Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
Repetitive discharge on high-frequency stimulations in a case of neuropathy
Akira KAMIDAKenta SHIMABAYASHINaoyuki UEDAKengo SATOChisako FUKUDAYasuaki HIROOKASusumu SUGIHARAYoshihiro MAEGAKI
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2017 Volume 66 Issue 1 Pages 68-73

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Abstract

末梢神経の高頻度刺激にて異常な後期成分の出現を認めたニューロパチー症例を経験した。症例は16歳5ヶ月男性で,右手の筋力低下,筋萎縮を主訴に来院した。軽度振動覚低下を除き,他覚的感覚障害は認められなかった。初診時検査で,右尺骨神経の複合筋活動電位(compound muscle action potential; CMAP)振幅低下,左右正中・右尺骨神経のF波出現率低下,高頻度刺激F波検査において右正中・右尺骨神経に異常な後期成分,運動負荷試験直後のF波検査において右尺骨神経の後期成分が出現した。針筋電図では,右短母指外転筋での長持続,多相性,高振幅の運動単位電位が出現した。我々はこの後期成分を振幅により反復電位,小反復電位,fasciculation様波形に分類し,治療経過による変化を検討した。免疫グロブリン大量療法(intravenous immunoglobulin; IVIg療法)後,反復電位の出現や振幅が減少した。治療による握力の改善に伴い,右正中神経での反復電位の減少,右尺骨神経での小反復電位の減少が認められた。右尺骨神経のCMAP振幅低下,F波出現率の低下から,本症例は軸索型ニューロパチーであることが示唆された。また本症例において,治療による後期成分の変化により,臨床症状の改善を評価できた。

F波は運動神経線維刺激の逆行性インパルスが脊髄前角のα運動ニューロンを興奮させ,その発火により生じる順行性インパルスによって誘発された筋電位であると考えられている。F波の検査は通常1 Hzの刺激にて行うが,今回,軸索型ニューロパチー患者において高頻度刺激を行ったところ,異常な後期成分が出現した症例を経験したので報告する。

I  方法

測定機器は日本光電Neuropack-X1を使用した。入院時電気生理検査として左右の正中神経・尺骨神経・脛骨神経の運動神経伝導検査(motor nerve conduction study; MCS)およびF波検査を行い,さらに左右の正中神経・尺骨神経・腓腹神経の感覚神経伝導検査(sensory nerve conduction study; SCS)を行った。MCS,F波検査はそれぞれの神経ごとに関電極を短母指外転筋,小指外転筋,母趾外転筋の筋腹に,不関電極をそれぞれの腱に設置した。刺激は最大上電気刺激にて,MCSでは2~4点を刺激した。F波検査は1 Hz刺激に加え,5,10 Hz刺激でも実施した。刺激は16回行った。

SCSでは関電極をそれぞれの神経ごとに,示指MP(metacarpal phalangeal)関節,小指MP関節,外果と踵の間におき,不関電極はそれぞれの関電極の3 cm遠位側に設置した。その他,運動負荷試験,寒冷負荷試験,疲労試験,右短母指外転筋の針筋電図も行った。運動負荷試験は随意強収縮20秒の後3秒休憩を1セットとし5セット繰り返した後,MCSを行った。寒冷試験は患者の手を氷水につけ,皮膚温を25℃以下にしてMCSを行った。疲労試験は3,5,10 Hz刺激にて複合筋活動電位(compound muscle action potential; CMAP)の漸減を確認した。

出現した後期成分のうち,400 μV以上の振幅波形を反復電位,100~400 μVの波形を小反復電位,100 μV以下の波形をfasciculation様波形と分類し(Figure 1),以下検討を行った。後期成分の出現は10 Hz刺激が5 Hz刺激より著明であり,検討は10 Hz刺激を用いた。第2,4回目治療の前後の電気生理検査の結果を用い,治療による後期成分の変化を検討した。握力と異常な後期成分の経過から,その関連性についても検討した。

Figure 1 

後期成分の分類

高頻度刺激のF波検査において出現した後期成分のうち,400 μV以上のものを反復電位,100~400 μVのものを小反復電位,100 μV以下のものをfasciculation様波形とした。

統計はSPSS Statistics 21を用いてウィルコクソン検定,スピアマン相関分析を行い,p < 0.05を統計学的に有意とした。

II  症例

患者:16歳5ヶ月,男性。

主訴:右手の筋力低下,右背側骨間筋萎縮,右母指球筋軽度萎縮。

現病歴:14~15歳時,右手でゲームのボタンが押しにくい,鉄棒にぶら下がれない,箸がもてない,ペットボトルの蓋が開けられないなどの症状が出現した。近医にて右尺骨神経CMAPの振幅低下を指摘され,ギオン管解放術を施行するも症状改善なく,精査目的に当院脳神経小児科に検査入院となった。

