Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Comparison of cell microscopy images and image analysis for the purpose of improving the accuracy of endometrial liquid-based cytology (LBC)
Kayo HORIEYuya GOTOMisuzu NOROHaruhiko YOSHIOKAKiyoshi TONEKeiko KOJIMAYoshihito YOKOYAMAJun WATANABE
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2017 Volume 66 Issue 2 Pages 103-109

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Abstract

【目的】LBCは多くの利点があり,子宮頸部扁平上皮病変でその有用性が確立されている。しかしながら,子宮内膜LBCの有用性は十分に検討されていない。本研究では,光学顕微鏡による判定とデジタル解析を行い,子宮内膜のLBCの特性を明らかにした。【材料および方法】子宮内膜細胞診は,子宮内膜癌G1とG2をLBC法により作製した。細胞集塊を構成している細胞数,細胞集塊の重積層数について光学顕微鏡による判定とデジタル解析を行った。そして,核小体‍/核面積(N/N)比は,デジタル解析を使用して従来法とLBC法の比較を行った。【結果】G1と比べG2では細胞集塊の構成細胞数と重積層数は低い値を示した。また重積層数は光学顕微鏡による測定に比べ,デジタル解析を用いた方が低い値を示した。G1とG2子宮内膜癌の核と核小体面積は,LBC法は従来の方法と比較して有意に縮小していた。一方,N/N比はLBC法では従来法と比べ増大するという結果を示した。【結論】子宮内膜LBC法は子宮内膜細胞診標本作製の標準化を行う上で有用である。今後,診断基準が確立されれば,子宮内膜LBC法は子宮体癌細胞診検査の精度向上につながると考えられる。

I  はじめに

子宮内膜細胞診標本作製には現在普及している方法として従来法(直接塗抹法)が行われているが,細胞採取器具への残存や血液成分,粘液等の夾雑物の混在による異型細胞の見落としなどが問題になっている1)。液状化検体細胞診法(liquid-based cytology;LBC法)は数多くの利点が存在し,子宮頸部扁平上皮病変においてその有用性が注目されている2)。しかしながら子宮内膜細胞診におけるLBC法の有用性は十分に検討されておらず,子宮頸部細胞診と比較して普及していないのが現状である。

近年,子宮内膜LBC法と従来法による細胞所見の相違点が報告されており3),4),今後,日本における子宮内膜LBCの実施が予想される。本研究では類内膜腺癌LBC標本を用い,光学顕微鏡による細胞像判定とデジタル解析による定量化を行った。両者の相違点について比較・検討を行うことで子宮内膜LBC標本の特徴を明確にした。これらの結果は子宮内膜LBCの精度向上に繋がると考えられる。

II  対象および方法

1. 対象

2013–2015年に弘前大学医学部附属病院においてLBC法で作製した子宮内膜ソフトサイト標本,類内膜腺癌G1:3症例,類内膜腺癌G2:5症例(弘前大学大学院医学研究科倫理委員会2013-232承認)

2. 標本作製

LBC法はBD社 SurePathTMを使用した。

内膜塗抹標本作製後のソフトサイト先端を固定液バイヤルに入れ2–3回振り洗いを行い細胞液とした。

LBC標本作製はBD社マニュアルに従った(Figure 1)。

Figure 1 

SurePathTM標本作製手順

3. 測定項目

①細胞集塊を構成している細胞数とその割合

②細胞集塊の重積層数

以上の2項目について光学顕微鏡による判定とデジタル解析による定量化をG1,G2症例を用いて行った。

③核小体/核 面積比(N/N比)はデジタル解析を用いそれぞれの面積を定量化し,従来法とLBC法で比較を行った。

4. 測定方法

細胞集塊とは光学顕微鏡による判定で集塊として認識され,かつ50個以上の細胞から構成されるもの。デジタル解析による定量化では50個以上の細胞から構成され,かつ300 μmに収まるものと定義した。

