2017 Volume 66 Issue 2 Pages 125-132
PIVKA-IIはビタミンK欠乏による生合成不全によって産生される異常プロトロンビンで,肝細胞癌の腫瘍マーカーとして広く利用されている。今回,新しく開発されたPIVKA-II測定試薬「アーキテクト・PIVKA-II」について基礎的検討を行った。専用コントロールの同時再現性はC.V. 2.2~3.0%,日差再現性は2.8~4.9%,患者プール血清の同時再現性はC.V. 2.0~2.7%,日差再現性は3.2~4.9%と良好であった。また,約30,000 mAU/mLまで希釈直線性が認められ,定量限界は3.45 mAU/mL,共存物質の影響は認めなかった。他法との相関は,ルミパルスプレストおよびピコルミともに良好であった。さらに,プレーン管,血清分離剤入りの採血管,トロンビンが塗布されている高速凝固採血管の3種類の採血管で測定した結果,測定値に差は認められなかった。本試薬は,基礎的性能が良好で日常検査に大いに貢献するものと考えられた。
PIVKA-II(protein induced by vitamin K absence or antagonist-II)はビタミンK欠乏による生合成不全によって産生される異常プロトロンビンで,肝細胞癌の腫瘍マーカーとして広く利用されている1)。プロトロンビンは肝臓内において10個のグルタミン酸(Glu)残基を持つ前駆体が,γ-グルタミルカルボキシラーゼの働きにより,γ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基に変換されることにより生成される。しかし,ビタミンKが欠乏すると一部のGlu残基がGla化せずPIVKA-IIとなる。その他,ワルファリン等のビタミンK拮抗薬の使用でも上昇する。
同じ肝細胞癌の腫瘍マーカーとしてはα-フェトプロテイン(AFP)があるが,AFPとPIVKA-IIは相関せず相補性が高い2),3)ため,日本肝臓学会のガイドライン4)においても,小肝細胞癌の診断では2種類以上の腫瘍マーカーを測定することを推奨している。
今回アボットジャパン株式会社より新規のPIVKA-II測定試薬「アーキテクト・PIVKA-II」が発売され,本試薬について基礎的検討を行ったので報告する。
検査終了後の残余検体を調査研究に使用することに同意した当院外来・入院患者の血清およびEDTA-2Na血漿を用いた。また,健常人ボランティアより採血をし,血清を得た。なお,本研究は虎の門病院研究倫理審査委員会の承認を得て実施した。
2. 採血管本検討に使用した採血管は,凝固促進フィルム(微ガラス粉末)のみのプレーン管(採血規定量5 mL),凝固促進フィルムと血清分離剤の入ったAS管(同6 mL),凝固促進フィルムと分離剤に加え高速凝固促進剤(トロンビン)が添加されているAR管(同6 mL,すべてテルモ株式会社)の3種類である。当院外来・入院の患者はAR管で,健常人ボランティアはプレーン管で採血を行った。
3. 測定機器および試薬測定機器はARCHITECT i1000SR,測定試薬は化学発光免疫測定法(CLIA)を原理としたアーキテクト・PIVKA-II(アボットジャパン株式会社,以下アーキテクト)を使用した。本試薬の1次抗体は抗PIVKA-IIマウスモノクローナル抗体(3C10抗体),2次抗体は抗プロトロンビンマウスモノクローナル抗体(MCA1-8抗体)である。
対照法として化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)のルミパルスプレストPIVKA IIエーザイ(エーディア株式会社,以下プレスト)および電気化学発光免疫測定法(ECLIA)のピコルミPIVKA-II MONO(エーディア株式会社,以下ピコルミ)を用いた。測定機器はそれぞれルミパルスプレストII(富士レビオ株式会社),ピコルミIII(エーディア株式会社)である。対照試薬の1次抗体は両者ともに抗PIVKA-IIマウスモノクローナル抗体(MU-3抗体),2次抗体はプレストは抗プロトロンビンウサギポリクローナル抗体,ピコルミは抗プロトロンビンマウスモノクローナル抗体である。
4. 測定原理検体に検体希釈液と抗PIVKA-IIマウスモノクローナル抗体固相化磁性粒子を加え,反応させる。洗浄により未反応物を除去後,アクリジニウム標識抗プロトロンビンマウスモノクローナル抗体を反応させる。未反応物を除去後,プレトリガー(過酸化水素)およびトリガー(水酸化ナトリウム)を加え,反応生成物の発光強度を測定する。
5. 方法 1) 再現性3濃度のアーキテクトPIVKA-II・コントロールおよび3濃度の患者プール血清を20日間3重測定し,一元配置分散分析法にて同時再現性および日差再現性を調べた。
2) 希釈直線性高濃度の患者血清をPIVKA-II濃度0 mAU/mLのアーキテクトPIVKA-IIキャリブレータAで10段階に希釈し,それぞれ3重測定した。
3) 定量限界臨床化学会の方法5)で評価した。アーキテクト共通希釈液で10段階に希釈した患者プール血清をそれぞれ10回測定し,precision profileにおけるC.V. 10%となる濃度から求めた。
4) 共存物質の影響患者プール血清を対象に,干渉チェックAプラスおよびRFプラス(シスメックス株式会社)を用い,乳び,溶血,遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビンおよびリウマトイド因子についてそれぞれ検討した。
