JAMSTEC Report of Research and Development
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Original Paper
Static penetration test on deep-sea shark skins - reports on needle types and penetration forces for developing an autonomous in situ biopsy equipment
Shinji TsuchidaMasaru KawatoShinpei GotohYoshimi TakahashiAyaka KasaiKatsunori FujikuraYoshihiro Fujiwara
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2019 Volume 28 Pages 35-42

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Abstract

陸上や浅海の生態系では,トップ・プレデター(頂点捕食者)が捕食を通じて生態系内の生物量や多様性の維持に重要な役割を果たしていることが知られており,これをトップ・ダウン・コントロールと呼ぶ.しかしながら,深海においては,サメ類などの大型捕食魚類の栄養段階が高く,トップ・プレデター候補であると考えられているものの,情報が乏しくそれらの役割についてもほとんど理解されていない.また,一部には長寿命であるものや成熟サイズに至るまでに長期間を要することが知られている.これまで 多くの深海性サメ類の研究ではその脆弱性を考慮することなく,深海トロール調査など致死的な手法を用いて試料採集が行われており,非致死的な研究手法の開発が急務である.そこで,非致死的にわずかな軟組織を採取する自動現場バイオプシー装置の開発を行い,生態系に与える負荷を必要最低限にして,調査を進めることを検討している.サメ類の中には,硬い表皮をもつヨロイザメやユメザメなどが知られており,このような魚類からも容易に試料を採取するためには,サメ類の表皮を効率よく貫通するための針の形状やそのときの貫通力を明らかにする必要がある.そこでヨロイザメ,ユメザメ,サガミザメの3種計11個体用いて,様々な針先の形状(円錐型,ベベル型,三角錐型),針先角度(20度,30度,40度),針径(6mmおよび8mm)の針を使った表皮の刺突性評価試験を実施した.その結果,サメ類ではサガミザメを用いた場合がもっとも貫通力が小さく,針先が三角錐型,針先角度30度の場合で22.1Nであった.ユメザメとヨロイザメでもっとも貫通力が小さかったのは,どちらも針先が三角錐型,針先角度20度の場合で,それぞれ65.3N,95.3Nであった.もっとも貫通力が大きかったヨロイザメの表皮は,サガミザメの3.6~6.0倍,マサバの55.3倍となった.自動現場バイオプシー装置の開発にあたり,針先を三角錐型,針先角度20度もしくは30度とし,95.3N以上の力で押し込む射出機構が必要と考察した.

1. はじめに

トップ・プレデター(頂点捕食者)は生態系内の生物量や多様性を一定に保つ役割を担うことが知られている(Frank, 2008).例えば,イエローストン国立公園では,トップ・プレデターであるタイリクオオカミCanis lupusが人や家畜などに被害を与えるため駆逐されてしまった結果,タイリクオオカミに被食されていたアメリカアカシカCervus canadensisが大増殖し,その食害で森林生態系が崩壊した.そのため,1995~96年にタイリクオオカミを他地域から導入したところ,アメリカアカシカの個体数が減少し,再び植物が生い茂り,タイリクオオカミを駆除する前の生態系に回復しつつある(Ripple and Beschta, 2003, 2007).このように,トップ・プレデターが下位の栄養段階にある生物を捕食することにより,生態系の機能と構造を維持する作用はトップ・ダウン・コントロールと呼ばれる(McLaren and Peterson, 1994).トップ・ダウン・コントロールは浅海でも知られており,ヒトデ類やラッコ,シャチなどがトップ・プレデターの役割を担っている(Estes et al., 1998; Estes et al., 2011; Steneck and Sala, 2005).一方,深海域ではトップ・ダウン・コントロールについてはわずかな知見しか得られていないにも関わらず(Tecchio et al., 2013),トロール漁業などの平均操業水深は年間60mという速度で深場へ向かっており(Watson and Morato, 2013),また,深海域で漁獲対象となる魚種は栄養段階の上位に位置するものが多く,すでに一部ではその資源が枯渇もしくは絶滅が危惧されているものとなっている(Navarro et al., 2014; Koslow, et al., 2000).