1) 光学顕微鏡による判定

対物レンズ4倍を用い,5視野に出現している全ての細胞集塊を抽出し,計測は対物レンズ40倍で行った。

1)-① 細胞集塊を構成している細胞数

50~100個の細胞,100個以上の細胞から構成される細胞集塊に分け,その割合を算出した。

1)-② 細胞集塊の重積層数

ピントをずらし,核が出現し消失するまでを1層として核の重なりを測定し,重積層数の平均±SD値を算出した。

2) デジタル解析による定量化

対物レンズ4倍で5視野中の細胞集塊を選び,画像撮影は対物レンズ40倍を使用し,CLARO社コンパクトデジタルスキャナーTOCOを用いZ軸は1レイヤ0.25 μm間隔で撮影を行った(Figure 2)。

Figure 2 

デジタル解析のための画像撮影法

細胞集塊は50個以上の細胞から構成され,300 μmに収まる細胞集塊について,1レイヤ0.25 μm間隔で撮影を行った。

撮影したデジタル画像について以下の解析を行った。

2)-① 細胞集塊を構成している細胞数

1検体あたり 細胞集塊10個についてImage jによる細胞数を測定し,Z軸をスライドさせることで重なっている細胞についても計測を行った。

2)-② 細胞集塊の重積層数

Image jによりZ軸をスライドさせ核の重なりを測定した(Figure 3)。

Figure 3 

デジタル解析による細胞集塊の重積層数の測定

a.焦点が合う前の最上層 b.焦点が合った第1層 c.焦点が合った第2層 d.焦点が合わなくなった最下層

細胞集塊の重積層数 はImage jによりZ軸をスライドさせ,核の重なりを測定した。

2)-③ 核小体/核 面積比(N/N比)測定

出現している任意の核50個についてPhotoshopを用いて測定を行った(Figure 4)。

Figure 4 

デジタル解析による核・核小体面積の測定

Photoshopを使用し,測定する核や核小体の範囲の辺縁を枠で囲み面積の測定を行った。

有意差検定はMann-Whitney U-testを用い,p値0.05未満を有意とみなした。

III  結果

1. 細胞集塊を構成している細胞数

1)-①:光学顕微鏡による細胞数の割合の測定ではG1と比べG2の方が50–100個細胞からなる小さな細胞集塊の割合が高かった(Figure 5)。2)-①:デジタル解析による定量化では1細胞集塊当たりの構成細胞数について,G1は平均145個,G2は85個であることを算出した(Figure 6)。

Figure 5 

光学顕微鏡による細胞集塊を構成している細胞数の割合

G1と比べG2の方が50–100個の細胞からなる小さい細胞集塊の割合が高いことが示された。

Figure 6 

デジタル解析による細胞集塊を構成している細胞数

G1では構成細胞数の平均値は1集塊当たり145個,G2は85個とG2ではG1に比べ構成細胞数が少ないことが示された。

2. 細胞集塊の重積層数の測定

1)-②:光学顕微鏡による細胞集塊の重積層数の平‍均値はG1で3.1層,G2で2.6層であった(Figure 7)。2)-②:デジタル解析による細胞集塊の重積層数の平均値はG1で2.5層,G2で2.1層であった(Figure 8)。G1に比べG2の方が構成細胞数,重積層数ともに低い値を示した。また重積層数については光学顕微鏡による測定に比べ,デジタル解析を用いた方が低い値を示した。

Figure 7 

光学顕微鏡による細胞集塊の重積層数

G1は平均3.1層,G2は2.6層でG2の方が層数が少ないという結果を示した。

Figure 8 

デジタル解析による細胞集塊の重積層数

G1では2.5層,G2では2.1層でG1に比べG2の重積層数が少ないという結果を示した。

3. 核小体/核 面積比(N/N比)の測定

LBC法では核小体は赤色に強調され明瞭化する(Figure 9)。2)-③:核面積は,G1で従来法48.3 μm2,LBC法34.8 μm2,G2で従来法57.6 μm2,LBC法38.2 μm2とG1,G2ともにLBC法は従来法に比べ核面積は有意に縮小した。また縮小率はG1 28%,G2 34% を示した(Figure 10)。

