JAMSTEC Report of Research and Development
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Report
Radiolarians from dredged sedimentary rocks from off southeast Boso Peninsula
Kiichiro KawamuraIsao MotoyamaKeita Yoshimoto
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2018 Volume 27 Pages 77-86

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Abstract

房総半島南東沖の堆積岩の放散虫化石年代を報告する.KT-12-35次航海では,ドレッジを使用して,勝浦海底谷近傍の急斜面(D03とD04地点)から岩石試料が採取された.これらのサンプルから抽出された放散虫化石群集に基づいて,D03地点の試料(安房堆南東斜面)から8.84~7.74 Ma(後期中新世中期),D04地点(勝浦海底谷北側斜面)から4.5~4.3 Ma(鮮新世中期)と11.8~9.0 Ma(後期中新世前期)の2種類の年代が得られた.これらは,房総半島における三浦層群天津層相当層(前弧海盆堆積体の天津層,付加体の西岬層,海溝斜面海盆堆積体の南房総層群)の年代と符号する.

1. はじめに

海底における地質構造の連続性は,活断層などを評価する上で重要な課題であり,そのためには,地震探査データや地質体の物性や年代に代表される陸域・海域情報の統括が必要である(阿部・青柳,2006など).しかし,海域は,陸域よりも地質調査に制約が多く,海域での地質年代や物性データの取得は容易ではない.

本論では,海底地質探査を目的としたKT-12-35研究航海によって房総半島南東沖でドレッジによって採取された海底岩石の放散虫化石による年代分析の結果を報告する.この地域は,陸上に露出している地質体が,地震探査などにより,海域にも延長していることが示されており(棚橋・本座,1983),陸域・海域地質の比較が可能であると予想される.また,陸域・海域地質を比較することは,この地域での複雑なテクトニクスを理解する上で重要と考えられる.

2. 調査海域の地形・地質

この地域では,フィリピン海プレートが相模トラフで北西方向に2.5cm/yrで日本列島(アムールプレート)に沈み込むと共に,太平洋プレートが日本海溝で西北西方向に6.2cm/yrで沈み込んでいる(Fig.1A;Seno et al., 1989).これら3つのプレートの会合する点として,世界で唯一の海溝-海溝-海溝型の房総会合三重点が知られている(Ogawa et al., 2008など)(Fig.1A).その三重点には,ほぼ東南東-西北西に伸びる安房海底谷,房総海底谷,勝浦海底谷,片貝海底谷から堆積物が供給されており,茂木海底扇状地が形成されている(Soh et al., 1988)(Fig.1B).房総海底谷と安房海底谷の間の幅30km程度の窪地は,相模トラフと呼ばれており,日本列島とフィリピン海プレートとの境界に相当する(杉山,2005).現在,フィリピン海プレートの運動方向は,ほぼ海底谷の伸長方向であり,海底谷では右横ずれの断層運動をしているとされる(Nakamura et al., 1987)(Fig.1A and B).

Fig.1.

Location of study area and sampling sites. A: Tectonic setting of the study area. The black arrows indicate directions of the plate motion. The names of the trenches in this figure are Japan Trench (Japan T.), Izu-Bonin Trench (Izu-Bonin T.), Nankai Trough (Nankai T.) and Ryukyu Trench (Ryukyu T.). In the Sagami Trough, the Philippine Sea plate is subducting to the northwest at a rate of about 2.5 cm/yr (Seno et al., 1989). The subduction is generally parallel to the axis of the Sagami Trough. B: Bathymetric map of the study area. The dotted areas indicate deep-sea basins and fan as shown by Ogawa et al. (1989). Solid lines of C-D and G-H mark the location of seismic survey lines shown in Fig.2. C: Detailed bathymetry at the sites D03 and D04 where rock samples collected using a dredge.

図1. 研究地域とサンプリングサイトの位置.A:研究地域のテクトニクスの設定.黒い矢印はプレートの動きの方向を示す.この図に示される海溝は,日本海溝(Japan T.),伊豆・小笠原海溝(Izu-Bonin T.),南海トラフ(Nankai T.),琉球海溝(Ryukyu T.)である. 相模トラフにおいてフィリピン海プレートは,約2.5cm / yrの速度で北西に沈み込む(Seno et al., 1989). 沈み込みは相模トラフ軸に,ほぼ平行である.B:調査地域の海底地形.点線の領域は,Ogawa et al.(1989)によって示される海盆と海底扇状地である. C-DとG-Hの実線は,図2の地震探査線の位置を示す.C:ドレッジを用いて岩石試料を採取した地点D03とD04での詳細な海底地形.

