v2による段彩陰影図(右図).

Fig.4.

Color shaded relief map which is created from DEM data in the eastern margin of the Japan Sea (left), and color shaded relief map by JTOPO30v2 data of same range (right). Black lines show active faults by Okamura (2013).

図4. 日本海東縁における本報告で得られたDEMデータから作成した段彩陰影図(左図)とJTOPO30v2(右図)との比較.黒線が岡村(2013)で報告されている海底活断層.

Fig.5.

Color shaded relief map which is created from DEM data and JTOPO30v2 data. Upper figures show in and around the southern Toyama trough, low figures show in and around the Toyama Bay. Black arrows are the Kurehayama faults (Takeuchi et al., 2011).

図5. 富山トラフ南部(上図)と富山湾(下図)における本報告で得られたDEMデータから作成した段彩陰影図(左上図・左下図)とJTOPO30v2(右上図・右下図)との比較.矢印が呉羽山断層帯(竹内・他,2011).

また,今回は,得られたグリッドデータをもとに,赤色立体地図を作製した(図611).赤色立体地図は,傾斜量を赤の彩度に,尾根谷度を明度に比例させることにより,急傾斜部ほど赤く,尾根ほど明るく,谷ほど暗くなるように調整した疑似カラー立体画像である(千葉・鈴木,2004; 千葉・他,2007).なお,尾根谷度とは,地形の凹凸について開度という概念(横山・他,1999)を元に算出した値で,尾根部では大きい値をとり,谷部では小さい値をとる.したがって,赤色立体地図は海底の水深値についての情報は表現されないが,水深値を段彩図として表現した地形図を透過させて,赤色立体地図に重ねることにより,水深値の情報も加味した図の作成もできる(図7).また,赤色立体地図の地形表現法を海底地形に対して適用することに関して,例えば新妻(2007)は,平坦な海洋底上の小さな起伏も強調して表現されるため,側方に連続する起伏を容易についてでき,中央海嶺や断裂帯の図化に最適な図法であると紹介している.今回の得られたデータもその指摘に沿っており,例えば佐渡海嶺をはじめとする日本海東縁に多く推定されている短縮変形した構造によって形成された地形,最上深海長谷や富山深海長谷に関連する地形(図911),渡島大島や久六島のような火山地形に関連する地形(図810)などがきれいにイメージされている.特に,久六島周辺(図910)は,1741年に山体崩壊によって津波を引き起こした渡島大島(e.g. Katsui and Yamamoto, 1981; Satake, 2007)や東北日本背弧側において代表的な成層火山である鳥海山(e.g. 林・山元,2008)と比べても規模が大きい地形を形成している.先行研究では久六島周辺において地震時に伴う海底の斜面崩壊に伴うタービダイトが広く堆積していると指摘されているが(中嶋,1993; 中嶋・金井,1995),今回の結果からも久六島西方沖には斜面崩壊によって形成したと推定される地形が認められる(図10).さらに,久六島西方沖では日本海中部地震の震源断層と関連した背斜の形成が不明瞭となっており,比較的平坦な地形が広がっている.この平坦な地形の部分から,久六島の斜面崩壊に関連した地形の一部は日本海中部地震の震源断層に関連した背斜の領域よりさらに西方へ広がっているように見える(図10).

Fig.6.

Red relief image map which is created from DEM data of the whole area of this report. The color pallet is the color arrangement of ridge valley value and sloop in this red relief image map. JB: Japan basin; YB: Yamato basin; TB: Tsushima basin; YR: Yamato ridge; SR: Sado ridge; TT: Toyama trough.

図6. 本報告で得られたDEMデータから作成した赤色立体地図.カラーパレットはこの赤色立体地図における尾根谷度と斜面傾斜に関する配色を示す.JB:日本海盆,YB:大和海盆,TB:対馬海盆,YR:大和堆,SR:佐渡海嶺, TT:富山トラフ.

Fig.7.

Topographical map which was overlapped the red relief image map of Fig. 6 and the semitransparent altitude tints map. JB: Japan basin; YB: Yamato basin; TB: Tsushima basin; YR: Yamato ridge; SR: Sado ridge; TT: Toyama trough.

図7. 図6の赤色立体地図と透過させた段彩図を重ねた図.JB:日本海盆,YB:大和海盆,TB:対馬海盆,YR:大和堆,SR:佐渡海嶺,TT:富山トラフ.

Fig.8.

Red relief image map which is enlarged the southwest off Hokkaido of Fig. 6. The color pallet is the color arrangement of ridge valley value and sloop in this red relief image map. Ok: Okushiri Island; OsO: Oshima-Oshima Island; OsK: Oshima-Kojima Island; OB: Shiribeshi trough; OB: Okushiri basin.

図8. 図6について北海道南西沖にかけて拡大した赤色立体地図.カラーパレットはこの赤色立体地図における尾根谷度と斜面傾斜に関する配色を示す.Ok:奥尻島, OsO:渡島大島,OsK:渡島小島,ST:後志トラフ,OB:奥尻海盆.

Fig.9.