Figure 9 

子宮内膜LBC標本

LBC法子宮内膜腺細胞集塊の核小体は赤色が強調され明瞭化する。

Figure 10 

デジタル解析による核面積

G1,G2ともにLBC法の方が核面積は有意に縮小した。

縮小率はG1:28%,G2:34% を示した。

核小体面積はG2では従来法2.3 μm2,LBC法1.6 μm2とLBC法の方が従来法に比べ有意な縮小を認めた。G1も従来法1.7 μm2,LBC法1.5 μm2とLBC法の方が小さい傾向を認めた。また縮小率はG1で12%,G2は30%を示した(Figure 11)。N/N比はG1で従来法3.6,LBC法4.4。G2で従来法3.9,LBC法4.2とG1,G2ともにLBC法では従来法と比べN/N比は増大するという結果を示した(Figure 12)。

Figure 11 

デジタル解析による核小体面積

G2ではLBC法の方が核面積は有意に縮小した。縮小率はG1:12%,G2:30% を示した。

Figure 12 

デジタル解析による核小体/核 面積比(N/N比)

G1は従来法3.6,LBC法4.4。G2は従来法3.9,LBC法4.2とG1,G2ともにLBC法は従来法と比べN/N比の増大を認めた。

IV  考察

LBC内膜標本においてG1に比べG2の方が構成細胞数,重積層数ともに低い値を示した。これについてはLBC法では標本作製の際,ミキサーによる物理的な力が加わることによって細胞集塊の構築が破壊される5),また,LBC法は従来法に比べ重積性が保持される6)という報告がある。このことからG1では細胞接着能が比較的強く,重積層数が保持されていることが推察され,一方G2はG1に比べ細胞接着能が弱くなっているためにLBC法における検体処理の際に細胞集塊が破壊され重積層数が小さくなったことが考えられる。本研究の結果からLBC方を用いた細胞集塊については,細胞接着能によってそれらの重積層数が異なるという認識が必要であると考えられる。加えて細胞集塊の重積層数は光学顕微鏡による判定に比べ,デジタル解析を用いた方が低い値を示した。これは光学顕微鏡で判定を行う場合,2層以上になると正確な重積層数の判定は困難であり,デジタル解析を用いることで重積層数の客観的な判定が可能になったためと考えられる。

内膜LBC法は従来法に比べ核小体が赤色に強調され明瞭化している。このことは従来法では塗沫の過程で乾燥または膨化し平坦になるが,LBC法ではあらかじめ固定されるため,元の核形が保存,もしくは強調される。また,核小体が赤色に強調されてくる理由としてLBC法の固定液が数種類のアルコールをベースとしてホルマリンとその他の成分により構成されているためと考えられるがその詳細は不明である7)。本研究における画像解析の結果より,G1とG2症例において,従来法と比較するとLBC法では核面積,核小体面積ともに縮小するという結果を示した。しかしながら核小体/核 面積比(N/N比)はいずれも増大を認めた。これはLBC法では核と核小体の収縮率が異なるためN/N比が増大することが考えられる。内膜LBC法を用いた標本では固定液の影響やN/N比が増大するために核小体が明瞭化されることが確認された。

LBC法はエンドサイトやソフトサイト等,内膜を採取した器具の先端を固定保存液に直接入れるため,標本作製時の採取器具への細胞の残存や乾燥変性が避けられ,一定の品質を保持した内膜標本作製が可能となる。このことから子宮内膜標本作製の標準化を行う上でLBC法は有用であると考えられる8)

また画像解析等の客観的な評価法を用い,内膜LBC法に特徴的な細胞所見を抽出し,それを理解した上で鏡検することで内膜LBC法は有用な方法であることが示唆された。

V  まとめ

LBC法を用いた子宮内膜細胞診検査の細胞採取や標本作製は子宮内膜標本作製の標準化を行う上で有用である。

今後,内膜LBC標本データの蓄積を重ね,診断基準が確立されれば,子宮内膜LBC法は子宮体癌細胞診検査の精度向上につながると考えられる。

文献
 
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