初診時の血液,免疫,生化学検査に異常所見を認めなかった。初診時検査から確定診断は不可能であり,診断的治療目的でIVIg療法が開始された。その結果,自覚症状として力が入りやすくなり,他覚症状として両手の握力が2回目治療で1.5 kgから2.0 kg,4回目治療で5.0 kgから5.7 kgとわずかに増加したことより,IVIg療法を継続することとなった。

主な電気生理検査の結果をTable 1に示す。異常は右尺骨神経のCMAP振幅低下(遠位,近位ともに3.3 μV)(Figure 2),左右正中神経および右尺骨神経のF波出現率低下(それぞれ12,18,12%),高頻度刺激のF波検査にて出現した右正中および右尺骨神経の後期成分,運動負荷試験直後のF波検査にて出現した右尺骨神経の後期成分,針筋電図における右短母指外転筋での長持続,多相性,軽度高振幅の運動単位電位であった。振幅低下が認められた右尺骨神経の伝導速度は57.8 m/sと正常であった。遠位部刺激でも伝導ブロックは検出されなかった。また,F波出現率低下が認められた左右正中神経,右尺骨神経のF波潜時はそれぞれ27.5 ms,29.6 ms,22.3 msと,F波でもブロックは検出されなかった。その他の電気生理検査も異常は認められなかった。反復電位およびfasciculation様波形は16回刺激のうち刺激前半1~8回目と比較して後半9~16回目の方が有意に多く出現した(p < 0.05)。

Table 1  初診時のMCS,SCS,F波検査所見
CMAP振幅[遠位部]
(mV)
MCV[手首-肘]
(m/s)
SNAP振幅[遠位部]
(μV)
SCV[手首-肘]
(m/s)
F波出現率
(%)
FWCV
(m/s)
左正中 9.2 59.0 26.3 65.3 12 65.5
右正中 12.5 58.0 49.7 64.2 18 63.2
左尺骨 8.7 67.4 12.4 73.1 50 62.2
右尺骨 3.3 57.8 37.1 66.7 12 57.8
左脛骨 30.0 46.2 100 61.2
右脛骨 28.8 49.6 100 59.7
左腓腹 15.0 47.5
右腓腹 12.3 46.4

MCV: motor nerve conduction velocity(運動神経伝導速度),SCV: sensory nerve conduction velocity(感覚神経伝導速度),FWCV: F-wave conduction velocity(F波伝導速度)

異常所見として,右尺骨神経のCMAP振幅低下(遠位,近位ともに3.3 μV),左右正中神経および右尺骨神経のF波出現率低下(それぞれ12,18,12%)が認められた。

Figure 2 

右尺骨神経におけるCMAP波形

手首,肘下,肘上,腋窩いずれの刺激点もCMAP振幅3.3 mVと低下していた。手首-肘間のMCVは57.8 m/sと正常であった。

治療による握力の改善とほぼ並行して,高頻度刺‍激による反復電位の出現や振幅が減少した(Figure 3A, B, Figure 4)。握力と異常な後期成分出現の経過をFigure 5A,Bに示す。なお,握力と電気生理検査を同時に行った日のみを示している。握力の改善に伴い,右正中神経では反復電位の減少,右尺骨神経では小反復電位の減少が認められた。握力と後期成分数とのスピアマン相関分析を行った結果,右尺骨神経の小反復電位と握力との間に負の相関が認められた(r = −0.760, p < 0.05)。

Figure 3 

2および4回目治療前後の10 Hz刺激時の各後期成分数の変化

縦軸:刺激後20 msの間に出現した各後期成分の数

A:右正中神経における変化

2,4回目治療後,反復電位は減少し,fasciculation様波形は増加した。また,2回目治療後,小反復電位も増加した。

B:右尺骨神経における変化

2,4回目治療後,反復電位,fasciculation様波形は減少し,小反復電位は増加した。

Figure 4 

治療による後期成分の変化例(4回目治療,右正中神経,10 Hz刺激)

治療前に多数出現した反復電位は治療後に減少し,少量の小反復電位,fasciculation様波形が認められた。

Figure 5 

各後期成分の経過

左縦軸:刺激後20 msのうちに出現した各後期成分の数(個) 右縦軸:握力(kg)