そこで,我々は深海におけるトップ・プレデターはどのような生物種なのか,またそれらが生態系内でどのような役割を担っているのかを明らかにすべく研究を行っている.これまでに,深海域のトップ・プレデター候補として,深海性のサメ類などがあげられている(Navarro et al, 2014; Stevens et al., 2000).それらサメ類の生態は十分に理解されていないが,近年では400年近い寿命をもつものが報告されており(Nielsen et al., 2016),そのような種を致死的にサンプリングして研究に供することは,生態系や生物多様性の保全の観点からも避けるべきである.表層性の大型魚類の場合は,一度捕獲して水面や船上にて組織の一部を採取し放流することで,非致死的に試料を得ることが可能である(Ashe et al., 2015; Portnoy et al., 2009).しかしながら,深海性の魚類では,採捕して海面に浮上させるだけで致死的なダメージを与えてしまい,再放流することが困難なものが多い.そのため,深海環境において非致死的に試料を採取する装置の開発が必要となる.トップ・プレデターに関する研究のうち,遺伝的多様性や安定同位体比など栄養段階に関する情報を得るためには,数十mg程度の筋肉組織があれば十分である(力石ほか,2007; Ashe et al., 2015; Portnoy et al., 2009).そこで現在我々は,自動現場バイオプシー装置の開発に着手している.本装置の重要な開発要素の一つとして,射出力の問題がある.サメ類の中には,硬い表皮をもつヨロイザメDalatias lichaやユメザメCentroscymnus owstoniiなどが知られている.このような魚類からも試料を採取するために,先端部の各種形状における貫通力を計測し,自動現場バイオプシー装置に必要な射出力を推定するための基礎情報を得たので報告する.尚,ここで言う先端部は,医療分野で行われている穿刺やバイオプシーと同義として,針として定義する(Angelucci et al., 1995; 水原ほか,2000).

2. 材料と方法

本研究では,刺突性評価試験にヨロイザメ,ユメザメ,サガミザメDeania hystricosaを用いた(Table 1).ヨロイザメの1個体(No.1)は,2015年2月16日に相模湾において,遊漁船「丸十丸」で釣りによって採集された.その他のサメ類は,2016年1月28日および同年2月1日に駿河湾において,神奈川県立海洋科学高等学校の練習船「湘南丸」により底はえ縄で採集した.得られた試料は,-30°で冷凍保存したのち,十分に解凍してから実験に使用した.表皮の硬さを計測するための針の形状について,医療用の注射針として多用されているベベル型および穿刺における摩擦力の低減が検討されている円錐型,三角錐型の計3種類とし(水原ほか,2000),針先角度20,30,40度,針径6および8mmのものをそれぞれ用意した(Fig.1).第一段階としてこれら形状と針径を比較するために,針先角度30度のものをそれぞれ用意して,ユメザメ2個体について評価試験を行った.その後,円錐型および三角錐型の針先角度20,30,40度のものを用いて,それぞれサガミザメ,ユメザメ,ヨロイザメ各3個体について評価試験を行った(Table 1).貫通力の計測には,デジタルフォースゲージ(ZTA-500N,IMADA,愛知県豊橋市)を電動計測スタンド(EMX-1000N,IMADA,愛知県豊橋市)に装着したものを使用し,針先が表皮に触れる前から貫通して静止するまでの間,毎秒10回の計測を行った(Fig.2).計測は,各種針形状に対して,それぞれ背側の頭部から第一背鰭の間,第一背鰭横,第一~第二背鰭の間で計3回計測し,近接する計測部位の影響を受けないよう十分な距離をとって貫通させた.それぞれの針で計測した値の平均値(n = 3)と標準偏差を求め,平均値±標準偏差として表記した.得られたデータについて一元配置分散分析を行い,有意差が認められた場合は多重比較法(Tukey-Kramer法,P<0.05)により,各データ間の比較を行った.また,サメ類の表皮の硬さを標準的な魚類と比較するため,2017年10月26日に焼津漁業協同組合より購入したマサバScomber japonicus 3個体(全長36.0~39.3cm,体重0.54~0.56kg)について,針先三角錐型,角度20度,径6mmを用いて同様に刺突性評価試験を行った.

Table 1.

Sampling information on deep-sea sharks examined in this study.