房総半島南東沖の海底の地質は,2本の地震探査測線(測線G-Hと測線C-D)に沿って示される(Fig.1B and C;棚橋・本座,1983).その地質は,下総層群に相当するA層,上総層群に相当するB層,安房層群(三浦層群)に相当するC層からなる.それらは,不整合で重なっており,高角な断層によって切られている(Fig.2).棚橋・本座(1983)により,ドレッジなどで採取された海底岩石試料のうち19地点について鮮新世~完新世を示す石灰質ナンノ化石が報告されている(Nishida, 1984).房総海底崖(Fig.1C)から中新世後期~更新世を示す有孔虫化石や石灰質ナンノ化石,珪藻化石が報告されており(藤岡ほか,1984),杉山(2005)は,そこに三浦層群上部~上総層群上部の岩石が露出するとしている.

Fig.2.

Seismic profiles of Lines C-D and G-H (Tanahashi and Honza, 1983) and sampling locations. Layers A, B and C correspond to the Shimousa Group, the Kazusa Group and the Awa Group, respectively.

図2. C-D線とG-H線の地震探査断面(棚橋・本座,1983)と試料採取位置.A,B,C layerは,それぞれ下総層群,上総層群,安房層群に対応する.

房総半島南部における陸域地質体は,上部新生界の深海に堆積した地層からなる(川上・宍倉,2006).その地層は,この地域で最も古い古第三系の嶺岡層群が分布する嶺岡構造帯を境にして,北側と南側に分かれる.北側には,下位から前弧海盆堆積体の三浦層群(安房層群),上総層群,下総層群が分布し,それらは数km規模の褶曲構造をなす厚い海成層から構成される(中嶋・渡辺,2005).一方,南側には,下位から保田層群,西岬層,南房総層群,千倉層群,豊房層群が分布し,それらは波長数十mから数百mの小規模の褶曲構造を示す海成層から構成される(川上・宍倉,2006).保田層群と西岬層は付加体,南房総層群は海溝斜面堆積体とされ,西岬層と南房総層群は三浦層群天津層相当層とされる(Yamamoto and Kawakami, 2005; Yamamoto et al., 2005; 川上・宍倉,2006).

3. 研究試料

試料は,以下に記すD03,D04の地点で,2012年12月23日~27日の学術研究船「淡青丸」によるKT-12-35研究航海によって採取された(Fig.1C).この研究航海は,相模トラフで繰り返し生じている巨大地震の発生メカニズムを調べる目的で,ドレッジ及びピストンコアラーによる試料採取,地殻熱流量測定が行われた.特に,ドレッジによる海底の岩石試料採取は,マルチチャンネル地震探査によって示される地質構造と房総半島に露出する地質との関係を明らかにする上で重要な航海目的であった.

ドレッジによる海底岩石の採取にはORI-TI型チェインバッグドレッジが用いられた(石井ほか,2013).採取地点は,勝浦市八幡埼から東南東へ約37kmの勝浦海底谷上流部に位置する(Fig.1C).D03は勝浦海底谷から南に約5kmの急崖であり,ドレッジ開始点は「北緯34°52.022'N,東経140°34.003'E,水深1195m」であり,ドレッジ終点は「北緯34°52.518'N,東経140°33.493'E,水深710m」であった(Fig.1C).また,D04は海底谷の左岸側の急崖であり,ドレッジ開始点は,「北緯34°54.988'N,東経140°39.095'E,水深1471m」であり,ドレッジ終点は「北緯34°55.428'N,東経140°39.185'E,水深1007m」であった(Fig.1C).

地点D03は,G-H測線で最も傾斜の急な急崖に位置し,海底面に水平で明瞭な反射面で特徴づけられるC層が露出する場にある(Fig.2).一方,地点D04は,C-D測線で両岸が急崖の勝浦海底谷の北側の崖に位置し,ここでは反射面が不明瞭なC層が露出している(Fig.2).

採取された試料は,地点D03では約50kg,地点D04では約100kgであった.堆積岩試料51個(地点D03で42個,地点D04で9個)をみると,その岩種の内訳は,礫岩が地点D03,地点D04で6個ずつ,砂岩が地点D03で3個,シルト岩が地点D03で33個,地点D04で3個であり,多くがシルト岩であった.礫岩は,泥岩の礫とシルトの基質からなり,それらが礫岩の半数以上を占めた(Fig.3A).砂岩は,採取された全てが粗粒砂岩であり,同時に採取された礫岩やシルト岩中にも所々砂粒が観察された(Fig.3B).シルト岩には,幅が1mm程度の分岐する黒色脈を有するものが17個見られた(Fig.3C).