5) 相関性ワルファリン非服用患者血清112例について,アーキテクト,プレスト,ピコルミの3法でPIVKA-IIを測定し相関性を検討した。また,ワルファリン服用中の患者血清32例について,アーキテクトおよびプレストにて測定し,相関性を調べた。
6) 採血管の影響【条件1】6濃度の患者プール血清(AR管で採取,濃度約60~20,000 mAU/mL)を作製し,2 mLずつプレーン管,AS管,AR管の3種類の採血管に入れ30分間室温で振盪した。振盪後,アーキテクトおよびプレストにてそれぞれPIVKA-IIを測定した。プレーン管での測定値を100%とした場合のAS管およびAR管の測定値の相対値を求め,t検定にて解析した。なお,有意水準を5%とした。
【条件2】健常者からプレーン管に採血をして得られた血清に,PIVKA-IIが高値の患者血清を1/100量加えたサンプルを3症例について作製した。採血後の血清量を想定し,採血規定量の半量となるようプレーン管は2.5 mL,AS管とAR管は3 mLずつ採血管に入れ,30分間室温で振盪し,アーキテクトおよびプレストにてそれぞれPIVKA-IIを測定した。AS管およびAR管の測定値は,条件1と同様にプレーン管の測定値に対する比に変換した。
【条件3】
PIVKA-II濃度が測定範囲内の任意の患者30例について,AR管で採取された血清とEDTA血漿でPIVKA-IIを測定し,相関性を調べた。
専用コントロールの同時再現性はC.V. 2.2~3.0%,日差再現性はC.V. 2.8~4.9%であった(Table 1A)。患者プール血清の同時再現性はC.V. 2.0~2.7%,日差再現性はC.V. 3.2~4.9%であった(Table 1B)。
Within-run and between-day precision
Mean (mAU/mL) |
Within-run precision | Between-day prescision | |||
---|---|---|---|---|---|
S.D. | C.V. (%) | S.D. | C.V. (%) | ||
L | 50 | 1.52 | 3.0 | 2.47 | 4.9 |
M | 493 | 10.78 | 2.2 | 15.41 | 3.1 |
H | 10,000 | 222.46 | 2.2 | 276.84 | 2.8 |
Mean (mAU/mL) |
Within-run precision | Between-day precision | |||
---|---|---|---|---|---|
S.D. | C.V. (%) | S.D. | C.V. (%) | ||
L | 88 | 1.75 | 2.0 | 4.31 | 4.9 |
M | 4,527 | 95.75 | 2.1 | 149.72 | 3.3 |
H | 20,854 | 564.89 | 2.7 | 662.02 | 3.2 |
約30,000 mAU/mLまで直線性が認められた(Figure 1)。
Dilution linearity
C.V. 10%点の定量限界は3.45 mAU/mLであった(Figure 2)。
Limit of quantitation
乳びは1,450ホルマジン濁度まで,溶血は490 mg/dLまで,抱合型ビリルビンは20.9 mg/dLまで,遊離型ビリルビンは19.5 mg/dLまで,リウマトイド因子は500 IU/mLまで測定結果に影響は認められなかった(Figure 3)。
Effects of interfering substances
プレストとの相関は全濃度域でy = 1.12x + 13.7,r = 0.97(Figure 4A),ピコルミとの相関はy = 0.84x − 13.4,r = 0.98(Figure 4B)であった。100 mAU/mL以下では,プレストとはy = 1.22x + 0.7(Figure 4C),r = 0.92,ピコルミとはy = 0.98x + 1.2,r = 0.92(Figure 4D)であった。
Correlation tests
A) vs. Lumipulse Presto (all samples) B) vs. Picolumi MONO (all samples) C) vs. Lumipulse Presto (PIVKA-II concentration < 100 mAU/mL) D) vs. Picolumi MONO (< 100 mAU/mL)
また,ワルファリン服用患者血清でのプレストとの相関は,y = 1.30x + 2875.8,r = 0.90であった(Figure 5)。
Correlation test in serum samples obtained from patients on Warfarin therapy
条件1の結果,プレストでの測定値はAR管で有意に低下したが,アーキテクトでは両者に差は認められなかった(Figure 6)。
Evaluation of tube type equivalency with pooled sera of patients
条件2の結果をFigure 7に示した。図中の数値は実際の測定値である。AR管の測定値は,プレストでは−15%~+1%の変化だったのに対し,アーキテクトでは−4~+2%の変化であった。