表1. 本実験で用いた深海性サメ類の採集データ.

Fig.1.

Diagrams of needle types examined in the present study. Tr: trigonal pyramid form, Be: bevel form, Co: conical form. Three different tip angles (α=20, 30, 40 degrees), and two different diameters (6 and 8mm) were used.

図1. 刺突性評価試験に使用した針の模式図.Tr: 三角錐型,Be: ベベル型,Co: 円錐型.針先角度 (α)は,20,30,40度および針径は6,8 mmのものを使用した.

Fig.2.

Dorsal view of anterior region of the kitefin shark Dalatias licha examined in this study.

図2. ヨロイザメの頭部~第一背鰭背側で実施した刺突性評価実験.

3. 結果と考察

評価試験は,いずれも針先が表皮を貫通する直前にもっとも大きい値を計測し,その値を貫通力とした.ユメザメ2個体について評価試験を行った結果,同型の針形状において,2個体間に統計的な有意差はなかった.径6mmの針で比較すると,ベベル型がもっとも貫通力が大きく(貫通しにくく),2個体の平均値は,それぞれ141.4±12.1Nおよび125.1±25.5Nであった(Fig.3).径8mmの針で比較しても,ベベル型がもっとも大きい値を示し, 172.8±51.6Nおよび203.4±41.8Nであった.統計的には,No.2個体の針径8mm,三角錐型–ベベル型を除き有意であった.もっとも貫通力が小さかったのは,径6mmの三角錐型で62.3±22.2Nおよび38.4±7.8Nであった.同じ径の三角錐型と円錐型をそれぞれ比較すると,やや円錐型の方が貫通力は大きかったが,統計的な有意差はなかった.径6mmと8mmで比較すると,3種の針において,いずれも径の大きい8mmの方が大きい値を示し,円錐形を除き統計的にも有意であった(Fig.3).この結果から,ベベル型はバイオプシー針には不向きであること,また針径としては6mmの方が好適であることを示した.

Fig.3.

Penetrate values for two individuals of roughskin dogfish, Centroscymnus owstonii examined using each type of needles (triangular pyramid, bevel, and conical, Φ6 and 8 mm, tip angle of 30 degree). Vertical bars indicate standard deviations. Asterisks indicate significant differences of penetrate values between three types of needle.

図3. ユメザメ2個体を用いた各種針形状(三角錐型,ベベル型,円錐型,針径6および8 mm,針先角度30度)における評価試験結果.垂直線は標準偏差を示す.アスタリスクは針形状間における貫通力に有意差があることを示す.