Fig.3.

Representative sample photographs. A: Conglomerate (collected from the site D04). The matrix is composed of coarse sand, whereas the gravels consist of mud crusts. B: Coarse sandstone (collected from the site D03). C: Siltstone (collected from the site D03) with black-colored veins of about 2 mm in width.

図3. 代表的なサンプル写真.A:礫岩(地点D04から採取).基質は粗い砂で,礫は泥クラストである.B:粗粒砂岩(地点D03から採取).C:シルト岩であり,幅約2mmの黒い細脈が見られる(地点D03から採取).

放散虫化石分析には,地点D3からシルト岩1個(以下KT12-35-D03-R0),地点D4からシルト岩2個(以下KT12-35-D04-R1およびKT12-35-D04-R2)を用いた.

4. 研究手法

本研究では,試料が帰属する地層を調べるために,放散虫化石年代を検討した.放散虫分析用の試料処理は,八尾・本山(2000)による固結泥質岩の処理法に準じて,硫酸ナトリウム法,ナフサ法,過酸化水素法を併用した.すなわち,試料はまずハンマーを用いて1cm径程度まで砕いて,乾燥させて,これに硫酸ナトリウム(Na2SO4)の飽和水溶液を注いで浸透させた.室温で放置して結晶が十分に成長した後に,熱湯を加えて煮沸して結晶を溶かし,ふるいを用いて水洗した.ふるいに残った試料を乾燥させ,これにナフサの代用として灯油を注いで浸潤させ,熱湯を加えて煮沸し,泥化させた後,ふるいで水洗した.ふるいに残った試料は乾燥させ,これに10%濃度の過酸化水素(H2O2)注いで反応させた.その後ふるいを用いて水洗してから乾燥させ,これをプレパラート封入用試料とした.以上の過程で,水洗には孔径63μmのふるいを用いた.プレパラートの作成は,八尾・本山(2000)の乾燥散布法によった.観察と写真撮影には透過型の光学生物顕微鏡を用い,100~400倍で検鏡し,種の産出の有無を記録した.なお,試料の定量は行わなかったが,1試料につき乾燥重量で概ね100g程度を処理した.

房総半島の中新統からは,低緯度地域に特徴的な放散虫種と高緯度地域に特徴的な放散虫種の両者の産出が知られている(本山・高橋,1997川上,2001澤田ほか,2009).そのため,層準によって低緯度化石帯の認定が可能な場合と高緯度化石帯の認定が可能な場合,両方が可能な場合がある.低緯度放散虫種に基づく化石帯や種の生存期間の数値年代については,Kamikuri et al.(2009)に準拠する.北太平洋中高緯度放散虫種に基づく化石帯区分と生層準の数値年代については,Kamikuri et al.(2007)のデータをLourens et al.(2004)の地質年代尺度(ATNTS2004)に換算した本山(2014)に準拠する.Kamikuri et al.(2009)もATNTS2004に準じているため,ここでは両者の数値年代を同列に論じることができる.

なお,南房総周辺海域の海底堆積岩試料の年代決定には,これまで石灰質ナンノ化石(Nishida, 1984藤岡ほか,1984服部・田中,1991蟹江ほか,1991服部ほか,1995森ほか,2015),有孔虫化石(柴・花田,1979藤岡ほか,1984)および珪藻化石(藤岡ほか,1984)が用いられている.上記のサンプル処理法は有孔虫化石と共通であるため,有孔虫化石が含まれていないかどうか検鏡したが,3試料とも産出は認められなかった.

5. 結果

5.1 放散虫化石年代

1試料当たり数100個体程度の放散虫が産出した.保存状態は普通程度で,顕著な溶解は認められなかったが,破損している個体は少なくなかった.産出した放散虫化石種のリストをTable1に,主な種の写真をFig.4に示す.