横軸:初回検査日を第1日としたときの経過日数

A:右正中神経における後期成分と握力の経過。握力の改善に伴い,反復電位は減少した。

B:右尺骨神経における後期成分と握力の経過。握力の改善に伴い,小反復電位は減少した。

III  考察

右尺骨神経の遠位部および近位部におけるCMAP振幅低下,F波出現率の低下より,本例は軸索型ニューロパチーが考えられた。

後期成分に関して,木村ら1)は,反復電位は脱髄部で蓄積された電荷が反復放電することに起因すると述べている。有村ら2)は,反復放電は神経軸索の変性・再生過程で認められると報告している。また,fasiciculationの大部分は軸索の末端が筋内で枝分かれした後の部位で生じる異常放電で,軸索膜あるいは髄鞘の変性による異常興奮であると報告されている1)。これらの報告から,後期成分は脱髄でも軸索障害でも見られると考えられ,軸索障害がある本例でも後期成分が認められた。

反復放電はギランバレー症候群や筋緊張性ジストロフィーなどで刺激強度最大上,刺激頻度1 Hzにて誘発されるとの報告がみられる3)。また,他の後期成分の報告として,Rowinら4)は本症例とは反復性や潜時のばらつきが異なるものの,刺激強度最大上,刺激頻度1 Hzで誘発され振幅50 μV以上,多位相などの特徴をもつ後期成分を“complex A-wave”と呼び,軸索型ポリニューロパチーや脱髄型ポリニューロパチーで認められるとしている。また,complex A-waveは初期の脱髄ニューロパチーに多く認められるが,軸索型ポリニューロパチーの29.4%にも認められたと報告している。このようにニューロパチー患者における後期成分の出現は過去に報告されており,今回見られた後期成分も神経が障害されていることを示すものと考えられる。

本症例の特徴は通常の刺激強度最大上,刺激頻度1 Hzでは反復電位は出現せず,刺激頻度5 Hz,10 Hzで初めて反復電位が出現した。高頻度刺激F波検査はF波が消失した患者で実施し,筋萎縮性側索硬化症の診断に役立つとの報告があり5),今回は出現率が減少している患者で実施し,異常な後期成分が認められた。Kajiら6)は脱髄ラットを用い,10 Hz刺激で認められる複合神経活動電位が50 Hz刺激ではブロックされることから,頻度依存性伝導ブロックの存在を報告している。これは軸索の過分極によると考えられている7)。また,田中ら8)は多巣性運動ニューロパチー患者の健側と患側それぞれに最大収縮を60秒間行わせ,患側での収縮力の著明な減少,すなわち多巣性運動ニューロパチー患者における疲労現象を報告し,頻度依存性伝導ブロックによるものと結論づけている。これらは脱髄での報告であるが,我々は本例のような軸索障害でも疲労現象が存在すると考えている。本例において,運動負荷試験直後に出現した後期成分は疲労現象の存在を裏付ける。また,本例でFigure 3(治療前)に示すように,後期成分は刺激前半1~8回目と比較し,後半9~16回目に多く出現したことも神経の疲労現象を示しているものと考えられた。

今回,後期成分の変化を定量的に検出するため,波形の振幅により反復電位,小反復電位,fasciculation様波形に分けて検討した。検討の結果,治療により反復電位の出現や振幅は減少した。また,経過では,握力の改善に伴い右正中神経で反復電位は減少,右尺骨神経で小反復電位は減少したことより,臨床症状の改善により後期成分の振幅は低下し,やがて消失すると考えられた。したがって,後期成分は病態を反映すると思われた。

IV  結語

高頻度刺激によるF波検査において,後期成分の変化は病態変化を反映する可能性がある。

 

本論文は第62回日本臨床検査医学会で発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  木村 淳,幸原 伸夫:「神経伝導検査の原理と実際」,「針筋電図の原理と実際」,神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために 第2版,188,274,医学書院,東京,2010.
  • 2)   有村  公良,他:「Myotonic dystrophyにおける末梢運動神経障害」,臨床脳波,1993; 35: 567–571.
  • 3)   伊藤  順子:「末梢神経刺激に対し誘発された非典型的な長潜時反応の検討」,臨床病理,2001; 49: 71–76.
  • 4)   Rowin  J,  Meriggioli  MN: “Electrodiagnostic significance of supramaximally stimulated A-waves,” Muscle Nerve, 2000; 23: 1117–1120.
  • 5)   小森  哲夫:「F波を用いた脊髄運動ニューロン機能の評価」,臨床脳波,2005; 47: 292–298.
  • 6)  Kaji R et al.: “Physiological consequences of antiserum-mediated experimental demyelination in CNS,” Brain, 1988; 111(Pt 3): 675–694.
  • 7)   田中  久貴,他:「脱髄性疾患における疲労現象と伝導ブロック―総論―」,臨床脳波,2001; 43: 53–57.
  • 8)   田中  久貴,他:「脱髄性疾患における疲労現象と伝導ブロック―各論―」,臨床脳波,2001; 43: 123–128.
 
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