次に,三角錐型と円錐型について,径を6mmとしてその針先の角度について比較した.サガミザメについてみると,円錐型では針先角度が20~40度間でそれほど貫通力は変わらず,その平均値は40.3±9.9~57.7±15.5Nの範囲であった.三角錐型では,針先角度20度で18.7±9.2~39.6±20.9N,30度で15.9±4.2N~30.4±14.3N,40度で42.2±16.9~70.5±36.7Nであった(Fig.4).これらの値はばらつきが大きく統計的な有意差もみられなかった(Table 2).ユメザメについてみると,円錐型20度で59.5±11.6~94.1±68.0N,30度で65.9±7.7~89.1±5.7N,40度で90.9±10.6~120.9±18.3Nと角度が大きくなるにつれ,貫通力も大きくなる傾向であったが,No.4個体の角度20度-40度の比較以外では統計的な有意差はなかった(Fig.5Table 2).三角錐型では,20度で53.1±7.3~74.6±6.3N,30度で67.0±13.0N~83.9±7.9N,40度で128.7±21.0~163.3±22.9Nと角度が大きくなるにつれ貫通力も大きくなる傾向であったが,20度と30度の間には統計的な有意差はなく,40度のみ他の針先角度に対して有意に大きい値を示した(Table 2).ヨロイザメについて個体間で比較すると,3個体のうちNo.3個体が,すべての針形状においてもっとも小さい値を示し,円錐型30度および三角錐型では20度を除き統計的にも小さいことが有意であった.ヨロイザメNo.1および2は,いずれも体長150cmであるのに対し,No.3は92cmしかなく,体重では4分の1以下であることから,貫通力は体サイズにも依存するものと推定した.3個体の針先角度を比較した結果をみると,円錐型20度で149.0±14.9~223.7±27.7N,30度で145.5±22.1~223.9±15.4N,40度で212.0±16.1~337.6±6.1Nであった.統計的には,円錐型20度と30度では有意差はなかったが,20度と40度では有意差があり,30度と40度では1個体を除き有意差が認められた.三角錐型の針先角度を比較した結果をみると,20度で83.1±11.7~117.7±9.3N,30度で72.4±7.1~145.7N±9.2,40度で190.9±8.9~324.4±26.2Nであり,No.3個体の20度と30度を除き,針先角度が大きくなるにつれ貫通力も大きくなる傾向がみられた.とくに,40度は他の角度に比べ大きいことが統計的にも有意であった(Fig.6Table 2).比較対象として試験したマサバの貫通力の平均は1.7±0.2Nであり,本実験で計測したサメ類より著しく小さい値を示した.以上の結果から,今回計測した3種のサメ類のうち,ヨロイザメの貫通力がもっとも大きく,次いでユメザメ,サガミザメとなった(Fig.7).とくにヨロイザメの貫通力は統計的にも有意に大きく,サガミザメの3.6~6.0倍,ユメザメの1.4~2.7倍となり,マサバと比較すると55.3倍という大きい値を示した.今回の実験から,現場自動バイオプシー装置を作成する場合,針先の形状を三角錐型の20度もしくは30度とし,その射出力は最低でも95.3Nは必要であることが示された.針先の径については,今回の実験では6および8mmのものを使用したが,径が小さくなると個体へ与えるダメージは少なくなる一方で,採取できる組織量が小さくなる.今後は,筋肉を採取する試料ポケットの形状や射出機構の検討が課題となる.

Table 2.

Statistical results on pair-wise comparisons between tip angles in each needle type (conical and triangular pyramid, Φ6mm) and deep-sea shark.

表2. 深海性サメ類三種で実施した評価試験の貫通力を各種,各針形状において針先角度間で比較した統計的有意性の結果.

Fig.4.

Penetrate values for three individuals of rough longnose dogfish, Deania hystricosa examined using each type of needles (conical and triangular pyramid, Φ6mm, tip angles ranged from 20 to 40 degrees). Vertical bars indicate standard deviations.

図4. サガミザメ3個体を用いた各種針形状(円錐型および三角錐型,針径6mm,針先角度20~40度)における評価試験結果.垂直線は標準偏差を示す.

Fig.5.

Penetrate values for three individuals of roughskin dogfish, Centroscymnus owstonii examined using each type of needles (conical and triangular pyramid, Φ6mm, tip angles ranged from 20 to 40 degrees). Vertical bars indicate standard deviations.

図5. ユメザメ3個体を用いた各種針形状(円錐型および三角錐型,針径6mm,針先角度20~40度)における評価試験結果.垂直線は標準偏差を示す.

Fig.6.

Penetrate values for three individuals of kitefin shark, Dalatias licha examined using each type of needles (conical and triangular pyramid, Φ6mm, tip angles ranged from 20 to 40 degrees). Vertical bars indicate standard deviations.

図6. ヨロイザメ3個体を用いた各種針形状(円錐型および三角錐型,針径6mm,針先角度20~40度)における評価試験結果.垂直線は標準偏差を示す.

Fig.7.

Average penetrate values for three species, Deania hystricosa, Centroscymnus owstonii, and Dalatias licha examined using each type of needles (conical and triangular pyramid, Φ6mm, tip angles ranged from 20 to 40 degrees). Asterisks indicate significant differences of penetrate values between three species of shark.

図7. サメ類3種を用いた各種針形状(円錐型および三角錐型,針径6mm,針先角度20~40度)における評価試験結果.垂直線は標準偏差を示す.アスタリスクは各針形状において種間で貫通力に有意差があることを示す.

謝辞

本研究を行うにあたり,試料の採集にご協力いただいた,神奈川県立海洋科学高等学校湘南丸乗組員の方々,釣船「丸十丸」船長,日本海洋事業株式会社田山雄大氏に深く感謝いたします.

References
 
© Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology
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