Table 1. Radiolarian occurrence chart. Samples KT12-35-D3-R0, KT12-35-D4-R1 and KT12-35-D4-R2 are siltstones. 表1. 放散虫の出現チャート.サンプルKT12-35-D3-R0,KT12-35-D4-R1およびKT12-35-D4-R2は,シルト岩である.
Sample (KT12-35) KT12-35-D3-R0 KT12-35-D4-R1 KT12-35-D4-R2
Rhizosphaera mediana (Nigrini) +
Haliometta miocenica (Campbell and Clark) +
Cannartus sp. D of Sakai (1980) + +
Diarus hughesi (Campbell and Clark) + +
Diartus petterssoni (Riedel and Sanfilippo) +
Didymocyrtis laticonus (Riedel) +
Heliodiscus spp. + +
Larcospira quadrangula Haeckel +
Larcospira moschkovskii Kruglikova +
Sphaeropyle robusta Kling +
Amphisphaera neptunus Haeckel +
Stylatractus universus Hays +
Stylodictya multispina Haeckel +
Tetrapyle octacantha Muller group +
Acrosphaera spinosa (Haeckel) + +
Collosphaera reynoldi Kamikuri + +
Anthocyrtidium spp. + +
Bathropyramis sp. + +
Botryostrobus auritus/australis Ehrenberg +
Cornutella profunda Ehrenberg + + +
Cycladophora bicornis Popofsky +
Cycladophora cornutoides Kling +
Cycladophora funakawai Kamikuri +
Cyrtocapsella cornuta (Haeckel) +
Cyrtocapsella japonica (Nakaseko) + +
Cyrtocapsella tetrapera Haeckel + +
Dictyophimus bullatus Morley and Nigrini +
Eucyrtidium acuminatum (Ehrenberg) + +
Eucyrtidium calvertense Martin +
Eucyrtidium hexacolum (Haeckel) + +
Lamprocyclas maritalis Haeckel +
Lamprocyclas spp. +
Lamprocyrtis spp. + +
Lithopera bacca Ehrenberg + +
Lychnocanoma magnacornuta Sakai +
Phormostichoartus corbula Hrting +
Pterocanium praetextum Ehrenberg +
Spirocyrtis subscalaris Nigrini +
Stichocorys delmontensis (Campbell and Clark) + + +
Stichocorys peregrina (Riedel) + + +
Fig.4.

Photomicrographs of radiolarians. 1, 2, Cannartus sp. D of Sakai (1980): 1, KT12-35-D4-R2; 2, KT12-35-D3-R0. 3, 4, Diartus hughesi (Campbell and Clark): 3, KT12-35-D3-R0; 4, KT12-35-D4-R2. 5, 6, Diartus petterssoni (Riedel and Sanflippo): 5, KT12-35-D4-R2; 6, KT12-35-D4-R2. 7, Didymocyrtis laticonus (Riedel): KT12-35-D4-R2. 8, 9, Dictyophimus bullatus Morley and Nigrini: 8, KT12-35-D4-R1; 9, KT12-35-D4-R1. 10, Stichocorys peregrina (Riedel): KT12-35-D3-R0. 11, Stichocorys delmontensis (Campbell and Clark): KT12-35-D4-R1. 12, Cyrtocapsella japonica (Nakaseko): KT12-35-D3-R0. 13, 14, Eucyrtidium acuminatum (Ehrenberg): 13, KT12-35-D4-R1; 14, KT12-35-D4-R1. 15, Eucyrtidium calvertense Martin: KT12-35-D4-R1. 16, 17, Eucyrtidium hexacolum (Haeckel): 16, KT12-35-D4-R1; 17, KT12-35-D4-R1. 18, 19, Eucyrtidium spp.: 18, KT12-35-D4-1; 19, KT12-35-D4-R1. 20, Phormostichoartus corbula Harting: KT12-35-D4-R2. 21, Lychnocanoma magnacornuta Sakai: KT12-35-D4-R2. 22, Anthocyrtidium sp.: KT12-35-D4-R2. 23, Lamprocyrtis sp.: KT12-35-D4-R1. 24, Lamprocyclas maritalis Haeckel: KT12-35-D4-R1. 25, Lamprocyclas sp.: KT12-35-D4-R2.

図4. 放散虫の顕微鏡写真.

試料KT12-35-D03-R0から産出した放散虫群集は,Cannartus sp. D of Sakai(1980)Diartus hughesiStichocorys delmontensisおよびStichocorys peregrinaを特徴種として含む.Diartus hughesiは産出するがDiartus petterssoniは産出しないことにより,この試料は低緯度化石帯のRN7帯(Didymocyrtis antepenultima帯:8.84-7.74Ma)に対比される.S. delmontensisS. peregrinaの産出量はほぼ等量であった.

10Maに消滅するCyrtocapsella japonicaが少量産出したが,これは再堆積によるものと考えられる.房総半島の陸上セクションの同時代の天津層においても,C. japonicaの再堆積が認められていることから(澤田ほか,2009),C. japonicaの再堆積は房総地域の上部中新統では,一般的なことなのかもしれない.