Evaluation of tube type equivalency with pooled sera of normal subjects to which high level PIVKA-II serum was added
条件3の結果,AR管の血清とEDTA血漿との相関はy = 0.98x − 28.6,r = 0.99であり,t検定の結果,両群に有意差は認められなかった(Figure 8)。
Correlation between serum including thrombin and plasma
今回,アーキテクト・PIVKA-II試薬の基礎的検討を行った。再現性はメーカーの専用コントロールおよび患者プール血清ともに良好であった。また,希釈直線性,定量限界についても良好で,共存物質の影響も認められなかった。
プレストおよびピコルミとの相関も良好であったが,ピコルミとの相関で1件乖離例が見られた(ピコルミ37 mAU/mL,アーキテクト71 mAU/mL,Figure 4D)。アーキテクトで希釈直線性を確認したところ良好であったが,ピコルミでの測定は外部委託で行ったためこれ以上の検討は出来なかった。ワルファリン投与群の相関は,非投与群と比較しアーキテクトにおいて高値となった。ワルファリン投与群のPIVKA-IIは全例で数千~数万mAU/mLであるため,高濃度域でのバラツキの影響を受けやすく高値になったと考えられた。
PIVKA-IIにはGla残基が0~9個のものが存在するが,肝細胞癌や急性肝炎,転移性肝癌等,疾患それぞれで出現するPIVKA-IIのGla残基数に違いがあり,Gla残基の数と抗体との反応性には関連があることがわかっている6)。PIVKA-IIの従来試薬は1次抗体にMU-3抗体を使用しているが,本試薬は新たに開発された3C10抗体を使用している。両抗体は同一のエピトープを認識することが報告されており7),8),反応性は類似していると考えられる。しかし,本検討において乖離例や高濃度域での測定値のバラツキが認められたことから,抗体の反応性に違いがある可能性は完全には否定できず,今後さらに検討が必要と考えられた。
採血管の影響についての検討で,トロンビン添加の採血管(AR管)のPIVKA-II測定値は,トロンビン非添加の採血管(AS管)の値と比較し,プレストでは低下したがアーキテクトでは変化がなかった。これは,ピコルミと比較検討を行ったKinukawaらの報告7)とも一致する。
現在,AR管は,当院でも生化学および免疫検査用に採用されているように,検査結果報告時間(turn around time; TAT)の短縮のため多くの施設で利用されている。しかしながら,AR管に塗布されたトロンビンが検査値へ及ぼす影響についての報告は,生化学項目や感染症項目に限定されている場合や対象が健常者血清のみであることが多く,腫瘍マーカーやホルモン等の項目では十分とは言えない9)。
プロトロンビンはトロンビンによりArg51-Thr52/Arg54-Asp55,Argl55-Ser156,Arg284-Thr285の位置で切断されることが報告されており10),11),異常プロトロンビンであるPIVKA-IIは高速凝固採血管中のトロンビンにより切断されることが考えられる。対照試薬および本試薬の1次抗体はともにGlaドメイン部分(アミノ酸番号1~41)を認識する7),8)ため,2次抗体がトロンビン切断部位よりもC末端側(アミノ酸番号51以降)を認識する場合,フラグメント化したPIVKA-IIとサンドイッチを形成できず測定値が低下する可能性がある。対照試薬の2次抗体の結合部位は明らかではないが,本試薬の2次抗体は33~46番目のアミノ酸を認識するため,フラグメント化したPIVKA-IIともサンドイッチを形成し測定できると考えられており7),本検討の結果もこれを裏付けるものとなった。
条件1においては,プレストでAR管の測定値の低下が約5%とカットオフ値(40 mAU/mL)付近ではほとんど差がない程度であったが,当院ではAR管を用いて血清検査を行っており,条件1にはこのトロンビンが添加されている残血清を用いた。対象とした血清由来のトロンビンの影響をできる限り除くため条件2での検討を行ったところ,プレストでは変化がないものから大きく測定値が低下した症例まで幅広い結果であったのに対し,アーキテクトではどの症例でもほとんど変化を認めなかった。症例ごとに結果が異なった点については,背景となる疾患や採血管ごとのトロンビン塗布量の差,採血量などが関係するのではないかと思われた。さらに,AR管血清とトロンビン非添加対象としてEDTA血漿でのPIVKA-IIの相関を調べたが,両者は良好な相関性を示し,測定値に差は認められなかった。このことより,アーキテクトではトロンビンの影響を受けないことが明らかとなった。なお,プレストは測定対象として血清のみが規定されているため,血漿との測定値の比較は行うことが出来なかった。
今回の検討条件は実際の臨床検査の場合とは異なっており,トロンビンのPIVKA-II測定系へ与える影響を解明するためには,今後のさらなる検討が必要であると思われた。
今回の検討において,アーキテクト・PIVKA-IIの基礎的性能は良好であった。また,血清および血漿のどちらでも測定できることに加え12),高速凝固採血管に塗布されているトロンビンの影響を受けずに測定できるため,日常検査に貢献するものと考えられた。