Red relief image map which is enlarged from off Niigata to off Nisih-tsugaru of Fig. 6. The color pallet is the color arrangement of ridge valley value and sloop in this red relief image map. K: Kyuroku Island; M: Mogami Deep Seachannel; T: Tobi Island; A: Awa Island; S: Sado Island; C: Chokai-san; MT: Magami Trough; NB: Nishi-tsugaru Basin; TB: Tobishima Basin.

図9. 図6について新潟沖~西津軽沖にかけて拡大した赤色立体地図.カラーパレットはこの赤色立体地図における尾根谷度と斜面傾斜に関する配色を示す.K:久六島,M:最上深海長谷,T:飛島,A:粟島,S:佐渡島,C:鳥海山, MT:最上トラフ,NB: 西津軽海盆,TB:飛島海盆.

Fig.10.

Red relief image map which is enlarged the Kyuroku Island of Fig. 6. The color pallet is the color arrangement of ridge valley value and sloop in this red relief image map. K: Kyuroku Island; M: Mogami Deep Seachannel; NB: Nishi-tsugaru Basin; F: Anticline related to the source fault of the 1983 Nihon-kai chubu earthquake.

図10. 図6について久六島周辺を拡大した赤色立体地図.カラーパレットはこの赤色立体地図における尾根谷度と斜面傾斜に関する配色を示す.K:久六島,M:最上深海長谷,NB:西津軽海盆,F:1983年日本海中部地震の震源断層に関連した背斜.

Fig.11.

Red relief image map which is enlarged the Toyama Trough of Fig. 6. The color pallet is the color arrangement of ridge valley value and sloop in this red relief image map. TC: Toyama Seachannel; S: Sado Island; JK: Joetsu Knoll; SB: Sado Basin; MT: Mogami Trough; HS: Hakusan-se.

図11. 図6について富山トラフ周辺を拡大した赤色立体地図.カラーパレットはこの赤色立体地図における尾根谷度と斜面傾斜に関する配色を示す.TC:富山深海長谷,S:佐渡島,JK:上越海丘; SB:佐渡海盆,MT:最上トラフ,HS: 白山瀬.

一方,赤色立体地図は,使用している色の数が多くないので,地震探査の測線,活断層の分布,震源分布や重力異常など他のデータを重ねて表示する時も便利である.図12は,富山トラフにおいて赤色立体地図とマルチチャンネル反射法地震探査データ(No et al., 2009)を3次元的に表示させて,赤色立体地図に震源分布(気象庁,2015)や活断層分布(岡村,2013)を重ねた例である.地震探査断面で確認できる背斜や逆断層の構造が赤色立体地図に現れている地形との関係をより視覚的に押さえられて,どのように空間的につながっているかも判別しやすくなり,震源分布や過去に推定されている活断層分布も重ねることで,より客観的かつ統合的に研究を進めることができる.

Fig.12.

Example of 3D viewer which displays Red relief image map and seismic image (No et al., 2009) in the Toyama Trough using Schlumberger's Petrel. White points show epicenter distribution (JMA, 2015). Light blue lines are active faults (Okamura, 2013). JK: Joetsu Knoll; TC: Toyama Seachannel; SB: Sado Basin.

図12. 富山トラフにおいて,シュルンベルジェ社製Petrelで赤色立体地図とマルチチャンネル反射法地震探査データ(No et al., 2009)を3次元的に表示させた例.赤色立体地図に震央分布[白点](気象庁,2015)や活断層分布[水色線](岡村,2013)を重ねた.JK:上越海丘,TC:富山深海長谷,SB:佐渡海盆.

5. 今後の課題

「日本海地震・津波調査プロジェクト」では,JAMSTECが北海道西方沖や西南日本の日本海において,地震探査を実施する計画である(篠原,2013; 海洋研究開発機構,2015).新たに実施される地震探査時は,これまでと同様に海底地形データも同時取得される予定である.これらのデータを加えることによって,北海道西方沖や西南日本の日本海の海底地形もより高品質なデータへ改訂していく.さらに,得られたデータによる微地形等の個別の地形に関する詳細な検討を行うことによって,データ処理手法についても引き続き検討していきたい.また,DEMデータなどを用いた地形表現法は,赤色立体地図以外にも多くの手法が検討・開発されており,用途に応じて適用されているので(e.g. 日本測量調査技術協会,2013),今後も地形表現法に関する技術動向を注視し,検討していきたい.

謝辞

本報告は,文部科学省の地震防災研究戦略プロジェクト「日本海地震・津波調査プロジェクト」の受託研究の一環として実施しました.査読者の木戸ゆかり博士,佐藤孝子博士,および編集を担当された海宝由佳博士には有益な助言をいただき,原稿を改善することができました.マルチビームによる海底地形データの一部は,海上保安庁海洋情報部と海洋研究開発機構地球情報基盤センターから提供をされたデータを用いました.海底地形データの取得を行った海洋研究開発機構ならびに海上保安庁などの各船舶の関係者の皆様の尽力に深謝申し上げます.「赤色立体地図」はアジア航測株式会社の特許技術(特許第3670274号)です.本報告の一部の地図の作図にはGMT(Wessel and Smith, 1991)を用いました.

参考文献
 
© Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology
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