試料KT12-35-D04-R1からは,特徴種としてDictyophimus bullatusS. delmontensisS. peregrinaが産出した.この試料は,D. bullatusの産出により,北太平洋化石帯のD. bullatus帯(4.5-4.3Ma)に対比される.D. bullatus帯の上限(D. bullatusの消滅)の年代は,三陸沖では4.3Ma,カムチャッカ沖では3.9Maであることが知られている.ここでは,地理的に近い三陸沖で求められた年代値を用いる.S. peregrinaは普通に産出するが,S. delmontensisはごくまれにしか産出しないことから,この試料はS. delmontensisからS. peregrinaへの進化的移行(6.89Ma)よりも上位に,またS. peregrinaの消滅(2.74Ma)よりも下位に相当すると考えられ,このことはD. bullatusの産出と矛盾しない.

試料KT12-35-D04-R2からは,特徴種として,Cannartus sp. D of Sakai(1980)D. hughesiD. petterssoniDidymocyrtis laticonusCycladophora funakawaiC. japonicaLithopera baccaLychnocanoma magnacornutaS. delmontensisおよびS. peregrinaの産出が認められた.D. petterssoniが産出してD. hughesiがわずかしか産出しないため,低緯度化石帯のRN6帯(D. petterssoni帯:12.02-8.84Ma)に対比される.一方,L. magnacornutaの産出により,北太平洋化石帯のL. magnacornuta帯(11.8-9.0Ma)に対比される.C. japonicaの共産によりL. magnacornuta帯の下部に限定することも可能であるが,上述のようにC. japonicaが再堆積しやすいとすると,L. magnacornuta帯の上部である可能性も排除しきれない.

以上をまとめると,試料KT12-35-D03-R0はRN7帯に対比され,堆積年代は8.84~7.74Maと推定される.試料KT12-35-D04-R1はD. bullatus帯に対比され,堆積年代は4.5~4.3Maと推定される.試料KT12-35-D04-R2はL. magnacornuta帯に対比され,堆積年代は11.8~9.0Maと推定される.

D03地点は,安房堆(海上保安庁,1994)あるいは勝浦海腹(藤岡ほか,1984)(Fig.1B and C)と呼ばれる平坦な頂部をもつ長径30kmほどの地形的な高まりの南東斜面に位置し,D04地点はその北東方向の勝浦海底谷の北側斜面に位置する.これら2地点の近傍から,GH80-2航海によってそれぞれドレッジ試料D381とD383-1が採取されており(棚橋・本座,1983),いずれも中期鮮新世を示す石灰質ナンノ化石の産出に基づいて陸上の三浦層群安野層に対比されている(Nishida, 1984).これは本研究のKT12-35-D04-R1の放散虫年代と一致する.KT12-35-D03-R0とKT12-35-D04-R2の放散虫年代は,安房堆と勝浦海底谷に上部中新統が存在することを示す最初の微化石データである.これらの年代に相当する房総半島の地質体は,三浦層群天津層およびその相当層(西岬層,南房総層群)である.

今回採取された岩石が上記の地質体のどれに対応するかについては,この調査だけでは決定することが難しいが,以下の注目すべき点がある.まず,それはこのドレッジ箇所の陸側延長が前弧海盆であり,黒滝不整合(三浦層群と上総層群の境界)が陸上に分布している点である.次に,今回の試料採取地点は,Fig.2に示されるように地震波断面で緩傾斜の三浦層群(安房層群)が認められる点である.以上の地質構造・年代を考慮すると,今回の岩石試料は,前弧海盆の天津層や安野層に対応する層準に近い場所から採取されたと推測される.今後,さらなる調査によって,陸上地質と海底地質との対応関係についてより詳細に明らかになるだろう.

6. まとめ

1)放散虫化石年代の結果は, D03地点の試料(安房堆南東斜面)からは8.84~7.74Ma(後期中新世中期),D04地点(勝浦海底谷北側斜面)からは4.5~4.3Ma(鮮新世中期)と11.8~9.0Ma(後期中新世前期)の2種類の年代が得られた.これらの年代は三浦層群天津層に相当するが,それぞれが天津層,西岬層,南房総層群のうちのいずれの地質体と対比されるのかについては今後の課題である.

2)南房総周辺海域の海底堆積岩試料の年代決定には,これまで石灰質ナンノ化石,有孔虫化石および珪藻化石が用いられてきたが,これらに加えて放散虫化石もこの海域の海底地質の理解に有用であることが本研究によって示された.

謝辞

本研究を進めるにあたり,山口大学大学院創成科学研究科地球科学分野の宮田雄一郎教授には,研究地域の貴重な情報を提供していただいた.また,川村研究室の方々には多くのご指導,議論をしていただいた.本論を作成するにあたり,編集委員である廣瀬丈洋博士,査読者である池原研博士及び匿名査読者の方々には,的確なご指摘をいただいた.以上の方々に心より御礼申し上げる.

参考文献
 
© Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology
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